ペツォッタ石(Pezzottaite)

 

 
結晶(20x15x9mm)とルース 0.78ct 0.73ct 0.23ct 3.25ct     

 

 
ルース 1.01-6.26ct キャッツアイ3.05ct  0.78ct
Ø5.6x3.9mm
 0.23ct
5.4x2.7mm
 0.73ct
5.9x5.4mm
   3.25ct
 10.9x.7mm
20x15x9mm アマゾナイト上の結晶マトリクス
 3x3cm
 2002年にマダガスカル中部で新鉱物のペツォッタ石が発見されました。
結晶系と組成から緑柱石の変種と考えられ、正式な鉱物名が決まる前から、主成分に因むセシウム・ベリル、あるいは木苺に似た色合いからラズベリルとして結晶標本やカットされたルースが市場に出回り、新種の宝石として注目を集めました。
 正式な鉱物名のペツォッタ石と命名された後も、当初のラズベリルの名でルースや宝飾品が僅かながら流通しています。
 が、上左の写真のような大きく透明度が高く美しいルースは最初に採掘された最良の結晶から得られただけの全く例外的な存在です。
 一般的なルースは1カラット以下の小さく、無数の亀裂や包有物を含み、ごく淡い色合いのものが大半を占めます。
 マダガスカルの鉱床は、結局最初に発掘されたポケットのみで枯渇し、その後発見されたアフガニスタンとビルマのモゴクも同様に、ごく僅かな標本を産しただけで、その後の産出は報告されていません。
 以下は彗星のように現れ、姿を消してしまったペツォッタ石の情報です。
  化学組成 結晶系 モース硬度 比重 屈折率 複屈折率
 ベリル(緑柱石)
(Beryl)
 Al2Be3(Si6O18)  六方晶系   71/2 - 8   2.80-90   no1.578-600,ne1.608   0.005-009 
 ペツォッタ石
(Pezzottaite)
 Cs[Be2Li]Al2Si6O18  六方晶系 71/2 - 8 3.04-14 no1.616-617,ne1.608 0.008-009

 2003年春のツーソン・ショー最も話題になったのが、マダガスカルで発見されたばかりのセシウム・”ベリル”でした。
 ”ベリル”と表記しているのは、化学組成からも明らかなように緑柱石の主成分であるベリリウムが部分的にセシウムとリチウムとで置き換えられているため、結晶形や構造からはとりあえずは緑柱石に属すると考えられたからです。
 2003年9月にIMA(国際鉱物連合)は、この鉱物を新鉱物として、ペツォッタ石 (Pezzottaite) と命名しました。
この名前は後述するように、2002年11月の発見直後の鉱山を訪れ、世界に報告した、アフリカ各地のペグマタイト鉱物の研究に功績のあるイタリア, ミラノ自然史博物館の Federico Pezzotta 博士に因みます。

産地と産状


サカヴァラナ ペグマタイト鉱床(Sakavalana Pegmatite Mine
マダガスカル中西部の花崗岩ペグマタイト
地帯にあるサカヴァラナ鉱山
天河石と黒いショールを伴う
ペグマタイト脈の中心部
ショール上の結晶 1.5cm


 ペツォッタ石は2002年11月にマダガスカル中西部のマンドロソノ(Mandrosono)村のセシウムーリチウムータンタルに富む鉱物を産するペグマタイト鉱床で発見されました。
 ここではフランスの植民地時代からトルマリン鉱山として採掘が行われていて、厚さが4〜6m、長さが200m程のほぼ垂直な鉱脈です。  近年は村人による採掘により、2002年11月に地下およそ6mの地点に独立した大きな晶洞が発見され、煙水晶と多色のトルマリン、それにピンクや黄緑色のスポジューメン、アマゾナイト、板状の曹長石、リシア雲母とダンベリー石と共にペツォッタ石が発見されました。 ペツォッタ石は 
 1.他の鉱物の隙間に最大径8cmの不規則な平べったい塊 
 2.整った形の径6〜7cmの6角形の平板状結晶 
 3.トルマリン結晶に付着した2〜3mmの平板状あるいは柱状の結晶
   と、様々な産状で発見されました。


産出量についての情報 

 2002年12月にたまたまミラノ自然史博物館の F.Pezzotta 博士と共にマダガスカルを訪れていたアメリカの鉱物業者とが採掘されたばかりの”ピンク・ベリル”の結晶に遭遇したと言うわけです。
 この一帯はマダガスカルでも最も治安の悪い地域であり、二人は初め、よそ者に警戒心の強い村人たちの銃撃を浴びて撃退されたとのこと。

 ペツォッタ博士によると、採集されたのは結晶と様々な品質の破片とが40kg、それに数十kgに及ぶ、品質の悪い破片とひどく融蝕作用を受けた結晶でした。
 透明な宝石質の結晶はごく僅かで、その上小さく、カットされたルースは多量のインクルージョンを含んでいます。 
工芸品級の不透明な結晶の一部にはc軸に平行に微細なチューブがインクルージョンとして含まれているためカボション・カットにより魅力的なキャッツ・アイ効果を示します。
 ツーソン・ショーにはフランスの2社とアメリカの2社とで合計5kg程の結晶と少量のルースとカボションとが出品されました。


