アメリカ・モンタナ州のサファイア

Montana Sapphire

 
 非加熱のサファイア(Non heat treated sapphires) 1.07ct(6.1mm) - 1.81ct(8.0x6.9mm)


非加熱のサファイア(Natural color sapphires) 加熱処理されたサファイア
(Heat treated sapphires))
0.14ct(3.15mm) - 0.57ct(4.65mm) 0.28ct(3.0mm) - 0.49ct(4.65mm)

2010年以降、新たに採集されたモンタナ・サファイア
     
 0.225ct(Ø3.5x2.25mm) - 0.45ct(Ø4.4x2.9mm)  0.115ct(Ø2.75x1.7mm) - 0.34ct(Ø4.0x2.6mm)  


 
 0.125ct(Ø2.9x1.65mm) - 0.180ct(Ø3.0x2.2mm)


  19世紀半ばから終わりにかけて、アメリカ北西部のモンタナ州各地にて砂金の探鉱者たちにより次々とサファイアが発見されました。
 下記の地図にあるようにほぼ東西300kmに及ぶ広大な地域に大きく分けて4ヶ所のサファイア産地があります。
 しかし、当初発見されたサファイアは透明度が高いものの、平均して5mm程度の小さく色が薄い平板状の結晶だったので注目を浴びるには至りせんでした。
 1879年にヨーゴ峡谷にて、同じく砂金の探鉱者により濃い青い色の結晶が発見されましたが、1885年になるまでそれがサファイアとは認識されなかったようです。
 後にティファニー宝石店のクンツ博士に送られた原石がコーン・フラワー(矢車菊)の色と絶賛され、ようやくヨーゴ峡谷の青いサファイアが宝石の世界に認められるようになりました。
 他の産地のサファイアはいずれも色が淡かったので主に産業用として時計や精密機械、金属加工などの用途に向けて採掘されました。
 20世紀前半にはロック渓谷のアナコンダとサファイア渓谷の2ヶ所だけで1906〜1923年の間に38トンのサファイアが産業用として出荷されたとの記録が残っています。
 20世紀半ばからは高品質で低価格の合成サファイアが市場を圧倒するに至り、モンタナの産業用サファイアは競争力を失い、大半の鉱山は閉山の運命となりました。
 が、1970年代後半から加熱処理により無色、或いは淡色のサファイアの色を劇的に変貌させることが可能となりました。
 透明度の高い爽やかな色合いを見せるモンタナ・サファイアの人気が高まり1990年代には百万カラットを越える量が市場に出荷されました。
 冒頭の写真は1980年代後半から1990年代初頭のツーソン・ショーにて入手したモンタナ・サファイアです。
殆どが小さかったり、色むらがある淡い色合い、と標本級の品質ですが、他の産地には見られない素晴らしい透明度と煌きを見せる美しいものです。
 当時はモンタナ・サファイアの全盛時代でしたから、このようなルースがカラット当たり10〜20ドル、水磨礫の原石はグラム当たり5〜10ドル、こうしたサファイアを使ったジュエリー作家達による手造りの宝飾品も20、30ドルからと手頃な値段で選り取り見取りでありました。
 しかしながら資源の枯渇によりモンタナ・サファイアの全盛時代は一時の夢に終わりました。
 一方、宝石用として認められたヨーゴ峡谷のサファイアも平均1カラット以下と小さい上に、母岩から採掘するためにコストが高く、鉱山は何度も閉鎖と再開発を繰り返して来ましたが、2005年を最後に鉱山が閉鎖されました。
 しかし、広大な土地に漂砂鉱床があるため、常に採掘が試みられるのは当然のことであり、2010年以降再び豊穣な鉱床が発見され、数は少ないながらカットされたサファイアが市場に姿を見せるようになりました。


 Sapphire has been known in Montana by gold prospectors, since 1865, with significant mining since the late 19th century.
Four major sources comprise Montana's alluvial sapphire deposits: the Misssouri River (including El Dorado Bar), Dry Cottonwood Creek, and Rock Creek. The American Gem Corp. undertook large scale mining efforts at Rock Creek between 1994 and 1996, producing more than four million carats of gem-quality rough-and, for a brief period, making Montana one of the world's largest sources of sapphire. This production has thus far yiedled more than one million faceted gems. Today, mining operations at Rock Creek are mostly small. Montana's alluvial sapphires are often subjected to heat treatment, resulting in a variety of more marketable colors.
モンタナ州のサファイア産地(Sapphire deposits of Montana)
@ヨーゴ渓谷(Yogo Gulch) 
Aミズーリ川流域(Missouri River)
  El Dorado bar
  Cheyenne bar
  Dana's bar
  Sporkane Bar
Bロック渓谷(Rock Creek Valley)
Cドライ・コットンウッド渓谷
  (Dry Cottonwood Valley)



