ペリクレース (Periclase)
合成ペリクレース 17.8X10mm 10.6ct |
合成ペリクレース結晶 115ct |
化学組成 (Formula) |
結晶系 (Crystal System) |
モース硬度 (Hardness) |
比重 (Density) |
屈折率 (Refractive Index) |
MgO | 等軸晶系 (Cubic) | 6 | 3.59 - 66 | 1.736-738 |
酸化マグネシウムの鉱物であるペリクレースは天然には接触変成地帯に白または淡緑の結晶として稀に,イタリアの
ヴェスヴィオ火山やスウェーデン,カリフォルニア等で発見されます。が、宝石級の結晶の産出は報告されていません。
したがって上記のルースと結晶はほぼ人工のものでしょう。
因みに、地球の上部マントルの深度800km、圧力が30万気圧付近の岩石は主にペロブスカイト(MgSiO3)とペリクレースとで構成されていると考えられます。
オーストラリアの鉱山から産出する菱苦土鉱(マグネサイト:MgCO3)を精錬して耐火性の酸化マグネシウムを精製する際の副産物として,この宝石級の結晶が出来るとのことです。
このペリクレースには微量の鉄やクロムが含まれていて,緑色の着色の原因となっています。
この色と、比重,屈折率とは天然の緑のグロシュラー・ガーネットのそれとほぼ重なり、カットされると成分の分析を行わない限り判別が出来ません。
モース硬度も 6 と少し低いものの、なかなか美しい色合いですが、しかし決して宝石用には使えません。
研磨後に一月も放置しておくと空気中の水分と反応して、表面に別な鉱物、ブルース石 : Brucite Mg(OH)2 が形成され, 不透明な皮膜となって表面を覆ってしまうという致命的な欠点があるのです。
上記のルースの写真に、もやもやと見えるのは、実はブルース石の皮膜を研磨してこすり落とした後に透明なマニュキアを塗って皮膜の形成を防ぐ応急処置をしたためです。
不細工なことこの上ないのですが、半年もするとすっかり曇り硝子で覆われた様になってしまうので止むを得ません。
しまったと思いましたが,もはや後の祭です。
湿度による鉱物標本への影響は岩塩の結晶でも同様の経験があります。
以前、中米のパナマに住んでいた時のことですが、アメリカの鉱物フェアで入手した天然の赤みを帯びた岩塩の結晶が何時の間にか消えてしまった事があります。
しまっておいた筈の引出しの箱の中にはラベルと赤いしみだけが残っていました。
雨季にはほぼ100%の湿度の日々が続く熱帯の高温,高湿の気候のためすっかり溶けてなくなってしまっていたのです。
湿度だけでなく、藍鉄鉱や紫水晶のように強い紫外線で褪色したり,あるいはオパールのように乾燥のため罅が入って、時には割れたり、と鉱物や宝石と言えども保存には注意が必要です。
そんなわけで、ペリクレースは美しい結晶ではありますが宝石にはなりません。
その上水酸化マグネシウムであるブルーサイトの皮膜は水に溶け、なめると恐ろしく苦く,その後しばらくの間強い不快感が残るほどでありました。
ペリクレースの名はギリシア語の”peri=周囲の”と”klasis=破壊”とに由来しますが,まさに空気中の水分によって崩壊して行く結晶です。1841年にイタリア人のスカッキ(Scacchi)による命名です。
<>