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February 2015  : トパーズ (Topaz)


Blue Topaz 180.15ct   Red colored coated Topaz : 3.00,  2.24, 1.05ct
ブルー・トパーズ (Blue Topaz)
180.15ct 43.6x31.6x20.5mm 藍晶石(Haüyn)
0.20ct 4.9x3.7mm

  鮮烈な青い色のトパーズが宝石界に出現したのは1970年代初めとずいぶん昔のことです。
 天然の、宝石として全く価値の無い無色のトパーズが、原子炉や高エネルギー加速器等の放射線照射とその後の加熱処理の組み合わせにより、ほの暗い青(ロンドン・ブルー)、明るい青(スイス・ブルー)、輝かしい青(スーパー・ブルー)等々、他の宝石には見られない様々な色合いに変貌します。 
 こうした処理によって何故青く発色するのかは、天然の淡青色も含めて、その理由は未だに不明なままです。
 色合いにつけられた名前は、当時のレヴロンのアイシャドーのパレットの多彩な青からヒントを得て名づけられたもので、特に意味はありません。
  が、大衆化粧品として人気のあったレヴロンの購買層を狙い、リングとネックレスとイヤリングでUS$99.95、199.95、299.95 といった手頃な価格帯の3点セットはアメリカのデパートやドラッグストアで爆発的なヒット商品となり、宝石の大衆化に大いに貢献したものです。
 多彩な色合いの青いトパーズは数量が余りにも多く、したがって極めて安価なことから、もっぱら大衆向けの手軽なアクセサリーとして扱われてきました。
 しかしながら、この10年ほど、その美しさと、大きなルースが豊富に入手できることから、フリー・フォームの斬新なデザインの宝飾品に使われる等、ようやく高級宝飾品の分野でもよく見かけるようになりました。
 年間5億カラット(100トン)とふんだんに供給されるブルートパーズですが、さすがにこの180カラットものルースはなかなか得難いものです。 照射と加熱処理によるブルー・トパーズとしては最大限に近い大きさでしょう。 
 もちろん世界の博物館には数万カラットもの大きなトパーズのルースは飾られているのですが、そんなに大きなトパーズには内部に必ず包有物を伴います。
 一方高エネルギー照射と加熱処理を行うブルー・トパーズの場合は包有物の無い完全無欠の部分のみを選んで処理する必要があります。 内部に気泡や水泡、亀裂などがあると、処理の際の高温で罅が入ったり割れてしまうからです。
 これほど大きく、濃い色合い、完璧なカットで豪奢な光の饗宴を見せるルースが、実はカラット当り2ドルにもなりません。 
 参考までに、際立って輝かしい青い色で人気沸騰の0.2カラットの藍晶石(アウイン)と比べて実にカラット当りでは1000分の1以下の値段です。
  最大でも0.2カラット程度の大きさのルースしか得られない藍晶石と比べると、大きなブルー・トパーズの美しさと存在感は比類の無いものです。  多彩な青い色は半永久的に安定していて褪色の心配もありません。
 素晴らしく美しい大きなルースが安定して供給される宝石としてもっと高く評価されるべきでしょう

 

コーティング処理による赤いトパーズ (Red colored topaz treated by surface coating)

天然の赤いトパーズ (Natural red topaz)
   
Gundao Hill, Katlang Valley, Pakistan 2.6cm
Sanarka River, Siberia
Felsman Museum、Moskow
3.5cm
Capão Mine,Ouro Preto
Minas, Gerais, Brazil

Max & Jon Sigerman
Collection
70.4ct Siberia or Brazil ?
American Museum of Natural History
 結晶 7.2cm  大きい結晶 4cm
W. Larson Collection   John Barlow Colleection

 金色、黄色、橙、紫、淡朱、ピンク、シェリー、淡青 と天然のトパーズには多彩な色合いがありますが、赤い色のトパーズは極めて稀にしか発見されません。 
 私の知る限り、新しいところでは1980年代初頭にパキスタン北西部のカトランで発見されたピンクのトパーズの中に極めて稀に殆んど赤と呼べるほどの濃いピンクの結晶が2,3個採集されています。
写真の7cmもの結晶は世界的な宝石、鉱物商のパラ・インターナショナル社長ならではのコレクションです。
 ブラジル、ミナス・ジェライス、オウロ・プレートのトパーズ鉱山からも極めて稀ですが、深紅のトパーズが発見されます。写真はカポン鉱山産の稀なる赤いトパーズです。
 ブラジル,オウロ・プレトの赤いトパーズがあるとは、資料にこそあれ、これまで見て来た中に、濃い紫やシェリー・レッドはあっても赤いトパーズはブラジル最大の宝石商、アムステルダム・ザウアーの本にさえ見かけませんでした。
 が、 Mineralogical Record 誌 Nov-Dec 2013 の付録の Mineral Collections of The Crystal Gazers and Friends に掲載されていた、アメリカの鉱物結晶収集家、Max & Jon Sigerman のコレクションにシベリア・サナルカ川産とよく似た色合いのトパーズ結晶をようやく見つけました。
 古いところでは1825年頃にシベリアのウラル山脈南部のサナルカ川の支流で何点か発見された赤いトパーズ結晶がモスクワのフェルスマン博物館にあります。
 ニューヨークのセントラル・パークに面したアメリカ自然史博物館の宝石ホールに展示されている70.4カラットの赤いトパーズは、シベリアあるいはブラジル産と考えられます。

 
 と、いずれも国宝級の稀少な標本です。

 ところが、ごく最近、ネット市場にパキスタン産の天然と称する赤いトパーズが出現しました。
上述の結晶やルースとはやや異なる色合いの赤い色合いのルースで限りなく怪しいとその素性を疑いましたが、ともかく落札して調べてみました。

明らかにコーティング処理の特徴を示すルース
3.05ct 10.06x8.09x5.13mm 2.20ct 9.10x7.00x4.73mm 1.06ct 7.26x5.14x3.74mm
 ネット上の巧妙に補正された写真では分からなかったのですが、実物を入手して直ちにこれらがコーティング処理されたものであると判明しました。 上の写真でも分かるように、ファセット面が角度により金色に反射しています。
 これは金属による薄いコーティング皮膜に特有の反射光です。 
 顕微鏡で拡大してみると皮膜の厚さが不均一なためシャボン玉のように様々な色合いが見えます。 
更に背面、キュレットの最先端部のコーティングがされていない部分が白い筋を浮かび上がらせています。
 表面のみに皮膜を形成するコーティング処理されたルースは皮膜が剥がれてしまうために再カットが出来ません。 
本来なら、再コーティング処理をして全面を皮膜で覆わなければなりませんが、その手間を惜しんだのでしょう。 
 アメリカの Azotec 社のような半導体や光学レンズ等の高度な技術を持つメーカーのミスティック・トパーズならこのような欠陥処理品が市場に出ることはありませんが、どうやらタイでの未熟な技術で処理されたようです。
 極薄の金属皮膜で様々な色合いの発色をさせるミスティック・トパーズには赤い色だけはありませんでした。
どうやら赤の発色は難しいようですが、それにしてもこれらのルースの処理はお粗末な水準です。
 自称、ジェモロジスト(宝石学専門家)による、”パキスタン産の稀なる赤いトパーズ” とのコメントは、まさに
詐欺師の口上以外の何物でもありません。

 前述のブルー・トパーズと比較すると、同じように人為的な処理が施されたものですが、コーティング処理の場合は、必ず色が剥げ落ちますから、宝石とは呼べません。
 しかも Azotec社 等のミスティック・トパーズと比較しても格段に品質が劣る水準です。

 
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