メキシコのオパール
(Mexican Opal)
母岩ごと研磨された クリスタル・オパール 1cm |
ファセットカットのクリスタル オパール 1.73/1.67ct/1.51ct |
ファイアー・オパール 1.67ct 11x8mm |
遊色を示すファイアー オパール 0.95ct |
アステカ太陽神オパール シカゴ自然史博物館 |
オパール生産ではオーストラリアが世界の75%ほどを占め、続いてメキシコがおよそ20%と、一般の宝石市場で見かけるのは、ほぼこの2つの国からのオパールが殆どです。
メキシコのオパールは一般にファイアー・オパールと呼ばれる透明度の高い赤からオレンジ色の種類が有名です。
非常に透明度が高いものは他の透明な宝石のようにファセット・カットされます。
赤い地にさらに濃い赤や緑の遊色を示す種類が最も高価ですが、遊色を示さない透明な赤から橙色、黄色のオパールは炎のような色合いからファイアー・オパールと呼ばれ、とりわけ日本では人気が高く、採掘量の80%は日本向けといわれます。
無色の透明な地に青や緑の遊色を示すものはクリスタル・オパール、あるいはファイアー・オパールとの対比でウォーター・オパールと呼ばれます。
結晶質ではないオパールがクリスタルと呼ばれるのは、クリスタル・ガラスのような高い透明度を評価してのことです。
母岩ごとカボション・カットされたファイアーまたはウォーター・オパールも良く見かけます。
量は少ないのですが、ブラック・オパールも産します。
ただしメキシコのブラック・オパールにはハリスコ州で採れる透明なハイドロフェーンを樹脂添加による黒化処理したものがあるとの事で、注意が必要です。
メキシコ・オパールの成因と特徴
オーストラリアのオパールの殆どは古代の浅い海が後退して砂漠化した後の堆積物に含まれる珪酸分起原です。
これに対してメキシコのオパールは火山性の流紋岩に含まれる珪酸分に由来します。
実はオーストラリア以外の世界のオパール産地の殆どはメキシコ同様、火山性の熱水起原です。
メキシコの場合は800℃と比較的低い温度の流紋岩の溶岩流が冷える際に放出されたガスによって空隙や晶洞が形成されます。
溶岩が冷えると同時に珪酸分を多く含まれる熱水も分離されますが、その温度が160℃程度まで下がって珪酸分が空隙や晶洞に沈殿してオパールの層を形成したと考えられています。
流紋岩には珪酸分が70%もふくまれますから、世界のオパール産地の多くが流紋岩質の溶岩を母岩としています。
メキシコのオパール産地の流紋岩には鉄、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムの含有率が低く他の鉱物の生成が少なかったこと、逆に塩分と二酸化炭素の含有率が高く珪酸分がより高い濃度で熱水液中に溶け出したこと、溶岩となった流紋岩が一旦冷えた後で再加熱されるような地殻変動が起こらなかったことがオパールに含まれるインクルージョンの研究で確認されています。
これらの条件が重なって、純度の高い珪酸分がゆっくりと濾され沈殿し、小さなシリカ球が整然と重なって固化したため、メキシコのオパールに特有の光の散乱が少なく、透明度の高いオパールが出来たと考えられています。
赤や橙色は微小な水酸化鉄鉱物の針鉄鉱、褐鉄鉱等のインクルージョンによる光の吸収によるものです。
代表的な産地であるケレタロのオパールは平均的なオーストラリア産と比べて比重が1.37〜1.43、屈折率は2.00±0.05と低い値を示します。
ひび割れが起きやすいといわれますが、これは恐らく、硬い流紋岩中から原石を取り出す際の衝撃がオパール原石にストレスとなって蓄積され、それが研磨の際、あるいはその後に開放されるためではないかと考えられています。
オーストラリアのオパールは層が薄いため、カボションも平板状の薄いものが一般的です。
一方メキシコの場合はオパールの層が厚くカボションもドーム型に盛り上がった形に研磨されます。
このためクリスタル・オパールでは立体的な遊色が見られ、ファイアー・オパールも深みのある色合いが得られます。
歴史と採掘
Queretaroの鉱山 | La Simpatica鉱山 Queretaro |
昔ながらの採掘光景 El Buey鉱山 Queretaro |
ファイアーオパール原石 7.5x6.5cm Queretaro Harvard University Museum |
母岩中のオパール 15cm パリ高等鉱山大学蔵 Ecole de Mine, Paris |
メキシコのオパールは、先住民族のアステカ族によって16世紀初めには採掘されていました。
彼らはオパールをその多彩な遊色から虹色に煌く羽を持つ蜂鳥に因んで”蜂鳥石”と呼んでいました。
冒頭の写真の35ctの”アステカ太陽神オパール”は典型的なメキシコのオパールのようには見えませんが、16世紀にメキシコを征服したスペイン人がアステカの神殿から奪ったもので、アステカの太陽神の顔が彫られています。
1939年に青いダイアモンドで名高いホープのコレクションに加えられ、”ホープ・オパール”と呼ばれました。1886年にティファニー・コレクションとなり、シカゴの自然史博物館に現在の呼び名となって展示されています。
