新着結晶展示室
(New Crystal Gallery)


September 2025  : デマントイド と ブルーベリル (Demantoids and Blue Beryl)


 
Demantoid Garnet  Blue Beryl ⁇ 
19.4ct 19.7ct   2.87ct
Iran  Afghanistan 

イランのデマントイド・ガーネット (Demantoid Garnets from Iran)
             
 19.4ct 15.8x14.3x9.2mm   19.4ct 14.4x13.4x13.2mm 
Belqeys Mtns. West Azerbayjan    Kerman  Province


   
0.12-1.13ct  0.24ct Ø3.68x2.57mm 
Kerman Province、Iran 
 19世紀半ばにウラル山脈の漂砂鉱床で発見されたエメラルドの様な深い緑のガーネットは0.057と、高い
光の分散効果に因り、ダイアモンドを凌ぐファイアーを放つことで、オランダ語でダイアモンドを意味する”デマント”から、デマントイドと命名されたガーネットです。
 唯一の産地だったロシア産は革命により産出が途絶え、ティファ二―宝石店が在庫を売り切った20世紀後半には幻の宝石となりました。
 というわけで、デマントイド・ガーネットは鉱物と宝石コレクターにとっては垂涎の宝石でありました。
21世紀に入って、ナミビアで、次いでマダガスカルにて大きな鉱床が発見され、さらに、ウラル山脈にて、一次鉱床が発見されたことで、依然として稀少ながら、市場へ姿を見せるようになりました。
 前述の産地に続いて、パキスタンとアフガニスタンからも宝石質ではありませんが、結晶標本が姿を見せ、さらにイランからもデマントイドの発見が報告されました。
 イラン産のデマントイド・ガーネットの特徴はクロムの濃度が高く、濃緑色であること、さらに結晶が最大では7㎝ とガーネットとしても極めて大きいことが特徴です。
 最初の発見は2001年、イラン南東部のケルマン州から、次は2010年、首都テヘランの北西300㎞程の西アゼルバイジャン州のベルケイス山地です。
 随分と離れた遠隔の土地から産する結晶は、共に、濃緑色で大きく、端正な結晶形を見せるという特徴がありますが、透明度に欠けるため大半が結晶標本級で、僅かにカットされるルースも透明度に欠ける品質です。
 

アフガニスタンのブルーベリル (Afghan Blue Beryl) ???
       
2.87ct 9.0x7.4x7.0mm 


 Blue Beryl Blue Beryl  Blue Beryl  Bazziite 
         
 11x3mm  9mm 1890年 6mm 1992年再発見 20mm  4mm 
Deo Darrah Pegmatite, Afgahnistan Elba Island  Pakistan  Furka Tunnel, Swiss 

ブルーベリルとは、濃い色合いのアクアマリンなのですが、敢えてブルーベリルの名で呼ばれるのは下記の理由からです ;
 この濃い色合いのベリル(緑柱石)が最初に発見されたのは、1890年、有名なイタリア、エルバ島のペグマタイトです。
ごく僅かな標本が採集されたのみでしたが、100年後の1992年に写真の小さな標本が再発見されました。
 分析の結果、酸化ナトリウム(Na2O) 1.2%、酸化セシウム (Cs2O) が2.15%、酸化鉄 (FeO) が2.6% と普通の緑柱石と比較して10倍もの不純物が含まれていることが判明しました。
 とりわけ濃い青は大量の鉄を含むこと、さらにベリリウムを置き換えて原子半径の大きなセシウムが含まれていることが、普通の緑柱石の六角柱状ではなく六角の平板状の結晶形となっている原因原因と考えられます。
ただし、緑柱石にも六平板状の結晶形を見せるアクアマリン、モルガナイト、ゴッシェナイトがあり、これらにはいずれも高い濃度でベリリウムを置き換えたセシウムが含まれています。
 2013年にアフガニスタン最北部に新たに発見された Deo Darah ペグマタイト鉱床の主にトルマリンを採掘する鉱脈からアクアマリンの様な、しかし平板状の濃い青の結晶が発見され、注目されました。
 ツーソンショー等の世界的な鉱物フェアで数㎝の大きさの結晶に数万ドルもの高値を呼ぶ程の人気のある鉱物となったものです。
 今回入手したブルーベリルに疑問符を付けたのは、産地、名称、結晶の正体についていろいろ疑問があるためです ;
購入先は老舗の鉱物商です : アフガニスタン産の結晶標本は全てパキスタン経由で世界市場に流れます。
 したがって、この結晶が、話題になったアフガン産のブルーベリルと判断したのも当然のことでしょう。
しかし、この結晶をよく観察すると、アフガン産の平板状ではなく六角柱状の細い結晶が束になったような構造です。
 このような結晶は、2024年にパキスタンで発見され、やはりブルーベリルとして、ごく少量が市場に姿を見せた結晶によく似ています。
 新たにパキスタンで発見されたブルーベリルの正体が何かは、サンプルが少なすぎるためでしょう、専門家による正式な
分析と報告がありません。
 したがって、あくまでも憶測にすぎませんが、ひょっとすると、緑柱石のベリリウム成分が一部スカンジウムと置き換えられた バッツィ石 (Bazzite : Sc
2Be3Si6O18) の可能性があると考えています。
 原子半径がベリリウムに近いスカンジウムがベリリウムを置き換えた場合には結晶は一般的な緑柱石と同じく、平板状ではなく、六角柱状に成長するはずです。

と、あれこれ検討すると、この結晶はアフガニスタンではなく、パキスタン産のブルーベリル、ひょっとすると、極めて稀な
バッツィ石の可能性が大きいのではないかと判断しています。
 
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