照射トパーズ(Irradiated Topaz)

 

 スイス・ブルーの照射トパーズ 57ct
背景の白い石が処理前の無色のトパーズ
オーシャン・グリーンの照射トパーズ 天然の黄色(右)と他は照射トパーズの色
 
  トパーズは黄色,金色、橙、褐色、ピンク、紫,赤・・・と多彩な色を示し,天然には淡い青の結晶も見られます。しかし淡い青の結晶はカットすると更に色が淡くなり、宝石としては余り魅力がありませんから,殆ど市場に出回ることはありません。  
 にもかかわらず、宝石店には素晴らしく綺麗なブルー・トパーズの宝飾品が驚くほどの手頃な値段で溢れています。 
 これらのブルー・トパーズは紛れもなく本物の天然トパーズです。
その青い色は自然の色ではなく、全て無色のトパーズを放射線などの高エネルギー線を照射し,更に加熱して創り出された色なのです。
 こうした天然には殆ど存在しない、最上級のアクアマリンのようなトパーズが市場に現れたのは1970年代初めのことです。
 出始めの頃は数も少なく、魅力的な色ですから、カラット当り数10ドルと相当の値段でした。 
しかし供給が急増したため価格が下がり,現在ではカラット当り1ドルもしないものから,どんなに高くても10ドル程度の手軽な値段で素晴らしい色合いのブルートパーズを入手する事が出来ます。
 ブルートパーズの供給量は年間5億カラット(100トン)にも達するということです。
こんなにも供給量が多いのは、その元となる,宝石として商品価値のない無色透明なトパーズがスリランカやナイジェリア等で大量に採れるためです。 屈折率が比較的高い無色のトパーズはカットすれば眩い美しさを発揮します。
 しかしながら、トパーズに限らず、水晶、サファイア,ベリル、トルマリン等々,他のあらゆる無色透明な宝石が、今日一般の宝飾品として使われることはまずありません。僅かに宝石コレクター用に一部がカットされるのみです。 
 というのは、キュービック・ジルコニアが1970年頃に出現し、今では年間10億カラットも合成されているためです。 キュービック・ジルコニアは光の屈折率こそダイアモンドの2.42よりはやや低い2.17ですが、光の分散値がダイアモンドの0.044を凌ぐ0.060と高いので強い虹色のファイアーを発し、肉眼ではダイアモンドとの区別はまず不可能です。
 それが大量生産されてカラット当り100円程度とガラス並の値段ですから、他のあらゆる無色透明の宝石が駆逐されてしまったのも止むを得ません。
 したがって、かつては廃棄されていた大量の無色のトパーズが、今や照射と加熱処理により美しく青い宝石へと変貌を遂げ,しかも手頃な値段で市場に再登場しているのですから、喜ばしい事であります。

高エネルギー線照射の色々
  宝石に加速された電子線やアルファ線、ガンマ線,X線、陽子線、中性子線等の高エネルギー線を照射すると色が変わることは昔から知られていて、ダイアモンドを初め、多くの宝石の色を改善するために試みられています。
 実は天然の宝石の色も、自然界に存在するウラン、トリウム、カリウム40等の放射性の元素の崩壊による放射能を長い間浴びて変色している例が少なからずあるのです。
 宝石の色が変わる仕組みは,一般に、高エネルギーを浴びて宝石の結晶構造が一部壊れたり,或いは新しい電子が結晶格子の中に捕獲される等で結晶内のエネルギーバランスが変わって、着色中心(カラー・センター)が形成されます。
 この着色中心のエネルギーが可視周波数帯域にある場合に特定の波長の光が吸収されて様々な色の変化をもたらします。
 ”ブラジルのトパーズ”にても触れましたが、オウロ・プレト産トパーズの大半が熱処理にて黄色からピンクへと処理されていますが、放射線と同様に加熱処理も実はエネルギーを与える作業に他なりません。
 しかし,こうした処理が常に好ましい結果をもたらすとは限りません。 
 美しい色に発色しなかったり、一時的に発色しても熱や光によって短期間で褪色してしまったり、結晶全体が破壊されたり、或いは残留放射能による危険性等々、様々な問題も起ります。
 無色から安定した青い色に変貌したトパーズは最も劇的な成功例の一つです。
トパーズの照射と加熱による色の変化
  青いトパーズは天然にはありますが色が淡いため宝石としてカットされることは稀です。 
市場でロンドン、スカイ,スイス,アメリカン,オーシャン、スーパー・ブルー、等々多様な呼び名で呼ばれる青いトパーズは天然に豊富に存在する宝石としては価値のない無色のトパーズを放射線や高エネルギーの電子線等の照射とその後の加熱処理により着色させたものです。
無色からスカイ・ブルーへの変化
中央のルース(10ct)には罅が発生
罅の拡大 3x ロンドン・ブルー 6ct スーパー・ブルー 60ct オーシャン・グリーンと
褪色した青のトパーズ

 これらの色の違いは,実は処理をする際のエネルギー源や加熱処理の有無によって起ります。 スイス・ブルーとかロンドン・ブルーと言った名称には特に意味はありません。 これらの呼称はかつて化粧品のレブロン社がアイシャドーのパレットの様々な青い色に名づけた色合いに因んだものです。大衆的なレブロン社の化粧品の顧客層には同じく大衆的な価格のブルー・トパーズの宝飾品が受けると呼んだ宝石業界の思惑による命名ですが、今日ではすっかり一般的な呼び名として定着しています ;
スカイ・ブルー

