新着宝石展示室
(New Gemstone Gallery)
November 2022 : 蛍石 (Fluorites)
Namibia 9.11ct | New Hampshire 19.53ct | Spain 4.03, 5.05ct |
ナミビアの蛍石 (Namibian Fluorite)
9.11ct 13.3x13.3x9.7mm | |
Erongo Mtn, Namibia |
緑の蛍石は珍しくはありません。
一般の緑色の蛍石の発色は二価のサマリウムによる発色です。
しかし、エメラルドのような輝かしい緑色の蛍石が、インドのビハール州、南アフリカのナミビア国境に隣接する Riemvasmaak のペグマタイト鉱床、とナミビア、エロンゴ山、Klein Spitzkoppe のペグマタイトから発見されます。
この色は、イットリウムとごく微量のセリウムによる発色です。
紫外線照射により鮮明な青の蛍光を発します。
写真の標本の詳細な産地は不明で、単にナミビアとの表記でしたが、色合いから、まずクライン・シュピッツコッペ山のペグマタイトからのものと見当をつけています。
この地のペグマタイト鉱床は数cm程度の小さな晶洞が多く、蛍石の結晶も大きくて数㎝に過ぎません。
したがって、この大きさの透明度の高いルースが得られる結晶は奇跡的な存在といっても過言ではありません。
長年コレクションをしていて、これが2個目のナミビア産のエメラルド・グリーンのルースです。
これも蛍石カットの名人、ジョン・ブラッドショーの手になるものです。
ニュー・ハンプシャー・ウェストモーランド・ワイズ鉱山の蛍石
19.53ct 17.2x13.2x12.5mm | |
Wise Mine, Westmoreland, New Hampshire, U.S.A. | |
このルースは蛍石のカットでは世界で屈指の名人の John Bradshaw の手になるもの。
わがコレクションの蛍石の多くが彼の作品です。
とりわけアメリカ東海岸、ニュー・ハンプシャー州、ウェストモーランドのワイズ鉱山産の蛍石のルースは他ではなかなか手に入りません。
というのは、ジョン・ブラッドショーは長らく、鉱山から80㎞しか離れていない、同じ州のナシュアを拠点にしています。
そのため、めぼしい結晶が採掘されると、優先的に彼に供給されるのだろうと思われます。
宝石としてカット出来るような透明度の高い結晶が何時でも採れるわけではありませんから、地の利のある蛍石のカッターが鉱山に近い街に住んでいるというのは、まさに天の配材と言えましょう。
この緑の発色は恐らく、普通のセリウムによる発色と考えられ、前述のナミビア産の発色とは異なります。
が、秀逸なカット技術により、素晴らしい光の屈折と反射とがきらめく見事な作品に仕上がっています。
周辺には10数か所の蛍石鉱山が存在しますが、紫外線照射で青の蛍光を発するのはワイズ鉱山産の蛍石のみです。
スペインの蛍石 (Fluorites from Spain)
4.03ct 15.1x7.1x6.0mm 5.05ct 11.8x8.8x7.9mm Asturias, Spain
スペインは20世紀に美しい蛍石の結晶標本を大量に産出しました。
とりわけ北西部の大西洋岸、ヒホン(Gijon) の町の近郊には数十平方㎞の広大な地帯に無数の蛍石の鉱山が存在していました。
これらの鉱山は20世紀前半央から採掘が始まり、大半が1980年代末までに稼働を停止しました。
が、人気の高い結晶を探して、時折採掘が試みられ、2000年代初めにも結晶は市場に姿を見せたものです。
鉱物結晶コレクター用に結晶が鉱物市場に姿を見せはしましたが、しかしカットされたスペイン産の蛍石のルースは皆無に近く30年余り昔に1個だけ入手しただけでした。
恐らくスペインにはカットの困難な蛍石のカッターが存在せず、宝石質の結晶が採集されてもカットされないためだろうと考えられます。
今回、漸くにして新たに2個の結晶を入手しました。
前述のブラッドショーの手になる逸品とは比べ物にならない、カットの水準が低く、写真写りの悪いルースではありますが、ともあれ希少なスペイン産の蛍石です。