合成オパールとオパール・サイミュラント
(Synthetic Opal & Opal Simulants)

 

合成オパール(Synthetic opals) 0.35 - 4.55ct
  オパールの遊色が微細な球状のシリカの整然とした配列による光の干渉であると判明したのは1964年頃、電子顕微鏡で内部構造を直接見ることが出来るようになったためでした。 しかしその前から、遊色の原因は何らかの構造的な原因で光の干渉が起こっているものとは推定されいて、オパールの合成が試みられていたようです。
 しかし構造が分からないのに合成しようとする試みは余りにも無謀な賭けで、全てが失敗に終わったのも当然でしょう。

 最初に合成オパール製法の特許を獲得したのはオパールの内部構造を顕微鏡で最初に確認したオーストラリアの A.J.ガスキンと J.V.サンダースであったのは当然でしょう。1968年のことでした。

オパールの合成には次の三つが重要な鍵となります ;


1.直径が150〜450nmの非晶質のシリカ球を作る
2.

このシリカ球が整然と並んで重なる密充填構造を作る
3.この構造をゲル化して固定させる

 とは専門家ならずとも考えられる工程ですが、現実に再現するのは容易ではありません。とりわけ1.と2.の実現はまさにミッション・インポシブルと思えるほどの難関だったに違いありません。
 ガスキン、ダラーとサンダースの特許の内容は簡単にまとめると下記の通りです ; 

 珪酸ナトリウムを陽イオン交換樹脂を通して 2.5% の珪酸を含む pH4.5 の純粋なシリカ・ゾルが得られる。
ゾルが固化してゲルにならないように苛性ソーダを加えてpH9.0まで加えて安定化し、さらに一昼夜沸騰させる。 その後ゾルを 20℃ まで冷却し、安定化してさらに6時間沸騰させるというサイクルを何回か繰り返すと直径 40〜80nm のシリカ球が出来る。 このゾルに遠心分離と沸騰を繰り返すと直径 250〜350nm のシリカ球粒子になる。 さらに純水に拡散させ、遠心分離を繰り返すことで遊色を示すオパールの凝固物が出来あがる。

 この方法はかなり面倒で時間がかかります。とりわけ不要なナトリウムイオンを痕跡まで除去するのが困難を極めます。 
 このため原料にナトリウム分を含まない、エチル基やメチル基等のメタン系炭化水素基とシリコンの化合物であるアルキル・シリコンから出発してアルコール溶液中で珪酸と加水分解させる方法も開発されました。
 1968年にニューヨーク、ロチェスター大学の W.Stoeber と A.Fink の研究です。
種々のアルコール、アンモニウム飽和のアルコール溶液、水酸化アンモニウムと水とを一定の割合で混合し、アルキル・シリコンを加えると1〜5分後に液はもうオパール光を放つようになる。ある場合には15分間で粒子は目的の大きさになる。
 粒子の大きさと反応速度とはメタノール、エタノール、ブタノール等の種類や混合比率によりコントロールが出来ます。また粒子の形と大きさとはアンモニウムの存在と濃度とで左右されます。
 オパールは数週間から数ヶ月かけてゆっくりと沈殿させます。出来たオパール層を固定化するためにはシリカ・ゾルあるいはメチル・メタアクリラートまたはシクロヘキサンなどを加えて遠心分離させた後で30日ほどかけて乾燥させ、さらに加熱処理をする。 以上がオパールの合成方法です。ざっと書いてしまえば簡単で、不可能ではないかと思われた1.と2.の条件も Stoeber と Fink の研究であっけない程短時間にオパールの構造を実現する手法が開発されてしまいました。
 とはいえ、それに至るまでには気が遠くなるほどの試行錯誤が繰り返されたことでしょう。 製造特許が確立されたものの、最終的に彼らの手によって合成オパールの商業的な生産には至りませんでした。というのは、最も簡単と思われた3.のオパールの固定化が意外と難しかったためです。アルキル・シリコンをアンモニアとアルコールで加水分解して出来るオパールは指で押すと粉々に砕けるほどに脆いのです。 
   一般の鉱物の場合には原子同士がイオン結合や共有結合といった化学的、物理的な力結合した結晶構造を形成しています。
その結合力の強さを決定するのは唯一、結晶構造の違いのみです。その違いは、たとえば単一の炭素原子からなる鉱物なのにモース硬度1の石墨と硬度10のダイアモンドと、まさに月とすっぽん程に硬さの(即ち安定度の)違いとなります。
 一方、オパールの場合はシリカ球は整然と並んではいますが並び方に規則性がないので結晶ではありません。それぞれの球が一体どのような力で結びつけられているのか未だに解明されていません。オパールがばらばらにならずに固体として存在出来るのは、恐らくシリカ球の空隙を埋めるシリカ・ゾルが膠のような役目を果たしていると考えられます。
 天然のオパールでは水中にコロイド状のゾルの状態で浮遊している珪酸が球状になり、ゆっくりと沈殿して1cm の厚さのゲルとなって固化するまでに数百万年はかかっていると考えられています。このような長い年月がかかったオパールでも、掘り出されて急速に水分が失われると30分もたたずして罅割れが出来てしまうこともあります。
 合成のオパールでは沈殿と固化に長くても1年くらいしかかけられません。たとえ10年かけたとしても天然の場合と比べれば一瞬としか言えません。この短い期間でどうやって固化させるかがオパール合成の最大の障壁となって立ちはだかりました。
 この困難を克服して合成オパールの商業生産を実現したのはフランスのピエール・ギルソンで1972年の頃です。

