トルコ石(Turquoise)

 

上 93.98ct イラン産
下 
90.2ct ”蜘蛛の巣”
Santa Rita New Mexico  
アメリカ自然史博物館
ナポレオンが皇后ジョゼフィーヌに贈った王冠
950個,700カラットのダイアモンドとエメラルドが
後に79個のトルコ石に取り替えられた
スミソニアン自然史博物館
”Western Chamber” 36x19cm
中国で彫刻されたイラン産のトルコ石
Ruppenthal Collection
金の象嵌が施された
装飾品 Iran
大英博物館

 

108.7ctのカボションと
葡萄状の団塊
Abdurreza鉱山 Iran
W.Larson Collection
頁岩中の脈状のトルコ石
Victoria,Australia
3mmの球状結晶
Humboldt Co., U.S.A.
50mmの団塊 Kazakhstan Los Cerrillos 
New Mexico, U.S.A.
 16.8ct 21x14x8mm
Sleeping Beauty鉱山
Arizona, U.S.A.
団塊状トルコ石 10x4cm
武当(Wudang)山 湖北省
China
幅 5cm 研磨された原石
Tibet
高等鉱山学校 Paris
5x3.5cm Maden Iran
ベルン自然史博物館
 Sleeping Beauty鉱山
   Arizona U.S.A.

 

トルコ石と類似の鉱物の特性
  化学組成 結晶系 モース硬度 比重 屈折率
トルコ石(Turquoise)  CuAl6(PO4)4(OH)8・4/5H2O  三斜晶系 4 - 6  2.60-85   1.61-65 
ギブス石(Gibbsite)  Al(OH)3 単斜晶系 2½ - 3½   2.3-4 1.57-59
ヴァリッシャー石(Variscite)  Al(PO4)・2H2O 斜方晶系 3½ - 4½   2.6 1.56-57

 

 トルコ石はラピスラズリ、水晶や瑪瑙,真珠等と並び,人類が最も古くから宝石として利用してきた宝石の一つです。
メソポタミアやエジプト、中国など,数千年昔の遺跡から夥しいトルコ石の装飾品が発掘され,世界の博物館で見ることが出来ます。エジプトやメソポタミアでトルコ石がどんな名で呼ばれていたかは不明です。
 ギリシア人は ”kallos lithos:美しい石”と呼んでいました。
 今日使われているトルコ石の名は英語ではターコイズ,またはターコワーズと発音しにくい綴りです。 
これは13世紀にトルコと活発な通商関係にあったヴェネチアを経由してヨーロッパにもたらされたため、フランス語でトルコの石(pièrre turquoise : ピエール・チュルコワーズ)と呼ばれた名前が普及したためです。 
 イタリア語 (turchese:トゥルケーゼ), スペイン語 (turquesa : トゥルケッサ), ドイツ語 (Türkis:チュルキス) ではそれぞれ自国語で”トルコの”と綴られて発音されているのですが,当時は欧州の最後進国であったイギリスには外来語のフランス語がそのまま入ってしまったためです。 
 ただしトルコではトルコ石の産出はなく、経由地に過ぎません。本当の原産地はイランの北東部,アフガニスタンに近いニシャプールの北東40km、Maden村 (Maadanとも綴られる:ペルシア語で鉱山を意味する) に近いKuhi−Binalud 山脈の標高2000mを越える地点です。
 ニシャプールはペルシアの詩人オマール・ハイヤームの生まれた土地として有名です。
100を超える鉱山跡が広範に存在し、最も古い鉱山は紀元前21世紀の頃から採掘が行われていた記録があります。 
ペルシアこそが4000年に渡って世界の主要なそして最も良質のトルコ石の産地でありました。


