アジアとオセアニアのアルカリ玄武岩起源のルビーとサファイア
(Sapphires &
ruby from alcaline basalt origine of Asia and Oceania)


ルビーとサファイア(Rubies and sapphires)0.19 - 29.04ct
 
 ルビーとサファイアは熱水鉱床、ペグマタイト鉱床、変成鉱床、アルカリ玄武岩起源と多彩な成因を持つ宝石です。
 品質の面からは前三者が圧倒的に高いのですが、産出量ではアジアとオセアニアの広大なアルカリ玄武岩地帯に発見されるサファイアが大部分を占めています。
 玄武岩起源のルビーとサファイアは、大陸のプレートが衝突し一方が他方の地下に沈み込んだ際の高温と高圧によって、地下20〜50kmの深さで結晶したと考えられています。
 その後の火山活動により、地下の玄武岩質のマグマによって地上に運ばれたものです。
サファイアの多くは永年の間に風化した地層中に主に漂砂鉱床として発見されます。
 地質学の分野では珪酸分の含有量が50%より多い岩石を酸性岩、少ないものをアルカリ岩、あるいは塩基性岩と呼びます。
 ルビーとサファイアは酸素とアルミニウムとの結晶 (Al
2O3) です。 
ルビーとサファイアが出来る地殻中に含まれる酸素とアルミニウムは全ての元素うち、55%と圧倒的な比率で存在しますから、地下の高温・高圧の環境下では簡単にルビーとサファイアとが結晶化しても不思議ではありません。 
 ところがルビーとサファイアとは世界的に産地がアジアとアフリカとに偏在し、その他の地域では、ごく僅かに発見されるのみです。
 その理由は、やはり地殻中に存在する酸素と珪素の化合物である珪酸基とがルビーやサファイアの成分の酸化アルミニウムと反応して珪酸アルミニウムを成分とする鉱物に変身してしまうためです ; 珪酸分に富む高温、高圧の地質中では成分の酸化アルミニウムが珪酸基と反応して Al
2SiO5 の組成を持つ紅柱石(Andalucite)や藍晶石(Kyanite)、珪線石(Sillimanite)の別の鉱物に変わってしまいます。 
 これらの鉱物は、いずれも美しいものは宝石になりますが、ルビーやサファイアと比較すると地味な宝石なので、宝石店で見かける機会は滅多にありません。
 玄武岩が噴出した火山地帯は世界中に無数にありますが、アジアとオセアニアのルビーとサファイアの産出が圧倒的に多いのは、結晶が珪酸分の少ないアルカリ岩の地質中で生成したためと考えられます。

タイとカンボジアのサファイア
(Sapphires from Thailand and Cambodia)


     
非加熱 2.13ct 8.23x5.74x4.74mm  2.31ct8.25x7.0x4.56ct  1.31ct 7.0x5.7mm


6.26ct 10.2x8.2mm 1.95ct 7.8x6.2mm 1.52ct 8.0x6.1mm 0.96ct 6.4x5.0mm
Chanthaburi, Thailand
1.00ct 6.90x5.00mm 1.50ct 6.00x6.00mm Sapphire crystals
3-10mm
1.65ct 7.4x6.8mm 0.92ct 6.7x4.6mm
0.86ct 8.60x4.80mm
    Chanthaburi, Thailand Pailin, Cambodia
 