 

ギルソンの合成オパール(Guilson Synthetic Opal)
1年間の沈殿過程
One year sedimentaion
of synthetic opal
透明なウォーター・オパール
2.51ct  10.6x8.5mm

Transparent synthetic water opal
ギルソン社のオパール  
2.03ct/12.5x8mm,1.25ct,2.50ct

合成オパールに特有の模様 60x
Typical lizard skin pattern
seen in synthetic opal
 ピエール・ギルソンはフランスの窯業技術の専門家でフランスのカレーに工場を持つ高級陶磁器会社の経営者です。
 しかし本業は子供達に任せて、彼自身はスイスのレマン湖のほとりにあるローザンヌの郊外のサン・シュルピス(St.Sulpice)の研究室にて宝石合成の研究をライフ・ワークとする日々を送っています。
 彼が手がけた合成宝石はエメラルド、トルコ石、珊瑚、ラピス・ラズリと多様で、アメリカのチャザムと並ぶ合成宝石史上に名を残す天才といっても差し支えありません。
 ギルソンは個人の力で宝石の合成を試み、製法特許を申請せずに秘密裏に宝石の製造をしていました。
ただし何故フランスのカレーではなくスイスのサン・シュルピスに研究所を設立したのか ? 
 地図を見ると研究所はローザンヌ大学のポリテクニックに隣接しています。恐らくポリテクニックの専門家の助言を得ていたと思われます。 
 したがって製法が明らかにされることは珍しいのですが、上の写真はアメリカの Gems & Gemology 誌、1979年冬号に提供されたものです。
 ギルソンがオパール合成に成功したのは、最終的に高温での加熱と加圧による安定化に成功したためです。 窯業の専門家としての経験があってこその快挙と言えるでしょう。
 初期の合成オパールの中でブラック・オパールは天然の最上級品に匹敵する見事なものです。
一方ホワイト・オパールは少し不自然な遊色を見せるような気がします。これは含まれる二酸化ジルコニウムのためにより多くの光の散乱が起こっているためと考えられています。
 もっとも天然のオパールは千差万別ですから、肉眼で識別するのは困難です。
 比重が2.04、屈折率が1.440と、ともに天然のそれと重なりますから判断材料にはなりません。
 ただし10倍程度のルーペで拡大すると上の写真のような特異な模様が認められます。
 これはリザード・スキン(トカゲの膚)あるいはスネーク・スキン、チキン・ワイヤー(鳥小屋に使う金網模様)、蜂の巣構造、などと呼ばれます。
 高温での加熱と加圧処理によって多数の微細なひび割れが生じ、柱状構造のマイクロ・ブロックが出来るためと考えられています。 ただし、ネヴァダ州のヴァージン・ヴァレー産にもフィッシュ・スキンと呼ばれる同様の模様を示すものがあります。 
 ギルソン社では1970年代末にはメキシコ産のウォーター・オパールのようなオパールの合成にも成功しました。 透明度が高いため普通の宝石のようにファセット・カットされると青みを帯びた乳白色の本体から緑系の遊色が現れる美しいものです。
 1990年代になってギルソン自身は合成から手を引き、その技術は日本の中住クリスタル社に売却され、オパールは日本でしばらく生産されるようになりました。
 彼が合成宝石の製造を止めたのは恐らく高齢のためと思われます。 その技術は窯業会社を経営する家族にも引き継がれることなく、天才の一代限りの趣味の技術として宝石史上に名を残すことになったわけです。