トルコ石の産状と性質

  トルコ石は乾燥気候地帯の地表近くにある銅の鉱床 (主にCupper Porphry : 斑岩銅鉱床) が地下水や雨水に溶け出した燐酸分とが反応して生成する典型的な二次鉱床の鉱物です。
アルミニウム分は部分的に鉄や亜鉛と置換される例もあり,産地により成分は変わります。
 鉄分が10%を越えると鉄トルコ石  (Chalcosiderite) となり、鉛分が多くなると緑色のファウスト石 (Faustite) となり、トルコ石の大半はこれらの混合体です。
 普通は微細な結晶が集合した団塊状,腎臓状、皮膜状,脈状で発見され、肉眼で見られる大きさの結晶は1912年にアメリカのヴァージニア州の Lynch Station で発見された2〜3mmの透明な結晶が唯一の例です。
 空色は結晶中に含まれる二価の銅イオンによる発色ですが、不純物として含まれる鉄分の三価のイオンによって緑色を帯びます。 多孔質なので、汗や化粧品、香水、油脂、酸,アルカリ、有機溶剤等が染みこみ易く,また日光による褪色や変色が起きやすいので宝飾品として身につける時は注意が必要です。
 このため古来から,パラフィンやプラスチックなどの樹脂による安定化処理や、様々な薬品で染色したりと無数の処理が行われて来た宝石でもあります。
 また、最も古くから偽物や模造品が作られた宝石でもあります。
 ルーヴル美術館や大英博物館などのエジプト美術の展示に見られるファイアンスと呼ばれる、空色のガラスのエナメルで仕上げた陶器の護符や装飾品の数々はその一例です。
その他にも後述するように夥しい種類の模造品や類似品があります。

トルコ石の産地 (Turquoise localities)

ニシャプール産のトルコ石 10x4cm
シナイ半島産のトルコ石の
スカラベの彫刻
ルーヴル美術館
18世紀ペルシアの装飾品 7cm
高等鉱山学校 Paris

 オリエントのトルコ石 (Orietal localities)

エジプト (Egypt)

 古代エジプトで使われたトルコ石はシナイ半島西岸の6ヶ所の鉱山で5000年以上昔から採掘されていました。
 鉱山跡近くのハトス女神神殿の石柱に刻まれた文字から,エジプト人はこの土地を Mafkat (緑色の鉱物の土地) と呼んでいました。
 紀元前3200年前の初期王朝時代から前15世紀半ばのトトメス王朝に至る長期間,歴代の王朝により活発な採掘活動が行われていた記録が残っています。 
 その後鉱山は放棄され、19世紀に遺跡が再発見されました。


イラン
(Iran)

 伝説によるとイランの北東部ニシャプールのトルコ石鉱山を発見し,開発したのは旧約聖書に出てくるイサクとアブラハムの親子ということになっています。あくまでも伝説に過ぎませんが,記録では紀元前2100年ごろには発見され、採掘されていました。
 鉱山はニシャブール北西の Kuhi-Binalud 山脈の標高 2000m の Maden (鉱山の意味)村にあります。
この一帯は古い堆積岩に新しい斑岩質の珪長岩や粗面岩からなる溶岩脈が貫入して出来た2〜20mmの厚さの亀裂や空洞が出来ました。
 その後風化作用と雨水等による周囲の岩石との反応でトルコ石と,同時に生成した褐色の褐鉄鉱とが空隙を網の目状に満たしてトルコ石の鉱床が形成されたものです。
 多くの鉱山の中で最も豊かな鉱床を持つAbdurrezzagi 鉱山では永年の採掘により地下50mの深さに至る巨大な蜂の巣のような構造が出来あがっています。
 トルコ石の脈は薄く小さく、それを包む褐鉄鉱ごとカボションに磨かれた場合には冒頭のニューメキシコ産のルースのような、”ネット,”あるいは”蜘蛛の巣”と呼ばれるいわば不純物で包まれた模様が見られます。
 この模様はしかし一般に美しいとして高く評価され,混ざりものの無い純粋なトルコ石同様,人気があります。

 ニシャブールの他に,イラン高原にも豊かなトルコ石産地があって古くから採掘されていたことが明らかになっています。 
 イラン高原にはクロム、鉄,銅、亜鉛等豊かな金属鉱床が存在しますが, 1967年の地質調査によって、南東部のケルマンの西北西の火山岩と第3紀(200万〜6500万年昔)の堆積岩からなる標高4400mに達する5万平方kmの豊かな斑岩 (Porphry) 型の銅鉱床が発見されました。
 イランのトルコ石にはニシャプール産以外にイラン高原産が混在していると考えられます。


アジアのトルコ石
(Asian turquoise)

