ペイン石(Painite)


0.09ct 3.9x1.5mm ルビー結晶で覆われたペイン石
(Painite covered with ruby)
18x16x13mm
Wetloo Mine, Hinter Hill, Mogok, Burma


化学組成
(Composition)
結晶系
(Crystal System)
モース硬度
(Hardness)
比重
(Density)
屈折率
(Refractive Index)
 CaZrAl9(BO3)O15  六方晶系
(Hexagonal)
8  4 - 4.03  1.788 - 1.816


   ペイン石の名前はイギリスの宝石、鉱物学者であり、同時に宝石ディーラーでもあった Arthur Charles Davy Pain 氏に因む命名です。 
 この鉱物は氏によって1950年代初頭にビルマのモゴクで発見され1956年に新種の鉱物と認められました。
以来、永年の間 1.7g と 2.1g のたった2個の結晶しか存在せず、30年余り経って、GIA に寄贈された宝石ラフの中から3個目の結晶が発見されたという、稀産中の稀産の鉱物でありました。
 ところが21世紀初頭になって事態が急変しました。
 2001年にモゴク近郊で 11g の結晶が発見され、GIA の分析によってペイン石であると確認されました。
続いてタイの宝石研究所にて2.5カラットのカットされた宝石がペイン石であると確認され、さらに2004年にはモゴク周辺の二次鉱床でペイン石が発見されたため、鉱夫や地質学者が初生鉱床の追跡に殺到し、2005年についに Thurein-taung と Hinter Hill の Wetloo に一次鉱脈が発見されました。
 現在では数千個を越える標本や、平均で0.05〜0.3ctときわめて小さいながらもカットされたルースも多数登場する程の変貌振りです。
 一連の発見のおかげで、実は北部ビルマの Namya (Nanyaseik) 村近郊でも2002年にスピネルやサファイア、ジルコン等のラフと共に2,3個の小さな(1カラット以下)淡いピンクのペイン石結晶が採集されていたことまで明らかになりました。

 
ペイン石ルース(Faceted painites) 0.01 -1.32ct Wetloo Mine, Hinter Hill, Mogok Burma ペイン石結晶 1.65g

7x5x3mm 4.5mm 3.9mm 0.0467g
Namya, Northern Burma
宝石質のペイン石結晶
(Gemmy painite crystals)
Ohn Gaing, Mogok カリフォルニア工科大学 (Caltech) Collection

 ペイン石の特徴
  ビルマのモゴク周辺はインドがユーラシアに衝突して起きたヒマラヤ造山活動により多様な地殻変動が起こった地域です。
 片麻岩床に貫入した花崗岩により接触変成作用で結晶大理石帯が形成されてルビー、サファイア、スピネル、ジルコンの結晶作用が起こり、また花崗岩ペグマタイトにトルマリン、ガーネット、アクアマリンが結晶し、さらに超塩基性岩の深成岩の噴出でペリドットと、狭い地域に起源の異なる宝石が生成され、そのいずれもが世界屈指の高品質を誇るという世界でも稀有の宝石産地です。
 ペイン石はビルマのモゴク周辺の数ヶ所で発見されますが、ルビーやスピネル、ジルコンを伴う産状からすると、接触変成作用によるものと考えられます。
 カルシウムとアルミニウムとジルコニウムの硼酸塩という異例の組成を持つ鉱物は、モゴク周辺の特異な地質条件の賜物と言えるでしょう。
 ペイン石のモース硬度8の高い値は他の硼酸塩鉱物と比べて異例の硬さです。
複雑な構造のペイン石が単純な組成のスピネルと同様の高い値のモース硬度を持つということは、それが相当の高圧の条件で生成した鉱物であることを窺わせます。
 さらにルビーと同じ比重4も硼酸塩鉱物としては異常に重いものです。
重金属ジルコニウムを成分に含みますがその比率は1%以下ですから、90%近い比率の酸素とアルミニウムを中心に緻密な結晶構造を持つ鉱物であることは間違いありません。
 したがって屈折率もルビーより高く、成因や組成、結晶構造等、様々な面から興味深い鉱物であります。

発色の原因

 組成の全てに遷移金属が含まれませんから、純粋な結晶は無色透明です。事実北部ビルマの Namya からはごく淡い色合いの結晶が採集されています。しかし他の産地の結晶は濃い褐色、赤、橙が殆どです。
 カリフォルニア工科大学の分析によると微量のクロムとヴァナジウムと痕跡程度の鉄が検出されていますから、それが発色の原因でしょう。暗い色合いは、1.5% ほど含まれる不純物のチタンのためと思われます。
 逆に北部ビルマのナムヤ産の透明度の高い結晶には殆どチタン等の不純物が含まれないと考えられます。

ペイン石は”最も価値のある宝石”だろうか ?

 前述の如く、ペイナイトはほんの10年ほど前までは、大英博物館とカリフォルニア工科大学と GIA とが僅かな数の標本を持っているだけの鉱物であり、特異な産状、組成、特性からは、今後もモゴク以外から大量に発見される可能性は余り考えられません。
 したがって、最も稀少な鉱物の一つであることは間違いありません。
まとまった量が採掘される初生鉱床の発見が世界の鉱物コレクターを興奮させたのも理由があります。
 ただし、一部の業者が煽り立てるように、赤いダイアモンドに例えて、ペイン石を ”世界で最も貴重な宝石” であると、ルースにカラット当たり 4000ドル、極小の蟻ほどの小さな結晶に数万円もの価値がある宝石かといえば、大いに異論があります。
 これまでペイナイトが稀な存在であったのは、例え他の鉱物と共に採集されても、ただの石ころか、或いは価値の無いジルコンとして無視されていた程の見映えのしない鉱物であったためでもあります。
 新たに発見された初生鉱床からの結晶やカットされたルースも、透明度に欠ける濃色の小さなものが大半で、価値のある宝石とは程遠いものです。
 即ち、ペイン石は特異な産状と組成と特性を持つ稀少な鉱物標本として価値があると言うのが妥当な評価でしょう。
 冒頭のルースは100倍ほどに拡大されているので何とかルースらしく見えますが、実物はまさに極小の暗色の蟻ほどの大きさで、落としたら捜すのに一苦労です。
 結晶標本も小さなピンク・サファイアばかりが目について、ペイナイトらしき結晶は何処をどう見ても分からないといった代物です。
両方併せて3000円足らずと、標本で持つには至って妥当な値段でありました。
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