  アルカリ玄武岩起源のサファイアは一般に暗緑色の色合いをしています。その発色は結晶に含まれる不純物の鉄イオンに因る電荷間電子移動と呼ばれる仕組みで起こります。
 これはサファイア結晶内に取り込まれた二価の鉄イオンと三価の鉄イオンとが電子を交換しあい、その際に通過する光エネルギーの赤や黄色の帯域が吸収されるので、緑青色に見えるという仕組みです。
 不純物の鉄を多く含むため透過する光の大半が吸収されて殆ど不透明な暗緑青色になります。
 タイとカンボジアのサファイアは鉄の濃度が1%と高く、不透明な濃いインク・ブラックの色なので、かつては宝石として注目されることはありませんでした。
 近隣のスリランカとビルマの変成起源のサファイアが鉄とチタンによる電荷移動の仕組みで透明度の高い青い発色で高く評価されているのと比較して、稀に採れる宝石質のタイとカンボジア産のサファイアは暗い色合いのために一段と低い評価しか得られませんでした。
 1960年代に暗緑色を低減させる加熱処理で透明度の高いサファイアに変貌させる技術がタイで確立されるに至り、ようやくタイのサファイアが注目を集めた次第です
 生産と加工の中心地のチャンタブリでは3万人もが従事するほどの産業となりました。
大規模な機械化による採掘でタイのサファイア資源が枯渇した後も、オーストラリア産、スリランカ産のゲウダと呼ばれる白濁したサファイア原石の加熱による透明度の高い青い色への処理、更に新たに出現したアフリカ産の宝石原石の加工等、いまやタイは世界の宝石の研磨加工と宝飾品生産の一大拠点となっています。
 ビルマやスリランカ産の最上品とは比べ物になりませんが、タイでは写真のように一般的な宝飾品として充分使える美しい水準のサファイアを大量に産しました。
 近年入手した2.13カラットのルースは専門の宝石研究所の検査により、非加熱と判断されたものです。非加熱でありながら、ビルマの最上級品を忍ばせる逸品です。 膨大なタイ産のサファイアの中には、極めて稀ですが、このような逸品もあるという貴重な例です。
 酸化アルミニウムからなるコランダムの結晶は本来は無色透明です。が、天然の結晶の殆どは微量のクロム、鉄、ニッケル、チタン等の金属が不純物として含まれるので、美しい色合いのルビーや多彩な色合いのサファイアとなります。
 従って無色透明の純粋なサファイアは珍しく、とりわけ不純物の鉄の濃度が高いタイ産のそれは全く異例の存在です。
写真の3点はタイの専門業者からタイ産として入手したものですから、ほぼ間違い無いでしょう。
 カンボジア産もタイとは連続した地質にあり、採掘された原石の全てがタイでカットされているので原産地が不明なことが多いのですが、写真の1.65ctの透明度が高く深い青の石は同じくタイの専門業者から間違いなくパイリン産として入手したもの。玄武岩起源とは思えないほど澄んだ色合いです。加熱処理ですが、質の良い原石なら産状に拘わらず美しいサファイアが得られるという例です。


タイのルビーとピンク・サファイア
(Ruby and Pink Sapphire from Thailand)
2.98ct 0.68ct 6.4x5.0mm 4.10ct 10.5x10.0mm 0.29ct Ø4.5mm ea. 0.90ct
   タイのチャンタブリはルビーとピンク・サファイアも産します。不純物の鉄を高く含むため、黒ずんでいたり紫色を帯びていたりと、サファイアと同様ビルマのモゴク産程の高い評価を得られません。
 しかし上左の最上級品の写真のように美しいルビーであることには変わりありません。
続く3点はいずれもルビーとして30年ほど昔にツーソンで入手しました。ショーの会場の強い照明の下では真紅に輝きますから、初心者にはルビーに見えました。が、専門家ならピンク・サファイアと位置づけるでしょう。しかし夜の照明下では僅かに紫色を帯びていますが、美しいルビーに見えます。
 タイ産のルビー資源がすっかり枯渇してしまった現在となっては貴重なコレクションです。

タイ、カンボジアと南部ベトナムのサファイアの産状
(Ruby and Sapphire occurence in southern Thailand and Cambodia)
タイ南東部のサファイア産地 チャンタブリでの大規模なサファイア採掘 小規模な採掘光景
  タイの南東部からカンボジアにかけての凡そ9万km2に及ぶ一帯は140〜212万年前に噴出したアルカリ玄武岩の溶岩流が風化した粘土と砂利の層に覆われています。地表から地下8mの深さにかけて厚さが15cm〜1m のルビーとサファイアの水磨礫を含む層があります。1850年ごろにルビーが発見され、19世紀末には小規模な採掘が行われていました。機械化された大規模な採掘は1960年代にビルマの鉱山が国有化されて、非効率な経営のためにビルマの宝石産出が激減したこと、同じ頃に加熱処理によってルビーとサファイアの色合いが劇的に改善されるようになったこととが重なり、タイで機械化された大規模な採掘が始まりました。
 24時間稼動で1週間に8000トンの土砂を処理して40kgの原石を得るといった操業があちこちの鉱山で始まりました。 
 このため鉱区の枯渇と荒廃、環境の破壊により、1990年代には大規模な採掘は放棄され、現在では昔ながらな小規模な採掘で得られたサファイアが細々と市場に出てくるのみです。

中国のサファイア(Sapphires from China)
 1960年以来、中国では海南島、福建省、山東省、江蘇省と黒龍江省の5ヶ所から宝石質のサファイアが発見されています。いずれもアルカリ玄武岩起源で暗青色の不透明な品質です。
 中では山東省の房山丘は初生、崩落、漂砂鉱床とが同じ場所にある世界でも稀なサファイアの産地です。1億カラットの埋蔵量があると推定されています。
 1900℃を越える高温の加熱処理で僅かに透明度が得られる品質ですが、年間2万カラットほどが市場に流通しているようです。
2.20ct 9.4x7.2mm 12x10mm 19x18mm
中国 山東省 房山丘(Fangshan Hill, Shandong, China)

