煙水晶(Smoky Quartz, Morion)


   
 スター煙水晶 30-150ct  天然と合成の煙水晶 8.64-128ct


 

平行連晶 63x55x33mm
Aiguille de Talèfre
Mont Blanc France
70x40x30mm
Mont Blanc France
平行連晶 66x55x23mm
Mont Blanc France
85x80x60mm
La Guardette,Bourg D'Oisans
France

 

平板状の煙水晶 27x23x11mm
キューブ状の煙水晶
1.8cm 
ミラノ自然史博物館
 36mm   27mm
80x30mm
薔薇色の螢石を伴う煙水晶
 Siberia, Russia Madagascar  Grimsel Pass, Swiss  FurkaPass Swiss  Chamonix, France 

 

スターやキャッツアイ効果を示す煙水晶
30ct ø16mm 77.6ct ø27mm 86ct ø27.5mm 30ct ø18.2mm 150ct 40x30mm
 Madagascar  Belo Horizonte Brazil   


       
 15.5ct 25x13mm  8.64ct 11.6x11.6x8.4mm  128ct 36.0x33.0x18.0mm  合成煙水晶(Synthetic Smoky Quartz)
41.96ct 25.5x21.6x15.5mm
Africa   Madagascar  Russia


   
 トルマリンを内包する煙水晶 15x9cm
 
65x46x33mm
 Springbok, Namaqualand
アマゾナイトと共生する
煙水晶
合成煙水晶の結晶とルース
Brazil   South Africa Crystal Peak, Colorado  Russia 

 

スイスアルプスの水晶
1868年の水晶採掘を描いた絵
Tiefengletcher Andermatt Uri
ベルン自然史博物館
アルプスでの水晶採集              1868年にTiefengletcherで採掘された水晶
   最大の水晶 1m ベルン自然史博物館       10cm パリ マリー・キュリー大学博物館

   煙水晶はモリオン(Morion)と呼ばれる事もあります。これにはいくつかの説があって,一つはその暗い色合いからラテン語の”Morrusos:不機嫌な”を語源とするもの。 またギリシア語で曼荼羅花(朝鮮朝顔)の黒い種を指す”morion”という説もあります。
 さらに宝石に関する著述で名高い古代ローマの博物学者,大プリニウス(AD23‐79)は煙水晶を”Pramnion”とも呼んでいました。これはエーゲ海のイカロス島にある丘の名前ですが,そこで産する豊穣な赤ワインの色に由来するとの事です。
またカーンゴーム(Cairngorm)と呼ばれた事もあります。この呼び名はスコットランドのカーンゴーム山が黄色,褐色,灰色,煙,黒色の水晶の産地であった事に由来します。 
 煙水晶はペグマタイトやアルプス型の熱水鉱脈に発見されます。ペグマタイトに産する煙水晶は長石やトルマリン,柘榴石と共に発見されますが,多くは漆黒で不透明なものが多く,共に産する鉱物の引き立て役のような存在です。
 一方アルプス型の熱水鉱床には単独,あるいは薔薇色の螢石等と共に発見され,その名のとおり煙がかかったような色合いですが,なかには大変透明度の高い美しいものがあり単独のコレクションとして高い人気があります。
水晶は量も多く,値段も手頃な事から何処の鉱物フェアでも中心となる鉱物です。 しかしアルプス産の透明度の高い標本は数が少なく,水晶のなかでは薔薇水晶と並ぶ稀少品です。
 私自身も,水晶のコレクションは何時でも手に入るからと後回しになっていましたが,ミュンヘンの鉱物フェアで煙水晶の特別展を見てからその美しさの虜になってしまいました。
 とりわけ何個もの水晶を束ねたような透明度の高い平行連晶にはすっかり魅せられたものです。
 しかし,いざ捜し始めると,何時でも何処にでもあると思っていた透明な煙水晶は実はとてつもなく珍しいものであることに気がついた次第です。
 したがって目に止まったらともかく入手するしかありません。 少しくらい形が気に入らないとか,値段が高いとかためらっていると,1時間後に戻ってもかならずと言って良いほど売りきれてしまっているというのが現実です。

煙水晶の発色の原因
 

 煙(黒)水晶の発色の原因が何かは長い間の謎でした。 
それが解明されたのは比較的最近の事です。
 水晶は2個の酸素原子と1個の珪素の化合物の結晶ですが,珪素のごく一部がアルミニウム原子と置き換えられている場合があります。  
このような結晶が数億年という長い間に岩石中に存在する放射性物質からの放射線にさらされていると,アルミニウムと結合している酸素から電子が放出されます。
 このためアルミニウム原子の周囲のエネルギー状態に変化が起きて,それがカラーセンター(着色中心)のような役割を果たして煙水晶の色となると考えられています。
 ペグマタイトにはウランやトリウム、カリウム40などの放射性元素が濃縮されて多く含まれるので放射線量が多く,そのために真っ黒で不透明な水晶が多いのだと考えられます。
 アルプス型の熱水鉱脈には放射性物質はペグマタイトほどは多くありませんから,放射線量も少なく,透明な煙水晶が多いのでしょう。

