新着宝石展示室
(new Gemstone Gallery)


September 2020 : コレクターストーン (Collector Stones )


 
タンタル石 
(Tantalite)
菱マンガン鉱 
(Rhodochrosite)
 氷晶石
(Cryolite)
フェナス石 
(Phenacite)
 Brazil China  Canada   Brazil



ブラジルのタンタル石 (Brazilian Tantalite)

     
 2.32ct 7.82x5.38x2.99mm


 タンタル石 [( Fe,Mn) (Nb<Ta)O6] は稀元素に富む花崗岩ペグマタイト鉱床に産する鉱物です。
周期律表の同じ第5族のニオブとタンタルとが連続的に含まれる固溶体として結晶し、ニオブ成分比が高い場合は、ニオブの古称,コロンビウムに因むコルンブ石と呼ばれます。 さらに成分の鉄、マンガン、マグネシウムの量に応じて、これらの元素名を付けて呼ばれることもあり、写真のルースはマンガン成分が高く透明度が高いので、マンガノタンタル石としてカットされました。
 宝石質の透明なマンガノタンタル石は滅多に採れませんから、カットされたルースを見かける機会はツーソンショーにでも行けばともかく、一般のネット市場には10年に1個程度しか姿を見せません。 しかも殆どは1カラット未満の透明度の低い標本級が大半なので敢えて入手することはなかったのですが、今回ようやく大きく美しいルースに出会いました。
 これはブラジル産としか分かりません。 
ブラジルではミナス・ジェライス州と、リオグランデ・ド・ノルチ州、エクアドールの Alto do Giz にて透明な宝石質のタンタル石を産しますから、いずれかの産と考えられます。
 冒頭に述べた稀元素に富む花崗岩ペグマタイト鉱床は世界中にありますから、タンタル石は比較的に珍しいとは言え、日本でもかつて福島県石川町のペグマタイトからもコルンブ石が報告され、ぼく自身も60年余り昔ですが、茨城県真壁の花崗岩採石場にて1cm角の平板状の結晶を採集したことがあります。
 一般には鉱物愛好家にしか知られていない鉱物ですが、世界的なスマートフォンの普及により、超小型で大容量のコンデンサー用途にタンタルの需要が急増して供給が逼迫したため、アフリカのコンゴやルワンダの漂砂鉱床での反政府勢力による違法採掘が急増し、コルタン(タンタル石とコルンブ石との業界での呼び名)が広く知られるようになりました。 

中国の菱マンガン鉱 ( Chinese Rhodochrosite )
           宝石質の菱マンガン鉱はアメリカ・コロラド州のスイートホーム鉱山、南アフリカのン・チュワニン鉱山、ペルーのアンデス山脈にある9つの金属鉱山などからかつて産しましたが、20世紀にはいずれも資源が枯渇し、この10年ほどは市場で見かける機会はめっきり減りました。 古い結晶の在庫からカットされたルースが稀に姿を見せますが、カラット当たり数千ドルにもなり、しかも新たに登場する毎に値段が一層高騰する投機的な水準となっているのが現状です。
 そんな中で2000年初め頃から中国江西省、荘族自治区の梧州市にある武東鉱山の鉛、亜鉛、銀鉱床で宝石質の菱マンガン鉱が採集されるようになりました。 
 2010年ころには数十キログラムもの巨大な結晶群が発見されましたが、残念ながら一度出来た鉱脈に新たにマンガン鉱脈が低温で再結晶した産状であったため、大半が不純物や亀裂を含む不透明な結晶でした。
 中には30カラットを超える例外的に大きく透明なルースがカットされましたが、ごく僅かな量でしかなく、その後ルースが市場に姿を見せることはありませんでした。
 今回、突然比較的に大きなルースが姿を見せました。
 かなり包有物を含み透明度が低いのですが武東鉱山産のルースとしては稀な大きさと品質であり、値段も30年以上昔のコロラド産並みの妥当なものでした。
 
 4.79ct 9.80x8.26x6.24mm  7cm  Fabian Wildfang Collcetion   
 中国江西省・梧州市・武東鉱山   
 Wutong Mine, Wuzhou, Jiangxi, China   


カナダ・モン・サンチレールの氷晶石 (Cryolite from Mont Saint-Hilaire, Quebec, Canada)
       
2.45ct 7.46x7.46x5.40mm  水中での見え方  氷晶石結晶 (Cryolite Crystal) 
Mont Saint-Hilaire, Quebec, Canda               Ivigtût, Arsuk Fyord, Greenland  

