新着宝石展示室
(New Gemstone Gallery)


December 2021 : ロシアのアレクサンドライト (Russian Alexandrites)


         
完全な6連リングの結晶 3.3㎝   天然アレクサンドライト 0.257ct 4.5x3.5x2.3mm  合成アレクサンドライト 5.65ct 11.5x9.4x6.5㎜  
C.A. Larson Collection  自然光( Daylight) 白熱光(Incandescent light ) 自然光(Daylight ) 白熱光(Incandescent light )

   アレクサンドライトは1830年にロシアのウラル山脈、タコワヤ川 流域のエメラルド鉱山で発見され、昼の光で緑色に、蠟燭の光で赤と、当時のロシア陸軍の制服の色を示すことから、ロシアの宝石として、ロシア皇帝、アレクサンドルII世に因んで命名された宝石です。
 宝石としてはクリソベリルが不純物のクロムを含むことで色変わりを見せる変種です。
 当時はこのような色変わりを見せる宝石は殆んど知られていなかったうえに、最上のアレクサンドライトは昼の光でエメラルド・グリーンを、夜の光ではルビーの赤を示すという豪華な色変わりを見せること、そして極めて稀産であることも相まって、たちまちのうちに最も稀少で、高価な宝石の地位を獲得しました。
 しかしながら、産出が極めて少ないうえに、20世紀初頭のロシア革命以降、産出が途絶え、僅かに残った結晶を買い占めていたティファニー宝石店が20世紀半ばまで細々と在庫品を販売していたのが唯一の供給源でした。
 スリランカもアレクサンドライトを産しますが、不純物の鉄の含有量が多く、大半は褐色と灰色味を帯びた暗い橙の色合いで、ロシア産とは比べ物になりません。
 従って、1986年にブラジル・ミナスゼライス州のエマチータ鉱山にてロシア産に匹敵する宝石質の鉱脈が発見されるまではアレクサンドライトは長らく幻の宝石となっていました。
 幻の宝石となってはいましたが、1980年代のツーソンやミュンヘンショーでは宝石質ではありませんがウラル山脈産のアレクサンドライト結晶標本は市場に存在し、さらにクリソベリルのルースもごく稀に姿を見せることがありました。
 しかしアレクサンドライトのルースは如何なる折にも見ることさえありませんでした。
今回、本格的に宝石のコレクションを始めて以来40年余り、ようやくにして小さく、淡い色合いではありますが、ロシアのアレクサンドライトを入手する機会に恵まれました。
 ほぼ同時に、合成ではありますが、しかし5カラットを超える、合成としても異例の大きなルースを合わせて入手できました。
 恐らくロシア、あるいロシアがタイの資本と合弁でバンコクに設立したタイラス社製かもしれませんが、いずれにせよロシアの技術で、チョクラルスキー引き上げ法による合成アレクサンドライトと考えられるルースです。
 大きさもさることながら、これ程のルースがカラット当たり1000円もしないということに驚かされます。
 30年余り昔、初めてツーソン・ショーを訪れたころは、合成のフラックス法のエメラルドやルビー、アレクサンドライト、引き上げ法のアレクサンドライト等、いずれも内包物を含まない最上のAクラスのルースは一様にカラット300ドルというのが相場でした。 これは合成宝石で支配的な地位にあったチャザムの売値が相場の基準となっていたためでしたが、それでも天然の最上品と比べれば100分の1~1000分の1でした。
 その後、2000年代初め、ミュンヘン・ショーでは、キョーセラの合成アレクサンドライトがカラット当たり50マルク(当時の為替で3000円)と、日本での市場価格(キョーセラの直販店での小売り価格) の10万円と比べて余りにもかけ離れた水準だったのには驚かされました。
 合成宝石の値段は、ひとたび結晶成長技術が確立され、開発費と製造設備への投資が回収されて、その後の生産、販売が順調に進めば驚くほど低くなるということを思い知らされる出来事でした。
 即ち、規模こそ違え、半導体のメモリーと同じ工業製品に過ぎません。
 従って、日本市場で資産価値の無い合成宝石の人気が全く無いのも止むを得ませんが、しか一介のコレクターとしては、天然なら到底不可能な最上の宝石が手軽に入手できるというのはありがたい限りです。

 冒頭最初の写真はロシア産アレクサンドライトの結晶です。 クリソベリルの結晶系は直方晶系ですが、しばしば三つの結晶が斜方貫入三連晶と呼ばれる、あたかも 六方晶系を思わせる魅力的な姿で晶出します。
 しかし普通に産する結晶の大半は不完全な三連晶です。
 写真の標本は、教科書の見本のような完全な、しかも直径が 3.3㎝ もの大きさの宝石質のアレクサンドライトの斜方貫入三連晶という空前絶後の標本です。
 パラ・インターナショナルという世界で屈指の宝石・鉱物標本商ならではのコレクションです。


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