    ヨーゴ峡谷のサファイア(Yogo Gulch Sapphire)
   
サファイアを含む岩脈 幅平均2.4m 長さ5km
(Sapphire bearing dike)
 深さ61mの立坑
(Vertical shaft of 61m depth)
粘土化したサファイア岩脈の採掘
(Sapphire mining in clay-like dike)

自然色の結晶 最大6mm
(Natural color sapphire)
0.93 −1.34ct 3.54ct 
Vortex Mine, Yogo Creek, Montana, U.S.A. 

 1895年にモンタナで始めて初生鉱床産のサファイアがヨーゴ峡谷にて発見されました。
 ヨーゴ峡谷を含めモンタナのサファイアの起源は長い間不明でしたが、近年の研究によって、最近、ようやく起源が明らかになりました ; ヨーゴ峡谷のサファイアは煌斑岩(Lamprophyre) と呼ばれる、金雲母、角閃石、橄欖石、単斜輝石、方沸石からなる超塩基性の火山岩中に捕獲結晶(Xenocryst) として地上に運ばれたもの、との研究結果が1988年に発表されました。
 一方、その他のモンタナのサファイアの産状については流紋岩性の火山岩によって地上に運ばれ、その後の風化によって漂砂鉱床中に発見されるという研究が2007年に発表されています。

 ヨーゴ・サファイアの97%は”矢車菊”色と称される均一の濃い青い色合いを帯びており、残りの3%が様々な紫色です。
 色の濃いヨーゴ産のサファイアはモンタナ産では唯一、加熱処理を必要としません。
したがって稀にしか採れませんが、非加熱の1カラットを越える最上のヨーゴ・サファイアは1980年代、同じ品質のスリランカのサファイアの2倍の値段のカラット当たり2000ドルと、市場で高く評価されていました。
 ヨーゴ峡谷のサファイアの濃い色合いは、高温のマグマで地下深くから運ばれた際に、自然の加熱作用を受けたためと考えられています。
 美しいサファイアですが、1カラットを越える大きさの宝石質結晶は10%足らずであり、カットの歩留まりが20%程と低く、得られるルースは平均0.10−0.50カラットと小さくなるため、市場での競争力がありません。
 最後まで採掘を続けたヴォルテックス鉱山も2005年に閉鎖されました。
 Yogo Gulch, discovered in 1895, is Montana's only primary sapphire deposit. 97% of Yogo sapphires are uniformly blue (often described as "cornflower blue") and the 3 % are various shades of violet or purple. Yogo sapphires do not need heat treatment. Thus, rare one carat over blue sapphire was prized US$2,000 per carat, double than Srilankan stone.
However, the rough typically yields small, melee sizes. Some market analysts say the material is simply not large enough to cover production costs, especially compared to other corundum sources worldwide. In 2005, Voltex mine ceased the commercial operation.


        漂砂鉱床のサファイア ( Alluvial sapphire deposits)

エルドラド砂洲のサファイア鉱床
(Eldorado Bar sapphire deposit)
ロック・クリークのサファイア鉱床
(Rock creek sapphire deposit)
スポーケイン砂州
(Spokane bar)

漂砂鉱床からのサファイア (Sapphires from alluvial deposits)
           
 0.5 - 15ct 普通の色合いと大きさの原石
Average size and color 4.5mm
 
 非加熱のサファイア 0.32-1.04ct
(Natural Sapphire)
 加熱処理後の濃い色合い  加熱処理後の色  微量のクロムによりピンク橙を
帯びた加熱後のルース
Rock Creek 


 
エルドラド・バーの観光用サファイア鉱床 非加熱のサファイア水磨礫
0.47ct(5x3mm) - 2.05ct(6.2x4.7mm)
加熱処理されたサファイア原石とルース
(Heat treated crystals and faceted stones)

