新着宝石展示室
( New Gemstone Gallery )
June 2021 : アジアのサファイア (Asian Sapphires )
ビルマ、パキスタン、スリランカ、アフガニスタンのサファイア Sapphires from Mogok, Pakistan,Srilanka and Afghanistan |
モゴクのサファイア
2.008ct 6.68x6.28mm
19世紀末に発見されたカシミール産のサファイアが20世紀初頭に枯渇した後、モゴクのロイヤルブルーのサファイアが最上のサファイアとして市場で高く評価されて来ました。
しかしモゴクのサファイア産出量は極めて少なく、20世紀後半ではルビーの10分の1に過ぎませんでした。 それも20世紀末で殆ど枯渇し、現在ではサファイアの産出量はルビーの100分の1、あるいは500分の1とも言われています。
21世紀になって、市場でモゴクの上質のサファイアを見かける機会は殆どなく、入手する方法はかつて宝飾品として販売され所有されていた品が還流品として再登場したものを探すのみとなっています。
写真のサファイアも古風なデザインが示すように、半世紀も昔に指輪に仕立てられたものです。
プラチナ900のリングにテーパーカットのダイアモンドが10個とラウンドカットのダイアモンドが28個と手間と費用とをたっぷりと掛けて仕上げられたこの非加熱のサファイアにはかつての中央宝石研究所の二つの分光分析データが添付されています。
日本の多くの宝石鑑定機関が分光分析等による分析をしても、その結果を基に産地判定をしていません。
紫外ー可視光分光分析の結果は、明らかにモゴク産のサファイアの特徴を示していますが、このデータからそう読み取れる宝石商は殆どいません。
従って、このサファイアは非加熱の普通のサファイアとして、枠代にもならない金額で競り落とされたのですが、モゴクと分かれば、その数倍から10倍の値が付けられてもおかしくはない美しいサファイアです。
アフガニスタンのサファイア ( Afghan Sapphire )
このオレンジ色のサファイアは、ソーティングにて非加熱であるとの説明があります。
簡単なソーティングだけですから、ベリリウム・ドーピングの検査までは行われていませんが、つい、ベリリウム・ドーピングを疑ってしまうほどの鮮明なオレンジ色です。
アフガニスタンでこんな色合いのサファイアが報告されたことはありませんが、確かめるすべはありませんので、とりあえずはアフガニスタン産の極めて稀な、小さいが美しいオレンジ色のサファイアとしておきましょう。
0.62ct 5.64x4.46x2.46mm
パキスタンのサファイア (Pakistan Sapphire )
1.31ct 7.4x5.1x3.1mm 3.19ct 11.8x7.2x4.8mm Basil, Kaghan Valley Azad Kashmir
このルースは殆んど不透明で色合いも灰色味の暗い紫色の標本級でしかありません。
ただ、この標本がパキスタンの何処で採れたものか分かるかもしれないと入手した次第です。
パキスタンのサファイアはカシミール以外には報告がありませんが、近年カシミール産と称する紫色のサファイアが時折カラット当たり30万円もの値で姿を見せることがあります。
それは確かにカシミールのカガン渓谷産なのですが、一般に包有物が多く、1カラット程度の小さなものが大半です。
カシミール産とは言え、せいぜいカラット当たり1万円だって高すぎるような低品質の代物です。
今回入手したのは、おそらく同じカガン渓谷産の、全く透明度の低い結晶を無理やりファセットカットしたものではないかと思い当たります。
スリランカのサファイア ( Srilankan Sapphire )
このサファイアの産地は不明です。
このような色合いのサファイアはスリランカ以外にはタンザニアでも産しますが、大半は1カラット未満の小さなルースしかありません。
この大きさの透明度の高いピンクー紫のサファイアはまずスリランカ産と考えられます。
これにもソーティングにて非加熱とあります。
加熱であろうと非加熱であろうと装飾品として美しいことが第一ですが、しかし天然のままでこの美しい色合いには感嘆させられます。
この色合いは鉄と酸素の電荷移動に微量のクロムイオンの八面体配位が加わって起こります。
1.648ct 9.27x6.76x3.45mm