新着宝石展示室
(New Gemstone Gallery)


November 2010 : 藍方石(Haüynes)

藍方石(Haüynes)0.12 - 0.17ct
  
0.14ct
3.80x3.05mm
0.17ct
4.25x3.35mm
0.12ct
3.00x2.95mm
0.12ct
3.45x3.00mm
0.14ct
3.70x3.10mm
0.15ct
4.00x3.35mm
0.13ct
3.95x3.10mm
Eiffel Mtns., Germany

 青い色の宝石は数多くありますが、中でも藍方石(アウイン)の独特な明るく輝かしい色合いはとりわけ印象に残ります。世界各地の火山地帯から産出が報告されています。が、宝石質のアウインは実質的にドイツのライン川沿いのコブレンツに近いアイフェル山地の風化した粗面玄武岩地帯が世界で唯一の産地です。しかもごく小さな粒状或いは団塊状の産状のため、一般には大きくてもせいぜい0.2〜0.3カラットのルースが得られるのみです。
 この地域ではアウイン目的に商業的な採掘が行われているわけではありません。建築や産業用の石材採掘の副産物として採集されたものが時々市場に出回ります。が、珍しい品に目の無い日本市場ではコレクター以外に一般の宝飾品としても人気が高く、大半が日本市場に吸収されています。
 写真のアウインは色の濃さ、透明度等々、最上の水準ではありません。しかし肉眼では包有物はまず見えません。鮮烈な色合いのアウインは小さくても充分存在感がある宝石です。

 アウインを巡る二つの噂

 アウインの産出については最近二つの噂が市場を駆け巡っています ;

 1.ドイツで採掘禁止の噂

  2〜3年程前から世界で唯一の宝石質のアウイン結晶の産地であるドイツにて採掘が禁止になったという情報が流れ始め、それに伴って結晶標本やルースの値段が高騰しています。
 日本では以前からアウインが異常な高値で流通していたのですが、採掘禁止の情報と共にさらに値上がりして、現在では0.1カラットに満たないルースに2万円以上、カラット当たりでは10万円〜50万円と海外の10倍から100倍もの水準になっています。
 元々大きな結晶が採れないアウインですから、もし1カラットを越える濃い色の無傷のアウインのルースがあったとすれば、100万円の高値を呼んでも驚くことではありません。これは希少性に対するプレミアムとしての対価なのです。 
 例えばダイアモンドの場合1カラットの大きさのルースが100万円とすると、同じ品質で0.5カラットなら30万円に、0.25カラットは10万円と小さくなるにつれてカラット当たりの単価は急激に下がります。それ以下のメレーと呼ばれるサイズでは10分の1の大きさの0.1カラットのルースが数千円と、カラット当たりの値段は20分の1に下がります。
 ところが日本のアウインの値付けは0.1カラット未満の小さなルースに、色の濃淡や透明度等の品質に関わり無く、滅多に無い最上級品と同じカラット当たり単価を一律に掛けるという、途方も無い商習慣が罷り通っているのです。
 因みに冒頭の写真のアウインは全部で200ドルでした。最上級品ではなく、宝飾用のパッケージという事情はあるにせよ、国際的な価格はこの程度の妥当な水準なのです。

 さて、最近日独宝石協会のホームページにアウインの産地訪問の記事が掲載されました。それによると、アウインはコンクリートやブロック用の建材用の軽石の採石場から副産物として採集されます。
 元々大量に採れる鉱物ではありませんが、現在も採石場は稼動中であり、採集されたかなりの量のアウイン原石の写真もあります。問い合わせたところ、少なくともドイツでは価格の高騰は起きていないとのことです。アメリカ市場では以前の2倍程になっていますが、これは主にドルの対ユーロの交換レートの影響と思われます。

 2.アフガニスタンで宝石質アウイン結晶発見の噂

Hackmanite 74x42x22mm 最大の結晶 約10mm
Lapis lazuli Mine, Ladjnar Medam, Sar-e-sang, Afghanistan
写真提供 :母岩


