金紅石・ルチル
 (Rutile)



ルチル(Rutile)
0.32ct 5.0x3.5mm
ルチルキャッツ・アイ
(Rutile Cat's eye)
0.65ct 5.2x4.6mm
ルチル(Rutile)
1.21ct 4.6x3.4mm
合成ルチル 1.45ct 6.7mm
(Synthetic rutile)
鋭錐石(Anatase)
0.32ct 4.4x4.0mm
Pakistan Srilanka Brazil Russia Brazil


 
赤鉄鉱上のルチル結晶 2cm
(Rutile on hematite)
ルチル結晶 4cm
(Rutile)
格子状の結晶 15mm
(Sagenite)
水晶上の板チタン石
(Brookite on quartz) 10mm
水晶上の板チタン石 55x40x25mm
(Brookite on Quartz)
曹長石上の鋭錐石
(Anatase on quartz) 4mm
Novo Horizonte, Bahia, Brazil Hochmarr Swiss Tremaddoc, U.K.  Pakistan Val Malenco, Italia


化学組成
(Composition)
結晶系
(Crystal system)
結晶形
(Crystal form)
モース硬度
(Hardness)
比重
(Density)
屈折率
(Refractive Index)
金紅石
(Rutile)
TiO2 正方晶系
(Tetragonal)
 6 - 6 1/2  4.2-3 2.616-903
鋭錐石
(Anatase)
TiO2 正方晶系
(Tetragonal)
5 1/2 - 6 3.8-9 2.493-554
板チタン石
(Brookite)
TiO2 斜方晶系
(Orthrhombic)
5 1/2 - 6 4.10 2.583-700

名前と産状(Name and Occurence)

 金紅石は同じ二酸化チタンの組成を持つ板チタン石と鋭錐石等、5種類の同質異像の鉱物の一つです。
 いずれもアルプス型の変成作用を受けた熱水鉱床やペグマタイト鉱床に産しますが、生成時の温度や圧力の違いにより硬度、比重、結晶系の異なる別種の鉱物となります。
 金紅石の和名は、金色や濃赤褐色の色合いに因みます。”Rutile"の名もラテン語の "rutilus : 赤味を帯びた” に因みます。
  結晶は柱状、ピラミッド状、更に正方膝型接合双晶、正方輪座三連晶など、魅力的な姿の連晶で産出することもあります。
 鋭錐石の和名は、槍の穂先のような鋭く尖った結晶形に由来します。欧米の呼び名、アナターゼはギリシア語の ”anatasis : 引き伸ばす” に由来します。
  他の正方晶系の鉱物との比較で結晶のピラミッド面が底面より長いことに因む、フランスの鉱物学者、Haüyによる苦心の命名です。
 板チタン石の名はイギリスの鉱物学者 H.J. Brooke (1771-1857) に因みます。
和名は薄い平板状の結晶形に因んだもの。


宝石質の金紅石(Gem quality rutiles)
金色のルチル結晶を含む水晶
(Quartz jewelery with golden rutile inclusion)
12.8ct 9.8ct 5.5ct 13x13mm 11x9mm Free form carving "Star Born" by L. Stoller
Bahia, Brazil
  冒頭の写真のように宝石質の金紅石や鋭錐石、或いは板チタン石が発見され、宝石としてカットされることがあります。
 しかしながら透明度の低い、1カラット未満の小さく見映えのしないルースが大半ですから、コレクターが標本用として求めるのみです。
 キャッツ・アイ効果を見せるルチルは何故かスリランカから極めて稀に発見されます。
恐らく繊維状のルチル結晶の集合体を研磨したためにキャッツ・アイ効果が起きるのではないかと思いますが、全く不透明なのではっきりとは分かりません。
 金紅石は鉱物の中では最も高い屈折率と複屈折と分散値を持つ鉱物です。
即ち透明な結晶はダイアモンドをはるかに凌ぐ煌きとファイアを放ちます。
 従って1948年に登場した透明な合成ルチルの結晶はチタニアの名称で手頃な値段のダイアモンドの代替品として一世を風靡したものです。
  しかしながら余りにもぎらぎらと光りすぎて如何にもダイアモンドの贋物の印象が強く10年足らずの短命に終わりました。
 金紅石が宝石として脚光を浴びるのは、その針状結晶が水晶に包有物として含まれる場合です。
ルチル・クォーツとして、ありふれた水晶が金色に輝く数十倍も高価な宝飾品や、工芸品に変貌します。ルチル水晶の殆どはブラジル・バイア州産です。
 更に、ルビーやサファイア、クリソベリル等、他の宝石類のキャッツ・アイ効果を演出するのも、実はルチルの微細な結晶が包有物として含まれるためです。
 針状、繊維状、格子状のルチルの結晶は、ラテン語で網や格子を意味する ”sagena” に由来する、サジェナイト(sagenite)とも呼ばれることがあります。

