新着宝石展示室
(New Gemstone
Gallery)
October 2018 : デマントイド・ガーネット(Demantoid Garnets)
Demantoids from Madagascar, Ural Mtns. and Namibia : 0.56 - 2.065ct |
灰鉄柘榴石(アンドラダイト : Ca3Fe23+[SiO4])の主にクロムを含みエメラルド・グリーン色の変種であるデマントイド・ガーネットは、数あるガーネットの中で、最も高く評価されています。
アンドラダイトは、世界各地の変成岩地帯に発見される、比較的に珍しいガーネットです。
しかしながら、クロムを含む宝石質のデマントイドとなると産地が限られていて、産出量は極めて少なく、1カラット超の濃緑色の透明度の高い最上の宝石質のルースはカラット当たり1万ドルを超える高値で取引される希少ガーネットです。
今回は、この数年の間に収集した世界各地のデマントイドの展示です。
ウラル山脈のデマントイド ( Demantoids from Ural Mtns., Russia )
2.065ct 8.40x6.25x4.84mm | 1.61ct 7.33x5.92x4.77mm | 0.66ct 6.62x4.98x2.54mm | 0.56ct 5.70x4.13x2.92mm | 0.73ct 5.67x4.39x3.74mm |
1853年にウラル山脈のエカテリンブルグ周辺の川辺の漂砂鉱床で子供が拾い上げた緑色に輝く結晶は、しばらくの間、エメラルドかペリドットと考えられていましたが、1864年にフィンランドの鉱物学者、 ニールス・フォン・ノルデンスへルトによりクロムを含むアンドラダイトであると識別され、高い屈折率と分散効果により、ダイアモンドのようなファイアーを示すことから、オランダ語でダイアモンドを意味する ”Demant” に因んで デマントイド(ダイアモンドのような)・ガーネットと命名されました。
当時のヨーロッパではクリソベリルやペリドットの、緑や黄緑色の宝石に人気がありましたから、新たに加わったエメラルドのような濃緑色のデマントイドはたちまちのうちに最も人気の高い宝石となりました。
大半が0.5カラット以下の小さなルースしか得られないデマントイドですが、当時作られた宝飾品が現在もアンティーク市場に数多く見られます。
しかし、ロシア革命により社会主義国となったソヴィエト連邦では産業用途に使えないデマントイドの採集は中断され、1世紀近くの間、デマントイドは幻の宝石となっていました。
1990年代、ソヴィエト崩壊により、再び採集が再開されましたが、漂砂鉱床で得られる結晶は微々たるものでした。
2000年代初めに、精力的な調査が行われた結果、初めてデマントイドの一次鉱床が昔の漂砂鉱床の近くで発見され、最初の採掘では数kgの宝石質の結晶が得られ、そのうち600gが最上の品質とのことです。
しかし得られるルースの大半は1カラット以下の大きさでしかなく、3カラットを超える最上品質のルースは年に数個しか得られないというのがデマントイドという宝石なのです。 ともあれ一次鉱床の発見により、安定した供給が期待できるようになったのは嬉しいことです。
安定した供給が再開されたとはいえ、実際に市場で見かけるのは、透明度が低かったり、褐色味が強いといった標本級の品質の1カラット以下のルースが大半です。
その中でデマントイドとしては2.065カラットの異例の大きく、濃緑色の極めて透明度の高い写真のルースは博物館級の逸品です。
さる収集家の放出品とのことで、有難く譲り受けましたが、世界的な宝石フェアにても滅多に見かけられない美しいものです。
ロシアのデマントイドと言えば必ず引き合いに出されるホース・テイル(馬の尻尾)状のインクルージョンもルーペで見れば確かにあるのですが、肉眼では殆ど確認が出来ないほどの、ほぼ完ぺきなルースです。 希少なロシア産デマントイドの証明としてのホース・テイルインクルージョンは、しかし、肉眼では見えない程に微かにあるのが宝飾品としては望ましいのです。
マダガスカルのデマントイド (Malagasy Demantoid)
1.75ct 6.06x6.05x5.05mm |
2008年、マダガスカル北東部の海岸のマングローブ林の浅瀬で,蟹漁の漁師の網に
”緑のサファイア” を含む岩の破片が引っ掛かったのが発端でした。 首都のアンタナナリボに送られて、緑の石が実は宝石質のデマントイドと確認され、500x500mのマングローブの沼地には2000人もの採掘者が押し寄せる騒ぎとなりました。 泥の下には20m余りの厚さの砂岩と石灰岩の層と、貫入した煌斑岩 ( Lamprophyre : 黒雲母、角閃石、輝石等から成る暗色脈岩)との接触変性作用によるスカルン脈中にアンドラダイト・ガーネットが生成したものです。 すなわち巨大な初成鉱脈からの、中にはウラル山脈の最上級品に匹敵する濃緑で透明度の高いデマントイドの発見でした。 発見当初は、かなりのデマントイドの結晶とルースが市場に出回ったのですが、近年では稀にしか見かけません。 問題は、鉱脈が満潮時には海水が侵入する海面下にあることで、トンネルを深く掘れば掘るほど膨大な排水作業が必要になるという産状です。 2010年頃から、本格的な排水設備工事が行われる予定でしたが、広大な海面下の鉱床への浸水を完全に止めるのは容易なことではないでしょう。 現在では20人ほどが細々と採掘を続けているようです。 写真のルースは新着ではなく、10年ほど昔、発見後まもなく入手したものです。内包物が殆どなく、透明度が高く,濃青緑色が美しい、デマントイドの逸品です。 前述の、今回新たに入手した、ウラル山脈産の最上級のルースとの比較のために展示しました。 興味深いことですが、クロム発色のウラル産に対して、マダガスカル産にはクロムは含まれてなく、三価の鉄イオンによる発色です。 が、最上のマダガスカル産のデマントイドはウラル産と比べて遜色のない美しさです。 |
ナミビアのデマントイド (Namibian Demantoid)
ナミビアでは1990年代中ごろからにエロンゴ山周辺の何か所に石灰岩脈と花崗岩脈との接触によるスカルン鉱脈から デマントイドの産地が発見されました。 当初発見された鉱脈から手作業で採掘されたのは、デマントイドというより、褐色味の強い、トパゾライトというべき品質でしたが、 その後 Tubssis からクロム含有率が高いの鉱脈が発見されました。 現在はグリーン・ドラゴン・マインと呼ばれる鉱山から大規模な機械化による採掘がおこなわれています。 採掘された結晶の15%がトップ・グリーンと呼ばれる高品質のルースが得られるとのことです。 ただし多くは0.5カラット程度の小さなルースが多く、大半がバンコクにて宝飾品に加工されています。 0.66ct 6.06x3.50x2.91mm |