オーストラリアのサファイア(Australian Sapphires)

0.32, 0.37, 0.19(Ø3.7mm), 0.22ct 1.06ct 7.8x5.5mm 1.26ct 7.2x5.5mm 非加熱 2.69ct 8.94x7.35x4.21mm Sapphire crystals 5−10mm
       
 1.14ct 6.6x5.5x3.6mm  1.42ct 6.7x5.6x3.9mm  2.23ct 8.1x6.0x4.5mm  0.79ct 5.4x5.2x3.2mm 非加熱 0.55ct 4.5x4.3x2.9mm


   
 Sapphire Mine King Plains Creek, New South Wales  Rubyvale Mine 多彩な色合いのサファイア原石 堆積土砂中のサファイア結晶
 オーストラリア南東部の海岸沿いに南北にほぼ3000kmに及ぶ大分水嶺山脈が伸びています。
山脈の西側の裾野に広がる広大なアルカリ玄武岩地帯の New South Wales 州の New England Fields と Queensland 中央部の Anakie Fields に豊穣なサファイアの鉱床が発見されたのは19世紀半ばのことです。
 サファイアは北のクックタウンから南のタスマニア島までmのおよそ4000qの間に散在するラヴァ・プレーンと呼ばれる玄武岩が風化した平原に広範に発見されます。 が経済的に採算が採れるのは前述の二か所の豊穣な鉱床のみです。
 しかし殆どが小さく不透明な暗緑青色の原石は到底宝石には使えそうも無くほぼ1世紀余り放置され、稀に発見される大きく透明度の高い青や金色の原石のみが地元でカットされていました。
 それが宝石として脚光を浴びたのは1960年代後半、加熱処理により不透明な原石を透明な宝石質のサファイアに変貌させる技術が導入されたためです。採掘された原石はほぼ全てがタイに輸出されて加熱処理とカット、加工されて世界の宝飾品市場へと再輸出され、1970年代から1980年代前半にかけてオーストラリア産のサファイアは、一時は世界のサファイアの70%余りを占めるほどの地位を占めました。
 しかしながら、カットされたルースの値段がカラット当たり8〜80ドルと低価格のオーストラリアのサファイアは原油価格の高騰等、採掘コストの上昇によって採算が取れなくなり、1980年代後半からは生産が激減しました。タイとカンボジアの9万km2と比較すると、ほぼ日本全土の面積に匹敵する35万km2もの広大な鉱区のあるオーストラリアには、依然として膨大なサファイア原石が埋もれたままです。
 大半が1カラット未満と小さく、暗い色合いのオーストラリアのサファイアですが、それでも写真のように魅力的な石もあります。
殆んどが加熱処理される中で、2.69 カラットの濃青色と、0.55 カラットの明るい黄緑色のルースは稀な非加熱です。


インドのルビーとサファイア(Indian Ruby and Sapphires)

Ruby 2.23ct 8.8x7.0mm
Black Star Sapphire 2.12, 2.08ct
29.04ct 16.1x15.4x12.0mm Ruby crystals 12-24mm Ruby 1.22ct Iolite 1.08ct Sapphire 3.62ct
Rodolite 0.59 1.38ct
Southern India Orissa, India
     
 0.99ct 6.3x4.9mm  2.32ct 8.5x6.1mm  2.96ct 7.7x7.4mm
 広大な玄武岩溶岩流の厚い堆積層に覆われてる南インドのマイソール近郊からは昔からルビーとサファイアが知られていました。
しかし暗い小豆色の不透明な石で、手軽なアクセサリー用途ぐらいにしかなりません。
スター・ルビーとして宝石フェアではインドの宝石商がカラット当たり10ドル程度で売っていますが、カボションは1cmほどの大きさでも20カラットくらいになり、結構な値段になります。その10分の1程度ならコレクション用に買ってもよいか、と思うほどの品質です。
 1990年初め頃から、マイソールの南、凡そ160kmほどのカルナータカから不透明でカボション級ではありますがより鮮明な色合いのルビーとピンク・サファイアが出現しました。
 1994年頃からオリッサ州からファセット級の透明なルビーとサファイアが報告されました。オリッサ州は近年、クリソベリルや、アイオライト、ロードライト等、ペグマタイトやスカルン鉱床起源の宝石の産地として注目を集めている産地です。1カラットを越えるファセット級のルビーは稀ですが、ピンクや紫のサファイアは最大で8カラットほどの大きさの物が報告されています。
 0.99 〜 2.96カラットのインド産としては稀なファセット・カットされたサファイアは、産地は不明ですが、恐らく南インド産の、僅かに透明度のある結晶がカットされたものでしょう。 標本質ではありますが稀なインド産のファセットされた標本です。
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