新着宝石展示室
(New Gemstone Gallery)


March 2011 : 贋物(Fakes)

合成アレクサンドライト(Synthetic Alexandrite)
(実は合成コランダム : Actually, synthetic corundum)

27.45ct 18.0x16.8x9.5mm
Moissanite Diamond 1.259ct Ø7mm
実はキュービック・ジルコニア 2.46ct
(Actually, Cubic Zirconia 2.46ct)

 ネット・オークションに最近は膨大な宝飾品やルースが出品されるようになりました。
その大半はまともな商品ですが、中には明らかに模造品と分かるものもあり、或いは本物と思わせるために手の込んだ表示や説明で欺こうとする手口も見かけます。
 今回はそんな中から最近入手した2点のイミテーションを取上げてみました。


アレクサンドライト、実は合成コランダム
(Synthetic corundum, sold as Russian synthetic Alexandrite)


 見るからに酸化ヴァナジウムを添加してアレクサンドライトに見せかけた合成のコランダムかスピネル、或いはネオジウム添加のレーザー・ガラスと思われる色合いの石が合成アレクサンドライトとしてネット・オークションに出ていました。 
 火炎溶融法に特有の同心円状の成長曲線が無い、軍事用にチョクラルスキー法で製造された高品質の合成石と、何処かのホームページから引用してきたようなもっともらしい注釈付きなので、本物の合成アレクサンドライトと信じて買う人が出るかもしれません。
 
 ソ連邦崩壊後に長期間の給料未払い等の混乱が続いたロシアではウラニウムや兵器と共に、軍事用に製造されていた合成宝石や製造設備が国際的な闇市場に流出しました。
 タイの宝石市場にはロシアの熱水法合成エメラルドの結晶が数百kg の単位でダンピングされ、カットされたルースがカラット当たり1000円でダンピングされている始末です。
 しかしながら、ロシア製の合成アレクサンドライトがダンピングされているという情報は無く、ときたま見かけるものもカラット当たり数千円と、妥当な水準です。
 27.5 カラットのルースが送料込みで 1500 円という値段ではどう考えてもアレクサンドライトの筈は無く、ほぼ間違いなく中国・広西省の梧州の合成品と見当をつけて入手して調べましたが、まさしく合成コランダムでした。
 火炎溶融法に特有の同心円状の成長曲線がはっきりと見え、比重と屈折率もそれぞれ 3.95 と1.76 と合成コランダム以外の何物でもない代物です。

 しかし見た目は天然の最高級のアレクサンドライトにそっくりです。
合成コランダムのアレクサンドライトのイミテーションも持っていませんでしたから、カラット当たり 50 円と、破格の値段で入手できたのは結構なことでした。

モワッサナイト・ダイヤモンド (Moissanite Diamond)

 1.259ct、Fカラー、VVS1、Pt950の枠、ロジウム・メッキチェーン付きの 、日本語表示がなく、単に英語で  Moissanite Diamond  なるネックレスがオークションにかなりの量でていました。

 1円から始まりますが、1200〜1300 円ほどで評価が数百以上の明らかに業者らしき人々に落札されています。
 殆どの人が Moissanite が何物か分かりませんから、最近話題のヤフー知恵袋に問い合わせが結構載っていました。 
 勿論、ダイアモンドに見せかけるための狡猾な表示に過ぎません。
 合成モアッサナイトは今ではかなり品質が改善されてきましたが、それでも1カラットを超える大きさのルースが採れる結晶は現時点ではまず出来ません。
 色も天然ダイアモンドの等級との比較では J カラー相当が精一杯です。
そのクラスのルースでもカラット当たり数万円と、相当高価な水準です。
 したがってルースはほぼキュービック・ジルコニアに間違いないと、落札して調べました。
爪がルースを覆うデザインですが、裏側の尖ったキュレット部を丸い輪で引っ掛けて表のテーブル面は爪で抑えているのでルース自体には傷や穴は出来ていません。
 外して測ってみるとやはりキュービック・ジルコニアでした
ただし重さは実測で2.46カラットと表示のほぼ2倍の重さがありました。
 思うに、1.259 カラットのダイアモンドかモアッサナイト用のデザインをそっくり流用した場合、比重がはるかに高い同じ重さのキュービック・ジルコニアでは直径が 5mm と小さすぎて、このデザインでは釣り合いが取れません。
 直径 7mm の同じ大きさのキュービック・ジルコニアでは重さががほぼ2倍になりますが、それを正直に表示すると、ダイアモンドにしては大きすぎて怪しまれるので、元のデザインに使われたダイアモンドの重さをそのまま表示しているという苦心の後が窺がえます。
 さて Pt950 なる表示も全くデタラメ
プラチナなら比重が 21.45 ですが、この枠は 7.456 と軽く、恐らく銅とアルミニウムが半々の合金。
 さらに比重が 5.84 と軽いロジウム・メッキなるチェーンも恐らくは銅と錫の真鍮にニッケル・メッキをしたもの。
 その旨指摘すると、表示の Pt 950 の表示は中身を保障するものではなく、”お洒落なお遊び” だと開き直ってきました。
 徹頭徹尾、嘘八百で固めた確信犯なのですね。

 と、いずれも原価がせいぜい 200〜300 円程度の品を仕入れて5倍ほどの値段で売っているわけですが、しかし余程の数を捌かなければ商売としては成り立たないでしょう。
 表示とは異なる贋物には違いませんが、しかし合成コランダムやキュービック・ジルコニアの手頃なアクセサリーと思えば価格相応の品々ではあります。
 もっとも、中にはダイアモンドと信じて2万円余りで落札した被害者もいたようです。が、落札したのは実はサクラかもしれません。評価数や入札価格の値動きを見ていると怪しい落札者が大勢いるようです。
 
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