水晶(Rock
Crystal)
121ct 40.5x25.5mm Habachtal Austria |
344ct 52x36x29mm Madagascar |
100ct Ø29.2mm Siberia |
化学組成 (Formula) |
結晶系 (Crystal System) |
モース硬度 (Hardness) |
比重 (Density) |
屈折率 (Refractive Index) |
SiO2 | 三方晶系 (Trigonal) |
7 | 2.65 | 1.55 |
煙水晶と透明な平行連晶 15x15x10cm Gwindel Grison Switzerland Photo Courtesy Arken Stone |
8x7x5cm Russia | 6x5x4cm Huanzala鉱山 Peru Photo : Arken Stone |
世界一透明といわれる アーカンソーの水晶8x5x4cm Montgomery Co. Arkunsas U.S.A. Photo:Arken Stone |
ハーキマーダイヤモンドと 呼ばれる両錐を持つ結晶 2p Herkimar New York U.S.A. |
日本式双晶 甲斐の国 イギリス自然史博物館 |
4角柱状の水晶 7cm Brazil |
曲がり水晶 8cm 甲府市 金峯山 |
松茸(セプター)水晶 4cm |
ファントム水晶 4cm Cristalina Goias Brazil |
柱面の周囲に発達した水晶 5cm Madagascar |
水晶はごく普通の透明な結晶も魅力がありますが,その他にも実に様々な姿で見るものを楽しませてくれます。
これらの結晶がどのような条件で結晶したのか思いを巡らせるのも楽しいことです。
理想形 | 右水晶 | 左水晶 | ドーフィーネ式双晶 | ブラジル式双晶 | 日本式双晶 |
水晶は珪素原子と酸素原子が形作る正四面体構造が螺旋形成長した結晶です。
螺旋の方向が右回りと左回りとに成長した結晶があって,それぞれ右水晶,左水晶と呼ばれます。
X面が肩のどちら側に現れるかで見分けます。
また右水晶と左水晶とが結晶の縦軸(c軸)を共有して透入した双晶をブラジル式双晶,右または左水晶同士の双晶は
ドーフィーネ式双晶と呼ばれます。
結晶の主軸が84º33´の角度で交わる傾軸式双晶は日本式双晶と呼ばれます。
ドーフィーネとはフランスのグルノーブルの南部に広がる山岳地帯です。
いずれも産地の名に因む命名ですが,特産というわけではありません。
世界の何処の水晶産地にもこれらの双晶は普通に発見されます。
天然の水晶は大半が双晶で産出します。日本式双晶は蝶々のような形からそれと分かりますが,
普通の結晶がブラジル式とドーフィーネ式とのどちらに相当するのかは簡単には分かりません。
柱面と菱面の間の肩に当る部分のX面が見られる結晶なら,どの柱面にも連続して現れていればドーフィーネ式双晶,
一つおきに柱面の両肩に現れる場合はブラジル式双晶です。お手持ちの結晶を調べてみてください。日本式双晶
甲府 乙女鉱山産の日本式双晶 左 8cm 右 幅8cm 左下 2.5cm
長崎県奈留島水晶岳
9.5x8x3cm Brumado
Bahia BrazilLa Gardette France 17x11cm
イギリス自然史博物館22x25cm Madagascar 鉱物の分野で日本の標本が取り上げられるのは愛媛県の市ノ川鉱山産の輝安鉱と並び,日本各地に産した水晶で,
日本式双晶と呼ばれるようになった傾軸式双晶の二つが代表的なものです。
いずれも明治時代に海外にまでその名を轟かせた見事な結晶です。
平板状の標本が多いのですが柱状でも日本式双晶は起こります。
冒頭のイギリス自然史博物館の標本には産地が甲斐の国と表示してあり,明治時代に伝わった事を偲ばせます。
古くから日本産の標本が世界に紹介されたために日本式双晶の名が定着したものですが,写真のように世界各地の
水晶産地で採れる結晶で,それほど稀ではありません。
ブラジルのブルマードは菱苦土鉱(マグネサイト:炭酸マグネシウム)の層の中に晶洞があり,その中に灰電気石や
エメラルド,トパーズ等の美しい結晶が発見される珍しい産状で知られています。
フランス・アルプスのラ・ガルデットとマダガスカルは典型的なアルプス型の熱水鉱脈でいずれも美しい水晶の産地です。
山梨県の水晶はペグマタイト性の鉱脈で,乙女鉱山はタングステンの鉱山の脈石として石英脈中に双晶が成長したものです。
長崎県奈留島では砂岩中を貫く石英脈に産します。
いずれも6角柱状の結晶と共生して平板状の結晶も発見されますが,日本式双晶の方が晶出の時期が遅く,
そのため低温で結晶したものと考えられています。
日本ではその他にも大分県豊栄鉱山の錫鉱床,山口県大和鉱山や岐阜県洞戸鉱山のような銅,鉛,亜鉛の
接触鉱床と,日本式双晶が広汎な産状を見せましたか。
しかし岐阜県苗木や滋賀県田上山のような代表的なペグマタイト鉱床からは発見されていません。
どうしてこのような平板状の結晶になるのか,未だに明確な答えはありません。ファーデン水晶の成因についての考察
6.5x4.5x2.5cm
Montgomery郡
Arcansas U.S.A.
