ロシアのトパーズ (Russian Topaz)

 
70.4ct Ural Mtns.
トパーズ結晶 高さ 10cm
Murzinka ウラル山脈
A.フェルスマン鉱物博物館
モスクワ
トパーズ結晶 12x7cm
 
Nerchinsk
Borshchovchnyy Mtns.,Siberia

 
大英自然史博物館
Bi-color Topaz
 17.9ct 
Ukraina
188ct 45.1x26.8mm
Ukraina 
200ct以上のトパーズのネックレス
とイアリング  Ural Mtns.
 18世紀以来ロシアは素晴らしいトパーズの産地として知られていました。とりわけウラル山脈のペグマタイト鉱床の青いトパーズは素晴らしい結晶形で産出した標本を博物館などで見ることが出来ます。
 18世紀初頭から19世紀半ばにかけて、バイカル湖の東部、モンゴルや満州に近いアドゥンーコロン山脈、ククゼルケン山脈,同じくボルシチョフスキイー山脈にも緑柱石とトパーズを産する豊かなペグマタイト鉱床が次々と発見され、ワイン色のトパーズ結晶や30cmにも達するアクアマリンの結晶等が、各地の博物館に展示されています。
 これらの鉱脈は現在では枯渇してしまったり、政治,経済的な理由から現在では採掘されていませんから、残された標本から当時の活況を偲ぶしかありません。
 しかし、ウクライナ地方のヴォラダルスクの世界的なペグマタイト鉱床では100年来絶えず緑柱石やトパーズの素晴らしい結晶を産出し続け、1990年代半ばからは,他に例の無い多色のトパーズを産出しています。

 1 ウラル山脈のトパーズ
   ウラル山脈の東側、エカテリンブルグの北120kmにある寒村、ムルジンカ近郊一帯に広がる、森の中の沼地の水の底のペグマタイト鉱床に、黒水晶、緑柱石等と共に,時には1kgにもなる大きく美しい姿の青色の結晶を産出しました。結晶内部に曇りがあったことが幸いして,数多くの結晶が研磨されずに世界中の博物館や個人のコレクションに標本として残されています。
 さらに紫水晶やシベリアのルビーと名付けられた赤いトルマリンも1815年にムルジンカの近くのシャイタンカで発見され、近隣のユシャコワ、サラプルカ等、無数のペグマタイト鉱脈の露頭があり、100年以上も昔からロシアの代表的な宝石産地でした。
 エカテリンブルグの南方約300kmのウラル山脈南部のプラストの町の近郊、オビ川に注ぐサナルカ川の支流カメンコ川の漂砂鉱床から一時極めて稀な、赤や濃いピンクのトパーズが採れたという記録があります。
 1825年にカメンコ川流域で砂金が発見されましたが,同時にベリル,クリソベリル、サファイア,ルビー,ユークレース,トルマリン、トパーズ,ダイアモンド等多様な宝石も採集され、この一帯は”ロシアのブラジル”と呼ばれるほどの豊かな宝石産地です。
 ウラル山脈一帯では約3億年前に、初めは高温,高圧の変成作用が起って3000万年弱続き,次に起った低温,低圧の変成作用が約1000万年続いて2億6000万年前に終息しました。この地殻変動により主に片麻岩,角閃岩と大理石から成る大規模な向斜地形と片麻岩と花崗岩のドームとが形成されました。この間無数の断層や地層の裂け目が出来て、花崗岩脈とペグマタイトの貫入が至るところで起りました。 上記の宝石はこうした地殻変動の際に形成されたと考えられます。
 ピンクのトパーズは全てがロシア王室専用の宝石としてツァーの宝飾品や、外国王室への贈り物として愛用されたという事です。 
 冒頭の写真の70.4カラットの 深紅のトパーズはアメリカ自然史博物館にある標本です。原産地はブラジルまたはロシア産との表示で確かではありません。 しかしブラジルのピンクのトパーズは、全て黄色の原石を人工的な加熱処理でピンクに変えているもので、このルビーのような赤い色のトパーズが発見された記録はありません。
 一度だけウラルの漂砂鉱床にて発見され,ロマノフ王室が所蔵していた幻の赤いトパーズが、革命後に転々として,最後に博物館の展示として落ち着いたのだと、思いを馳せています。

 » 新情報 ウラル,サナルカ川産の息を呑むような赤いトパーズ結晶の写真を下記に追加します : 
 モスクワのA.フェルスマン鉱物博物館の収集品です。この完璧な結晶は全く磨耗していないため、漂砂鉱床からではなく、ペグマタイトの宝石ポケットから取り出されたように思われます。冒頭の70.4カラットのトパーズルースと、200カラットを越えるネックレスもこのような結晶からカットされたことは間違い無いでしょう。
 

ムルジンカのトパーズ鉱山
 1915年当時
煙水晶とトパーズ結晶 10x8cm 単独の結晶 高さ 8cm トパーズ結晶 2.6cm
Sanarka川 南ウラル
フェルスマン鉱物博物館


