ポルックス石とペタル石(カストール石)
Pollucite and  Petalite (Castorite)

ポルックス石(Pollucites) 0.98 - 4.33ct ペタル石 (Petalite) 1.54 - 6.8ct


ポルックス石 (Pollucite)
 
0.98ct 5.5x5.5mm 4.33ct 13.0x8.0mm 1.54ct 7.8x7.8mm 2.02ct 10.8x7.0mm 3.48ct 10.7x8.7mm  3.15ct 11.5x7.9mm
Walden's Gem Mine, Portland
Connecticut, U.S.A.
Paproch, Kunar Valley, Afghanistan Malkhan Pegmatite, Chikoy River, Siberia, Russia Pakistan  Mogok, Burma
0.62ct Ø5.5x3.6mm 0.63ct Ø5.4x3.7mm 1.72ct 8.4x8.3x4.7mm 1.12ct 9.1x6.0x3.8mm 2.26ct Ø8.8x5.3mm 3.33ct 11.3x8.4x6.0mm
Walden's Gem Mine, near Portland, Connecticut, U.S.A.


ペタル石 (Petalite)
     
6.8ct 13x13mm 4.9ct 14.6x10.8mm 4.24ct 11.04x11.23mm 1.54ct 8.9x6.8mm  2.27ct 11.3x7.6mm 1.27ct 8.0x5.8mm  2.17ct 11.4x6.1mm 
Minas Gerais, Brazil Mogok, Burma Pakistan 

化学組成
(Formula)
結晶系
(Crystal System)
結晶形
(Crystal Form)
モース硬度
(Hardness)
比重
(Density)
屈折率
(Refractive Index)
ポルックス石
(Pollucite)
 (Cs,Na)AlSi2O6-nH2O  等軸晶系
(Cubic)

6½ - 7 2.90 1.52
ペタル石
(Petalite)
LiAlSi4O10 単斜晶系
(Monoclinic)
6 - 6½ 2.30-50 1.50-52
  名前について(About names)

ポルックス石はイタリアのエルバ島にて1846年に発見された鉱物です。
 この島を訪れたドイツの鉱物学者ブライトハウプト(Breithaupt)が良く似た2種類の鉱物結晶を発見し、分析の結果新種の鉱物として双子座の星になったギリシア神話の英雄の名に因んで二つの鉱物をカストール石とポルックス石と命名しました。
 酸化セシウム61%からなるポルックス石は2002年にマダガスカルでペツォッタ石が発見されるまでは、唯一の希元素セシウムを主成分として含む鉱物でした。
 一緒に発見されたカスト−ル石は,後になって、既に1800年に発見されていたペタル石と同じ鉱物であることが分かり、以後カストール石の名は使われなくなりました。
 ペタル石の名は後ブラジル大統領にもなった,詩人,鉱物学者であったアンドラーダ(Andrada)が、この結晶が葉のように劈開することからギリシア語の葉(Petallon) に因んで命名しました。
 アンドラダイト(灰格柘榴石)は、このアンドラーダに因んだ命名です。
 ところで,政治家で詩人が、何故鉱物学者でもあるのか ? 不思議に思われる方もあるでしょう。
 18世紀前半までに知られていた元素は金、銀、銅、鉄、鉛、硫黄等20種類にも及びませんでした。が、産業革命と科学技術の発展とに伴って新しい元素が次々と様々な鉱物から分離、発見されるようになりました。
 即ち鉱物学は当時の最先端科学の象徴となったのでした。
 鉱物の収集や研究はしたがって高級な趣味として広範な人々の間に人気がありました。
文豪のゲーテやサンクト・ペテルブルグの科学アカデミー長官だったウヴァロフも鉱物学者であり、ゲータイト(褐鉄鉱)やウヴァロヴァイト(灰鉄柘榴石)は彼らの名前に因みます。
 またパリのリュクサンブール公園にあるパリ大学の科学部門校が鉱物学などすっかり時代遅れになってしまったのに、未だに鉱山学校(Ecole de Mine )と呼ばれるのも、こうした歴史的な背景の名残なのです。
 ペタル石には、1817年にデンマークの化学者アルフェドソンが、その成分のリチウムを新元素として発見したという逸話があります。 
 リチウムの名は鉱物界に広く存在する元素として、同じくギリシア語のlithos(石)に因んだ元素名として命名されました。
 多くの鉱物名の語尾がリトまたはイトで終わるのは、そのためです。
 ギリシア語を語源とするリト(石)はこんにちでもリトグラフ(石版画)、モノリス(映画2001年宇宙の旅の主役とも言える一枚の巨大な黒い石の板)等々、広範に使われています。

