柱石(Scapolite)

 

世界のスカポライト 0.60 - 7.60ct


化学組成
(Composition)
結晶系
(Crystal system)
モース硬度
 (Hardness) 
比重
 (Density) 
屈折率
(Refractive Index)
Na4Al3Si9O24Cl -
  Ca4Al6Si6O24CO3
正方晶系
(Tetragonal)
5½ - 6½ 2.55-80 1.55-57



結晶形 25x15mm 21x11mm 23x8mm 22x9mm 石英中の結晶 30mm
Madagascar Pamir Mtns. Laurinravi, Finland
38x22x17mm 49x40x32mm 55x11x7mm 52x23x21mm 柱状結晶の集合 150mm
Mogok, Burma Morogoro, Tanzania Morogoro, Tanzania 長野県甲武信鉱山 Japan
スリランカのスカポライト(Srilankan Scapolites)
   
 4.4ct 11.0x10.0mm 1.5ct 8.0x6.0mm  0.77ct 7.0x5.1mm  1.89ct 7.2x7.1mm 2.72ct 10.1x8.2mm 2.92ct 9.9x8.0mm 2.32ct 9.5mm 5.88ct 17x9mm 
3.49ct 10.8x9.0mm    1.94ct 9.8x7.7mm
  スリランカではスカポライトは漂砂鉱床から水磨礫として採掘され、透明度の高い金色、無色、稀に淡いピンクを帯びた美しいルースを産します。
 無色の物は紫外線で蛍光を発するメイオナイトとして市場に姿を見せることがあります。

ケニアとタンザニアのスカポライト(Kenya and Tanzanian Scapolites)
5.2ct 13.8x10.0mm 4.98ct 16.0x10.6mm 1.53ct 9.0x5.2mm 7.60ct 12.8x10.0mm
 タンザニアは無色透明、紫、金色、と多彩で美しいスカポライトの産地です。
4.98カラットの赤味を帯びたルースは赤鉄鉱の結晶片を含みサンストーン・スカポライトと呼ばれる種類です。
大量に赤鉄鉱を含み不透明な石はカボションに磨くと最後尾の写真のように見事なキャッツ・アイ効果を示します。

パミール山脈のスカポライト(Pamir Mtns.'s scapolites)
 パミール山脈のスカポライト産地は標高が5000mを超える場所にあります。
夏の間の3ヶ月、酸素マスクをつけての採掘作業ですが、せいぜい2カラット
ほどのルースが得られる小さな結晶が発見されるのみ。
 後述するように値段の安い紫水晶とそっくりなスカポライトは、コレクターが
求めるだけの宝石ですから、過酷な採掘条件で取れたからといっても高く売
れるわけではありません。
 2.44ct 9.4x9.6mm   0.60ct 8.2x4.8mm
Pamir Mtns. Badakhshan, Afghanistan

アフガニスタンのスカポライト(Afghan Scapolites)
      アフガニスタンは世界で最上のスカポライトの結晶を産します。
とはいえ、通常は3p程度の結晶でもコレクター垂涎の的となります。
  したがって写真の10pもあるバダフシャン産の結晶は稀に見る大きさと美しさの稀なる逸品です。
 こういう結晶は産出すると同時に、世界的なコレクターの手に入ってしまうので、如何なる鉱物フェアでも実物を見ることは出来ない代物ですから
Mineralogical Record 誌の別冊版の写真を見て感嘆するのみです。
 さらに、これほどの結晶からカットされたルースというのも存在しません。
 宝飾品として使われることが殆どなく、もっぱらコレクター用にカットされるだけなので、結晶として高値で売られてしまうためです。
 したがって、写真のよう上等な紫水晶を偲ばせるルースには10年か20年に1度出会ったら幸運と言わねばなりません。
 黒い色合いのルースは、角閃石か針鉄鉱の繊維状の結晶を大量に含むため殆ど真っ黒に見えます。
   
 結晶 10p Badakhshan, Afghanistan
Gene & Meieran Collection
   1.55crt 8.12x7.52x4.88mm  1.68ct 9.0x7.3x6.9mm

テネブレッセンスを示すスカポライト(Tenebrescent scapolite)
 
