新着宝石展示室
June 2025 : スピネル(Spinels)
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1.15ct 6.95x4.77x3.90mm | 1.60ct 8.65x8.03x2.70mm | 2.46ct Ø7.21x6.07mm |
Mogok, Burma | Ratnapura, Srilanka |
スピネルという宝石は、つい30年ほど昔には一般の知名度が低く、宝石店で見かける機会は滅多にありませんでした。
当 時アメリカの宝石学者の F.ポー博士は”スピネルは究極のバーゲン宝石だ” と語っていたものです。
しかしこの10年余り、事情は様変わりしました。
タンザニア、パミール山脈等の産地から採れる、数少ないながら美しいスピネルが市場に姿を現したこと、そして新たにビルマ、モゴクの 北、数km にある Chaung Gyi 渓谷の、Man Sin, Pyan Gyi, Dattaw, Pain Pyit, Tan Yan Shan 鉱山から息をのむような美しさのスピネルが発見されたことで一気に世界の宝石界のスピネルに対する認識が変わってしまった言えましょう。
モゴクで新たに発見されたスピネル
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Man Sin Mine, Chaung Gyi 渓谷 | 結晶 | ルース 7 ~ 8ct |
スピネルはルビーやサファイアと比べて産出量が圧倒的に少ない宝石ですが、その理由が最近解明されました ;
宝石質のスピネルは、ルビーやサファイアの結晶が生成後に熱水の貫入作用を受けて周囲の大理石の母岩と共に溶融され、温度が下がった時に、ルビーの酸化アルミニウムと母岩の大理石の成分の炭酸マグネシウムとから、スピネル結晶が成長したためとのこと。
こういう状況は自然界では必ずしも珍しいことではありませんが、しかし、スピネル結晶が大きく成長できるような条件が都合よく実現するとは限りません。
パミール山脈やビルマのモゴク、スリランカ、タンザニアやマダガスカルなど、世界の主要な宝石質のスピネル結晶の産地は、かつて一体であったゴンドワナ大陸が分裂し、分離したインド大陸がその後ユーラシア大陸に衝突した(その現象は今でも続いている)という地質的な大変動が起こった地層に、出来ていたルビーやサファイアがスピネルに変わった、という、奇跡のような状況を振り返る必要があります。
前述の写真のようなスピネルは、カラット当たり数十万円と、到底手が出せる水準ではありません。
それに伴い、ごく普通のスピネルでもかつての数倍から10倍に高騰してしまっているので、しばらくスピネルを入手できないでいたのですが、最近、たて続きにごく妥当な価格水準で入手できたのが、今回のスピネルです ;
モゴクのスピネル
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1.15ct 6.95x4.77x3.90mm | 1.60ct 8.65x8.03x2.70mm |
クッションカット、1.15ct の淡紫色のルースは透明度が高く、光の反射が強い、美しいルースです。
五角形のルースは恐らくは平板状の三角形の結晶が双晶となったマクル双晶をカットしたもので、厚さが3mm以下と、薄いルースなのですが、その割には濃い紫の色合いを示し、よくぞカットしたと思います。
スリランカのブルースピネル
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2.46ct Ø7.21x6.09mm |
近年、コバルト発色の濃い青のスピネルが市場に姿を見せるようになりました。
写真のスリランカ産、 2025年 Ratnapura 産出、と珍しく詳細な日時と産地とが記されているルースには、とりわけコバルトを含むとの記載は無かったのですが、余りにも深い紺の色合いにひょっとするとコバルトスピネルかと思って入手しました。
コバルトスピネルは一般に1カラット、しばしば 0.1 カラット程の小さなルースが大半で、カラット当たり数十万円もの水準で取引されています。
今回入手したのは普通のスピネルとしても稀な大きさで、コバルトスピネルであれば異例の大きさの濃紺のスピネルです。
これはアジア・アフリカ産のサファイア等ルースを扱っている、本格的な宝石商が絶対お買い得と出品していたルースで、単なるスピネルとしても、ごくごく妥当な水準で出品していたものです。
一目見て、これが紛れもない天然のブルースピネルであり、コバルトスピネルの可能性もあると、入手したものです。
何度も繰り返して測定した屈折率は 1.732 と天然のスピネル(平均 1.710-720) よりはやや高い価が得られましたが、コバルトスピネルか否かは屈折率だけでは確定できず、ひょっとするとコバルトスピネルかと推定しているだけです。