Photo:Arken Stone6x5x4cm 8x6x6cm
北Baltistan Pakistanファーデン水晶と呼ばれるものを時々見かけます。
ファーデンとはドイツ語で糸とか紐のことですが,水晶の内部に糸や縫い目のような筋が通っていることからこう呼ばれています。
何故このような水晶が出来たのかについては,ものの本や,店頭等では,一度出来た水晶が地殻変動か何かの原因で割れて,
それが後に再び結晶したものだと説明されています。
確かにファーデン水晶の接合部には亀裂や微細な水泡や気泡が集まっていて,如何にも割れた跡のように見えます。
しかし地殻変動が個々の結晶を直撃したという説明は無知蒙昧な思いつきでしかありません。
このような荒唐無稽な説明が未だにあちこちでまかり通っているのはいささか驚きです
何故なら、水晶には劈解性がありませんから,たとえ金槌で叩いても破断面が貝殻状の無数の破片が飛び散るだけで
中心から真っ二つに割れるようなことは決して起こりません。
殆どのファーデン水晶に見られる、中心部の縫い目を境に左右対称に結晶が発達している様は、むしろこれが割れた跡が
再びくっついたのではないことを証明するものです。
ファーデン水晶は多くはありませんが出るときにはかなりの数がまとめて出まわります。
写真のバルチスタン産は2001年のフランスのサント・マリー・オ・ミーヌの鉱物フェアで入手したものですが,
ブースに大量にあって,恐らく複数の晶洞からまとめて採集されたものと思われます。
同じくアーカンソー州産も冒頭の写真の透明なファーデン水晶の他にも複数の標本が一度に出品されていたものです。
また前述の日本式水晶も殆どがファーデン水晶と呼べるものです。
いずれにせよ,水晶は造山活動などの地殻変動で珪酸分に富む熱水が岩盤の割れ目に貫入して結晶する鉱物です。
個々の結晶が割れて,それが再び成長したという,ほとんどありそうもない出来事を想定するほどのこともありません。
即ち,過飽和状態の熱水中で何かの衝撃で気泡や水泡が大量に発生することは充分考えられますが,それがきっかけとなって
水晶の結晶の成長が促されたと考えるのが自然です。
気泡や水泡を起点に成長が始まれば最終的には左右対称の結晶が出来あがります。
冒頭の写真の曲がり水晶も,一説では一旦割れた結晶が云々との怪説があります。 これも賛成できません。
結晶が成長する際に,熱水溶液の温度や濃度,圧力が一定に保たれることは合成装置の中ならともかく自然の条件では
まずあり得ません。
結晶は刻々と変化する条件下で成長するのが普通ですから,そのために結晶格子のずれ(転移)が常に起こります。
シャツのボタンを一つ掛け間違えたのと同じように,ひとたび転移が起きた結晶面は成長が進むに連れて次第に結晶面の
曲がりが拡大され,目に見えるほどになったのです。ファントム水晶
ゴイアス州産水晶 4cm ナミビア産の紫水晶のファントム ブラジルの紫水晶のファントム
水晶の中にほかの水晶が入っているものがあります。
ファントム(幽霊)とは良くぞ名付けたもので,まさに結晶の中に,幽霊のように何重にも重なった結晶の稜線が見えます。
特に珍しい現象ではなく,螢石等他の鉱物結晶にも良く見かけるものですが,何と言っても透明な水晶ではその効果が明瞭に見え,
美しいので人気があります。
これも結晶成長の際に,気泡や水泡,あるいは着色原因である鉄等の不純物が結晶の面や稜線に選択的に取り込まれた過程が
記録されたものです。
水晶の名前について
かつてギリシア人は岩の間に発見される透明な鉱物は氷が石になったものと考えて ”krystallos :クリスタロス=氷” と呼びました。
クリスタルとは従って水晶が語源ですが,今日では結晶一般,またクリスタルガラスのように,透明度が高く水晶のように煌くガラス等々
広汎に使われるようになりました。
水晶はまた,クォーツ(Quartz) とも呼ばれます。これは15世紀に恐らくスラヴ語を語源として古ドイツ語に入った単語で鉱脈を横切る
岩脈を意味する ”Quaderz または Quertz” から起こった言葉です。
Quartz (ドイツ語ではクヴァルツと発音されますが) とは,金属鉱脈を横切る,鉱石としては役に立たない石英脈のことです。
こんにちではクォーツとは瑪瑙や玉髄,蛋白石(オパール),さらに不純物を含む緑色の碧玉,鉄分等の不純物で赤く見える赤玉等々,
