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October 2018  :  サファイア (Sapphires)



 
  2.31ct 8.25x7.0x4.56mm  1.29ct 7.66x6.09x3.22mm  1.49ct 7.13x7.06x3.65mm

 この半年ほどで3点のサファイアを入手しました。
いずれも美しい色合いですが、素性が分からないのが難点です。
 すなわち、産地が不明、さらにピンクと金色は、ベリリウム・ドーピングの可能性があるという、もっと厄介な疑問があります。
 そうした難点を補っても、これらのサファイアの美しさに惹かれて入手したものです。
 現在これだけのサファイアに出会う機会は少なくなっているからです。

ブルー・サファイア
   
2.31ct 8.25x7.0x4.56mm Thai ? 

 美しいブルー・サファイアですが、おそらくは加熱処理された、アルカリ玄武岩起源、タイ産のサファイアではないかと見当をつけています。
 写真では最上のロイヤル・ブルーに見えます。
実際、ブルーサファイアとしては申し分のない色合いなのですが、肉眼で角度を変えて眺めまわすと、かすかに緑味を帯びて見える時があります。
 アルカリ玄武岩起源ではないかと判断しているのもこのためですが、しかしフランスのオーベルニュ、カンボジアのパイリン、時にオーストラリア等にも、スリランカやマダガスカルの変性岩起源と比べて遜色のない品質のサファイアもないわけではありません。
 遜色がないとは言え、やや陰りのある青は、やはり玄武岩起源を伺わせます。
恐らくは、現在では殆ど枯渇してしまったタイ産ではないかと推定しています。
 もう一つ、気になるのがコーティング処理の有無ですが、顕微鏡で見ても、コーティング処理品によくある残留物の形跡が見当たらないので、おそらく加熱処理はされているがコーティング処理でないと判断しています。
 これ以上のことは熟練した専門家が高度な測定器を駆使して検査しない限り確かなことは確認できません。
 が、このサファイアは、それらの検査を全て行うと、買値をはるかに超えてしまうので、それまでして確かめることはないと思っています。
  

ピンクと金色のサファイア( Pink and Golden Sapphire )
         
1.29ct 7.66x6.09x3.22mm    1.49ct 7.13x7.06c3.65mm 
Srilanka ? 

 ブルー・サファイアと比較してさらに厄介なのが、写真の極めて美しいピンクと金色のサファイアです。
この鮮やかな発色と透明度の高さから合成ではないかと疑われます。
 が、さらに拡大された写真では天然に特有の水泡状の内包物が見えるので、ガラスでも合成でもないと判断しました。
 天然のサファイアとしても、この色合いからはベリリウム・ドーピングがされているか否かを疑わねばなりません。
出品者の説明にはペリリウム・ドーピング検査はしてない、と但し書きがありました。
 ピンク・サファイアはオレンジ・サファイアとの説明でしたが、どう見ても濃いピンクに見えますが、しかしパパラチャ・サファイアとしないところが好ましい。
 最近ではこの色合いのサファイアはパパラチャ・サファイアとして法外な値段がつけられることがあるのです。
 以上から、出品者は少なくともある程度の宝石の知識があるまともな業者であろうと、入手しました。
いずれも屈折率が 1.768、1.771 と、紛れもなくサファイアです。
 問題はベリリウム・ドーピングです。
 これには LA-ICP-MS (Laser Abration Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometer )
レーザー気化誘導結合プラズマ質量分析計 という、数千万円もする最新の測定器での検査が必要となります。
 まともな宝石商なら、確認のためにこの検査は必ず受けます。 これだけの色合いと透明度のサファイアなら、もし加熱処理がされていても天然なら、カラット当たり10万円~30万にもなるからです。
 が、ベリリウム・ドーピングとなると、宝石としての価値は有りませんから、しっかりと確認しないことには信用に係わります。
 しかし、コレクションとなると、話は別です。 宝石としての価値はないとしても、ベリリウム・ドーピングによる発色は格別の美しさです。
 実は人の手を加えない天然のサファイアにも、ベリリウムを含むものが少なからずあることが、近年明らかになっています。 ベリリウム・ドーピングが明らかになったのは2000年代の初めです。
 天然には稀にしか見られない橙色を帯びたピンクのパパラチャ・サファイアが異常なほど市場に姿を現し始めたことが発端でした。
 その正体を突き止めるために、GIA(アメリカ宝石学協会)が世界の宝石学者と宝石商の協力により、1年半の時間をかけて、サファイアの加熱処理の時に紛れ込んだクリソベリル(主に漂砂鉱床から採れる宝石結晶の水摩礫にはサファイア以外にも他の宝石結晶も含まれ、カットして何なのか分かります)が高熱で分解され、成分のベリリウムがサファイア結晶の内部に拡散されて美しい発色の原因となることを2003年に突き止めたものです。
 この結果、とりわけ日本の宝石市場に氾濫していたパパラチャ・サファイアが一斉に姿を消しました。
しかしながら、LA-ICP-MSの普及により、その後の研究によって、実は天然のサファイアにもベリリウムが含まれていることが明らかになりました。
 すると、世界の博物館や王室、大富豪のコレクションのサファイアの逸品にも、天然に含まれたベリリウムによる美しい発色が起きているものが無いとは言えません。
 それについて、GIAを含む世界の宝石界では何の言及もしていません。 ”沈黙は金”、と言うことでしょう。
 
 今回入手したピンクと金色のサファイアはまずベリリウム・ドーピングされたものと考えられます。
したがって、あえて、手間と費用をかけて、それを確認するほどのことはないでしょう。
 コレクターとしては、美しいサファイアを入手したと嬉しく眺めていればよいのです。 
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