新着宝石展示室
(New Gemstone
Gallery)
May 2016 : 蛍石(Fluorites)
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14.37ct
15.1x15.1mm |
21.40ct
20.6x12.5mm |
12.52ct 14.0x14.0mm |
John Bradshaw cutting |
Michael Gray
cutting |
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アメリカの最も優れたカッターによる蛍石
(Superb Fluorites cut by U.S.
professional cutters)
蛍石はモース硬度が4と柔らかい上に、結晶の全方向に劈開性を持ち、最もカットの困難な宝石です。
しかし主に、こうしたカットが難しい宝石やその他の稀な宝石結晶を専門に手がけるカッターがアメリカに存在し、
世界中の宝石コレクターや博物館に見事なルースを提供しています。
我が博物館の多くの蛍石と稀少宝石が彼らによって手がけられた物です。
(彼らの経歴の詳細は Coast-to-Coast
Rarestones International のHP の Our People
に紹介されています)
今回はパキスタン、スイス・アルプスとコロンビアのムソー鉱山産のいずれも至上の蛍石を、ジョン・ブラッドショーと
マイケル・グレイの二人がカットした作品を紹介します。
パキスタンの蛍石 (Pink
fluorite from Gilgit area,
Pakistan)
世界で数少ないピンクの蛍石の産地の中で、パキスタンは最も透明度の高い結晶の産地として知られています。
トリリオン・カットと呼ばれるこのカットは中央部を広く開けると正面から見たときにウィンドウと呼ばれる空白に見える部分が大きくなりすぎて美観を損なうため、外周に三段の段差を設けてカットされています。
スイスの蛍石(Graysh-purple
fluorite from Goschenen
Swiss-Alps)
やや紫を帯びた灰色の蛍石はスイス産としては珍しい色合いですが、大きく素晴らしく透明度の高いルースです。
この珍しい形のカットには ”
Calf : 子牛、子牛の皮、氷塊、ふくらはぎ” との表示がありました。
形状からすると ”ふくらはぎ” の形に似ているかと思いますが、結晶の形を最大限に活かした専門家のカッターの傑作であります。
大きく透明度の高い結晶が採れる蛍石は、カッター達が工夫を凝らして一般の宝石には見られない様々な形のカットが施されるのが見ものでもあります。
コロンビア・ムソー鉱山の蛍石
(Emerald Green Fluorite from Muzo,
Colombia)
コロンビアのエメラルド鉱山はプレートの衝突により、海底が隆起して3000mを超えるアンデスに連なるコルディジェラ山脈が形成されたものです。
エメラルドは弗素分に富む熱水によって運ばれたベリリウムを含む溶液が周囲の地質に含まれるクロムを取り込んで、柔らかい方解石脈中に緑柱石が大きく結晶するという成因で、世界で最も高品質のエメラルド鉱脈が首都ボゴタの東側から幅50㎞、長さ100㎞の帯として北西の方向に延びています。
最も名高いムソー鉱山は、その最北端に最大のエメラルド鉱山群としてあります。
こうした成因のエメラルド鉱山からは、熱水中の弗素と周囲の方解石とが反応して出来た、エメラルドを偲ばせる蛍石の結晶が稀に発見され、カットされることがあります。
かつて小さいながら、コロンビアのエメラルド鉱山産の蛍石ルースを持っていましたが2011年の地震に際にすべて粉々に砕け散ってしまいました。
今回、ようやく、その損失を補って余りあるほどの見事なルースを入手しました。 全くコロンビアの最上のエメラルドを偲ばせるルースです。
エメラルドのような濃い緑色ですが、蛍石の場合、この緑色は二価のサマリウム(Sm2+)によるカラーセンターの発色と考えられています。
パキスタンのピンクの蛍石と同じくトリリオン・カットですが、こちらは濃いエメラルド・グリーンなのでテーブル面を囲む段差の幅を狭く、ややウィンドーが広くなりますが、背面のパビリオン部のカットに工夫があり、テーブル面に角度を変えて様々の対照的な形が現れます。
やはり蛍石のカットの専門家であるマイケル・グレイ の面目躍如と言った秀逸なカット技術の冴えが窺えます。
中央の写真から分かるようにルースの四分の一に無色部分がありますが表面からは反射光で覆われてそれが隠されて分かりません。