 

京セラの合成オパール(Kyocera Synthetic Opal)

 

初期の合成オパール
Early Synthetic Opals 
3.96ct 10x12mm
鮮やかな遊色を見せるオパール
 1.24ct 8x6mm  0.62ct

Synthetic white and black opal
着色ポリマー充填のオパール
3.59〜4.30ct

Polymer inpregnated
synthetic opal
合成ファイアーオパール
24.55ct 幅15.5mm

Synthetic fire opal block
遊色斑を形成する柱状構造 20x
Prismatic structure
of black opal
それぞれの色の遊色斑はりザード・
スキン構造で仕切られている 40x

Lizard skin structure
直径100nmのシリコン球が
並ぶ構造 10,000x

Ø100nm silicon sphere
ファイアー・オパール表面の
リザード・スキン構造 60x
Lizard skin structure
 冒頭の写真と上の初期のブラック・ホワイト・オパール、着色ポリマー充填オパール、それにファイアー・オパールと多様なオパールの合成を試みているのが京セラです。競合他社が全て生産を停止してしまっている現在では京セラが世界で唯一の合成オパールを生産しているメーカーです。 京セラが最初に合成オパールを発表したのは1983年です。上の写真のホワイトとブラック・オパールが最初の作品です。
大変美しいものですが、アメリカの Gems & Gemology 誌の1987年秋号にて合成オパールというより、むしろイミテーション(模造品)というべきであると手厳しい批判を受けました。ドイツ、ハイデルベルグ大学の鉱物岩石研究所の Karl Schmetzer 教授と同じくドイツ宝石研究所の Ulrich Henn 教授のレポートでした。
 それによると京セラの合成品には水分が全く含まれていないため、水を含む天然のオパールとは別物でオパールとは呼べないということです。
 となると、フラックス法で水分を含まない合成エメラルドも、水分を含む天然のエメラルドとは別物でエメラルドとは呼べないということになりますが、これはいささか不当な判断ではないかと思います。 
 京セラの合成品は比重が2.20、屈折率が1.46と天然オパールと同じ、組成も構造も天然オパールと同様に二酸化珪素球の整然とした配列です。たった5%の水分が含まれるか否かの違いのみを根拠に一方的に偽物と切り捨てるのは傲慢に過ぎると思います。
 宝石とは自然が作り上げた奇跡のような作品ですが、それを人間の手で再現するのがどれほど困難な仕事であるか、それを成し遂げた人々やメーカーに対する畏敬の念が全く見られません。
 自然や技術に対する感嘆の念があってこその学問ではないかと、これは、天然の宝石と同じくらい合成宝石にも愛着を感じている、私の個人的な感想です。

 最初のホワイトとブラック・オパールに続いて、京セラは1995年にポリマー充填の多色のオパールの試作品を、1998年には同じくファイアー・オパールをツーソンやバーゼルの宝石・フェアに出品しました。プラスチック充填により比重が1.88〜91と低いのが特徴です。ポリマー充填は、整然と配列して沈殿したシリカ球を安定させるための技術です。

 実はポリマー等のプラスチック充填でオパールを強化する技術については賛否両論が沸騰しています。天然のオパールでも安定化のために行われる例があります。またギルソンのオパールでも行われています。 
 オーストラリアで最初に合成オパールの特許を獲得したアンダーソン等が最終的に量産化を断念したのは、実はプラスチックによる安定化を検討したものの、それではオパールではないと判断し他に有効な安定化の方法が得られなかったためでした。
 確かに天然のオパールにプラスチックが含まれることはあり得ません。最大で20%近いプラスチックが含まれるものをオパールと呼べるか否かは大いに疑問があります。
 ただ、後述のイミテーションでも説明しますが、オパールにはその他にもダブレットやトリプレット等、産状や性質に起因する他の宝石とは異なる事情があります。 結局はきちんとした説明を前提にプラスチック充填等の人為的な処理を消費者が個々に判断することと思います。
 2003年に京セラのオパールは冒頭の写真のようにホワイト、ブラックに加えてファイアー、クリスタル・オパールと多彩な品揃えとなりました。最近のものはいずれもポリマー充填処理はされてなく、比重も2.22〜27と天然を僅かに上回る値です。最初の合成品から20年余りをかけて着実にオパールの合成技術を磨き上げて来たと言えるでしょう。

