北アメリカのオパール
(North American Opal)

 

玄武岩中のオパール
幅 3cm
Vernon British Colombia
Canada
”Bonanza Opal” 3kgの一部
中央の指輪の石 13ct
Virgin Valley Nevada
U.S.A.
0.38ct 6.2x4.1mm
Nevada, U.S.A.
ハイアライト・オパール 5cm
Kevin Lane Smithの作品
Opal Butte Oregon
U.S.A.

 

 世界のオパールの生産の大半はオーストラリアとメキシコ、それに近年生産量が増えてきたブラジルのピアウイ州のオパールが占めています。
 したがって一般の宝石市場でその他の生産地のオパールを見かける機会はまずありません。
 しかし、量は少ないながら、世界各地で多彩なオパールが発見され、鉱物・宝石フェアに出品されています。
 とりわけ北アメリカからはかつて、世界で最も美しいといわれたブラック・オパールを産しました。
 さらに1980年代後半からオレゴン州のオパール・ビュートからコントラ・ルスと呼ばれる、透過光で美しい遊色を示すクリスタル・オパールが採掘されるようになりました。
 大変量が少なく、市場で見かけることは滅多にありませんが、オパールのみならず、全ての宝石の中で、最も印象に残る美しさです。
今回はこのオレゴンのクリスタル・オパールを中心に、北アメリカ産のオパールを紹介します。
カナダのオパール (Canadian Opal)
 カナダのブリティッシュ・コロンビア州で1992年にオパールが発見されました。
 発見の報告から10年経った現在、何のニュースもありませんから、余り有望な産地ではないようですが、玄武岩中のオパール発見という、珍しい産状を取り上げる次第です。
 発見されたのはアンカレッジから北東へ200kmの Vernon という小さな町から40km程離れた場所です。
玄武岩の空隙を埋める産状で、玉髄や普通の不透明な白い蛋白石と共に、メキシコ産に似た褐色〜黄色のボディー・カラーのもの、さらに冒頭の写真のように透明なボディー・カラーに遊色が浮かび上がる宝石質のオパールが発見されました。
 玄武岩の生成温度は1100℃の高温で、珪酸分の含有量も45〜52%と低い火山岩なのでオパールの生成に適してはいませんが、こんな条件下でも宝石質のオパールが発見された珍しい例です。 
 発見後、含有量や産状の詳しい調査が続けられたようですが、その後のニュースが無いのは、恐らく商業的な採掘には至らなかったようです。
 人件費の高い先進国で、硬い玄武岩を掘って薄いオパール鉱脈を取り出すには余程豊かな鉱床でなければ採算が採れないと思われます。

 

ネヴァダ州 Virgin Valley のオパール(Opal of Virgin Valley, Nevada, U.S.A.)
左 Mathewson Campの鉱夫と家族 右 採掘光景  1913年 Royal Peacock鉱山
1977年

 

年輪を示す珪化木オパール
15.1ct
オパール化した木
9cm
American Museum of
Natural History
ブラックオパール
11x8cm
GIA Collection
2665ct(533g)の ”Roebling Opal”
スミソニアン自然史博物館

Smithonian Institute, U.S.A.
研磨されたオパール
  オレゴン州境に近いネヴァダ州北西部の町 Denio から南西の方向に 32km、Charles Sheldon Antelope 山脈中の標高 1500m にある Virgin Valley にオパールが発見されたのは1905年のこと。
 ”Pony Express” 郵便馬車の御者が谷間のあちこちで虹色に輝く石を発見したと、あるいは迷った家畜を探していたカウボーイが発見したとも、種々の伝説には事欠きません。
 ともあれ、冬にはブリザードが荒れ狂い、夏は焼けつく暑さのネヴァダの人跡未踏の砂漠での宝石発見の知らせに人々が続々と押し寄せ、ワタリガラスと野ウサギとガラガラヘビの棲家でしかなかった長さ 16km、幅1.6km の谷間の一面は掘り返され、”Royal Peacock”、”Rainbow Ridge””Bonanza”、”Opal Queen”、”Northern Lights” 等々、名付けられた鉱区からは、その名が示すように七彩の遊色に煌くオパールが掘り出されました。 
 およそ2600万年昔の中新世の時代、この一帯は松やトウヒ、杉等の針葉樹が生い茂る深い森でしたが、アメリカ大陸に起こった一連の造山活動で広範な噴火が起こり、倒木は峡谷や湖の岸辺に埋もれ、火山灰に覆われました。
 倒木の組織に火山灰に含まれる珪酸分が沁み込んで長い年月を経て、木はすっかりとオパールや玉髄に置きかえられてしまったのだと考えられています。
 中には長さ 9m にも達するオパール化した木が発見されます。 
 Virgin Valley はとりわけブラック・オパールが名高く、透明度の高い本体から七彩の遊色が煌く様は、専門家から世界のブラック・オパールの中でも最も美しいものと評価されています。 
 惜しむらくはこの地のオパールは20%と際立って高い含水率のために、脱水してひび割れし易い、世界で最も不安定なオパールでもあります。 
 砂漠から掘り出されたオパールは、空気中でたちまち表面に罅が入り始め、放置すると割れてしまうほど乾燥に弱いのです。
 乾燥を防ぐために水やグリセリン、鉱物油等々に浸したり、様々な手段が尽くされていますが、決定的な乾燥対策はありません。
 したがって、実用的な宝飾品には不向きです。
 恐らくは木の枝がオパール化したと考えられる写真のスミソニアン博物館にある ”Roebling”と 名付けられたブラック・オパールは1917年に Virgin Valley で発見されたものですが、80年以上展示されていてわずかに中心部から罅が広がり始めていますが、掘り出された時の状態が維持されている稀な例です。
 Virgin Valleyでは現在でも採掘は続いているようです。

