アルカリ長石族(Alkali Feldspar Group)


1.正長石 (Orthoclase)

                          

正長石、玻璃長石、ムーンストーン 1.26〜25.67ct
(Orthoclase, Sanidine and Moonstone)

        

25.67ct 20.0x17.5mm
Itrongay, Madagascar
3.8ct 14.0x8.6mm
Madagascar
3.23ct 11.2x10.0mm
Madagascar
3.99ct 12.2x10.9mm
Madagascar
3.0ct 10.3x7.2mm
Madagascar
5.88ct 10.5x10.5mm
Madagascar
1.26ct 11.5x5.1mm
Madagascar
6.25ct 14.9x9.0mm
Udacha, Russia
9.95ct 17.0x13.0mm
Pakistan
7.02ct 14.6x11.8mm
Meetiyagoda, Srilanka

玻璃長石(Sanidine)と月長石(Moonstone)
1.33ct 7.0x6.2mm
Mt. Eiffel, Germany
3.55ct 13.7x7.2mm
Wellawaya, Srilanka
1.61〜4.78ct(16.8x7.2mm)
Srilanka
0.63ct 7.3x4.7mm
Pili Mine, Chihuahua, Mexico


最大の玻璃長石ルース 249.6ct
Itrongay Madagascar
スミソニアン自然史博物館

Smithonian Institutes, U.S.A.
“Rainbow Lattice Sunstone”
と名付けられた正長石
   Mud Tank Zircon Field
 Harts Range,NorthernTerritory
Australia
 世界の正長石結晶
 65x25x25mm 62x15x12mm  結晶表面のイリディッセンス
(虹色、真珠状の輝き)
カルルスバート双晶
33x24mm
単結晶
33x18x16mm
月長石(玻璃長石)結晶
16x16x11mm
Pili Mine、Camargo
Chihuahua、Mexico
Udacha, Khabarovsk, Russia Maroon Bells Mtns.
Colorado, U.S.A.

氷長石(Adularia) 8x8x7cm
La Bianca、Val Cristallina
Graubünden Switzerland
氷長石 28x24mm
Grimsel Pass 
Switzerland
氷長石 6x4cm
Alchuri Shigar
Pakistan
正長石、柘榴石、電気石を
含むペグマタイト・マトリクス
高さ 40cm 
Baveno、Italia
正長石結晶マトリクス 幅60cm
Zomba Malosa Massif Malawi
ミラノ自然史博物館 (Museo Storia Naturale, Milano)

 

結晶系
(Crystal system)
化学組成
(Composition)
モース硬度
(Hardness)
比重
(Density)
屈折率
(Refractive Index)
単斜晶系
(Monoclinic)
KAlSi3O8  6−6½   2.54-63 1.514-539

 

  正長石は多くの岩石を構成する造岩鉱物の代表的な鉱物です。
たとえば建物や歩道の敷石など至る所で使われている花崗岩は粒状の黒い雲母、灰色の石英と共に白またはピンクの正長石から成っています。ピンクは含まれる酸化鉄による着色です。
 岩石の主要成分の正長石はありふれた白い石でしかありませんが、ペグマタイトや熱水鉱床の晶洞中で成長した場合には下の図のような特徴ある結晶形を示し、いかにも鉱物らしい雰囲気を備えています。
 もっとも、ペグマタイトや熱水鉱床に発見される正長石の殆どはX線解析で調べると微斜長石になっているとのこと。
さらに、後述するように、マダガスカル産の金色の長石は永年正長石と考えられていましたが、精密な分析の結果、実は玻璃長石であったことが判明しました。
 これらの長石を外観や比重、屈折率等の古典的な測定で識別することはほぼ不可能ということです。
 正長石には普通の正長石の他に二種類の変種があります。
一つはアルプス型の熱水鉱床に低温で晶出する氷長石(Adularia)で,透明〜半透明の外観を持っています。もう一つは、ガラスのように透明なことから玻璃長石と呼ばれる変種で,これは高温条件で結晶したものです。
 正長石グループの化学組成はカリ長石とも呼ばれ、主にアルカリ金属のカリウムと珪酸アルミニウムとの化合物ですが、実際には必ずナトリウムが含まれます。
 結晶が高温状態にあるときはカリウムとナトリウムとは共存しますが、冷えてくるに従い結晶内部でカリ長石分とナトリウム長石分とは薄い層状に重なって分離します。
 このため、純度が高く透明な結晶の場合には薄層を透過する光の分散によりアデュラレッセンスと呼ばれる効果を示します。この効果が著しく,美しいものが月長石(ムーンストーン)と呼ばれる宝石です。 
ムーンストーンについては別途展示があります。
 一般に長石の結晶は不透明ですが,マダガスカルのペグマタイト鉱床からは時には数cmに達する金色,黄色,無色の大きな結晶を産出し、宝石としてファセット・カットされます。
 かつてはマダガスカルが唯一の宝石質のカリ長石の産地でしたが、1990年代以降、ロシア、スリランカ、パキスタン、ヴェトナム等からも稀ではありますが、ファセット・カットされたルースが姿を見せるようになりました。
 ロシアのハバロフスクに近いウダチャでは半透明の正長石結晶を産出し、表面の薄層構造により虹色のイリデッセンス効果を見せます。
 またオーストラリアからはサンストーンと呼ばれますが、しかし珍しい効果を示す宝石質の正長石が1980年代末に発見されました。 これはカリ長石(正長石)とナトリウム長石(曹長石)とが格子状の薄層として分離した構造に、チタン鉄鉱と赤鉄鉱の微細な結晶が含まれているためにイリデッセンスと斜長石系のサンストーンに起こるアヴェンチュレッセンスとが重なって格子状の虹色の模様が現れるものです。