0.35ct x 2 7x5mm 0.40ct x 2 7.0x5.1mm 3.49ct 13.4x10.1mm
"Kyoto" 合成オパール 4.56ct 14.6x12.6mm 4.33ct 15.4x13.5mm
 これらはいずれも京セラ製と思われますが、永らく確かな情報がありませんでした。
 しかし Lapidary Journal /Jewelry Artist 誌 2010 5月号の記事にて正式に "Kyoto" シリーズの
合成オパールを発表した記事が掲載されキョーセラと判明しました。
 キョーセラでは強靭なため、薄片として時計、イヤフォン、眼鏡などの日用品向けにも使える広範な
用途向けの宝飾品として開発したとのことです。
 日本では合成宝石は純然たる宝飾品としては全く人気薄ですが、こうした用途への採用は面白い試みです。
 


ロシアの合成オパール(Russian synthetic opal)

ロシアの合成オパール試作品 0.58-3.54ct
(Russian Synthetic Opal prototype)
合成ホワイト・オパールラフ 52g
(Synthetic white opal rough)
Cabochons 1.8 - 10.2ct



 合成宝石の技術では世界をリードするロシアですが、唯一オパールでは遅れをとっています。思うにオパールが軍事用途に使えないためでしょう。 写真は1993年のツーソンショーに出品されたものですが、砂漠の町のツーソンにて乾燥のために、たちまち罅が入ってしまいました。
 しかし研究は継続されているようです。 最近の情報ではキョーセラ製に良く似たホワイト・オパールの試作品が造られたようです。が、量産技術が確立され、商品が市場に出ているという情報はありません。

 Russia is a leading country in synthetic gemstone field, except opal, which is no use in military purpose. Photo shows Russian prototypes presented at 1993 Tucson Show. Because of dry climate, these opals are cracked inmediately in Tucson. 
 
 最初に特許を獲得したオーストラリアからもようやく1988年に量産された試作品が報告されましたが、最終的に市場に流通するには至っていません。 
 また1990年代半ばに中国からもプラスチック充填の合成オパールが発表されましたが、その後音沙汰がありません。
そんなわけで、現在では唯一、京セラ製の合成オパールが量産化され入手可能なものとなっています。


オパール・サイミュラント
(Opal Simulants)


 宝石や書画骨董に古来から偽物は欠かせない存在です。美しく貴重なものを手に入れたいという願望は古今東西を問わず共通しているもののようです。 宝石の世界でも数々のコピーや模造品がありますが、とりわけオパールには実に多彩な偽物や類似品があります。 他の宝石とは異なりオパールの特徴は光の干渉による遊色効果によってもたらされますが、それは様々な方法で再現することが可能なためです。 

 こうした模造品には本物のオパールを使ったもの、合成オパールを使ったもの、その他ガラスやプラスチックなど天然とは異なる材料を使った特別な光学効果によりオパールに似た遊色効果を模したものと種々ありますが、中には感心するほどの出来映えのものがあります。
 本物以外は一般に類似品、模造品、イミテーションなどと呼ばれますが、英語ではサイミュラント(simulant)と呼ばれます。シミュレーションと同じ語源の言葉ですが、水準の高い類似品から幼稚な偽物まで広範な模造品を指す言葉です。

 
左 合成オパールトリプレット
 (Synthetic opal triplet)
右 天然オパールダブレット
  (Natural opal doublet)
プラスチックのオパライト
 カボション

Plastic Opalite Caboshons
 ガラスの模造品  メキシコ産
(glass imitation)  ファイアー
   3.55ct
     オパール