石英全般を指し,特に結晶形を示すものが水晶と呼ばれます。
一方,宝飾品となると加工されてしまっているので元の結晶形など分かりませんが,一般に透明な石英は全て水晶ということになっています。
ただし,中国では魏や唐の時代の古い文献では結晶形を示すものは白石英と呼ばれていました。
そして明の時代の文献では水晶または水精と呼ばれていたのは結晶ではない塊の方でした。
従って日本語の石英と水晶との呼称は,本来の中国のそれとは逆になってしまっています。
因みに石英とは”石の花”の意味で,水晶に相応しい美しい呼び名です。
現在の中国語でも石英と水晶となっていますが、ともあれ,一般に定着している呼称に従って,結晶形を示す石英を水晶と呼ぶことにします。
さて,化学組成から分かるように,水晶は酸化珪素の結晶です。地殻中に含まれる元素のうち酸素が約50%,珪素が25%とそれぞれ
第1位と2位を占める元素の化合物ですから,当然のことながら石英とその結晶である水晶も何処にでもいくらでもある鉱物です。
素晴らしく透明な美しい結晶が,しかし,ふんだんにあるという事は自然の恵みとしか言い様がありません。
したがって何処の鉱物フェアでも世界の様々な産地からの様々な色や形の水晶が主役となっています。
水晶の宝飾品の数々
紫水晶や黄水晶とは異なり,無色透明な水晶がルースとして宝飾用に使われることは今日ではめったにありません。
昔は高価だった水晶のネックレス等の装飾品が今日では手頃な値段で出まわっていますが,全てが水晶発振子用の合成水晶を
加工したものです。
冒頭のルースは,エメラルドで名高いオーストリア・アルプスのハーバッハタール産等の特に大きなルースが珍しくて入手したものです。
写真では光の反射等により灰色や黒い影が写っていますが,実物は完全に無色透明なルースです。
ハーキマー・ダイアモンドと呼ばれるのは,アメリカ,ニューヨーク州のハーキマー村の火山岩の晶洞の中から発見される極めて透明度が高く,
さらに両端がついた,いわば理想形に限りなく近い水晶です。
自然のままの結晶ですが,透明度が高く,強い煌きを持ち,まるでカットされたダイアモンドのように見えることから名付けられました。
同様の結晶は中国など,世界各地から発見されますが,透明さではハーキマー産に匹敵するものはありません。
結晶を加工せずにアクセサリーに使ったも十分見映えがします。
こうした宝飾品以外にも,昔から大きく美しい結晶がふんだんに得られるため水晶がさまざまな装飾品や高級な食器などにも使われて
いました。
水晶の杯 17世紀ミラノ ファベルジェの”冬の卵” 水晶製の卓上噴水 44p 水晶の”Music of Nature” Egg プラド美術館 個人蔵 ウィーン美術史美術館 サンクトペテルブルグ 工芸学校
最初の水晶の杯は,アルプス産の水晶を使って作られたものです。この種の工芸品は珍しくはありませんが,この17世紀にミラノで
作られたものはとりわけデザインと彫刻の技巧とが見事な美しいものです。
次のファベルジェの卵は1994年にスイスのジュネーヴェで行われたクリスティーズのオークションで6億円余りで競り落とされた
ファベルジェの”冬の卵”です。
水晶の台と卵と中の白金の花篭とを2700個余りのピンクダイアモンドと300個のダイアモンドが飾る世界で最も高価な卵です。
ファベルジェはロマノフ王朝時代のサンクトペテルベルグの宝石商で,世界の王室や大富豪向けに贅を凝らした宝石と貴金属の
装飾品を作りました。
とりわけ復活祭のために宝石と貴金属等で作った精緻を凝らした卵は有名で1885年から1916年の間に合計56個の卵が作られました。
中でも1913年に皇帝ニコライII世が母親に贈った”冬の卵”は当時の価格で24,600ルーブル(現在のドルで20万ドル相当)と全ての卵の中でも
際立って高価なものでした。
値段もさる事ながら,20世紀初頭に小粒とは言え,極めて稀なピンク・ダイアモンドが2700個も良くぞ集まったものと感心せざるを得ません。
水晶製の卓上噴水は尻尾から水を注ぐと胸から噴水となってほとばしり,足元の貝の皿に落ちて音楽を奏でるという凝った仕掛けです。
”Music of Nature”卵は現代の作品です。
ファベルジェの伝統が70年余りの共産主義政権下でも途絶えることなく,精緻な作品が現在でも製作されていることは奇跡のようなものです。