 
夏王朝遺跡からの発掘品
トルコ石象嵌の獣面文銅牌
16.3x11cm 河南省二里頭
中国社会科学院考古研究所
九頭獅子飾りのトルコ石彫刻
24cm 3kg 
北京地質学博物館
 トルコ石団塊 10x4cm
Wudang(武当)山脈 湖北省
22g 35.0x32.0x24.5mm
China 
トルコ石と金製の聖遺物
5cm Tibet
   
トルコ石の龍頭杖 長さ 70cm 河南省二里頭遺跡
中国社会科学院考古研究所
頭部拡大 目玉と鼻は白い玉製 5.78ct 17.5x13.2x3.1mm
China 

中国 (China)

 中国では翡翠や軟玉の彫刻や工芸品が伝統的に盛んで精緻な作品が現在でも製作されています。
玉に加えてトルコ石も人気のある材料で殷の時代の遺跡からもトルコ石の蝉や蛙などの動物の彫刻が発見されています。
 これらのトルコ石はシルクロードを経由してペルシアから運ばれたものもありますが、中国にイラン産に匹敵する高品質のトルコ石産地があり、非常に古くから採掘されていたことが明らかになりました。
 重要なトルコ石は陜西省と湖北省間の武当 (Wudang) 山脈沿いの山陽 (Shang Yang)、Yunxiang、竹山 (Zhushang)等が主要な産地です。
 かなり大きな中国の地図で探すとこの一帯は地名が殆ど見当たらない広大な山岳地帯ですが,現在建設中の三峡ダムの近くです。
 産状についての詳細な情報はありませんが,イランと同じように褶曲により破砕作用を受けた岩脈の割れ目に1〜5cmの団塊として石英,褐鉄鉱、黄鉄鉱、ヴァリッシャー石等と共に発見されます。
 分析の結果では鉄分を含む鉄トルコ石との混合体ですが、世界のトルコ石産地の中でも最も純度の高いものと評価されています。
 したがって最高と評価されるイラン産と比べて遜色のない品質です。人気のある”蜘蛛の巣”状トルコ石も産出します。

 2004年の夏,新たに中国で最も古く,伝説の王朝と言われた夏王朝 (紀元前2070〜1600年) と考えられる遺跡が河南省で次々と発見,確認されました。
 写真の獣面文銅牌と龍頭の杖も数千点のトルコ石屑と共に二里頭遺跡から発掘されたばかりです。
 二里頭遺跡は前述のトルコ石産地からは数百kmしか離れていません。
恐らく4000年以上昔から採掘されていたと考えられます。

 詳しい情報は全くありませんが、チベットにも何ヶ所かトルコ石の産地があって、様々な宝飾品に特産の山珊瑚と共に豊富にトルコ石が使われています。

 

アメリカ大陸のトルコ石産地 (American turquoise)

 
 アステカのトルコ石で飾られた蛇  大英博物館     41.4ct  30x30x7mm
Sleeping Beauty Mine, Arizona
 
紀元前のトルコ石の鉱山と流通網  金とトルコ石の飾り
黄金美術館 Lima, Peru
 トルコ石団塊と首飾り
Arizona, U.S.A.
16.8ct 21x14x8mm
Sleeping Beauty Mine 
15.38ct 22.7x15.8x7.9mm
Arizona

  現在世界でトルコ石の生産量が最も多いのはアリゾナ州,、ニュー・メキシコ州,コロラド州、ネヴァダ州等,銅鉱山が集中するアメリカ南西部の砂漠地帯です。いずれも斑岩型の銅鉱床に発見されます。 主な鉱山は ;

 アリゾナ州 : Bisbee、Morenci、Courtland、Gleeson、Copper Cities(Sleeping Beauty)
 ニューメキシコ州 : Burro Mountains,(Azur Mines), Eureka, Oro Grande
 コロラド州 : King, Creed, Villa Grove, Holly Cross, Saint Kevin,
 ネヴァダ州 : Buillon, Copper Basin(Blue Gem Mine), Cortez
 
 と、現在でも個人で細々と採掘されているものから,銅採掘の副産物まで含め、40以上の鉱山でトルコ石が採掘されています。
 これらの鉱山のトルコ石の採掘は実は紀元前から行われていました。
上の図は,こうした鉱山から各地の考古学遺跡への流通経路です。
 中南米でもメキシコ,チリ,ペルー,ボリヴィア等には重要な銅鉱山がありますが,意外にもトルコ石はチリとペルーに小規模な産出が知られるのみです。