 2 南シベリアのトパーズ
 (Topaz from Southern Siberia)
  モンゴルと中国国境とから250kmのシベリア南部、チタ地方の中心都市がネルチンスクです。この一帯は金,錫,モリブデン等の豊かな鉱山地帯ですが、同時にボルシチョヴォチヌイ山脈や、その南のアドゥンーチョロン山地やククゼルケン山地一帯もトパーズとアクアマリン等の緑柱石を古くから潤沢に産するペグマタイト地帯です。
 1723年には全く傷の無いの31cmもの緑柱石や黄褐色、茶色、青い色のトパーズが発見されています。
 この一帯からは最大で14kgにも達する大きさのトパーズが数多く発見されました。
 とりわけ魅力的なワイン色のトパーズが19世紀末にネルチンスク近郊のウルルガ川の近くにて発見されました。英国自然史博物館所有の結晶がそれで、褪色を防ぐために結晶形に合わせたカバーで覆っていますが、カバーによりかえって標本の結晶形の見事さが際立って見えます。
 近年ではこの産地からのトパーズの産出は全く報告がありません。 ソ連邦時代には金属資源の開発が優先されました。またソ連邦崩壊後の混乱などで、効率の悪い結晶や宝石の採掘の余裕がないのでしょう。
 しかしながら、バイカル湖東部の広大な一帯はブラジルのミナス・ジェライス州に匹敵する豊富なペグマタイト鉱床地帯と思われます。今後の開発次第では無限の可能性を秘めた宝石鉱床が発見される可能性があります。
 300km程南西にあるヤブロノイ山脈のマルハン・ペグマタイト鉱床からは最近、極めて稀な鉱物のポルックス石等が報告されています。 


バイカル湖東部,南シベリアのトパーズ
左の結晶 9x5cm 両脇のカバーは褪色を防ぐため
Borshchovochnyy Mtn. Siberia
英国自然史博物館
濃いワイン色のトパーズ結晶 10cm  Adun-Chilon 山脈 6cm 曹長石上の結晶 4cm
Mokrusha Mine, Mursinka

     
3 ウクライナのトパーズ

 
3,400gの結晶 1950年代 ブルー・トパーズ結晶 25cm
Fersman Mineralogical Museum
トパーズ結晶 14cm
Museum of Precious &Decorative Stones
Volodarsk-Volynski
  Beryl 結晶 14-20cm
Marco Amabili & Daniel Trinchillo Collection


       
 17.9ct 20.06x9.25mm 188ct 45.1x26.8mm 


ウクライナの首都キエフの西にあるヴォロダルスク-ヴォリンスキーペグマタイト 1960年代に12の晶洞が採掘されたヴィシュニャカフカ露頭
ペグマタイト晶洞の深さ、大きさ、配列例  深さ96mにある幅15のNr.436晶洞
  かつてのロシアのトパーズは既に寿命が尽きて、僅かに残された標本を博物館にて見ることが出来るのみです。 
 今日のロシアではただ一ヶ所のみ、ウクライナのヴォロダルスクーヴォリンスキー地域のペグマタイト鉱床から他に例のない淡青ーベージュ色の2色のトパーズが発見され新しいトパーズが供給されています。
 ヴォロダルスクで水晶やトパーズが発見されたのは18世紀前半のことでした。農夫が耕作中に発見したのですが、当初はウクライナの畑で宝石が発見されるとは考えられず、遠い氷河時代にフィンランドのペグマタイトから削り取られたものが流れてきたのだろうと考えられていました。1851年になってようやく専門家による調査が始まり。地中に無数の巨大なペグマタイト晶洞が存在することが次第に明らかになって来ました。が、ソ連時代に主に軍用の発振素子用の水晶と、光学用の螢石が採掘されていたため、この地域の情報は厚い秘密のベールに覆われていて、詳細が明らかになったのはごく最近のことです。
 ヴォロダルスク - ヴォリンスキー ペグマタイトは南北に延びる22kmの帯状の地帯に幅500-1500m、深さが100-150m(時には600mもの深さ)に達する広大な一帯に無数の晶洞が存在し70種に及ぶ鉱物や宝石を産します。とりわけ産業用の水晶、螢石、宝石用の巨大なトパーズ、緑柱石の重要な産地となりました。1946年には重さが10トンもの水晶が発見されました。1946年には一つの晶洞から100トンもの発振素子に使える水晶の結晶が採掘されたほどです。1941-1943のナチスの占領時にも軍事用水晶の鉱山でした。
 1980年代には長さが1mに達する宝石質のヘリオドールを産しました。


8kgの結晶の一部 1644ct 結晶 7cm 11.32ct 19x9mm フリーフォームのルース 142ct

   
   
Bi-color Topaz crystals : 6.4 and 5.8cm,  Faceted stones : 54 and 65ct
Pegmatite No. 609 Volodarsk-Volynskii, Ukraina
Clemens Schwarzinger Collection

 1990年代半ばからは世界にも珍しい淡青とベージュ色との2色の8kgものトパーズ結晶を産する鉱脈が発見されました。 
 年間30〜50kg の結晶が採掘され,その内10%がファセットできる品質と言われます。
 ルースの供給量は年間1万〜2万カラットとそれほど多くはありません。
 透明度が高く、魅惑的なベージュと青との2色のトパーズの値段は当初はカラット当り20ドル程度と信じられないくらいの手ごろな値段でした。
 現在はヘリオドールも2色のトパーズの産出もありませんが、広大な一帯に何時の日か思いもかけぬ宝石が発見されることは間違いありません。
 188カラットのトパーズは新たに2017年末に入手したものです。
このトパーズは、新たに採集されたものか、あるいは古い結晶の在庫からカットされたものか明らかではありません。
が、トパーズとしては記録的な大きさと透明度の高さと、不思議な色合いの逸品です。
      
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