新着宝石展示室
(New Gemstone Gallery)


2022 September   :     モゴクのスピネル(Mogok Spinels) 


  
1.29ct  0.71ct 1.02ct 1.88ct

 長年にわたってスピネルは宝石の世界では殆ど無視されて来たといっても過言ではありません。
フレデリック・ポー博士が”スピネルは宝石界では究極のバーゲン”であると述べていたのはほんの20~30年前のことでした。
 当時はごく普通の、しかし十分に美しいスピネルはカラット当たり数十ドル、最上のルビースピネルと呼ばれる深紅のスピネルでもカラットあたり200ドル程度でした。 
 それも今から考えると、かなり割高だったツーソン・ショーでの値段の水準でした。
 この20年程、インターネットに無数の宝石販売サイトが出来ると、スリランカやビルマ、アフリカ産のスピネル・ルースが出品されるようになり、中にはカラット100円と、かつてのツーソンでの値段は一体何だったのかと
思うような水準で登場するほどになりました。
 こうして宝石ルースの販売チャンネルの拡大に伴い、スピネルの美しさが次第に認められるようになり、この10年来、20~30年昔と比較すると、暴騰とも言えるほどの価格の高騰が進行中です。
 スピネルの魅力が認識されるのは結構なことですが、到底手の出ない値段に高騰するのは迷惑極まりないことです。
 しかし、価格高騰に乗じて目をむくような高値を付けて暴利を貪ろうとしているのは一部の業者にすぎません。
今回紹介するのは、仕入れ価格に応じたまともな価格設定がされている、すなわち、カラット当たり千円~数千円と、至って普通の値段のモゴク産のスピネルです。
        
 1.88ct 9.3x7,7x3.4mm  スピネルのマクル双晶  ダイアモンドのマクル双晶
  
  このルースの二つの写真は、マクルと呼ばれる平板状の双晶の結晶をカットした表と裏面です。 
平たい結晶の上と下とをいずれも初期のダイアモンドのローズカットのように研磨した珍しいカットです。
 マクル(Macle) とはフランス語で空晶石のことで、直方晶系の紅柱石の斜方十字形貫入双晶で十字形を示すため十字石とも呼ばれる鉱物です。
 それが何故、等軸晶系のスピネル双晶を指すようになったのか不思議です。
 スピネルの単結晶は正三角形が4つ集まったピラミッド型の底辺をくっつけた正八面体となります。 この結晶の並行する上下の正三角形が180度回転して接合する接触双晶として成長すると、接触面の成長が他の部分より早く成長するので三角形のお結びのようになるのだそうです。
 さらにマクルは、一般には同じ等軸晶系のダイアモンドの原石に多い、平板状のスピネル双晶を指すことが多く、ダイアモンドのマクル双晶は歩留まりを勘案して、ハート形や三角形のルースにカットされます。

 スピネルのマクル双晶は少なからずあると思いますが、その原型を利用して、このようなカットを施した例に遭遇するのは初めてです。
     
      このルースはネット上の写真では珍しいガーナイトかコバルトスピネルのような色合いだったので、ひょっとしたら掘り出し物かと期待して入手したのものです。
 残念ながら実物はごく普通の緑を帯びた青いスピネルでした。
インターネットのおかげで居ながらにして宝石ルースを入手できるのはまことに便利なことですが、色石の場合は往々にして写真と実物の色とが異なる場合がよくあります。
 自分で撮影したルースでさえ、補正をかけないと肉眼で見たようにはならないというのが現実ですから致し方ありません。
 フェアなどで、会場で見たところで、その場の照明次第で微妙に色合いが変わってしまうことがよくあるのです。
 
 1.29ct 7.0x6.0x3.7mm
     
     このルースも  写真では輝かしい紅の色合いで、最上級のスピネルかと期待して入手しました。
 残念ながら実物は期待したほどの輝かしい紅ではなく、やや赤紫がかった色合いです。
 しかし魅力的なスピネルには違いありません。
 0.71ct 5.5x5.2x3.2mm    
     
       これは透明度が高い、美しいピンク・スピネルです。
深紅のルビー・スピネルに次いで最も人気が高く、値段が高騰しているのがこの色合いです。 
 とりわけタンザニア産が人気の的となっています。
 が、モゴク産にもこうした色合いがあり、探せば全く妥当な水準で入手できるのです。
1.02ct 5.6x5.5x4.1mm


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