通常光 短波長紫外線下での発色
0.91 - 5.17ct    Badakhshan, Afghanistan
 
 2004年にアフガニスタンのバダフシャンで発見されたスカポライトにはソーダライト(ハックマナイト)
のようにテネブレッセンスを示す例があります。
 通常光では無色ですが、短波長紫外線照射で青い色に変わります。
通常光で1秒もしないうちに無色に戻り、この変化が何度も繰り返されます。
 精密な分析の結果、塩素の10%が硫黄に置き換えられているためと判明しました。
 因みに前の写真の同じバダフシャン産の0.6ctのスカポライトは紫外線で淡いオレンジ色の発色を見せます。
 

名前と成因、産地、発色の原因

 柱石と書いて”ちゅうせき”と呼びます。 
英名はギリシア語の”Scapos=幹、茎、棒”と”Lithos=石”に由来します。
 英名の名付け親はアンドラダイト・ガーネットに名を残す18世紀ブラジルの政治家で詩人、鉱物学者のアンドラーダです。
 複雑な化学組成は、この鉱物が曹達柱石(マリアル石:Marialite:Na3[Al3Si9O24]・NaCl)と灰柱石(メイオン石: Meionite : Ca3[Al6Si6O24]・CaCO3という2種類の鉱物を両端に連続的に成分が混ざり合った固溶体の鉱物グループとして産出するためです。
 この中間に、Wilsonite、Wernerite、Mizzonite等、ナトリウムとカルシウム比が少しづつ異なる鉱物群があります。
これは長石族に曹達長石と灰長石の間の鉱物群との関係と同じです。
 タンザニア産の紫のスカポライトはメイオナイト成分が10%以下、パミール山脈の紫のスカポライトもメイオナイト成分は20%以下と測定されています。
 スカポライトは18世紀から知られていた鉱物です。
 ブラジル、マダガスカル、ケニア、モザンビーク、タンザニア、スリランカ、ビルマ等のスカルンやペグマタイト起源の鉱床に淡黄、淡いピンク、無色の宝石質の結晶を産出します。
 かつては余り魅力的な石とは言い難く、宝石店に並ぶ事もなく、もっぱら物好きなコレクターが求めるのみでした。
 1990年頃から、タンザニアとパキスタン、アフガニスタンやパミール山脈から魅力的な紫色のスカポライトが発見される様になり、ちょっとした注目を浴びる様になりました。

水晶とそっくりなスカポライト

 しかしながら、せっかくの美しい紫や金色のスカポライトの発見も華やかな脚光を浴びるには至りませんでした。
 何故ならスカポライトは水晶と全く見分けがつかないのです。
それも肉眼だけではなく、比重、屈折率等が水晶 (S.G : 2.65, R.I. : 1.65) と重なるために専門家でも識別が困難です。
 短波長の紫外線反応が異なること、また複屈折の値がスカポライトは0.22と水晶の0.09よりわずかに大きいので精密に測定すれば識別は可能です。
 化学組成、結晶系、発色の原理が異なる鉱物が見た目も特性も色合いまでそっくりという興味深い事実です。

上二つが水晶、下二つはスカポライト
 
 紫水晶、黄水晶とも年間数百トンの単位で採れるため、カラットあたりせいぜい10ドル程度と格安の宝石ですから、如何に美しい石であっても安価な水晶にそっくりのスカポライトの出る幕がありません。
 といっても、スカポライトが出まわる量は圧倒的に少ないため、両者が混同されるようなケースは殆ど起こり得ません。

 
スカポライトの発色

 天然の淡黄、淡いピンク、紫等の発色の原因は、自然の放射線を浴びた塩素基、炭酸塩基、硫酸塩基等が結晶格子間に形成するカラーセンターに因るものと考えられています。
 淡いピンクや黄色の石はX線、ガンマ線、アルファ線を浴びると紫に変わります。
が、その色は不安定で熱や光、また暗闇の中にあってもいずれ汚い灰色に褪色してしまうということです。
 したがって照射処理された紫色のスカポライトが市場に出る恐れはないでしょう。

キャッツアイ (Cats' Eye)

 スカポライトが一般の宝石店に姿を見せる事は滅多にありませんが、時折見事なキャッツアイやスター効果を見せる事がありますから、美しいものは宝飾用途に使われます。
7.46ct  52.92ct   7.87ct  19.04ct  1.95ct Ø8.2x7.8mm 2.02ct Ø8.0x7mm 
Srilanka locality unknown Burma Burma Tanzania 

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