 北米南西部から南米の太平洋岸に添う銅鉱床は基本的にプレート境界での沈み込みに伴って熱水が上昇し、花崗斑岩、石英斑岩、石英緑閃斑岩等の半深成岩の岩体中に形成された斑岩銅鉱床と考えられています(イラン高原も同様の成因です)。
 
 中南米各地のアステカ,オルメカ、マヤ,更にプレ・コロンビア、インカ、プレ・インカ等の文明は,ジャングルやアンデス山脈等、厳しい条件の地に栄えましたが,いずれも高度な情報網と通商網とを発達させて,数千kmに及ぶ交易が行われていたことが明らかになっています。
 考古学者の発掘により,その背景には,紀元前からのトルコ石の流通網の確立が大きな役割を果たしていたのではないかと考えられます。
 アメリカ原住民と、中南米に栄えた文明はいずれも闇を恐れ,輝ける太陽神を信仰していましたが、昼の青空色のトルコ石が神聖な力を持ち、悪魔の力に対抗し、狩の成功を約束する,等々呪術的な目的に使われた貴重な宝石だったのです。

 アメリカ南西部各地で採掘されたトルコ石は,とりわけニューメキシコ州、チャコ渓谷が集積と9世紀頃には研磨加工の拠点となって中米,さらに南米への流通の拠点となっていたことが,考古学者の発掘で明らかになっています。
 当時の粗末な道具による採掘が極めて過酷な労働であったことも発掘の結果明らかになっています。
 鉱山の遺跡から、トルコ石を取り出すために,単に母岩を叩いて砕くだけではなく、火を焚いて母岩体を熱し,水をかけて砕いた痕跡が発見されます。
 しかし,鉱山に最も近い水場は今日では10kmも離れていて、木を得られる森は数十kmも離れているのです。
 そうした悪条件下の鉱山に控えめに見積もっても10万トンを越えるずりが残されていますが、採掘のために当時、どれほどの労力が費やされたか想像も出来ません。
 古代のシナイ半島や、ペルシア、チベット,中国でも同様です。いずれも砂漠や高山の過酷な条件下、原始的な道具での採掘でした。

その他のトルコ石の産地

 以上の産地の他に、タジキスタン,カザフスタン、サウジアラビア、アフガニスタン、フランス(モンテブラ)、ドイツ(シレジア、チューリンゲン,サクソニー)、オーストラリア,ベル‐、チリ,ブラジル等からも宝石質のトルコ石の産出があります。

 

トルコ石の処理、模造品,類似品 (Turquoise immitation, fakes and simulants)