1.ダブレットとトリプレット(Doublet and Triplet)
オパールの小片を厚さ0.015mmの薄片に加工
最上級のブラック・オパールと遜色の
ない天然オパールのトリプ
レット
Opal Triplets
薄片の裏を黒く塗りガラス台に貼りドーム状のガラスで
蓋をしてカボションに磨く
Opal Triplet production Process

 オパールは母岩の隙間に層状に沈殿して発見されますが、しばしば層が薄すぎて無垢のオパールとして加工できないものは母岩ごとカットされ、ボールダー・オパールとなります。 これは母岩とオパールの二層からなる天然のダブレットと言えるものです。
 天然のままでは厚さが足りなかったり、遊色が不足するオパールを有効利用するために考えられたのがダブレットとトリプレットです。いずれも遊色を強調するために黒い色合いのガラスや黒曜石等の土台にオパールの薄片が貼られます。余りにも薄いオパール層を保護し、さらに遊色をレンズ効果で拡大するためにガラスのカボションでカバーして三層にしたのがトリプレットです。
 写真のように仕上がりはまるで無垢の最上級のブラック・オパールに遜色のない美しさです。手頃な値段で天然のオパールの美しさを楽しめる宝飾品となります。


2.オーパライト(Opalite)あるいはオーパレッセンス(Opal Essence)
トリプレット
Opalight Triplet
アクリルベースとオパライト
カボションのダブレット
Opalite Doublet
直径300nmのラテックス
球の整然とした配列

Latex sphere : Ø300nm
ピンファイアパターン
Pin fire pattern 15x
蜂の巣状パターン 15x
Honeycomb pattern

 オパールの遊色の原因が判明してからは、別の材料でも同様の球状の整然とした配列を実現すれば材質が何であれ、オパールと同様の遊色効果を得られる筈と、誰もが思いつきます。
 タバコ・モザイク・ウィルス等も同じくらいの大きさの蜂の素状の結晶となります。ウィルスでオパールを作るわけには行きませんが、乳化重合反応によって出来る生成物で合成ゴムの材料となるラテックスで宝石質オパールと同じ大きさの球状の配列を作ることが出来ます。
 元がプラスチックですからこれをプラスチックで固化するとオパールと寸全く見分けがつかないほどに美しい遊色を示します。
 写真のように微細な球状の整然とした配列から、蜂の巣状パターン等々、肉眼で天然や合成オパールと識別するのは困難なほどの見事な出来映えです。プラスチックですからモース硬度は2½と低く、比重も1.21±0.01と低いので専門家による識別は容易です。ただし屈折率は1.49〜1.53とオパールと全く同じ値を示します。
 このオパール・サイミュラントは1978年頃に日本で開発製造され1980年以降、オーパライト(Opalite)、あるいはオーパレッセンス(Opal Essence)の名で手頃な値段のオパール代替品として装飾用途などに広く世界で販売されています。 プラスチックで柔らかいため、装飾品用途にはガラスや硬質のアクリルでカバーするダブレットやトリプレット加工が施されますから普通に使う分には十分な耐久性があります。

3.その他のオパール模造品(Other Opal simulants)

 光の干渉による遊色はオパール構造以外にも日常生活で普通に見かけることが多い現象です。たとえばシャボン玉は可視光の厚さの石鹸の泡の球の皮膜が振動するために虹色の干渉光を見せるものです。水溜りの表面に広がる油の皮膜も同様の原理で虹色に見えます。またCDやDVDなどの光ディスクの虹色も表面にピットとして記録された信号の穴の間隔が可視光の波長と同じために起こります。 光の干渉による虹色の発生はその他様々な原因で起こりますが、以下はそうした現象を応用してオパールに見せかけた数々の偽物たちの競演です ;

 2003年のツーソンショーに登場した”マーメイド・ガラス”と命名された模造品。可視光の1/4波長の長さのシリカとジルコニアからなる厚さ0.5〜4mmの薄片を透明なガラスに封じたものです。アメリカのAzotec Coating社が開発しました。同社は後にコーティング技術を生かして無色のトパーズに多彩な色合いをコーティングしたミスティック・トパーズを大々的に生産し販売し始めました。
 ”Mermaid Crystal”presented at 2003 Tucson Show, maid by Azotec Coating.
This is a ultra thin silicate and zirconia film pieces, sealed in the glass.