煙水晶の産地
 

 不透明な煙(黒)水晶は世界中のペグマタイトに産しますから,余り美しくないものなら何時でも手ごろな値段で入手できます。 しかしアルプス産の透明な煙水晶は,殆どフランス・アルプスのモンブランやブール・ドワザンか,スイスからイタリア側に抜けるゴットハルト峠とその西のベルナーオーヴァーランドへ抜けるフルカ峠,グリムゼル峠周辺産に限られるようです。
 恐らく水晶はアルプス全体の何処にでも存在するのでしょうが,何しろ標高3000m前後の急峻な崖の割れ目を何ヶ月もかけて掘り進めなければなりません。 電動やジーゼル発電のドリル等を持ちこむために,交通の便利な峠付近でしか採掘が出来ないためでしょう。
 スイスの山岳地帯には昔から水晶ハンターと呼ばれる人々がいます。 それぞれの縄張りの山での水晶捜しを言わば生きがいとしていて,どんな天候だろうと,年中山に登っては水晶を見つける事を楽しみとしています。 彼らの家族はゴルフならぬQuartz Widow(水晶未亡人)と呼ばれています。 実際,夫,父,兄弟,息子などを事故で次々と失った例も数限りなくありますが,捜すほうは楽しみでやっているのですから,いくら引き止めても水晶探しにとりつかれた人々が山に登るのを止める事は不可能と言うものです。 
 上記の絵はスイスのゴットハルト峠付近にあるティーフェン・グレッチャー(深い氷河)での採掘時の様子を描いたもので,ベルンの自然史博物館に1mを越える巨大な煙水晶と共に展示されています。このとき発見された晶洞は幅4m,奥行き6mの大きさで,壁一面が巨大な煙水晶で覆われていました。最大150kgの煙水晶を含む,全部で14トンの水晶が採れました。このときに採れた水晶の大半はシャンデリアの飾りとして使われましたが、一部の結晶はベルンやバーゼル,チューリッヒ,ジュネーヴの他,ブダペストやモスクワなど欧州各地の博物館に展示されています。
スイスでは公立の博物館以外に,山岳地帯の鉱物産地には個人の博物館があって,特産の鉱物標本の展示を見る事が出来ます。

 スター煙水晶
 

 黒水晶や煙水晶が宝飾品として使われる事は現在は殆どありません。美しい鉱物標本として眺めて楽しむべきものでしょう。
過去においてはしかし,透明度の高い煙水晶はシャンデリア等の材料として愛好されていたようです。
 ヨーロッパの城や宮殿にて見事な煙水晶製のシャンデリアを良く見かけます。
こんにち宝石市場で良く見かけるのは,薔薇水晶と同じように,何か他の鉱物の微細な結晶を含む,スターやキャッツ・アイ効果を示す煙水晶です。 
 薔薇色を例外として,かつては灰色がかった余り美しくないスター水晶が大半でしたが,1987年にブラジル,ミナス・ジェライスのベロ・オリゾンテで発見された煙水晶は例外的に美しい水晶でした。
 透明度の高い明るい褐色の地にくっきりとスターやキャッツ・アイ効果を示し,まるで最上のキャッツ・アイクリソベリルを彷彿とさせるものでした。
  しかし水晶ですから値段はカラット当り100円〜300円程度と,博物館級の大きなものでもためらうことなく入手できるのが何よりでした。

合成煙水晶 

 前述のように,微量のアルミニウムを含む水晶は放射線照射で煙水晶を作り出す事が出来ます。合成水晶は原料として天然の水晶屑や石英を使いますが,天然の水晶には必ず微量のアルミニウムが含まれていますから,ともかく放射線を照射すれば,その量を調整する事で煙水晶や,黒水晶になるのです。 
 アメリカ,アリゾナ州ツーソンの鉱物フェアでは,屋外のテント張りの会場などに加工用の原石をドラム缶などに入れて売っている業者がいて黒水晶も山積みで置いてあります。 ただ,こうして売られている黒水晶は天然ではなく,コバルト60のガンマ線を大量に照射したものが多いとの事です。
 アルプスの墨絵のような透明な煙水晶と比べると,人工のガンマ線照射による黒水晶は,褐色を帯びた濃い黒で
不透明です。