新着結晶展示室(New Crystal Gallery)

May 2017 : ペグマタイト(Pegmatite)



       
長石と煙水晶 天河石(微斜長石)
4.8x3.8x1.7cm 5x3x2㎝   4.5x3x3㎝  長石と煙水晶 27x15x11㎝ 文象花崗岩 18x15x13㎝
Baveno, Italia  長野県南木曽町田立センゾレ  宮城県白石市 福島県石川町
       
   
 
 
       
石英 14x11x5㎝   緑青色の電気石と緑柱石を伴うペグマタイト 18x11x8㎝ リシア雲母 18x13x8㎝  紅電気石(22x5㎜) 
福島県郡山市西田町鹿島神社   茨城県久慈郡里美村妙見山 福岡市長垂 

 鉱物採集を始めた頃から是非とも自らの手で採集したかったのは、電気石、緑柱石、柘榴石等の、宝石になるペグマタイト産鉱物の結晶でした。
 もちろん日本のペグマタイト鉱床では、これらの鉱物の宝石質の結晶は殆ど期待できなかったのですが、それでも美しい結晶形を示す標本なら採集する可能性はありました。
 が、半世紀以上昔の中学生にとっては遠隔の地へ鉱物採集に出かけることなどは夢のまた夢。
 唯一、茨城県真壁町山ノ尾の花崗岩採石地のペグマタイトへ舗装もされていない往復120㎞の道のりを自転車で何度も通っては透明な緑柱石や柘榴石の結晶を採集したものです。
 現在では日本のペグマタイト鉱床のほぼ全てが枯渇したか、採集禁止、あるいは宅地やゴルフ場に姿を変えてしまって、標本を探すことすら不可能となってしまいました。
 幸い、ネット市場や各地で開催される鉱物フェアを通して、かつて採集された標本を入手することが可能となりました。

イタリア・バヴェノの標本

 長石のバヴェノ式双晶で名高いイタリア、マッジョーレ湖畔にはバヴェノと、隣接するヴェルバニアとが現在も花崗岩の採石場として稼働中ですが、しかしペグマタイト鉱脈は遠の昔に枯渇してしまいました。
 冒頭の写真の小さな標本は30年余り昔に、スペインの鉱物フェアで入手したものです。
 その後バヴェノ産の標本などついぞ見かけませんから、小さいながら貴重な標本です。

長野県南木曽町田立のアマゾナイト
     冒頭の写真の標本は結晶形も定かでなく、色合いもうっすらと青いだけですが、ともあれ天河石(アマゾナイト)ではあります。
 長野県とは言え、南木曽町は日本で有数のペグマタイト地帯である岐阜県恵那郡の苗木からは直線で5㎞も離れていません。鉱脈がここまで伸びているのは間違いありません。
 左の写真は学習研究社のフィールドベスト図鑑、”日本の鉱物”に掲載されされているきれいな結晶形を見せるアマゾナイトです。
 アマゾナイトの青緑色は含まれる鉛による発色ですが、ペグマタイト鉱物に含まれる鉛はウランやトリウムが核分裂を繰り返して最後に鉛となったものです。  
 ウランやトリウムの半減期を考慮すると、少なくとも10億年程度の年月を想定しなければなりませんが、日本にはそんなに古い年代の地層はありません。
 となると、南木曽町、あるいは岐阜県恵那郡のペグマタイトを形成した地層は日本列島が形成される前の古い地層の名残を残しているのでしょうか ?
 65㎜  

宮城県白石のペグマタイト片

     冒頭のペグマタイト片は宮城県白石市郊外の山林の道端に転がっていたもの。
左の写真の、1923年来、国の天然記念物となっている球状閃緑岩を見に出かけたところ、あるはずの場所に見当たらず、付近の山林を捜し歩いていて出会った次第。
 宮城県南部は福島北部から流れる阿武隈川流域の竹森にペグマタイト脈があり、白石もほど遠くはなく、鉱脈が伸びていると考えられます。 紫水晶で名高い雨塚山も近くにあります。
 球状閃緑岩とは、花崗閃緑岩を母岩に角閃石、斜長石等が球状に結晶した岩脈ですが、これもペグマタイトの一種です。
球状花崗岩は珍しくありませんが、白石市の球状閃緑岩は珍しく、世界にも数少ないとのこと。
 かつては発見地に飾ってありましたが、現在は市内の "いきいきプラザ" に移されて、菊面石と名付けられて展示されています。


  福島県石川町の文象花崗岩

       文象花崗岩とは、ペグマタイトの長石の層に灰色の石英が層をなして並び、文字が書かれたように見えることから名付けられたもの。
 珍しいものではありませんが、しばしば大きく美しい結晶を産する晶洞の前兆であることから、結晶採集の手掛かりとなります。
 この標本は15年ほど昔に石川町を訪ねた際に、昔の採石場跡で拾ったものです。
 日本で最大級の福島県石川町のペグマタイト地帯では現在も標本採集が可能です。 
 割れ目をアルマンダイン・ガーネットが覆っている  
 
   
福島県郡山市西田町鹿島神社の石英


 鹿島神社の社の背後に高さが数mに達する純白の巨大な石英団塊のみからなるペグマタイトがあります。
 このペグマタイトは天然記念物となっていますから、採集は禁止されていますが、しかし、長の年月の間に風化して崩れ落ちた石英片があちこちに散らばっているので、ひとつ拾ってきたもの。
 ハンマーでたたき割ったものではありません。


茨城県久慈郡里美村妙見山ペグマタイト

 この地にリチウムペグマタイトが発見されたのは昭和30年頃と他の産地比べると新しいのですが、調査をした地質の専門家が鉱物には興味がなかったとのことで、その後20年も放置されたまま、ようやく1975年代半ばごろから鉱物愛好家が、採掘を始めたという産地です。
 冒頭の写真の標本は2001年に出かけて自ら採集したものです。 到着したのが冬の午後遅く薄暗くなりかけた時刻で、じっくりと探す時間もなく、散乱している岩塊を適宜拾い集めただけでした。
 が、戻ってからよくよく調べてみると、紫のリシア雲母や白雲母で覆われた石英と長石の中に青緑色の電気石や緑柱石が散りばめられているという、うれしい収穫となりました。
 その後、現地は重機を持ち込んで掘りつくされるなどして荒れるに任せ,終に採集禁止となってしまいました。
              
              福岡市長垂山の紅電気石
                
 長垂山のリチウムペグマタイトは、日本で有数の希元素鉱物を産しましたが、とりわけ名高いのが日本では数少ないピンクや青、緑のエルバイト・トルマリンを産したことです。
 古い図鑑を見ると、宝石質の透明な電気石を産したこともあり、日本中の鉱物愛好家の垂涎の産地でありました。
 が、九州とあっては、関東から出かけるにはあまりにも遠く、そうしているうちに例によって鉱脈も枯渇し、幻の産地となってしまいました。
 しかしながら、ネット市場の出現により、個人の採集品が細々ながら姿を見せ、幻の結晶を入手できるようになりました。嬉しい限りです。


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