金紅石の発色について(About rutile color)

 合成ルチルがダイアモンドの代替品として登場したくらいですから、純粋な金紅石はほぼ無色透明です(紫外線領域から430nmへの吸収特性によりやや黄色味を帯びます)。
 天然の金紅石には不純物の鉄、錫、ヴァナジウム、クロム、ニオブ、タンタル等が2〜30%と高濃度で含まれ、殆ど不透明な濃赤褐色〜黒となります。
 精製された二酸化チタンの粉末の個々の結晶は無色透明ですが集合体は乱反射により純白の粉となり、無害で安定度の高い顔料、塗料、化粧品、更に様々な電子部品の材料として大量に使われています。 
 ルチル水晶に含まれる針状結晶が金色なのは反射率と吸収特性とが金のそれと近いためと考えられます。

合成ルチル(Synthetic Rutile : TiO2

ー ダイアモンド・イミテーションの歴史 −

初期のチタニア 100ct
(Early Titania)
チタニア 7.83ct
(Synthetic Rutile : Titania)
ストロンチウム・チタナイト 2.13ct
(Strontiumu Titanite)


 随分、というより最早半世紀も昔、庶民にとってはダイアモンドなど夢のまた夢の時代のことでしたが、チタニアと呼ばれる眩く光り輝く宝石が市場に登場しました。 正確には合成ルチルでした。
 あらゆる鉱物の中で最も高い屈折率と複屈折 (0.287) と分散値 (0.300) とでダイアモンドも顔色を失うほどの輝きを見せる宝石です。 
  天然のルチルは暗褐色で不透明な鉱物ですから到底宝石にはなりません。
が、ルチルを精製した二酸化チタンは白い粉となり、ペンキや顔料に使われます。
 火炎溶融法で結晶させた酸化チタンは暗青色から黒い色ですが、酸素中で熱処理をすると次第に色が淡くなり、最後は透明な淡黄色になります。
 これをカットしたものがチタニアとして1940年代末期から、ダイアモンドのイミテーションとしてかなりの人気を呼びました。
 しかし残留している微量の窒化チタンのために強い黄色味を帯び、さらに余りにもぎらぎらと輝きすぎて安っぽく見えるのが災いし、短命にして市場から姿を消しました。
 その後1953年に同じ塗料会社の National Lead 社が黄色味を取るためにストロンチウムを加えた合成結晶を Fabulite(魅惑の石)の名で売り出しました。
 この新合成宝石はストロンチウム・チタナイト (SrTiO3 : チタン酸ストロンチウム)と呼ばれ、天然には存在しない人工の鉱物です。
  ストロンチウムを加えたことでダイアモンドと同じ等軸晶系の結晶となりチタニアのような複屈折がありません。 その上屈折率はダイアモンドと同水準、分散は4倍強の0.190と強いファイアーを見せます。
  比重が5割ほど高い5.13、モース硬度はいささか低い6ですが、しかし見た目にはダイアモンドに最も近い宝石として1990年代の初め頃まで市場で見かけられました。
 1960年代末に究極のダイアモンド・イミテーションであるキュービック・ジルコニアが開発され、その後生産量が10億カラットと激増して価格がカラット当り100円以下に劇的に下がったため、他の全てのイミテーションが市場から一掃されてしまいました。

合成金紅石の最先端技術での活躍
(Synthetic rutile employed in the high technology field)


                 光アイソレーターの原理と素子
 
  ダイアモンドの代替品として登場し、短命に終わった合成ルチルが、半世紀後に最先端技術の分野に復活しました。
 光ファイバー通信に不可欠の光アイソレーター用の素子としての用途です。
 光ファイバーは高速、大容量通信の主役ですが、実用に当たっては無数の光ファイバーや中継アンプ等を経由して信号が送られます。
  その接続時に発生する反射戻り光による雑音が実用上の大きな障害となります。
 この反射戻り光の発生を防ぐために光アイソレーターが考案され、光送信時のレーザーや光増幅器に組み込まれます。
 その中枢部に使われるのが合成ルチルの複屈折結晶と、YIG, BIG, TGG, TSAG 等の合成ガーネット薄膜のファラデー回転子とを組み合わせたものです。
 これらの結晶の光学特性を利用して反射戻り光を順方向の信号と分離し、雑音を激減させる光アイソレーターが開発されたことで、光ファイバー通信網の実用化が可能となりました。
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