古代エジプトのトルコ石を模したファイアンス
左から 護符、円筒印章、スカラベ
INAX/世界のタイル博物館収蔵品
天然と様々な処理,類似,合成品の例
中央:ギルソン合成品 2.1ct 左上から時計回りに:
 イラン産のパラフィン処理、ギルソン合成 4,91ct、
アリゾナ産の樹脂処理2ct、イラン産天然 2.79ct
アリゾナ産天然 4.5ct、アリゾナ産パラフィン処理
 1.79ctとプラスチック処理のギブス石 2.68ct
上 染色された濃色の外側と
元の薄い色の内部
7.90x3.23x0.9cm
下 19世紀末ガラスの模造品
9x6mm
上 模造品
下 ギブス石
ギブス石のネックレス
ビーズ径 5.7〜14.5mm
ヴァリッシャー石 球 7.5cm
Faifield Utha, U.S.A.
アメリカ自然史博物館
19世紀のブローチ
トルコ石とオドントライトとガラスが混合
右は骨の縞構造を示すオドントライト部分の拡大 
 トルコ石は地表近くで発見され,比較大量に採れ、しかも加工も容易であることから最も古くから使われてきた宝石です。
大量に採れるとはいえ,しかし権力者が独占し、一般庶民の手に入るものではありませんでした。
 古代エジプトでは明るい青は”邪悪な眼”から守ってくれる昼の空の色とされていましたから、トルコ石は大変人気のある宝石でした。
 したがって本物が手に入らないため、模造品が人気を博し、当時からありとあらゆる模造品が作られました。 
 その代表的なものが写真のエナメル青く着色したファイアンスと呼ばれる七宝の陶器でした。
世界各地の博物館のエジプト展示には夥しい数と種類の鮮やかなファイアンス性の品々が見られますが,これらはトルコ石の模造品だったのです。
 その他の模造品には、色が薄く低品質のトルコ石を着色したり、蝋やパラフィン等の含浸透により色合いを改善したもの、
ガラスの模造品、方解石や大理石,ハウライト,マグネサイトのような鉱物を着色したもの、トルコ石の粉と他の鉱物の粉を着色剤を加えて型に入れ固めたもの等々、思いつく限りのありとあらゆる模造品が氾濫しています。
 更にトルコ石と共に産する、化学組成や色合いの似た鉱物、ギブス石やヴァリッシャー石等も色合いの美しい場合にはトルコ石として加工されました。
 写真のネックレスは、専門家が見ても最高のトルコ石と比較して遜色の無い美しいギブス石です。
 また偽物というわけではありませんがオドントライト(odontolite),あるいはボーントルコ石と呼ばれる鉱物も宝石に使われます。
 これはマンモスやマストドンのような,大昔の動物の牙の化石がトルコ石化したものです。
藍鉄鉱が含まれていると緑色になりますが、加熱処理で写真のようなトルコ石に似た色合いとなります。 
  19世紀半ば頃,南フランスの Gers 地方で、宝石用途にオドントライトの採掘が行われていました。
このブローチはその名残とも言える貴重な品です。
ザカリー処理(Zachery Treatment)
1 2
3 4
ザカリー処理をしたトルコ石 Sleeping Beauty鉱山原石での処理効果
1 未処理 2 表面処理のみ 3 全体の処理
4 全体処理と表面の色彩強調処理
蓚酸液を使ったザカリー処理の検出
ペアの右側が蓚酸検査後の変化
1 表面処理 2 全体処理  3 未処理 
4 全体処理と表面の色彩強調処理
 トルコ石は歴史的にプラスチック含浸等の様々な安定化や着色処理を施される宝石ですが、1980年代後半から,そうした含浸や着色をせずに耐久性や色合いを改善する新しい処理法が登場してきました。
 永年トルコ石の取引に携わってきた電子技術者のJames.F.Zachery が開発した処理法で、現在では年間100万カラット以上のトルコ石がザカリー処理を施されて市場に流通しています。
 企業秘密のために、処理の詳細は明らかにされていません。また開発した本人もどのような仕組みで耐久性や色合いが改善されるのか正確には把握していないようです。
 彼は最高級のトルコ石を産するアリゾナ州の Kingman 鉱床がカリ長石層に産出することにヒントを得て方法を開発したということですが、処理は3段階に渡って行われ,3〜6週間を要するものです ;

1.原石全体に処理を行う » トルコ石の多孔性を改善し研磨を容易にする
2.色の改善処理 » 石の表面の浅い部分に施され、色合いを深める
3.未処理で研磨されたカボションへの処理 
» 2と同様表面の浅い部分を処理して色合いと多孔性を改善する

 というもので、一切の無機物や有機物の含浸も着色剤添加も使わずに、改善されるというものです。


  Gems & Gemology 誌は Spring1999号 にて E.Fritsch (仏,ナント大学教授)、Thomas Moses (GIA宝石研究室副所長)、Shane F. McClure (宝石鑑別会社の専門家)、Mikhail Ostrooumov (サント・ペテルブルグ大学教授)、Yves Andres (仏ナント大学鉱物学校助教授)、Thomas Moses (GIAニューヨーク研究室副所長)、John Koivula (GIA本部カールスバード研究室主任宝石学研究員)、Robert C. Kammering  (GIA宝石研究部門副社長) と、世界を代表する錚々たる専門家を集めて、この処理法の解明に当たりました。
世界各地の16ヶ所から集めた58個のトルコ石のサンプルをザカリー処理して、詳細な分析を行いました。