 

オレゴン州 Opal Butte のオパール(Opal from Oregon, U.S.A.)
Kevin Lane Smith作の
インタリオ(陰刻) 211ct
ピン・ファイアーの遊色を見せる
Contra Luz オパール 31ct
Kevine Lane Smithのレインボー・オパール
彫刻 幅 10cm 373ct
 アメリカ西海岸北部に広がるコロンビア平原の最南端部にはワシントン州南東部からオレゴン州の北東部に伸びるブルー山脈(Blue Mtns)から分かれた山脈の尾根伝いに標高 1400m のオパール独立峰(Opal Butte)がそびえています。
 コロンビア川からは 100km 以上も遡った地点にあるポートランドの港からさらに東南東へ 200km 余り、オパール・ビュート山の西側の山麓にオパールが発見されたのは1890年代初頭 (Kunz、1893) でしたが、一部のコレクターを除いては一般に知られることはありませんでした。 
 というのも、この地のオパールの大半はハイアライトやハイドロフェーンと呼ばれる乳白色の不透明な品質で、多量の水分を含み、掘り出されるとたちまち罅が入り、放置すると割れてしまうという難点があったからです。
 したがって、時たま行われる採掘で、わずかに一部のコレクター向けにカットされたオパールが市場に出回るのみでした。 
 オパール・ビュートのオパールが脚光を浴びたのは発見からおよそ100年余り後、1986年にシアトルに住む宝石カッターの Kevin Lane Smith が自ら採掘を行い、フリー・フォームで研磨した作品が1987年のツーソンの宝石フェアで注目を集めたためでした。 
  前述のようにオパール・ビュート産のオパールの多くはハイドロフェーンと呼ばれる半透明な乳白色をしています。
 これは水に浸し、背後からの透過光 (スペイン語でコントラ・ルスと呼ばれます) で七彩の遊色を見せる透明なノーブル・オパールに変わるものがあり、クリスタル・オパール、あるいは柔らかな青みを帯びた乳白色のものはレインボー・オパールと呼ばれます。
  スミスの作品が注目を浴びたのは、冒頭の写真、また上記の写真の作品のようにコントラ・ルス効果により際立った遊色効果が示されたためでした。
 一般に不透明なオパールはカボション・カットされて、その遊色のみが評価されて来たのですが、コントラ・ルス・オパールがファセット・カットされることによって透明なボディーの中に遊色が立体的な煌きを見せ、オパールの新しい魅力が引き出され、オレゴン・オパールとしてその名が世界的に知れ渡ったのでした。



遊色を示さないハイドロフェーン
5.53ct 12mm
微かに遊色を示すハイドロフェーン
3.17ct 14x8mm
透過光での遊色
 13.5ct 18x12mm
ハイドロフェーンの原石 右 35mm


