オパール(Opal)

 

ブラック,ホワイト,マトリクスオパール
オーストラリア
(Australia)
透明度の高いファイアオパール
メキシコ
(Mexico)
不透明だが色の美しいオパール
ペルー
(Peru)
褐色の母岩と共に磨かれたボール
ダー・オパール 
オーストラリア(Australia)
透過光により遊色を見せる
ハイドロフェーン
  オレゴン(Oregon) U.S.A.
母岩と共にカボション・カットされた
ゼリー・オパール
 メキシコ
(Mexico)

 

化学組成 結晶系 モース硬度 比重 屈折率
SiO2・nH2O 非晶質 5½〜6½ 1.99〜2.25 1.37〜47
  オパールは日本語では蛋白石と呼ばれます。卵の白身の部分が固まったような色合いと形状とで産出することが多いため命名されたものです。オパールとはサンスクリット語で宝石を意味する”upala”が語源でギリシア語を経由して広くヨーロッパ語に入った言葉です。 
 石英系の珪酸鉱物はいずれも結晶ですが、唯一オパールのみは結晶ではありません。水に溶けた球状の珪酸微粒子が固形化したゲルで、いわば鉱物のゼリーやゼラチンと言えるものです。 このため普通3%から20%程度の水分を含み、比重や屈折率も水分の含有率で大きく変動します。 乾燥した環境下では水分が失われてひびが入って割れたり、輝きを失ったり、と不安定な鉱物でもあります。このため長い年月を経て、安定した玉髄や鱗珪石や方珪石へと変わって行きます。
 オパールの主成分である珪素と酸素とは地殻の成分の4分の3を占める何処にでもある元素です。したがって、オパールもまた世界各地に玉髄や瑪瑙、水晶等と共に豊富に発見される、いわば最もありふれた鉱物ですが、多様な環境や条件の下に生成されたため、実に多彩な色合いと形態とで産出します。
オパールの多彩な色合い
   上から時計回りに :
普通のオパール :チェコ
ノーブルオパール:オーストラリア
ゼリー・オパール:メキシコ
ファイアー・オパール:メキシコ
  上から時計回りに:
木質オパール :アリゾナ州
普通オパール :チェコ
プラソパール :モンゴル
上 ハイアライト
下 ハイドロフェーン
 Dubnik, Valec  チェコ

虹色の煌きを見せるオパールは極めて稀な存在で、このためプレシャス・オパールあるいはノーブル・オパールと呼ばれます。
一般には卵白のような不透明なものが大半ですが、中には透明なもの、不純物により着色されたもの等、多彩な色合いがあり、固有の名前で呼ばれます ;
ノーブル・オパール  :   
虹のような七彩に煌き、宝石として最も珍重されます。見る角度により虹の煌きを示す
効果は遊色(Play of Color)あるいはオパレッセンスと呼ばれます。
地の色によりブラック・オパール、ホワイト・オパールと呼ばれます
ゼリー・オパール  :  
透明なオパールでウォーター・オパールとも呼ばれる、青、緑、赤、橙等一色を示す種類

クリスタル・オパール
ゼリー・オパールと同様に透明だが、七彩の遊色効果を示す種類

ファイアー・オパール  :
透明度の高いオパールで、地の色が赤、橙、黄色の種類

木質オパール  :
倒木に珪酸分が沁みこんで玉髄やオパールに変わったもの。珪化木とも呼ばれ美しいものは
工芸品の材料になる

プラソパール  :
余り一般的ではありませんが黄緑色、黄色、淡緑色のオパールの呼び名

ハイアライト(玉滴石)  : ギリシア語の”hualos:ガラス”を語源として命名されたガラスのように透明なオパールの
呼び名
ハイドロフェーン  :
同じくギリシア語の”hudor:水と phanos:輝き”を語源とする命名で、不透明な白い塊が
水中では透明になり中には七彩の遊色を示す種類

 