 
Pollucite is one of the species for which Elba is the type locality. A German mineralogist Breithaupt(1846) named "kastor" and "pollux" (after Castor and Pollux, twin children of the Greek god Zeus) two colorless minerals often occurrring together in Elba pegmatite veins. Pollucite has long been a unique mineral to contain 61% of cesium oxide as major contents, until pezzotite was discovered in 2002 in Madagascar. Kastor, lator renamed as castorite was found to be the same mineral as petalite, discovered and named "petalite" after Greek word "pettallon : leaf" in 1800 by Brazilian president, poet and mineralogist Andrada, then the name "castorite" was discredited. In 1817, Danish Alvedson reveald the new element lithium from petalite.
 カストールとポルックスとは、ギリシア神話で白鳥に姿を変えたゼウスがスパルタの王妃レダと交わって生まれた双子の兄弟です。
 この逸話は芸術家の創作意欲をいたく刺激したらしく古来から無数の絵画や彫刻作品となっています。
 ゼウスとレダからは他にもトロイ戦争の原因となった絶世の美女ヘレネーが産まれています。
 さらにその妹は同じくトロイ戦争でギリシア側の総大将となったアガメムノンの妻のクリュタイムネストラーです。彼女はトロイ戦争から凱旋した夫を情夫と計って殺害しますが、後に娘のエレクトラと息子のオレストスとに殺されるという運命を辿りました。
レダと白鳥のカメオ 縞瑪瑙 (Leda and the swan - banded dyed agate)

成因と産状(Origine and Occurences)

 ペタル石とポルックス石共にリチウムに富むペグマタイト鉱脈に水晶、長石、アンブリゴ石、リチア輝石、エルバイト、緑柱石やリチア雲母等と共に結晶化して発見されます。
 ペタル石はジンバブエのビキタとスエーデンのヴァルトレスクからは数メートルもの長さの結晶が発見されます。
 宝石質の透明なペタル石はアフガニスタンのパプロック、イタリア・エルバ島のサン・ピエロ・イン・カンポやブラジル・ミナス・ジェライス州のアラスアイから10cm-20cm級の結晶が主な産地です。 
 近年、ビルマのモゴク産の淡褐色の結晶やルースが登場しました。
 ポルックス石は稀産の鉱物ですがカナダ・マニトバ州ベルニック湖のタンコ鉱山では数メートルに達するほぼポルックス石だけから成る鉱脈があります。
 宝石質の透明な結晶はアフガニスタンのペグマタイトに60cmもの結晶が発見されます。
パキスタンのギルギットやイタリア・エルバ島のサン・ピエロ・イン・カンポ、アメリカ北東海岸メイン州とコネチカット州のペグマタイトも宝石質のポルックスを産します。

Both petalite and pollucite occur in Li-bearing pegmatites often as large segregations in association with microcline, quartz, ambligonite, spodumen, elbaite, beryl and lepidolite.

Petalite : Gigantic crystals several meters long, come from Bikita, Zimbabwe; and Varuträsk, Sweden. Clear gemmy crystals up to 230mm across found in pegmatite cavities in Paproch, Afghanistan, also in San Piero in Campo, Elba, Italy. Crystals up to 100mm across occur in Araçuai, Minas Gerais, Brazil.

Pollucite : Almost monomineral layer of pollucite several meters thick occurs in the Tanco mine, Bernic Lake, Manitoba, Canada. White and colorless crystals from pegmatite cavities up to 60cm across come from Paproch, Afghanistan. Also known from San Piero in Campo, Elba, Italy, Maine, U.S.A. and Gilgit, Pakistan.
 