  もちろん、冒頭の写真のような圧倒的な美しさを示すのはオパール・ビュート産のオパールの1%過ぎません。
 大部分は上の写真のように、透明でもごくわずかしか遊色を示しません。
コントラ・ルス効果を示すものは全体の5%、透明なクリスタル・オパールは2%、ハイドロフェーンは2%、青みを帯びた乳白色のレインボー・オパールが25%、不透明な乳白色のハイアライトが43%、主に黄色〜褐色のファイアー・オパールが6%、緑から青みを帯びた不透明〜亜透明のオパールが12%、デンドライト・オパールが1%と、実に多様なオパールが見られます。
 上の写真の13.5ctのルースは、たまたま1987年にツーソンを訪れたとき、会場となった場末のモテルの一室にひっそりと展示されていたものでした。
 オレゴン・オパールについての公式の情報は ”Gems & Gemolog” 誌の1988年冬号にスミス自身が書いた記事が掲載されたのが初めてといって良いくらいでした。
 私自身、その記事を読む前は何時でも何処でも入手できる宝石の一つに過ぎません。
限られた時間で多くのブースを見たい宝石フェアでは何時も後回し、殆どオパールのブースで足を止めることはありませんでした。 
 したがって名前も正体も知らないオパールでしたが、余りの美しさに、思わず入手した次第でありました。
 後に記事を読んで、ようやく産地や産状が分かりました。 思えば幸運な邂逅でありました。
その後オレゴンのコントラ・ルズ効果を示すオパールを探しましたが、まず市場では見かける機会に恵まれません。 
 ネット上でオレゴン・オパールが出ていますが、上の左の二枚の写真のように、偶にあっても、全く遊色を示さないものとか、わずかに遊色が出る程度のもので、鮮やかな遊色を示す美しいオパールにはなかなか出会えません。



オパール・ビュートのハイドロフェーンの採掘と特徴
(Mining and Characteristics of Opal from Opal Butte)


オレゴン産オパールの産状 :サンダー・エッグ 採集された直後のオパール 30分後には亀裂が入る

 オレゴン州北東部の広範なコロンビア平野一帯の地質は玄武岩溶岩流で覆われています。
 オパール・ビュートの辺りはその上に、およそ6500万年昔に噴出した流紋岩の溶岩流と流紋岩が風化した粘土質の岩石で覆われ、オパールはその中に埋まっているサンダー・エッグ(雷の卵)と呼ばれる、中が晶洞になっていて玉髄や瑪瑙で包まれたジェオード(団塊)の中から発見されます。 
 ジェオードの70%はオパールを含まず、20%には普通のオパールが存在します。
 宝石質の透明なオパールが発見されるのはジェオードの10%ですが、遊色を示すのはその10%に過ぎません。即ち100個のジェオードのうち1個から宝石質のオパールが発見されます。

 上の写真のように、大量の水分を含むハイドロフェーンは乾燥した空気中では急速に水分を失い、収縮してひび割れが生じます。
 スミスの経験では80〜90%もの原石が掘り出してから罅が入ってしまう程不安定とのこと。
したがって、採掘後に湿ったペーパータオルでくるみプラスチックの箱に入れて数日間様子を見る必要があるとのこと。
 それで罅が入らないものは、さらに2ヶ月間乾燥した室内で安定度を確認し、それで割れなければ95%は1年後にも割れないとのこと。
 また、最初に罅が入ったものでも、湿った砂に包み、耐熱ガラスの中に入れて93℃のオーヴンで2日間でゆっくりと乾燥し、さらに12時間の乾燥処理を行うと、25%は安定するとのこと。 
 オパールが如何に神経質で繊細な宝石か偲ばれます。

  こうして、掘リ出してからも、手間ひまかけて安定性を確認した後にようやく研磨にかかるオパールです。掘っているのは実はスミスと相棒の二人だけ。カットも大半はスミスが自分でやっているだけの宝石です。
 したがって年間 100kg ほど得られる宝石質のオレゴン・オパールが市場に出回る量はたかが知れています。 
 一般の目にとまる確率は皆無といったほうが相応しいでしょう。


 オレゴン・オパールの想像を絶する美しさこそは、広く博物館にて紹介するに相応しいものでしょう。

 

オレゴン州 Juniper Ridgeのファイアー・オパール (Fire Opal of Juniper Ridge, Oregon , U.S.A.)

Fire Opal
      Juniper Ridge, Oregon, U.S.A


 1990年代末からオレゴン西部、カリフォルニア州境に近い水晶山(Quartz Mtn.)の南のJuniper Ridgeにてファイアー・オパールが発見され、簡単な道具を使って、地表近くの火山岩中の割れ目や晶洞中のオパールが採掘されています。
 2002年初めまでの2年間ほどで450kgほどの原石が採掘され、1000個のファセットと2〜300個のカボションとがカットされました。
原石のうち上質のファッセット級は8%とかなり品質が高くメキシコのファイアー・オパールに似た色合いです。
 ここのオパールは比重が2.15〜2.18、屈折率が1.459〜1.462とオパールとしてはかなり高い値を示します。 かなり水分の含有率が高いと思われますが、安定させるために採掘後1年間、ゆっくりと乾燥させてから最終的なカットが行われています。

 この他アメリカではアイダホ州、アリゾナ州等々、広範にオパールが発見され、時折宝石関連の雑誌に紹介されます。
 しかしいずれも前述の産地のものと比べると著しく見劣りする水準のため、敢えて紹介を見送りました。
今後新たに美しいオパールの産地が報告されれば改めて追加する予定です。