ペツォッタイトの特徴
一般の緑柱石とペツォッタイトの成分比較
  Cs2O  BeO Al2O3 SiO2 Li2O H2O その他の成分
緑柱石
(Beryl)
(3〜11.3%) 14% 19%  67% (1.4%) 2.8%以下 MnO Na2O K2O
Rb
2O Sc2O3
ペツォッタ石
(Pezzottaite)
13.57〜15.33% 8%  15.6%  56%  2.16% 1.72% Fe Mn Mg Ca Cr Na
 
 ペツォッタイトはベリルのベリリウム成分の一部をセシウムと少量のリチウムとが置き換えられた変種と言える鉱物です。
 普通のベリルの場合でもセシウムが含まれる例があります。例えばロシア産のヴァラヴョフ石と呼ばれるモルガナイトには3%余りの酸化セシウムと1.4%の酸化リチウムとが含まれています。
 同じマダガスカルのアンツィラ−ベで採集されたモルガナイトに11.3%の酸化セシウムが含まれていた例が報告されています。
 しかし今回発見されたペツォッタイトには酸化セシウムと酸化リチウムとが極めて高い濃度で含まれています。
 そして珪酸分、酸化アルミニウム分と酸化ベリリウムとがその分少なく、通常の緑柱石とは成分比が大きく異なり,さらにマンガン,カリウム,ナトリウム,ルビジウムと1.72%の水分を含んでいます。
 因みに通常の緑柱石の平均的な成分比は珪酸分が67%、酸化アルミニウム分が19%、酸化ベリリウム分が14%で、その他鉄,マンガン、マグネシウム、カルシウム,クロム、ナトリウム、リチウム、セシウム等を1%弱と2.8%以下の水分とを含みます。
 水分は緑柱石の成分ではありませんが結晶生成時に結晶のトンネル状の空洞に入り込んでいるものです。
 原子量9の軽いベリリウムと比べて,原子量133と重いセシウム分を多く含むため、比重と屈折率とが緑柱石と比べて明らかに高い値を示します。
 このような化学組成を持つため、ベリルの変種ではなく、IMA(国際鉱物連合)により新鉱物として認められました。 
 ラズベリー色とも呼ばれる紫がかった濃いピンク色の発色は三価のマンガンイオンによる発色で、アメリカ、ユタ州,ワーワー山産のレッド・ベリルと同じですが、スペクトルは異なります。(ワーワー山のベリルは遥かに複雑な発色成分を含むため)

ペツオッタイトの新しい産地

結晶 2.3x1.5cm
Dar-i-Pech, Chapa Dara
Konar, Afghanistan

1.11ct
Deva Mine, Parun
Nuristan, Afghanistan
8.2x6.2mm
Kaha Chee, Momeik,
Mogok, Burma


 世界の宝石と鉱物市場を賑わした新鉱物ペツオッタ石ですが、マダガスカルだけではなく、実は他の産地からもほぼ同じ頃に発見されていたことが後に判明しました ;

アフガニスタン

 2002年末に既にアフガニスタンで宝石質のペツォッタ石が採掘され、1−6ctの6個のルースがカットされていました。
宝石質とは言え、マダガスカル産と同じく多量の包有物を含み、透明度が低いことには変わりはありません。
 数少ない標本の分析の結果ではマダガスカル産より酸化セシウムの含有量が10%余り低く、従って屈折率(1.598−605)と比重(2.91)ともやや低い値となっています。

ビルマ

 2006年末にビルマのモゴク地方、モメイクの Kaha Chee の花崗岩ペグマタイト鉱床から宝石質の透明な部分を含む6個のピンクー橙ー紫の結晶が採集されました。
 このペグマタイトでは通常はフェナカイト、マッシュルーム状のルベライト、ペタライトやハンベリー石等が採集されています。
 分析の結果、酸化セシウムの含有量が標本により 2.5 - 12wt%, 5.12-9.97wt%,屈折率 (1.594-609)と比重 (2.92-95)、ラマン分析等のデータからペツォッタ石であると認められ、2006年のミュンヘン・ショーに何点かの標本が出品されました。


ペツォッタイトの市場評価
 

 ユタ州,ワーワー山のレッド・ベリルは大規模な採掘を目指していた GMI 社が倒産して将来の供給の見通しが暗転してしまいました。
そのニュースの矢先に、代替ともなる濃いピンクの ”ベリル” が発見されたため、人気が先行したような形で一気に価格が高騰した感があります。
 ルースがカラット当り2000〜2500ドル、4グラム程のマトリクスの結晶が800ドルとは投機的な価格水準と思います。 
とりわけルースはインクルージョンが多く、殆ど透明度に欠けますから、似たような色合いの同等の品質の、即ち下級品のピンク・サファイアやピンク・トルマリンと比較すれば法外な値段がついています。
 その後アフガニスタンとビルマでもほぼ同じ品質のペツォッタ石が報告されましたが、市場に流通した数は微々たる数に過ぎません。
 発見から凡そ10年経った現在ではマダガスカルで最初に発見された鉱床から得られた結晶の在庫をカットしたルースが散発的に市場に姿を見せます。
 がその大半は1カラット未満の小さく、透明度の低い物ですが,カラット当たり2〜3万円と、稀少性と、品質とを勘案すれば、妥当な水準になっています。
 冒頭の3.25カラットのル−スは最近ようやく入手したものです。大きさ、透明度、色合い共に、ペツォッタイトのルース標本としては得難い物ですが、よくぞこんにちまで残っていたと思います。