ポルックス石結晶 (Pollucite Crystal) ペタル石結晶 (Petalite Crystal)
 30x19x15mm
Drot, Gilgit, Pakistann
11x10x8cm
Paproch Afghanistan
 31x14x13mm
Minas Gerais, Brasil
23mm Paproch Afghanistan 52x32x24mm
Bikita, Zimbabwe

イタリア・エルバ島のポルックス石とペタル石 (Pollucite and Petalite of Elba Island, Italia)
沸石中のポルックス石結晶
(3.5cm pollucite crystal
on a zeolite matrix)
ペタル石(Faceted petalite) 右(right) 4.4ct カリ長石中のペタル石結晶 4cm
(Petalite in K-feldspar)
ペタル石結晶 2.4cm
(Petalite on
matrix with
elbaite, quartz and albite)

フィレンツェ大学自然史博物館
(Museo Storia Naturale
L'Università Firenze)
Federico Pezzotta Collection
  ポルックス石は、屈折率が1.52と水晶より低いにもかかわらずまるでアルミニウムのコーティングでも施した様に極めて強い煌きを見せるのが特徴です。
 本来が稀産鉱物のポルックス石となればカットされたルース自体が極めて稀です。
 かつてはツーソンの宝石フェアにでも行かねば出会うことはなかった典型的なコレクターの宝石でした。
 冒頭の写真のうち、米コネチカット州のペグマタイト地帯からのものは、私の標本こそ小さいのですが20年ほど昔に同産地の20カラットを越える、素晴らしく美しくカットされたルースをツーソンの宝石フェア見たことがあります。
 稀産のポルックス石の普通は2カラットに達することさえ珍しいのに20カラットを越える、しかも全く包有物を含まない完璧なルースには呆然とさせられました。US$3000余りの値段は今でこそ割安と思いますが、当時は得体の知れない宝石にとても払えるような値段ではありませんでした。
が、あの機会を逃したのは最大の不覚であったと、未だに悔やまれます。
 アメリカの北東部にはメイン州、ニューハンプシャー州、マサチューセッツ州、コネチカット州、ニューヨーク州、さらにはカナダにまで拡がる広大なペグマタイト地帯があり、稀産の鉱物を産します。
 Walden's Gem Mine は1962年に発見されたペグマタイトで、アクアマリン、ルベライト等と共に、当時は稀な宝石質のポルックス石結晶を産したことで知られています。
 現在は鉱脈が枯渇してしまいましたが、古い結晶在庫からカットされたと思われる6個のルースに2021年にまとめて遭遇しました。
 かなりの包有物を含みますが、歴史的な産地の貴重な標本です。
 かつて、ツーソンを含む、パリ、ミュンヘン、サンタ・モニカ等、各地の宝石フェアには何度も出かけましたがポルックス石は例え一個でもあれば幸運と言えるでしょう。
 ところが2000年10月のミュンヘン・ショーでバイカル湖の近くのチコイ川産を,そして4カラットを越える見事なアフガニスタン産を11月のバルセロナというマイナーな鉱物フェアにて立て続けに遭遇しました。
 現在はポルックス石のルースはかつて程稀ではなくパキスタンとアフガニスタン産を時々市場で見かけるようになりました。
 日本では茨城県の妙見山にて石英のような白い塊状のポルックス石が採集されました。ありふれた石英としか見えない鉱物をそれと識別したのは、鉱物の鉄人、掘秀道氏。
 日本では全くマイナーな鉱物の分野で孤軍奮闘されている在野の鉱物学者です。
鉱物一筋に歩まれた方だけあってその鋭い鑑識眼にはただただ脱帽するのみ。
 双子の兄弟のもう一人、ペタル石はブラジルの宝石ペグマタイトからかなり豊富に産出します。
最近では余り美しくはありませんがビルマのモゴク産もよく見かけます。
 したがって10カラットを越える大きな石でも極めて妥当な値段で日常的に入手が可能です。

Despite low R.I. of 1.52, lower than quartz, faceted pollucite shows remarkable brilliance like aluminum coated line stone.
A typical collector's gemstone, pollucite was one of the most rare one to encounter in the market, in the past. And if we encounter, fortunately, most of them are small and more or less included one. However, once I saw some 20 years ago at Tucson show and incredibly perfect stone of over 20 carat from Connecticut, U.S.A. It was my gretest regret that I missed that stone. Then I could not realize the vlue of the pollucite of tht size and quality. AT 2000 Munchen show, I encountered 1.54 stone from Chikoy River, Siberia, then one month lator, over 4 carat stone from Afghanistan at November Barcelona show. Today, pollucite from Afghanistan and Pakistan is readily available at reasonable price level.

 Another brother of thw twin, petalite is relatively abundant and large stone over 10 carat from Brazil is always available. Recently brownish petallite from Mogok, Burma is available too.
 
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