新着宝石展示室
( New Gemstone Gallery)
March 2023 : シリマナイト・珪線石 (Sillimanite)
Sillimanites from Srilanka(2.03ct) and Tanzania(0.710 - 0.935ct) |
珪線石 (Al2SiO5) は同じ化学組成の紅柱石 (Andalucite) と藍晶石 (Kyanite) と同質異像と呼ばれる関係の鉱物群に属します。
造山運動等の大規模な地殻変動による、高温~低温、高圧~低温、と様々な生成条件が異なる中で、同じ化学組成を持つ鉱物が少しづつ成分構成が異なる結晶へと成長したものです。
珪線石は、この三つの鉱物の中で、高圧~低圧、高温という条件で結晶した種類の結晶です。
いずれも宝石としては地味で、一般の宝石店で見かけることが稀ですが、とりわけ宝石質の珪線石を見かける機会は滅多にありません。
唯一の例外として、カボションにカットされたシリマナイト・キャッツアイがあります。
半透明の淡紫色や緑の地にくっきりとキャッツ・アイが浮かぶ、アレクサンドライトやクリソベリル等の非常に高価なキャッツアイと比べて遜色のない美しさですが、知名度が低く、かなり大量に採れるため、値段は100分の1にもなりません。
スリランカの珪線石 (Sillimanite from Srilanka)
2.03ct 9.7x7.8x3.5mm | 稀な結晶系を示す標本 | 4.38ct 4.67ct | 1.29ct 9.8x7.2mm | 1.77ct 8.5x7.1mm | |
10.1x8.3mm | 11.9x9.1mm |
宝石質の珪線石は、大半がスリランカの漂砂鉱床から採れる水摩礫をカットしたものですから、元の結晶がどんな姿なのか知る機会はまずありませんでした。
写真の結晶は初めて見る結晶形を示す標本です。
珪線石は、結晶を見かける機会すら殆どなく、稀にビルマ産のかすかに結晶形を忍ばせる水摩礫の写真を見る機会があるくらいですから、この端正な結晶の写真は貴重です。
今回入手したのは、2カラットを超える比較的大きな、初めて見る金色のルースです。
スリランカ産の珪線石は30年も昔にツーソンで入手して以来の久しぶりの機会でした。
タンザニアの珪線石 (Sillimanite from Tanzania)
0.715ct 7.0x5.1x2.8mm | 0.765ct 7.0x5.0x2.8mm | 0.710ct 6.8x4.8x2.9mm | 0.930ct 6.6x4.7x4.2mm | 0.865ct 6.9x5.0x3.0mm | 0.935ct 6.8x5.0x4.8mm |
今回、新たに入手したのは、前述のスリランカ産の金色のルースとそっくりです。
実は、いずれも同じ業者が扱っていたものです。
スリランカ産は一度だけ、タンザニア産はこの3か月間に、ほぼ同じ1カラット未満の金色の小さなルースが出品されていますから、継続して入荷されているのでしょう。
まるで同じ産地からの標本のように見えますが、考えてみれば、実はタンザニア産とスリランカ産の珪線石がそっくりであっても不思議はありません。
なぜなら、ゴンドワナ大陸が分裂する遥か昔の6億年以上前にアフリカ造山運動が起こった頃、スリランカとタンザニアとは近接した地域にあり、現在この二つの産地から採れる宝石の大半が、この汎アフリカ造山運動に伴う大規模な地殻変動の結果生成したものと考えられるからです。
どうやら、ごく最近、タンザニアで宝石質のシリマナイトが発見されたようです。
ネット上でも、2~3件ですが、金色のシリマナイト・ルースを見かけるようになりました。