 

正長石の結晶
正長石単結晶 カルルスバート双晶  マネバッハ双晶   バヴェノ双晶   バヴェノ三連双晶   氷長石結晶 
  正長石の結晶は単結晶の他に、複雑な双晶があり、それぞれ最初に発見された産地に因んだ命名がされています。
 水晶の日本式双晶やブラジル式双晶が世界の水晶産地なら何処にでも発見されると同様に、長石のそれぞれの双晶も世界のあらゆる土地から普遍的に見ることが出来ます。
 カルルスバートとは現在ではチェコの首都プラハから西へ120kmのドイツのエルツ山脈の麓にある有名な温泉地のカルロヴィ・ヴァリ(Carlovy Vary)のことです。オーストリー・ハンガリー帝国時代にはカルルスバート(Karlsbad)と呼ばれていた街です。
 マネバッハ(Manebach)はドイツの地名です。長い間何処なのか不明でしたが最近ようやくGoogleの検索でチューリンゲン地方、ヴァイマール(Weimar)の南西45kmほどのイルメナウ(Ilmenau)の町の郊外の地名と判明しました。
 100万分の1縮尺のドイツの大きな地図にも地名さえ掲載されていない程の人口3万人の小さな町です。
ヴァイマール公国はゲーテが生涯の大半を過ごした町ですが、イルメナウは15世紀以来、銀と銅の鉱山でも有名で、鉱山委員長でもあったゲーテはイルメナウ町を28回も訪れたとあります。晩年のゲーテは風光明媚なマネバッハの町を好んで訪れたとあり、現在も20kmに及ぶゲーテの散歩道や6.5kmの鉱山ー地質探索ルート等、数多くの探索ルートが用意されています。。
 バヴェノ(Baveno)は北イタリアのマッジョーレ湖畔の街の名です。
カルルスバット双晶とは : 

c軸を双晶面とするもの。接面は斜軸面b(010)で双晶面(正軸面100)とは直角をなす。両結晶がかみ合って透入双晶らしくなったものが多いがb面を接面とした透入または接触双晶もある。双晶軸は直軸。
マネバッハ双晶は :
 
 底面c(001)面を双晶面ならびに接面とするもの。m(110)、b(010)、y(201)、x(101)で双晶軸は直軸(001)方向
バヴェノ双晶は : 

 n(021)面を双晶面および接面とする。斜軸(a)の方向に細長く伸びた四角柱状の結晶に多い。n面(021)四角柱を対角線方向に等半に縦割りしその半分を180度回転した形で一端が突出し他端は凹む。
 とのことです。 実際の結晶は図のような教科書に出ているような単純なものばかりではありません。単純なカルルスバット双晶はそれと見分けがつきますが、バヴェノ双晶には三連双晶、四連双晶、変則四連双晶等々あり、更にそれらには必然的にマネバッハ双晶となっている部分があるのだそうです。
 したがって手持ちのカリ長石が如何なる双晶なのか、どう眺め回しても三次元空間認識能力が著しく欠如している私には皆目見当がつかないというのが率直なところ。
イタリア・バヴェノ(Baveno)の町
マッジヨーレ湖畔の採石場
左がBaveno、右奥はVerbania
Verbania採石場 下の転石は2〜3m 長石結晶マトリクス 30cm
Baveno
正長石と水晶
Verbania
ミラノ自然史博物館(Museo Storia Naturale, Milano)
  北イタリアの風光明媚なマッジョーレ湖畔にバヴェノの町があります。
20年以上昔のことですが、かつてスイスに住んでいた頃、何度か南北に細長いマッジョーレ湖沿いに南下して、バヴェノの街を通ってミラノを訪ねたことがあります。通り掛かりに採石場を見上げながら何か鉱物が採れそうだと思いながら、しかし立ち寄る事もなく、ただ通り過ぎたことを記憶しています。アルプスには他にも採石場は数多く見かけることがあります。
 迂闊なことに、この採石場がバヴェノ双晶の名前の由来であったとは、実は2003年4月にミラノの自然史博物館を訪れるまでは全く知りませんでした。 したがって2003年の5月初めにようやく因縁の鉱物産地を訪れることが出来たことになります。
 バヴェノでは現在も周辺のヴェルバーニア等を含め大理石と花崗岩の採石が行われています。写真のように巨大な転石がごろごろしていて、大型ダンプカーが往来していますから一般の立ち入りは禁止されています。
 ペグマタイト鉱脈はとおの昔に掘り尽くされてしまって、鉱物採集は望めませんが、しかしミラノを訪れる機会があれば、高速道路や鉄道で1時間余りのヨーロッパで最も風光明媚なマッジョーレ湖等、北イタリアの湖水訪問をお勧めします。
 スイス・フランス国境のレマン湖、スイスのチューリッヒ湖、ドイツのボーデン湖等々、ヨーロッパには美しい湖と街とに事欠きません。 しかし北イタリアのマッジョーレ湖、コモ湖、ルガノ湖、グアルダ湖等には、アルプスの北側とは歴然と異なる、明るく透明な南国の空が広がっています。
 湖畔にはルネサンスの時代からミラノやトリノの貴族や富豪達が建てた壮麗典雅な別荘が立ち並び、熱帯を思わせる濃密な木々や花々に覆われている様は、あたかも桃源郷に迷い込んだような感覚を覚えるほどです。 
 古くは“舞踏会の手帳” や “パルムの僧院”,新しくは”スター・ウォーズ エピソード2” 等々、多くの映画に北イタリアの湖を舞台とした情景が登場します。