 氷晶石 (Na3AlF6) が1799年にグリーンランドのアルスク・フィヨルド (Arsuk Fjord) イヒトゥート ( Ivigtût, Ivittuut) にて発見された時に外観が余りにも氷に似ているので氷の石 (ギリシア語で Krios = 氷 と lithos = 石) と命名された鉱物です。
 写真の2.45ctのルースは我がコレクションの中では最も見映えのしないものですが、しかし極めつけの稀少な標本です。
まず、氷晶石そのものが極めて珍しい鉱物で、標本として見かける機会さえ、滅多にありません。 
 氷晶石は一般にはただの溶けかかった氷のような白濁した塊に過ぎず、写真のような、僅かに結晶面を示すグリーンランドの原産地標本でさえも博物館級の稀なる品です。
 氷晶石を知ったのは ピーター・バンクロフトが世界の100か所の鉱物産地を訪れて書いた "Gems & Crystals" にてグリーンランドのアルスク・フィヨルドの原産地鉱山の写真が紹介されていたことからです。 
 写真のように北緯60度の北極圏の、フィヨルドの水が溢れて流れ込んで来そうな場所にて世にも稀な鉱物の鉱床が発見され、採掘されているという事実の方が鉱物そのものより興味が深かったという印象を抱いたものでした。

 氷晶石が一般に知られるようになったのは、この鉱物が電解溶融法によるアルミニウムの精錬用としての用途が見出されたためです ; アルミニウムは天然にはボーキサイト : ギプス石(α-Al(OH)3、ベーム石 (α-ALOOH) 、ダイアスポア (β-AlOOH) 、等のアルミナ水和物の混合した状態で存在します。 天然に豊富に存在するアルミニウム資源ですが、ここからアルミニウムだけを分離して取り出すのは困難を極めました。
 ようやく1825年に、塩化アルミニウムのカリウムアマルガム還元法によって初めて金属アルミニウムの分離に成功しましたが、この方法は極めてコストが高く、1855年当時で、1ポンド(450グラム)当たり500ドルと、銀より高く、年間生産量は1トン程度で推移していました。
 1886年になってようやく、フランスのエルー (P.L. Héroult : 1863 - 1914) と アメリカのホール (G.M. Hall : 1863 - 1914)との、奇しくも生年と没年とが同じ二人に拠って、全く同じ年に、別個に、氷晶石浴によるアルミナの溶融塩電解法が発明され、以来、今日に至るまで、ホール・エルー法と命名されたこの技術がアルミニウムの精錬に使われています。
 この技術により、アルミニウムのコストは1ポンド当たり18セント(1950年)へと劇的に下がりました。
それでも4トンのボーキサイトを処理して2トンのアルミナに精製し、更に1トンのアルミニウムを得るためには13,000-14,000kwhの電力を要し、これは同じ1トンの銅の精錬に必要な電力、1200kwh、同じく亜鉛の場合の4,000kwh と比較すると膨大な電力を必要とし、アルミニウムが電気の缶詰と言われる所以です。 
 電力コストの高い日本では、したがってアルミニウムの精錬は行われていません。 もっとも、使用済みのビール缶や建築資材等を溶融し、アルミニウムを回収する分には遥かに安いコストで可能です。
 氷晶石で興味深い事実は、この鉱物の屈折率が1.388と、ほぼ水の屈折率と同じ値であることです。
したがって氷晶石を水中に浸すと、まるで水中の氷のように見えます。 長年、水と同じ屈折率の氷晶石が水中でどんなに見えるのか興味を抱いていましたが、今回ようやくにして、実現できました。
 さて、世界で唯一の氷晶石の鉱床だったグリーンランド・イヒドゥートの資源はホール・エルー法の開発により、1962年までのまで103年間に350万トンの氷晶石を産出して枯渇しました。 
 現在は蛍石を原材料として人工の氷晶石が合成されてアルミニウム精錬に使われています。
氷晶石は世界の特異なペグマタイト鉱床にごく稀な鉱物として発見されます。
 今回入手したのはカナダのモン・サン-チレール産とのこと。 ここは特異なペグマタイト鉱脈から世界にも稀な鉱物結晶の産地として知られている採石場です。 1990年の "Mineralogical Record" の Mont Saint Hilaire 特集号に氷晶石の結晶の写真でも載っていないかと探したのですが、モン・サンチレールでも氷晶石は極めて稀で、最大でも2mm程度の結晶が発見されたのみ、と一行書かれているだけでした。
 30年も昔の記事ですから、その後大きな結晶が発見され、カットされたのは間違いありません。 
まるで見映えのしないルースですが2.45カラットと博物館級の大きさの稀なる標本ではあります。

ブラジルのフェナス石 (Brazilian Phenacite)   
       
 前述の鉱物程には稀ではありませんが,しかしフェナス石は、とりわけ結晶標本を市場で見かける機会は極めて稀です。
 20年以上に昔にマダガスカル産の結晶を何個か入手したのみです。
 その割にはカットされたルースはロシア、ブラジル、ビルマ、マダガスカルと、主な産地はそろえましたが、今回久しぶりに詳細な産地は不明ですが、ブラジル産に遭遇しました。
 ブラジルでも宝石質のフェナス石は稀少な存在で、1カラットを超えるルースは稀にしか採れません。
 
 2.45ct 8.61x8.26x5.68mm  0.33ct 4.70x4.70x3.20mm  
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