灰水鉛鉱・パウエル石(Powellite)

自然光 (under daylight) 紫外線下 (Ultraviolet illumination)
   
Jalgoan, Maharastra, India 


   
 1.26ct 6.6cx5.3mm 0.11ct Ø2.90x2.03mm 
Jalgoan, Maharastra, India


化学組成 
(Formula)
結晶系 
(Crystal System)
モース硬度 
(Hardness)
屈折率 
(Refractive Index)
比重
 (Density) 
 CaMoO4 正方晶系 
(Tetragonal)
3½ - 4  1.974-984   4.26-34

名前と産状(Name and Occurence)

 アメリカの地質学者 John Westly Powell(1834-1902)に因んで命名された、産出の稀な鉱物で和名は灰水鉛鉱です。
 化学組成から明らかなように、タングステンの主要鉱石である灰重石(CaWO4) のタングステンが周期律表第6族に同じクロム族に属するモリブデンに置換された化学組成を持っているため、灰重石との間にタングステンとモリブデンとの成分比が連続的に変化する固溶体として産するかと思いました。 事実、そのような鉱物は人工的には合成されているとのことです
 しかし、自然界では灰重石にモリブデンを4%以上含むものは知られてなく、灰水鉛鉱に含まれるタングステンの割合は10%を超えない、とはリンクしている ”鉱物たちの庭 ”のパウエル石の記述にあります。
 天然の灰重石と灰水鉛鉱の成分分析をした資料(そんなものがあったらの話ですが)を確認したわけではありませんから、SPSさんの記述に倣う次第です
 産状は、モリブデン鉱床の地表付近の酸化地帯に生成し、時にペグマタイト鉱床にも発見されます。
    モリブデンとタングステン鉱山に稀に発見され、かつて日本の鉱山でも産したことがあります。
   現在は、主にインドのマハラシュートラ州、ナシクやジャルゴンと、チリ、アタカマ砂漠にある
   Inca de Oro 銅山とから宝石質の結晶を産し、極めて稀ではありますがルースがカットされます。

インド産の結晶とルース (Powellite Crystals and faceted stones from India)
           
沸石を伴うパウエル石 2㎝  スコレス沸石を伴う
パウエル石 108x75mm  
  3.3x2.0x2.0cm  2.5x1.5x1.5cm  素晴らしく透明なルース 
Nasik, Jalgoan, Maharashtra, India 

 インドのパウウェル石産地はデカン高原の北西端、ボンベイ周辺の魚眼石産地と重なり、沸石を伴って産します。
恐らくかつての噴火活動による玄武岩溶岩流の末期にモリブデンやタングステンを含む熱水鉱床が形成された際にパウウェル石の結晶が生成されたのでしょう。
 極めて稀ではありますが透明度の高い結晶が発見され、カットされることがあるようです。
かつて、パリ大学、マリー・キュリー校の鉱物博物館にて、4カラット程の大きさの明るいレモン・イエローのパウウェル石のルースを見たことがあり、その美しい色合いが未だに強く印象に残っています。
 が、その後、極めて稀に見かけるルースも結晶も明るいレモン・イエローはありません。
資料によると、パウエル石は波長200nm 以下の短紫外線に反応してレモン・イエローの蛍光を発するとのこと。
 どうやらパリ大学の博物館のルースは短紫外線を照射していたのかと考えられます。 
手持ちのランプは一般に売られている長波長紫外線の筈ですが、試しに照射したところ、やや暗い場所では黄色の蛍光を発するのが確認できました。

チリ産の結晶とルース (powellite crystals and facted stone from Chile)
       
26.5x5.3x3.9cm  0.16ct  1.93ct Ø7.2mm  16.07ct 
Jardinera No.1 Mine, Inca de Oro Copper Mine, Chañaral Prov. Atacama, Chile 
 チリのアタカマ砂漠一帯には金、銀、銅、鉄、鉛、亜鉛、モリブデン、タングステン等の豊饒な金属鉱床地帯が数多くあります。
 したがって、パウウェル石のような稀産の鉱物が採れても不思議ではありません。
 チリのインカ・デ・オロ銅鉱山のパウエル石は1997年に発見された銅とモリブデンの新鉱物 Szenicsite ( Cu
3(Mo4)(OH)4 )に伴い稀に産出します。
写真のように美しい色合いの標本を産しますが、稀にカットされるのは残念ながら大半が不透明ー亞透明の余り見映えのしない標本級のルースのみです。
 この色は0.02~0.3%の銅の不純物による発色です。


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