 バンコクの露天で売られていた模造品。プラスチック・オパールをアクリル樹脂に封入したものです。
 Immitation opal jewlery : plastic opal is sealed in acrylic resin.
This immitation was sold to tourits at street booth in Bangkok.

メキシコ産天然のファイアー・オパールを暗色の土台に乗せてアクリル樹枝でカバーしたトリプレット。
 Mexican natural fire opal triplet, covered with acrylic resin on dark base.
 左の丸いアクリル・カボション内にはポリプリスマリンと呼ばれる光干渉フィルムが封入され、暗色の土台を背景にブラック・オパールのように見えます。
 右の”スペクタキュライト”と称するのはホログラフィー効果を起こ
す重クロム酸塩のジェルをガラス層に挟んだオパール模造品です。
left : Optical interference film called "polyprysmaline" issealed in an acrylic cabochon with dark base to immitate black opal.
right : The trade name "Spectaculite" consists of a holographic image on a dichromate gel is wedged between two protective glass layers.
1.68ct 8.67ct

合成オパール片をカットしたガラスに封入した模造品。1992年ツーソン・ショーに”Gemulet"の名で出現。中心に置かれたオパール片が反射して全体がクリスタル・オパールのように見えます。
"Gemulet" was presented at 1992 Tucson Show. Synthetic opal pieceis sealed in a faceted glass.
オパール状の二色ガラス : ガラス工芸家の手になる二色ガラスの作品でイミテーションを狙ったものではありませんが、二色効果とエッチングによってオパールのように見えるものです。
  Two color glass showing opal-like effects. These glass worksare made not as opal-immitation. But thanks to bi-color effectsand etching, they look like opal.


スローカム・ストーン(Slocum Stone)

スローカムストーンラフと研磨されたカボション
Slocum stone rough and polished cabochons
ガラスに人工干渉層を封入した
スローカムストーン
光の干渉層の拡大 40x
Magnified view


 スローカム・ストーンとは1970年代半ばに市場に登場した代表的なオパール模造品です。アメリカ・ミシガン州のジョン・スローカムが独自に開発し20年間余り製造、販売されました。光の干渉を起こす半透明の金属薄片層を特別な製法で多色のシリカガラスに封入したものです。なかなかの出来映えで人気を呼び、毎年100万カラットが市場に出回りました。秘密を守るために特許をとらず、極秘に製造したために、詳しい製法は彼の死と共に失われました。

  For two decades Michigan's John Slocum made and sold yearly million carat of "Slocum Stone. An well known glass immitaion opal, that contain thin layers of metallic film, in the form of translucent flakes, which produce thin-film interference effect. He had not patented the process, to avoid revealing his secret, that was lost after his death.

オパールガラス (Opal glass)

オパールガラスの数珠 珠の径 8mm
Opal glass rosario
オパールガラスのネックレス 45cm
Opal glass necklace

 古来ローマン・グラスやペルシャ・ガラスの出土品にはガラス成分が化学変化を起こしてオパールのような虹色の虹彩を示すものがあります。
またアール・ヌーヴォー時代のラリックやドームの作品には乳白色のオパール・ガラスを使って独特の効果をかもし出したものが数多く見受けられます。
オパール・ガラスはガラスの中に弗素化合物である螢石、氷晶石、珪弗化ソーダ等を添加して溶融して微粒子を析出させたものです。
 光が微粒子によって散乱され、白濁してオパールのように見えます。あるいは表面を酸でエッチングすると同様の効果を示します。

 写真のオパール・ガラスの宝飾品はシンセ・オパールとしてオークション市場に出ていました。1個1千円と格安で、その正体を調べるために入手しました。比重や屈折率、モース硬度等を測っても何か分からず、合成オパールか?と書いたところ、読者の方にガラスではないかと指摘されて、ようやくオパール・ガラスであると判明したものです。
 ガラスの模造品ではありますが、ハイドロフェーン・オパールを偲ばせる大変綺麗なものです。

 本物の合成を試みる努力もあれば、本物に限りなく近い偽物作りに情熱を傾ける人達、と様々な贋作が次々と現れては消えて行きますが、さて今後どんなオパールの偽物が現れるか楽しみです。

 

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