 もっとも一般的な処理で、やや淡色の青に着色されます。
直線電子加速器、ファン・デ・グラーフ加速器、ベータトロン等で1000万〜2000万電子ボルトの電子線のパルスを照射します。 
 高エネルギー電子線を照射するとトパーズ結晶の表面が熱くなり、罅が入りますので流水で冷やしながら行われます。
 しかし,それでも罅や,結晶が砕け散ったりする例が発生します。さらに電子線照射により結晶内の不純物が放射性同位元素に変わり弱い放射能を帯びますが、2〜3日放置すれば安全な水準まで下がります。
 上左の写真は無色のトパーズを直線電子加速器でスカイ・ブルーへと着色したプロセスで、ルースに罅が入った標本です。
ロンドン・ブルー

 原子炉にて中性子線を照射すると鋼鉄のような、やや翳りのある青に着色されます。
電子線照射ほど熱くならず、大きな結晶でも罅が発生せずに深部まで中性子が浸透するので深い青に着色されます。
 一般にはカドミウムで内張りした鉄の箱の中に無色のトパーズを納めてから原子炉の内部に入れます。
すると原子炉の熱中性子が鉄とカドミウムに吸収されてガンマ線となって10億ラドの高いエネルギーが照射されて深い青になるのです。
  照射後は黒味を取り除くために250〜350℃にて8〜16時間加熱されます。
 原子炉による照射では,トパーズに含まれる微量の不純物が中性子線等の照射により放射性同位元素となり、中には1〜2年間もかけないと安全水準以下に下がらないほどの長い半減期を持つものがあります。
 これらの放射線源はナトリウム24,タンタル182,マンガン54、スカンジウム46、47、時にはセシウム134等、元のトパーズの不純物により異なりますが、15000電子ボルトもの高い水準に達する場合もあります。
 したがって照射トパーズの安全性はアメリカ原子力安全委員会の厳しい基準で規制されていますが、過去にブラジルやその他の国などから、規定値以上の放射性を持つトパーズが出荷されて問題となったことがあり、今後もある程度の危険はあり得ます。
 アメリカ原子力安全委員会のデータによると10カラットの大きさの原子炉処理のトパーズの放射線量は年間1ミリレム以下です。
一方普通の生活をしていても、水や食べ物に含まれる放射能量は年間40ミリレム、呼吸する空気中からも年間200ミリレムの量の放射能を摂取していますから、青いトパーズの放射線量は微々たる量で恐れることはありません。
スイス・ブルー

 ロンドン・ブルーと比べて半分程の中性子線照射をしたもので、その分だけ色が淡く、スカイ・ブルーとロンドン・ブルーの中間の濃さがスイス・ブルーと呼ばれる様です。
 また、最近非常に多く出まわっている,明るく澄んだ濃い青のトパーズはスーパー・ブルーと呼ばれます。
この色がどのように実現されたのかは今のところ情報がありません。
 その他アメリカン・ブルー、ベイビー・ブルー等々、色の濃さにより,様々な呼び名があリますが、いずれも上記の電子線照射と、原子炉での中性子線やガンマ線照射,更に加熱処理を組み合わせて、多様な着色がされているものです。
オーシャン・グリーン
  1993年頃から緑色のトパーズが宝石市場に登場しました。
自然界には緑のトパーズは非常に稀で、あってもごく淡い色合いですから、緑のトパーズが市場にあれば、照射されたものかコーティングされたもの,或いは拡散処理によるもので,いずれも人工的な処理がされたものです。
 さて、オーシャン・グリーンと呼ばれる緑のトパーズは、アメリカのテキサスA&M大学の原子炉で研究用原子炉で処理された色です。
 どのような処理なのか、詳細は明らかにされていませんが、ロンドン・ブルーと同じ中性子照射で,更に高い温度で処理されたものと考えられています。
 ロンドン・ブル‐と同様に,処理後は放射性を帯びています。 またこの緑の発色は不安定です。 
 実験では上右の写真の様にたった一日、日光に晒しただけで青く変わってしまいました。
その他のトパーズの色の変化について
  天然のトパーズの色はピンク,オレンジ‐ピンク(サーモン)やオレンジー褐色(シェリー)、紫等は不純物のクロムによって」カラー・センターが形成されているものと判明しています。
 しかし,その他の青、黄色、緑はいずれも原因不明の,恐らく何らかの結晶構造の欠陥によるカラー・センターが組み合わされていると考えられています。
 そして、トパーズの色は高エネルギー線の照射、や加熱と光の作用でピンク‐褐色ー無色‐褐色・緑ー青ー無色と変わります。
が、最終的には青が最も安定しているので,多くの場合、熱や光の作用で他の色から青になって落ち着きます。
 ブラジル、オウロ・プレトの黄色のトパーズが加熱処理で安定したピンクに変わることは良く知られていますが,1980年代初頭にコバルト60のガンマ線照射によって最も値の張るシェリーやサーモン色に変えられたトパーズが,その後短い期間に褐色に褪色したことがあり、一時ブラジルの宝石の信用が大失墜し、価格が暴落した事件が起きました。
 現在は安定した熱処理が行われているので褪色の心配はありません。 
しかし上述の様に,トパーズの色は強い光や熱によって褪色する傾向がありますから、博物館ではトパーズ結晶の展示には強い光が当らない場所に置いたり、結晶をカバーする等の注意を払っています。
 したがってトパーズの宝飾品も日常身につける分には問題はありませんが、使わない時は強い陽射しの当る窓辺に放置したりしない方が安全です。

 

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