  結果は、一切の添加物は認められないが、確かに色合いや、多孔性は改善されていることが確認されました。
 20%濃度の蓚酸液に4時間浸した後に,処理された石に脱色作用が見られたことと、EDXRF : 蛍光X線分析  でカリウム分のピークが見られたことが特徴として確認されました。蓚酸処理は劇薬による破壊検査ですから、これで脱色したからといって処理法の欠点とは言えません。
 上記の専門家たちは、処理法が明らかにされないこともあり、分析結果からだけでは改善効果は認めたものの、どのような処理がおこなわれ、何故改善されるかについては結論を出せませんでした。

 どうやら、開発者がヒントを得たというカリ長石層云々から、カリウムイオン照射のような処理をして,そのために多孔性が改善され、乱反射が押さえられて色に深みが出たのでは ? とは素人故の大胆な私見です。


合成トルコ石 (Synthetic Turquise)
ルソンの合成トルコ石
(Guilson synthetics)
        ロシアの合成トルコ石(Russian synthetics)
 天然のトルコ石原石と様々な合成トルコ石のカボション
(Synthetic turquoise cabochons with natural turquoise rough)
5.5ct Ø 11.3mm 5.70ct 14.5x10.8mm
 偽物や模造品が氾濫するのなら,人の手でトルコ石を作ってみようとの試みが起こるのは当然のことです。
 恐らく,大昔からその試みが企てられていたことは間違いありません。
 有名なものは19世紀にオーストラリアのウィーンで作られ,その後フランスやイギリスでも作られた ”ウィーン・トルコ石” と呼ばれるもので、燐酸アルミニウムを銅の化合物で着色してプレスしたもので,物理的な性質はトルコ石に近いものです。 
 また1957年にはドイツで ”ネオライト” と呼ばれるイミテーションが作られました。
これはベイエライト :Ca(BiO)2(CO32 と燐酸銅との混合物です。
 更に水酸化アルミニウムに硫酸銅を混ぜて加熱圧縮したもの、アルミニウムの2水燐酸塩と銅の燐酸塩とを混合沈殿させプレスで圧縮したイミテーション、天然トルコ石の粉末にセメントを混ぜて高圧圧縮したもの等々、トルコ石の化学組成に近い成分を混ぜ合わせてどうにかトルコ石を作ろうとする試みが繰り返され,中にはある程度の商業的な成功を収めたものもあります。 

 真のトルコ石の合成法として1920年代にゴフマンは二つの合成法を試みました 

 1.はアルミニウムと銅の燐酸塩を水酸化アルミニウムと酸性燐酸ナトリウムで混合し,加熱後生成した硫酸ソーダを除いて得られた粉末をプレスする方法

 2.は塩基性炭酸銅と水酸化アルミニウムを燐酸と混合し、100℃少し上で加熱し,出来たものをプレスする。

 こうして合成されたトルコ石は硬度,比重、化学組成が天然のトルコ石と相当するものですが、果たして結晶構造が一致するかどうか、1935年のマイエルによるX線回析では共通点があるものの,天然のトルコ石の粉が混ぜられた疑いがあるとされて、ゴフマンのそれが真の合成か否か確認されていません。

 したがって1972年にフランスのギルソンが合成の成功に発表したものが、商品も市場に流通していることから,最初の合成の成功ということになっています。 
 
 ギルソンも製法の詳細を発表していませんが、恐らくゴフマンの方法に近いと考えられます。

 ソ連でも実験室ではトルコ石の製造に成功しています。ギルソンと同じ燒結プレス法によるもので、X線回析や赤外線吸収特性等、種々の分析でも真性のトルコ石であることが確認されています。
 
 しかしいずれも天然とは構造上全く同じではありませんが、天然と合成では条件も出来る時間も異なリますから、全く同じにはならなくとも当然です。
 天然のトルコ石でも産地により、組成や構造が大きく異なるのは当然で,それが鉱物というものです。

 唯一商業化に成功したギルソンのトルコ石ですが,個人の趣味として行われたもので一代限りで合成が打ち切られてしまいました。

 したがって現在では市場には合成トルコ石は存在しません。

 天然でもカラット当たり1ドル程度の安価な宝石ですから、わざわざ費用をかけて開発し新たな合成品が市場に出る可能性は余程の趣味人でも出ない限りまず無いことでしょう。

Top Gemhall