 

宝石質の長石(玻璃長石 :Sanidine)
マダガスカルの玻璃長石結晶 (Sanidine crystals from Madagascar)
39x29mm 45x25mm 41g 10x10x7cm
Itrongay, Madagascar
  イトロンガイ村の宝石質の長石結晶は1922年フランスの鉱物学者ラクロワによって報告されています。
写真は大理石に貫入した正長石脈露頭での、深さが最大では15mに達する立坑の結晶採集の様子です。
 風化した大理石中に宝石質の赤褐色のジルコンや青緑色のスピネル、緑の燐灰石、チタン石、黒雲母、透輝石と共に最大では直径5cmもの無色、金色〜黄色の透明な長石結晶が得られます。
 結晶は表面が融食され、結晶形はごく一部に見られるのみです。
 鉱区には持ち主がいますが、村人たちは採掘権などお構いなしに至る所を掘りまくり、採れた結晶は研磨用に宝石質の部分のみを削り取って売りに出します。

 マダガスカルはかつてはアフリカ大陸の一部でモザンビーク造山帯に含まれています。
およそ6億年前、先カンブリア紀末期に起きた大規模な汎アフリカ造山活動の時、堆積した石灰岩に花崗岩マグマが貫入しました。
 イトロンガイ一帯ではその変成作用で石灰岩が粗粒の方解石や大理石へと結晶し、主にアルカリ長石からなる花崗岩ペグマタイト鉱床が出来ました。 
 ペグマタイト脈の厚さは多くは数cm程度ですが、数十cmに達する場合もあり、大きな亀裂の内部の開かれた空間の壁に大きく透明な長石結晶が成長できたものと考えられます。
 その後空隙に熱水が侵入して結晶が融食され、さらに、おそらく母岩の膨張によって空隙が崩れ落ちたので、他の鉱物と共に長石結晶は風化した大理石層の中から発見されることになったと考えられています。

 イトロンガイ産の長石は最大で2.88%のFe2O3が含まれていて、三価の鉄イオンがアルミニウムを置き換えて入っています。 これが金色や黄色の着色の原因となっています。稀に無色のものがあります。

* マダガスカル、イトロンガイ産の長石は1922年のラクロワ(Lacroix)の報告以来、正長石とされて来ました。
 が、2002年以降、X線と中性子線による詳細な分析の結果、玻璃長石(Sanidine)であると判明しました。
 玻璃長石は正長石のカリウム成分の一部がナトリウムに置き換えられた高温結晶型の正長石の一種です。
 

 緑色の透明な正長石(Transparent Green Orthoclase)

12.19ct 18x14x10mm 5.19ct 幅 10cm ラマン分光分析による比較
2,79ct 2.22ct
0.97ct 2.17ct
Minh Tien near Luc Yen, Vietnam

 2005年頃から極めて珍しい透明な緑色のファセット級の長石が登場しました。
 色合いからして当初は微斜長石の一種、アマゾナイトと考えられましたが、ラマン分光分析により、ほぼ正長石の特徴が確認されました。
 写真はヴェトナムの Luc Yen の南15kmにある Minh Tien に1994年に発見されたペグマタイト晶洞から、宝石質のトルマリン結晶と共に発見された正長石結晶と、透明な部分からカットされたルースです。
 ビルマのモゴクからも同じ頃、そっくりの色合いと品質の長石が発見されました。

 いずれもカボション級が大半ですが、ごく一部の透明な部分から10カラット超のファセット級のルースが得られるようです。
 
Cabochon 12.7ct
Pazunseik, Mogok, Burma
 緑色の正長石は1971年にオーストラリアの Broken Hillと1994年にブラジルのミナス・ジェライス州からバリウムを含むハイアロフェーンとの2例が報告されていたのみでした。 
 

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