Rock Creek
12.54ct
French Bar 
 ヨーゴ峡谷以外のサファイアは全て漂砂鉱床から水磨礫として採掘されます。
多彩な色合いの透明度の高い結晶が採れますが、色が淡く、また平板状の結晶が多いので、かつては主に精密機械等の産業用途を目的に採掘されました。
 しかしながら、合成サファイアの出現により天然の産業用サファイアは競争力を失い、殆どの鉱山は閉鎖されました。
 ところが1970年代の終わり頃から、加熱処理の技術によって爽やかな色合いに変身するモンタナ・サファイアの宝飾品への用途が広がり、1990年代には再び漂砂鉱床での採掘が復活して一時は百万カラットのモンタナ・サファイアがカットされ市場に姿を現しました。
 しかしながら鉱脈の枯渇により、20世紀末には大規模な商業採掘が衰退し、一部の鉱山が観光客向けに細々と開かれているだけとなっています。

 
 Except Yogo Gulch, all other Montana sapphires are mined from alluvial deposits as highly transparent waterworn crystal. However, most of crystals are pale colored and flat tabular pieces and are not suitable for faceting as gemstone. In early 1990s', almost all sapphires were mined for industial purposes, such as devices for precision machines. But the rapid growth of low cost and high quality synthetic sapphire industry has caused the severe blow the the Montana sapphire mining. Almost all mines were closed.
 However, heat treatment technique changed the world's gem supply dramatically, since 1970's. Particularly sapphires

サファイアの加熱処理(Heat treratment of sapphires)
エルドラド・バー産サファイアの加熱処理(Heat treatment of sapphires from El Dorado Bar)
 
原石 (Natural sapphire crystals) 加熱された結晶 (Heat treated crystals) ルース (Faceted sapphires)
 モンタナ産に限りませんが、世界のサファイアの殆どは原石を加熱し、好ましい色合いに処理して宝石としてカットされます。
 加熱処理された色は一般の使用条件下では安定していて退色することはありません。
実は天然に濃い色合いで産出するサファイも地下深くの高温下で自然の熱処理を受けたと考えられます。
 加熱処理とは、いわば自然の条件下で不十分だった加熱を人間の手で補う処理に他なりません。
 ヨーゴ峡谷以外の全てのモンタナ産サファイアの多くも加熱処理により宝飾品として使える色合いになります。
 原石はまず酸化雰囲気中で加熱され、まず橙とピンクになった石はそのままカットされます。
漂砂鉱床から採れるサファイアの大半を占める青と緑の原石はさらに還元雰囲気中でもう一度加熱することで得られます。 
 Not only from Motana, but almost all saphires mined in the world are heat treated to obtain favorable colors. Heat treated colors are stable and do not fade under daily use.
Natural sapphires with saturated colors are considered that they were heated while crystals had been grown and conserved deep in the earth crust. Therefore, artificial heat treatment is the complementary work that the nature had unsufficently achieved.
 The sapphires are initially heated under oxidization conditions, after which the fancy yellows, oranges, and pinks are ready for cutting. The blue and green stones (which constitute the majority of Rock Creek sapphires) are subsequently heated under reducing atmosphere.
 ただし、全てのサファイア原石が美しく変身するわけではありませんが、ロック渓谷の原石の場合は、殆ど無色、あるいは淡青、淡緑の原石の65〜70%が宝石として使える黄色や青に変わります。
他のミズーリ川流域やドライ・コットンウッドの原石では20〜30%です。
 モンタナの漂砂鉱床から採れる原石の75%が0.1〜2.2ct(2.2〜6.5mm)と小さく、95%は無色か淡色で加熱処理が必要です。
 漂砂鉱床では砂利1立方メートル当たり平均44〜225カラットの原石が採れます。
 こうして、それまで捨てられていた大量の原石が宝石用にと活用され、かつては高級な宝石であったサファイアが大衆向けの手軽な宝石となりました。

 But all saphires do not turn to be facetable colors ; In case of Rock Creek stones, 65 to 70% of colorless or, pale blue and green stones turn to cuttable blue and yellow stones, while stones from other Misouri River area and Dry Cottonwood stones yield only 20 to 30%.
 
    
   青いサファイアは加熱処理されたもの。
 その他のファンシー・カラーは自然の色。

 The fancy-color sappphires are natural color,
 while blue sapphire has been heat treated.  
  0.45 - 1.76ct Eldorado Bar, Missouri River

Top Gem Hall