スペイン人の侵入の後オパールの採掘は放棄され、鉱山も忘れ去られていましたが、19世紀半ばにケレタロで再発見され、1870年頃から商業的な生産が再開されました。
メキシコのオパールは含まれる水分比が11%と高く、脱水作用でひび割れが出来易い欠点があります。
このため当初は市場での評価は低かったのですが、しかしオーストラリア産にはない透明度と美しい色彩により、次第に人気が高まり、1960年代以降は産出が急増しました。
とりわけ、オパールは日本では最も人気のある宝石の一つで、メキシコ産オパールの80%は日本向けに出荷されているほどです。
メキシコでは首都メキシコ・シティーから北東へ200kmのケレタロ州の州都、ケレタロが最も有名なオパール産地ですが、その他チワワ州、サン・ルイス・ポトシ州、ゲレーロ州、イダルゴ州、ハリスコ州、ミチョアカン州と多くの産地があります。
古来からのオパール産地であるケレタロが取引と研磨の中心地でもあり、多くの産地からのオパールがケレタロを経由するため、メキシコのオパールの原産地は曖昧になってしまいます。
現在ではハリスコ州の州都グアダラハラの北西50kmほどのマグダレーナ地方に多くの鉱山があり、メキシコ・オパールの主要産地となっているようです。
メキシコのオパールはいずれも火山性の流紋岩の割れ目を埋める層、あるいは晶洞中に鶏卵大の団塊として発見されます。
上の写真のハーヴァード大学蔵の原石のような団塊として発見されるオパールには高品質のものが多いといわれます。
パリ大学蔵の標本は一つの原石にファイアー・オパールとブラック・オパールとが含まれていて、産状を伺うことの出来る興味深いものです。
ファイアー・オパール (Fire Opal)
2.32ct 12x9mm | 1.18ct 8x6mm | 8.5ct 15x14.5mm | 2.35ct 12x8mm | 1.53ct 9x7mm | 遊色を示すオパール 3.1ct |
メキシコのオパールで最も普通に見られるのが透明度が高く赤から橙、金色のファイアー・オパールです。
遊色を示すものはプレシャス・ファイアー・オパールと呼ばれ最も高価ですが、たとえ遊色を表さないものでも、チェリーと呼ばれる赤、深みのある橙色、低い屈折率なのにきらきらと光沢のある金色の透明なファイアー・オパールはいずれも比類の無い美しい色合いが見事です。
写真中央の変形六角形の赤橙色のルースは美しい色合いですが罅があります。
ファイアー・オパールとしては8.5ctと異例の大きさで、敢えて罅の部分も含めて大きなルースにファセット・カットされたものです。
オパールの値段は個々のルースによる色合いや遊色が異なり、価格の基準があってないようなものですが、ファイアー・オパールの場合は、遊色の無いものは最上の2ct級の大きさで200〜300ドルです。
10年前と比べると数倍の急騰振りですが、しかしたとえばカラット当たり5000ドルもする上質のルビーと比べて美しさでは全く遜色がありません。
オパール比重が低いので、同じ重さの一般的な宝石と比べて倍くらいの大きさとなるので見映えがするという利点があります。
クリスタル・オパール(ウォーター・オパール)
微妙な視点の違いで表情を変えるクリスタル・オパール | 明るい背景では効果が薄れる |
メキシコのオパールには無色透明な地に遊色を見せるものがあります。
ガラスのように透明なことからクリスタル・オパールあるいは地の赤いファイアー・オパールに対してウォーター・オパールとも呼ばれます。
透明なことからファセット・カットされることも、またカボション・カットされることもあります。
上の写真は冒頭の写真と同じものですが、見る角度が変わると遊色の出方が変わり表情が変わります。
大変美しいものですが、暗い背景でのみこのような美しい表情を示しますが、背景が明るいとその効果がすっかり薄らいでしまいます。
したがって宝飾品としてはデザインに特別の配慮をしないと冴えない結果となります。
そのため余り宝飾品に用いられることは無く、数も少ないことから、もっぱらコレクションとして眺めて楽しむ宝石です。
母岩ごと研磨されるメキシコ・オパール(Matrix Opal)
母岩ごと研磨されたクリスタルオパール 10mm 15mm 18mm |
ファイアー・オパールの原石と母岩 付の蛙の彫刻 20mm |
遊色を見せる母岩付ファイアーオパール |
オーストラリアのボールダー・オパールやマトリクス・オパールと同様に、メキシコのオパールも母岩の隙間に薄い層として堆積していることが多いため、純粋にオパールの部分だけを取り出す事が出来ないものが大半です。
せっかくのオパールを無駄にしないために母岩ごと研磨したり彫刻にして活用されます。
本来なら捨ててしまうオパールですが、中には結構美しいものがあります。
宝石フェアでは大きな皿にまさに玉石混交で1個2000円くらいから選り取り見取りで選べるようなオファーがあり人気の的となっています。
当然の事ながら早い者勝ちで程度の良いものから無くなり、残り物は屑ばかりとなります。