新着宝石展示室 (New Gemstone Gallery)
2020 October : カナダ産の宝石(Canadian Gemstones)
スピネル (Spinel)
小さく標本級のルースではありますが、ともあれ宝石ルースとして カット出来るようなスピネルがカナダで採れるということは如何なる 資料にもありませんでした。 以前、同じバフィン島産のサファイアを入手したことがあるので 同じ場所かと思いましたが、グレンコー島はバフィン島南西部の Marks Bay の沖合に浮かぶ小島でサファイアの産地とは 別の産地のようです。 が地質は似ているのでしょう。 3mm 程度の小さなルースですが中々きれいな色合いです。 |
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0.13ct 3.2x2.2x1.6mm | 0.16ct 3.2x2.5x1.8mm | ||
Glencoe Island Nunavut |
ヴェスヴ石 ( Vesuvianite)
0.40ct 5.0x5.0x2.7mm | 0.49ct 4.4x4.4x3.9mm | 0.63ct 6.1x4.0x3.0mm |
Jeffrey Mine Quebec |
世界で有数の石綿鉱山であったカナダのケベック州にあるジェフリー鉱山は、発癌性のために世界的に石綿の使用が禁止されたために閉山となりました。
しかし美しいヴェスヴ石やグロシュラー・ガーネット等100種に及ぶ多彩な鉱物を産するため、閉山後も鉱物標本を求める採掘が行われ、現在もジェフリー鉱山産の標本は細々ながら流通しています。
もっとも名高いヴェスヴ石は、しかし緑やピンク等、美しい結晶標本こそあれ、カットされたルースは、写真すら見かける機会はほとんどありませんでした。 透明な宝石質の結晶が極めて稀であったためです。
今回ようやくにして、小さいながら透明度の高いルースを入手しました。
燐灰石 (Apatites)
0.41ct 4.9x4.9x2.7mmmm | 1.39ct Ø6.9x4.4mm | 0.96ct 7.1x5.3x4.1mm |
Tory Hill, Ontario | Emerald Lake, Yukon |
カナダのオンタリオ州には燐灰石の産地が数多くあり、数は少ないものの、カットされたルースが市場に流通しています。
今回はオンタリオ州に加えて、新たにユーコン産の珍しい無色透明な燐灰石を入手しました。
無色の燐灰石は日本でもかつて各地の鉱山で産しましたが、いずれも不透明なものばかりです。
世界的にも宝石としてカット出来るような無色透明な燐灰石は珍しく、というより思いもかけず、今回初めて
無色透明な燐灰石のルースに出会った次第です。
菱苦土石 (Magnesites)
0.77ct 6.9x4.6x3.1mm | 1.34ct 7.6x7.6x4.2mm | 1.78ct Ø7.9x4.9mm |
Brassilof Mine , British Columbia |
宝石としてカット出来るような菱苦土石はブラジル、バイア州のブルマードからごく稀に、宝石質の結晶を産するのみで、これまで30年間で1個の3カラットのルースと2㎝余りの結晶の劈開片に遭遇したのみでした。
今回カナダのブリティシュ・コロンビア産のルースを3個も入手できました。
やや内包物が多く、透明度に欠けますが、こういうルースが存在することすら驚ろきというしかありません。
ブラッシロフ鉱山はカルガリーの西南西、およそ100㎞の地にあり、推定埋蔵量5000万トンのマグネサイトを露天掘りにて年間22万トン、採掘しているとのことです。
氷晶石 (Cryolite : Na3AlF6)
氷晶石は18世紀末にグリーンランドのアルスク・フィヨルドのイヒドゥートにて発見され、 後にこの鉱物がボーキサイトから金属アルミニウムを取り出す精錬用に使われることが 判明して、極北の鉱山での採掘が始まったという経緯があります。 しかし資源として採掘できたのはこの地が世界で唯一の鉱床であり、1962年に100年 余りの期間に350万トンの氷晶石を産した鉱山は閉鎖され、その後は、蛍石を処理した 合成氷晶石が使われています。 世界で唯一の氷晶石鉱山であったイヒドゥートですが、宝石としてカット出来るような透明 な結晶は殆どなく、僅かに1カラット未満のルースの写真を見かけるのみでした。 今回入手したルースは透明度こそありませんが2.45カラットとこの鉱物としては驚異的 な大きさです。 宝石ルースとしては全く見映えがしないものですが、ルースの存在自体が驚異と言えます。 氷晶石の特徴は屈折率が1.338とほとんど水と同じことです。 したがって水の中に入れると 氷のように見えます。 このルースはカナダ,モン・サンチレールの特異なペグマタイト鉱床産です。世界の他の産地 では見られないような鉱物を100種以上産する土地ですが、ここでも氷晶石は極めて稀な鉱物 であり、1990年代の資料には最大でも2mm程度の結晶しか結晶が記録されているだけでした。 |
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水中での見え方 | |||
2.45ct 7.6x7.46x5.40mm | |||
Mont Saint. Hilaire, Quebec |
閃亜鉛鉱 (Sphalerite)
閃亜鉛鉱は一般には濃褐色や橙色が大半ですが、何故か北米では緑色を帯びた ものが発見されます。 前述のようにケベック州の首都、モンレアルの東40㎞程にあるモン・サンチレール 採石場からは世界の他の地域に類を見ない色合いや、大きさの宝石質の鉱物結晶 が多種にわたって発見されます。 この閃亜鉛鉱もその一例で、長年コレクションに加えたいとの願いがようやくにして 叶いました。1990年代に報告されたほぼ青緑色の閃亜鉛鉱の色はppm単位で含ま れるごく微量のコバルト・イオンによる発色であり、一般に鉄の不純物による褐色味や 橙色が見られないという特徴があります。 今回入手した標本は青ではありませんが濃い緑に、高い屈折率と分散により、青い光 が煌めく美しいものです。 |
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1.15ct Ø5.9x4.0mm | 0.68ct Ø4.9x3.3mm | ||
Mt. St-Hilaire, Quebec |
灰鉄柘榴石 (Andradite var. Demantoide)
カナダの同じケベック州にある石綿鉱山の Black Lake からはかつて1カラット未満の 小さなデマントイドが報告されたことがあります。 ただしクロムの含有量が少なく、むしろアンドラダイトと呼ぶべきではないかとのコメントが Gems& Gomology 誌の1999年夏号に掲載されていました。 今回入手したのは、これまでありそうでなかったジェフリー鉱山産のデマントイドです。 イタリアの蛇紋岩採石場のマレンコ渓谷もデマントイドの著名な産地ですから、同じ石綿 鉱山のジェフリー鉱山産のデマントイドに驚かされることはありません。 実は前述の Black Lake 産のデマントイドを紹介したのは、今回のデマントイドをカットした カナダの宝石カッターの Blad Wilson で、ここに紹介されているルースは全て、彼自身が採集 したり、入手した結晶を彼が自らカットしたものばかりです。 2012年の12月に紹介したカナダの宝石も、すべて彼の手になるものです。 こういうカナダの宝石に精通した業者を通さないと稀なる産地の宝石は手に入りません。 クロムの含有量を分析したわけではありませんが、このデマントイドは多少の包有物はあります が 濃い緑色と反射光に現れる七色の煌めきで、間違いなく本物のデマントイドです。 |
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0.22ct Ø3.3x2.1mm | 0.57ct Ø4.9x2.7mm | ||
Jeffrey Mine, Quebec |