 アフガニスタン産の宝石質のアウインとされる結晶標本を最近ネット市場でちらほらと見かけるようになりました。
 アウインは青金石(Lazurite),方ソーダ石(Sodalite)やノゼアンと共に固容体を成して、ラピス・ラズリに含まれる鉱物です。いずれも等軸晶系に属し、良く似た化学組成、特性と色合いを持つ鉱物です。したがって、古来よりラピス・ラズリを産し、近年は宝石質の方ソーダ石やその変種のハックマン石も産するアフガニスタンのサーレ・サンから宝石質のアウインが採れても不思議はありません。
 アフガニスタン産のアウインなる結晶は、青く透明でドイツのアイフェル山地の粒状の小さな結晶と比べるとはるかに見事なものです。アウインとすれば空前絶後の結晶の発見と言っても過言ではありません。
 写真の結晶はこの鉱物が何なのか、分析を依頼してハックマナイトであると判明したということです。 鉱物店、”母岩”のご好意で写真を使わせていただきました。
 ハックマン石は方ソーダ石の塩素成分の一部が硫黄に置換された変種ですが、IMA(国際鉱物学連合)に独立した鉱物として登録されている鉱物です。過去には紫色や無色透明の結晶が発見されていましたが新たにアウインにそっくりの青い色の結晶が加わったということです。
 Mineralogy Database にもサーレ・サン産のアウイン結晶の写真があります。青、または無色透明の結晶中に青い斑点がある結晶ですが、紫外線照射で透明で無色の結晶部分のみがオレンジ色の蛍光を発するとあります。すると無色の結晶はハックマナイトで青い色の斑点部分はノゼアンではないかと考えられます。さらに同じ産地からは最大2cmに達する青い霞石(Nepheline : (Na,K)[AlSiO4]結晶の標本も採集されています。青い色はノゼアンの細片を含むためです。霞石は結晶系が六方晶系で全く別の鉱物です。
アフガニスタン産の藍方石、方ソーダ石, 霞石とアフガナイト
(Haüyne, Sodalite, Nepheline and Afgahnite recovered from Afghanistan)



方ソーダ石結晶(Sodalite) 〜7mm アフガナイト(Afghanite) 2g 藍方石(Haüyne) 0.9g ノゼアンを含む霞石結晶 最大2cm
(Nosean in Nepheline crystal)
Sar-e-sang, Badakhshan, Afghanistan
アフガナイト (Afghanite) 藍方石 (Haüyne)
0.79ct 0.34ct 1.21ct 0.92ct
Sar-e-sang, Badakhshan, Afghanistan

 近年報告のあった情報をまとめてみると、アフガニスタン・サーレ・サンのラピス・ラズリ産地からは、確かに宝石質の藍方石が発見され、透明度の高い結晶はファセット・カットされて市場に姿を現しています。と同時に、硫黄片を含む方ソーダ石やアフガナイト、ノゼアン片を含む霞石結晶が少量ながら採集され、これらが藍方石(アウイン)のような色合いと結晶形をしていることが混乱を招いていることは間違いありません。
  日本の研究機関でハックマナイトとされた方ソーダ石の結晶は硫黄分が検出されたためと思われます。しかしアリゾナ大学でのX線とラマン分析の結果では、硫黄はソーダライトの結晶構造に取り込まれているのではなく、微細な結晶がインクルージョンとして混入していることが分かり、ハックマナイトではなく方ソーダ石と判定しています。
 霞石とアフガナイトとはアウインとは異なる鉱物ですが、色合いと見かけの結晶形とがそっくりなので、専門家による精密な分析をしない限り識別は不可能です。
 ともあれ、古典的なラピス・ラズリ産地のアフガニスタンから、近年美しい結晶が続々発見され他事実は大いに歓迎すべき出来事には違いありません。
 
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