新着宝石展示室 (New Gemstone Gallery)


September 2010 : パライバトルマリン (Paraiba Tourmalines)


5.16ct 12.80x9.65x5.70mm
Mozambique
4.39ct 12.80x9.55x5.20mm
Brazil,Nigeria,Mozambique ?
  ブラジル北東部のパライバ州で1989年に発見され大きな話題となったパライバ・トルマリンは、その後原産地では鉱脈が枯渇し、米粒のような小さく透明度の低い石を細々と産出するのみとなりました。
 代わりに2000年以降、アフリカのナイジェリアとモザンビークから同じタイプの銅とマンガンを含んで鮮やかな色合いのトルマリンが相次いで発見されました。
 しかし大半は色が淡かったり、亀裂や包有物が多く透明度に欠ける等、宝石としてどうかと思われるような水準なのに、パライバというだけで法外な値段が罷り通っていました。
 が、この半年余り、とりわけモザンビークから安定した供給が続いている状況下で、熱狂も収まってようやく品質相応の値付けがされるようになりました。

 


モザンビークのパライバ・トルマリン( Mozambique Paraiba tourmaline )
 市場に出る大半のパライバ型は1〜2カラットと小さく、5カラットを越える大きな石は滅多にありません。 
 この石は色も淡く、包有物もやや多めですが、数少ない大型です。
 さらに現物を手にとって見ると丁寧なカットで見事なプロポーションに仕上げられています。
 コレクションとして集める場合にカットの良し悪しは色や透明度と並んで大切な要素です。
 宝飾品には向かない標本級の石ですが、かつてはこんな品質でも5カラット超のパライバ・トルマリンということで目をむくような値段が付けられていたものです。
 因みのこの石はカラット当たり3000円弱と、至ってまともな水準です。
5.16ct 12.80x9.65x5.70mm

ブラジルのパライバ・トルマリン ?

( Brazilian Paraiba tourmaline ? )
4.39ct 12.80x9.55x5.20mm パビリオン部から見える2ヶ所の包有物
 
 素晴らしく透明で大きな含銅トルマリンをネット・オークションで見かけたので産地を問い合わせたところブラジル産ということで入手しました。
 現在これほどのパライバ・トルマリンはブラジルではほぼ絶産となっています。
ところがカラット当たり数千円ですから普通のインディゴライトとしても破格の掘り出し物ですが、他方でガラス等の贋物の可能性もあります。
 実はずいぶん前からオークションに出ていたものの落札されず放置されていたものなのです。オークションで目ぼしいルースを買っているのは一部のコレクターの他は転売目的の業者が大半ですから危ない代物には手を出さなかったのでしょう。
 しかし余りにも魅力的な色合いに、思い切って落札した次第です。
 大変透明度の高いルースですが、テーブル面直下にほぼ垂直に入っているために肉眼では目立たない二ヶ所の平板状の亀裂の内部に樹枝状の包有物があります。
 これは天然の結晶の特徴です。
ガラスに特有の気泡やスワールと呼ばれる渦状の包有物はありません。
 一方でカット面がかすかに虹色を帯びるのが認められ、これは一部のガラスのイミテーションの特徴でもあります。
 レーザー反射計で屈折率を計ったところ1.684と、トルマリンにしては高過ぎる値で鉛ガラスの可能性が出てきました。ただし、レーザー反射計では他のトルマリンも同様に高い値が出るためそれだけでは判断できません。
 改めてGIA製のレイナー型の屈折率計で計り直して見ると1.624と0.02の副屈折の値が得られました。念のために比重を計って3.038が得られ、これらを総合してトルマリンに間違いないと判明しました。
 さて、これがパライバ・トルマリンか、普通のインディゴライトなのかは専門家による蛍光X線分析で微量の銅とマンガンとの含有を調べなければなりません。
 パライバ・トルマリンの産地については、ナイジェリア産、モザンビーク産共に、発見が公になる前の3年余りの間、原石がブラジルに運ばれてパライバ産として相当量が市場に流通していたことが最近明らかになりました。
 したがって輸入業者がブラジルから仕入れたものでも確かな産地を特定することは出来ません。

パライバ・トルマリンの正確な産地の識別法

 幸いなことに全国宝石学協会、日独宝石研究所とスイスのギューベリン研究所との共同研究により、個々の石の産地がほぼ特定できる技術が開発されました。その詳細は”Gems & Gemology誌 Spring 2006”に発表されました : 
 LA-ICP−MS(Laser Ablation Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry : レーザー蒸散高周波誘導プラズマ質量分析法)と呼ばれる最新の技術により極微量の元素の不純物の含有比率の違いで産地が特定できるというものです。 
 それによると肉眼では似たように見えるパライバ・トルマリンも微量の(ガリウム+鉛)対(銅+マンガン)、(銅+マンガン)対(鉛・ビスマス)比、(マグネシウム-亜鉛-鉛)のppb単位の含有比率が産地毎に異なる特徴があります。
 各産地からの合計198個の標本の分析の結果、ナイジェリア産にはガリウム・ゲルマニウムと鉛が、ブラジル産はマグネシウム、亜鉛、アンチモン、モザンビーク産はより多くベリリウム、スカンジウム、ガリウム、鉛とビスマスとが含まれる一方でマグネシウムを含まない等の違いがあり、これらの比較から産地の識別が可能となりました。

 4.39カラットのルースの正確な産地はしたがって、最新の技術による分析で明らかになるでしょう。
 が、石の値段より高い費用をかけてまで産地を特定する意味はありません。
 色合いからすると銅を含むパライバ型の可能性が高いのですが、仮に普通のインディゴライトであってもこの石は美しい宝石には違いありません。
 これほどの大きく透明度の高い魅惑的な色合いの石が、贋物ではなく天然のトルマリンと判明しただけで充分です。
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