ルチル水晶(Rutilated Quartz)
バナナの形に研磨されたルチル水晶 11.3x5cm Brazil |
5.53 - 28.1ct | ||||
Brazil and Pakistan |
9.84ct 18.0x11.4x5.0mm | 20.55ct 25.7x14.2x10.6mm | 12.2ct 16.1x12.1x7.2mm | 8.81ct 14.4x12.1x9.4mm | 11.30ct 17.0x13.6x8.2mm |
Brazil | Pakistan |
28.1ct 21.5x20.0x7.8mm | 12.86ct 16.9x11.6x7.4mm | 5.53ct 17.7x12.6x4.5mm | 7.08ct 17.3x12.7x6.1mm | 10.37ct 16.2x12.2x7.9mm | 11.3ct 16.0x12.1x7.6mm |
Brazil |
微細なルチル結晶による スター水晶のカボション |
フリーフォームの装飾品 | 針状ルチル水晶のキャッツアイ 13x13mm 11x9mm |
”House of Mirrors”
28.93ct R.P.Homerの作品 |
スターバースト・カボション Gerhad Becker |
瑪瑙板上にルチル水晶を 接着した作品 |
石英は熱水中に溶け込んだ珪素と酸素とが常温,常圧から1000℃,2000気圧を超える高温,高圧に至る広汎な条件下で結晶する鉱物です。
ペグマタイトや熱水鉱床は初めは高温高圧ですが,次第に温度と圧力が下がって行きます。
先に高温高圧下で結晶して熱水中を漂っている緑柱石,トルマリン等の鉱物結晶を,最後に結晶する水晶が取り込むことが稀ではありません。
鉱物フェアで”草入り水晶”として良く見かけるのがそうした鉱物の結晶を内包する水晶ですが,一般には赤鉄鉱,針鉄鉱,鱗鉄鉱,チタン鉄鉱,緑閃石,電気石等の針状,または薄片状の結晶が含まれています。
中でもルチル(金紅石:TiO2:酸化チタン)の金色や赤の針状結晶が含まれると,美しい煌きを見せるため,宝飾品としても高く評価されます。
大きな結晶が手頃な値段で得られるため,普通の宝飾品の他に,自由なデザインによる多様なカットによって,他の宝石では見られないような新鮮な印象を与える作品が多い事がルチル水晶の特徴でもあります。
さて,下の写真の赤い結晶は稀に見る美しいものですが,一般にはルチルは余り魅力のない濃褐色の不透明な結晶や塊として産出します。
ところが,その微細な結晶が多くの鉱物の包有物として含まれる場合にはルビーやサファイア等多くの宝石のキャッツアイやスター効果を演出します。
宝石の魅力を惹き立てる陰の立役者とも言えるでしょう。
水晶の場合にも微細なルチル結晶はキャッツアイ効果を見せますが,下の写真のような ” スター・バースト : 銀河同士の衝突により星が爆発的に生まれる状況を意味する天文学の用語 ” と呼ばれる赤鉄鉱の結晶から成長した金色の大きな放射状の結晶が水晶に含まれると,とりわけ豪奢で魅力ある鉱物となります。
こうした金色のルチルの結晶を含む水晶は宝飾用にカボションカット,あるいは全く自由なスタイルの様々なカットが行われれて,他の宝石には見られない独特の美しさを発揮します。
ルチル結晶 高さ 5cm Mananara Madagascar |
”Starburst”と呼ばれる ルチルの結晶 7cm Ibitiara Bahia Brazil Los Angeles郡自然史博物館 |
ルチル水晶の研磨品 33mm Bahia Brazil |
アクチノライト を含む水晶 |
トルマリンを含有する石英 75mm Minas Gerais Brazil |
中央にトルマリン結晶を 配置してカットされた水晶 7.1mm 1.68ct |
ベルント・ムンシュタイナーとローレンス・ストールの作品
ムンシュタイナーと100kgの”Metamorphose” | 高さ 30cm | 高さ 25cm | ペンダント | シトリンの指輪 |
"Boat of Nile" 25x38cm | ||
271kgの”Bahia”と作者の Glen LehrerとL.Stoller |
”Star Born ” スト−ラーと153kgのルチル水晶 |
前述のようにルチル入り水晶は宝飾用やコレクション用に広汎に研磨されますが,時折採れる大きな結晶が芸術的な作品として彫刻されることがあります。
最初にルチル水晶を独創的なカットで芸術的な装飾品として脚光を浴びたのは1988のミュンヘンショーにてドイツの宝石研磨の中心地である,イダー・オーヴァーシュタインのゲルハルト・ベッカー(Gerhard Becker)の作品です。
