新着結晶展示室 (New Gem crystral Gallery)
November 2023 : リチア輝石(Spodumen) 結晶とルース
Green Spodumen Crystal 35g 48.3x31.6x12.1mm Nuristan, Afghanistan |
アフガニスタン北東部の山岳地帯の無数のペグマタイト鉱床は世界有数の宝石鉱物の産地です。 とりわけヌーリスタン州の Mawi と、そのすぐ南に隣接するクナール州の Pech ペグマタイト鉱床からは最大で数十cmに達する、ピンク、紫、緑、黄色と、多彩な、透明なスポジューメン結晶を産します。 このうち、緑色の結晶だけは短時日のうちに退色してしまいます ; 緑色が不安定な四価のマンガンイオンによる発色のためです。 太陽光の、とりわけ紫外線のエネルギーで四価のマンガンイオンが三価のイオンに変換され、緑色が失われて、ピンクになってしまうためです。 ブラジルやウラル山脈等、世界の他の産地の緑のスポジューメンは安定した三価の鉄イオンによる発色なので、退色は起こりません。 |
アフガニスタン産の緑のスポジューメン結晶は、かつて一度だけ入手したことがありますが、三か月も経たずして退色してしまいました。 当時は発色と退色の仕組みについて無知だったため、太陽光に曝される状態で置いておいたためでした。 今回、久しぶりに入手したのは、表面が溶融作用を受けていますが、結晶形をとどめる透明な美しい結晶です。 アフガン産の緑のスポジューメン結晶を見かける機会は稀ですが、この結晶は専門の鉱物商ではなく、様々な雑貨を扱っている何でも屋の出品物の一つでした。一応アフガニスタン、ヌーリスタン産と記載してありましたから、多分この店に持ち込まれた際にラベルがついていたのでしょう。 鉱物コレクターが雑貨のオークションのページを見るわけがないので、破格の安値で競争もなく落札できたのは嬉しい限りです。 前回の経験から、退色は避けられないものの、出来るだけ色が長持ちするように、厳重に梱包して、引き出しの奥深く保存していますが、果たして何時まで色を保てるか ? とりあえず、写真を撮りまくっています。 |
青いスポジューメン | |||
ブルー・スポジューメン(Blue Spodumen) 11.87ct 16.2x12.0x5.7mm Minas Gerais, Brazil | 淡青色のスポジューメン結晶 7cm Nuristan, Afghanistan Kevin Ward Specimen |
ブラジル産のブルー・クンツァイトと表示されているルースをネット上で見かけました。
アクアマリンのようにも見えますし,何物か分かりませんが、長年付き合っているルース商でもあり、ガラスということはないだろうと、入手してみました。
屈折率を測ると、1.680 の値を示し、ピンクの、クンツァイトではなく淡青色のスポジューメンであると、判明しました。
青い色のスポジューメン・ルースに出会ったのは初めてですが、ごく稀に結晶写真では見かけることがあります。 恐らく二価の鉄イオンによる発色かと考えられます。
アフガニスタン産クロム発色のグリーン・スポジューメン
クロム・ヴァナジウム発色スポジューメン結晶 1.3g | クロム・ヴァナジウム発色グリーン・スポジューメン 1.45ct |
Waigal pegmatite, Wadigram Village, Nuristan, Afghanistan |
アフガニスタンのスポジューメンについて調べていて、クロムとヴァナジウム発色の淡黄緑色のスポジューメンがアフガニスタンから報告されていることを知りました。
Gems & Gemology 誌の Fall 2007 P265-266 Gem News に掲載された記事です。
詳細な位置は不明ですが、近隣に青いトルマリンやクンツァイトの鉱山があるペグマタイトで 30㎏ 程の破片のような結晶が採集され、そのうち2kgはエメラルド・グリーンの上質の結晶が含まれ、チェルシー・フィルターで淡いピンク色を呈したとのことです。
さらに結晶片を3週間直射日光に晒した退色テストでは退色が認められなかったとのことです。
後にGIAの研究所での分析により、ごく微量のクロムとヴァナジウムが含まれていることが確認されました。
アメリカ、ノースカロライナ産のヒデナイトのクロムとヴァナジウムの含有量より一桁ほど低い値です。
それでヒデナイトと呼べるか否かは不明です。
ヒデナイトの明確な定義が存在しないためでもあります。
実は、クロムとヴァナジウムを含む緑のスポジューメンは、ブラジル、インド、ロシアからも報告されているとのこと。 ただし、宝石質ではなく、標本級の結晶のみと思われます。
冒頭の写真の結晶もひょっとすると、このタイプかと、白熱光、紫外線光を照射し、チェルシー・フィルターを通して見てみましたが、全く反応がなく、やはりマンガンイオンによる発色と確認しました。