新着宝石展示室
(New Gemstone
Gallery)
January 2018 : ヨーロッパ産宝石(European
Gemstones)
0.88 - 11.85ct |
ヨーロッパ産の宝石とは言え、いずれも希少な種類や珍しい産地の結晶をコレクター向きにカットされたものばかりです。
モース硬度が低かったり、劈開性が強い等々、宝飾品には決して使えません。
と、典型的なコレクター宝石ばかりですが、ヨーロッパでこんな美しい宝石が採れるのです。
重晶石(Barites)
11.85ct 14.84x9.45mm | 4.00ct Ø8.7x6.1mm |
Youlgreave, Derbyshire, England | Monteponi, Sardegna, Italy |
重晶石は硫酸バリウムの結晶で、世界中の鉛や亜鉛鉱山等にごく普通に発見される鉱物です。
大きく透明な美しい形の結晶も稀ではなく、鉱物結晶愛好家の間では密かなコレクションの対象になっています。
が、ルースとしてカットされることは滅多になく、30年余のコレクションにて1個の見映えのしないルースを入手したのみでした。
ところが今年に入ってから、思いがけず、ヨーロッパ産の美しい2つのルースに出会いました。
無色透明の、美しい煌きを見せるルースはイングランド・ヨールグリーヴ周辺のかつての鉛と亜鉛鉱山産です。ダービシャー近辺には12,3世紀来、亜鉛と鉛の鉱山が数多く存在し、20世紀前半まで稼働していました。
この大きく美しいルースは、かつての結晶標本を、アメリカ屈指のカッター、Michael Gray が秀逸な技術でカットした作品です。
金色に眩しくきらめくルースは、イタリア、サルデーニャ島南西部のモンテポーニにて、紀元前6世紀頃にフェニキア人に開発されて以来、20世紀末まで実に2500年に亘って稼働したヨーロッパ有数の重金属鉱山群産です。
ドイツ産の宝石(Gemstones of German origine)
藍方石(Haüyn) | ||||
方解石 (Calcite ) 9.45ct 19.2x9.2mm | 0.78ct 9.36x5.64x3.40mm | 結晶 0.02ct(1.4x1.3mm) - 0.20ct(4.2x3.6x2.5mm) | ||
Heidelberg, Germany | Eifel Mtns. Germany |
ハイデルベルクの方解石(Calcite from Heidelberg)
方解石は時に1トンもある大きく美しい透明な結晶が発見されることもありますが、モース硬度が3と柔らかい上に、結晶の全方向に劈開性を持つため、ルースとしてカットされることは滅多にありません。
が、稀に発見される透明な双晶は、強い複屈折と相まって、ダイアモンドを凌ぐ虹のようなファイアーを見せるために、腕に自慢のカッターが数百カラットもの眩い光をまき散らす大きなルースに挑戦することがあります。
カラット当たりの単価は10ドル程度と安いのですが、数百カラットともなると、1個数千ドルになりますから、まさに眩しく眺めるだけです。
9.45カラットの金色のルースは、虹色のファイアーこそ見せませんが、ユールグリーヴの重晶石と同じく、アメリカのカッター、マイケル・グレイの手になる見事な作品です。
カットが最も困難な方解石を良くぞここまで繊細に仕上げたものと感嘆するのみ。
ハイデルベルクは市内を流れるネッカー川に沿って古城や大学などがあるドイツ有数の観光地ですが、その周辺で、こんな見事な宝石質の方解石結晶が採れるとは驚きました。
アイフェル山地のアウイン(Haüyn from Eifel Mtns.)
藍方石(アウイン)は今回取り上げた中では唯一、近年宝石店で見かけるようになった宝石です。
写真のように、火山性の粗面玄武岩中から取り出された 1~5㎜ 程度の微細な結晶片の透明な部分をカットするわけですから、平均では0.1カラットにも満たないルースしか得られません。
かつては大きなフェアにて1,2の業者が出品するだけの、典型的なコレクター向けの宝石であり、値段も0.1~0.2カラットのものがカラット当たり100ドル、従って個々の石では1個 1000円から2000円程度とごく妥当な水準でした。今にして思えば昔は過小評価の極みでありました。
ところが、この10年余り、カシミールのサファイアを凌ぐ鮮明な青い色が注目され、一般の宝石店でアウインを使った宝飾品が店頭に並び始めました。
米粒の半分ほどの小さなルースでさえも鮮明な青い色は宝飾品として見映えがするからです。
現在では0.1 カラットと小さなルースでも200ドル、0.2カラット級で500ドル、希少な0.3カラット超は1000ドルを超える、高級宝石の水準となっています。
写真のフリー・フォームの0.78カラットのルースはやや淡い色合いですが、しかしアウインとしては稀に見る大きく透明度の高いルースです。
コレクターの放出品とのことです。そのためでしょう、30年昔の水準とは行きませんが、15年くらい昔、未だ高騰が始まる前のごく妥当な水準で、つい最近入手しました。
フランスのモンテブラサイト(Montebrasite of French origine)
モンテブラサイトは1871年にフランスのリモージュに近いモンテブラ採石場で採集され、産地に因んで命名されたリチウムとナトリウムアルミニウムの燐酸塩に(水酸>弗素)基が付いた鉱物です。
既に1817年に同じ組成の、しかし( OH < F)と、水酸基より弗素の含有量が高い鉱物がアンブリゴナイトとして 登録されていました。
ラルースの宝石百科事典によると、一般にアンブリゴナイトとされている石も実際は全てモンテブラサイトとのこと。
この0.8カラットのルースも屈折率が1.649のモンテブラサイトの値を示します。
アクアマリンのような美しい淡青色の貴重な原産地標本(Type locality) です。0.88ct 7.09x4.31mm
Montebras Quarry, Creuse
France
スペインの閃亜鉛鉱(Sphalerite from Spain)
4.44ct 11.3x9.2mm | 4.02ct 8.8x8.9mm | 1.16ct 8.5x5.6mm | 2.40ct 10.6x6.6mm |
Aliva Mine, Picos de Europa, Spain |
世界で毎年700万トンほどの需要がある亜鉛の殆どはこの閃亜鉛鉱を精製したものです。純度の高い閃亜鉛鉱には65%の亜鉛が含まれていますから、毎年少なくとも2000万トンの閃亜鉛鉱が採掘されている計算です。
と、膨大な量が採れる閃亜鉛鉱の中で、ごく僅かの純度の極めて高い結晶が宝石標本としてカットされます。
閃亜鉛鉱はダイアモンドに匹敵する高い屈折率と、ダイアモンドの4倍近い、あらゆる鉱物の中で屈指の高い分散値を持ちますから、カットされたルースは素晴らしく華やかな虹色の煌きを放ちます。
惜しむらくはモース硬度が 3 - 4 と著しく低く、傷つきやすいため、到底宝石として実用になりません。
世界に無数に閃亜鉛の鉱山がありますが、宝石質の結晶の産出ではスペインの北西部のカンタブリア山脈にある鉱山が大半を占めています。 といっても鉱山は1990年代に閉山となってしまったのですが、山師たちがダイナマイト等を使って掘り出した結晶がカットされて市場に姿を見せるのです。。