もっとも当時は”スターバースト”への一般の関心が高かったわけではありませんから,テーブルに沢山並べられたカボションはごく普通の値段で売られていました。
しかし,たまたま多くのカボションに完璧なルチルのスターバースト結晶が含まれていたためその美しさが評判となり,それが翌1989年のミュンヘンショーのテーマとなった”スター・ストーン”のロゴとして採用されるに至って人気が爆発したというのが真相です。
以後ルチル水晶を素材とした独創的な作品が続々と現れるようになりました。
ドイツのベルント・ムンシュタイナーとアメリカのローレンス・ストーラーはその代表的な作家です。
彼らは水晶以外にもアクアマリンやトルマリン等,大きく美しい宝石質の結晶を使った作品を多数発表しています。
けれども他の鉱物とは比較にならないほどの巨大な結晶が採れるルチル水晶は,彼らの手にかかると圧倒的な存在感を持つ絢爛たる作品へと変容します。これらの作品は世界各地の美術館や博物館に買い上げられて訪れる人々を楽しませています。
こうした巨大な彫刻とは別に,彼らの主な仕事は一般向けの宝飾用のルースやカボションのカットやデザイン等です。
かつて銀座の宝石店で洒落たデザインのシトリンのリングを眺めていたら,ムンシュタイナーのデザインでした。
銀にシトリンの組み合わせでしたから高名な作家の作品とは言え,ポケットマネーで手軽に入手できる程度の値段でした。
産地に因んで”Bahia”と命名された360kgのルチル水晶の原石は1987年にブラジル・バイア州のコーヒー農園で偶然発見されました。掘り出すのに25人で10日もかかったほどの大きな結晶でした。
発見の1年後にグレン・レーラーとローレンス・ストーラーの二人に石の研磨が依頼されました。内部に亀裂があったため原石は3分割されましたが,二人は実に7年かけてカットし,最終的に最大部分が210kg,全体では271kgと,世界最大のペンダントに仕上げました。
1999年にシカゴのカーネギー博物館,2000年にはロス・アンジェルスの自然史博物館を経て同じくカリフォルニアのカールスバードにあるGIA(アメリカ宝石学協会)の本部に貸し出されて展示されています。
GIAではこの世界最大の宝石ペンダントを恒久的に展示するために”Save Bahia”キャンペーンを展開中で,500人から一人1000ドルづつ,合計50万ドルの寄付金を募っています。寄金者の名前は黒い花崗岩に刻まれて,ペンダントと共に展示される事になっています。
ルチル水晶の産地と産状と値段
どちらもありふれた鉱物ですから,ルチルを含む水晶は世界各地に広汎に発見されます。
ヨーロッパ・アルプス,ロシア,アメリカのノース・カロライナ,ニューハンプシャー,ヴァーモント,カリフォルニア等の各州,またマダガスカルからもかつて美しいルチル入り水晶の産出が記録されています。
しかしながら,現在市場のルチル水晶の供給の殆どはブラジルです。
ゴイアス州やミナス・ジェライス州のディアマンチーナからも時折発見されますが,バイア州のイビチアラ(Ibitiara)とノヴォ・オリゾンテ(Novo Horizonte)が最も重要な産地です。
上記の彫刻に使われた巨大な結晶や,スター・バーストを見せるルチル結晶入りの水晶,またキャッツアイやスター効果を示すものもこの二つの産地からに限られます。
バイア州の産地では変成作用を受けた安山岩を貫く石英脈の晶洞中にルチル入りの水晶が発見されます。鉱脈は地下10〜15mの深さににトンネルを掘り進んで採掘されます。
1940年代には通信機の発振素子を得るために水晶の単結晶の採掘が行われていたので,その用途に使えないルチル入りの水晶は放棄されていました。
1950年代には,ルチル水晶は,ただ大きな袋を引きずってズリ山に捨てられていたものを幾らでも拾う事が出来たとのことです。
かつてはただ同然で拾われたものでしたから他の水晶同様安価なルチル水晶でしたが,高名な作家の手になる彫刻品等により人々がその美しさに注目するようになり,当然のことながら価格も急騰しています。
とりわけ数が少ない”スターバースト”は人気の的で,現在では2〜3cmの完全なスターを示すカボションは1000ドルと,たかが水晶とは言えないような水準です。
これは卸の値段ですから,ペンダントなどの宝飾品に加工されれば市価は天上知らずとなります。
もっとも2〜3cmのスターバーストを内包する水晶のカボションは数十カラットの重さになりますから,カラット当りの値段を考えれば必ずしも途方もない値段と言うわけではありません。
ルチルを含む水晶の5cm程の大きさの結晶なら(ルチル水晶が完全な結晶形で産出する事は稀ですから,結晶塊から水晶の結晶形に研磨加工したものです)1個1000円程度からと手軽な水準です。