蛋白石の多様な形態
魚卵状珪石
富山県立山新湯温泉
同じく蛋白石の一種、珪華
秋田県湯ノ岱
同じく葡萄状の玉滴石
岐阜県苗木
珪乳石
石川県能登珠洲市
巻貝に侵入し、珪酸»蛋白石
»玉髄の順に固結した例
Texas U.S.A.
球状の方珪素石 5cm
福島県 宝坂
方珪石 1mm
San Cristobal Mexico
鱗珪石 4mm
Vechec Tcheco
 オパールは色合いだけではなく、その形態も魚卵状、葡萄状、球状のもの、さらに木の葉や、倒木、貝、木の実、動物の骨
他の鉱物の結晶構造を置換したものなど多様な産状を示します。
魚卵状は乾燥剤として使うシリカゲルと同じ形状のものです。珪華は温泉の沈殿物として良く見られる白い皮革状で落ち葉の組織を置換して堆積して行きます。玉滴石は透明〜不透明なガラス状の光沢を持ちます。出来損ないの人形のような珪乳石は珪藻土層の中に何かを核として蛋白石が成長したものです。貝殻の中に侵入した珪酸がゼリー状に固まってオパール化したものは、時にはその形のままで宝石質の七彩の煌きを見せることがあります。福島県宝坂産からは方珪質に移行しつつあるオパールが発見され、300個に1個の割合で宝石質の虹の七彩を見せるものがあって、日本産の宝石質オパールの産地として有名です。
 非晶質のオパールは不安定な構造のため、自らも長い年月を経て安定した結晶質の珪酸鉱物である石英、鱗珪石や方珪石へと変化して行きます。
無機質の鉱物といえでも不変ではなく、生物のように変容して行くというのは興味深いことです。

 

  鱗珪石(Tridymite) SiO2

 珪酸鉱物の一種で870℃〜1470℃で安定する六方晶系の α型と、117℃以下で安定するβ型の鱗珪石とがある。
β型は斜方晶系だが、高温型の外形を残し左の結晶図のような3〜4mmの輪座三連晶で産出することが多い。
名前はギリシア語の”Tridumos : Triple” に由来する。

  方珪石(Cristobalite) SiO2

 方珪石にも1470℃〜1710℃で安定な等軸晶系のβ型と163℃以下で安定な正方晶系のα型の2種類がある。
低温型のα方珪石の結晶も高温のβ型外形を持つか、あるいは球状で産出する。オパールから移行してα型の方珪石になることが多く、遊色を示すオパールの中には実は方珪石というものがある。
 名前は最初に発見されたメキシコの San Cristobal山に因む。


オパールが七彩の遊色効果を示す理由
   オパールが七彩の遊色効果を示すのは何らかの構造的な理由で光の干渉によるためと、古くから考えられて来ました。
 それが明らかになったのは電子顕微鏡の登場でオパールの内部構造を観察することが出来るようになったためでした。
1965年、オーストラリア科学産業研究所のP.J.ダラー、A.J.ガスキン、J.V.サンダースのグループが、そしてほぼ同時にドイツ、マインツ大学のG.ペンゼがオパールの構造と七彩の遊色効果が現れる理由を解明しました。
 左の図のように遊色を示すノーブル・オパールの内部は球状の珪酸が整然と並ぶ構造になっています。球の直径は150〜450nm(ナノメートル)の範囲で、即ち可視周波数帯域の光の波長と同じ大きさです。球間の隙間も整然とした配列になっています。
 このように球と空間とが整然と配列することで天然の回折格子が形成され、入った光が隙間の球の面と隙間の空間とで反射と分散とが繰り返され、その結果、特定の波長の干渉光が強調されて遊色となって出て来ます。波長を決定するのは球の直径と、球と球の間の空隙の大きさ、さらに空隙に存在する水分の量と考えられています。 回折光の波長を左右する球の直径が200nmだと波長474nmの青い光が、220nmでは521nmの緑に、300nmでは710nmの赤の干渉光が遊色となって現れます。

オパールの内部構造の電子顕微鏡写真
遊色を示さない構造
黒い地色のオパール
ミンタビー x40,000
同じく白い地色の
オパール x40,000
遊色を示す整然とした
クーバー・ペディ産の
オパール x20,000
異なる角度の配列が
交わると色が変わる例
x20,000
主に赤の遊色となる
直径300nmの球の整然
とした配列 x40,000
立体的な球の配列
x15,000
 シリカ球が整然と配列し、その直径が特定の範囲内にある場合に光の干渉が起こりノーブル・オパールに特有の虹色の遊色が起こることが明らかです。
一般にオーストラリアのオパールは白っぽい色合いの中に遊色が浮かび上がるものが大半ですが、これは5〜50nmと小さな直径の球が集合して170〜380nmのさらに大きな球となる構造となっていて、このためにひとたび遊色に分散された光が散乱されて白色光が強められるので白っぽくなると考えられています。
 一方メキシコのファイアーオパールは遊色を示しませんが、その代わりに非常に透明度が高く、一般の宝石のようにファセット・カットされるほどです。これは球間の隙間が小さく可視周波数帯での光の干渉が起こらないためと考えられています。
 そして光の散乱や回折が起こらないために透明度が高くなります。赤い色は不純物として含まれる水酸化鉄分による吸収のためです。

    

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