トラピチェ エメラルドルビーサファイアアメジスト
(
Trapitche EmeraldRubySapphireAmethyst)

 

ムソー鉱山産
トラピチェ・エメラルド
上 59ct 下 10ct
トラピチェ・ルビー 1.55ct
ビルマ モンスー鉱山
ビルマ モンスー鉱山産
 トラピチェ・サファイア 6.59ct 
 とトラピチェ・ルビー  1.55ct
トラピチェ・アメジスト
ウルグアイ アルティガス

 

 トラピチェ・エメラルドと呼ばれる、一見、スター石のようなエメラルドが報告されたのは1924年と昔のことです。
 コロンビアのムソー鉱山から稀に産出するエメラルドに見られるもので、その形状が、中南米で、砂糖黍を絞る圧縮器(Trapiche)の車軸に似ていることから、トラピチェ・エメラルドと呼ばれるようになりました。
 このようなエメラルドを産するのは長い間、ムソー産のみで、特有の生成条件があるかと考えられていましたが、1994年にブラジルのゴイアス州産のエメラルドにも同様なトラピチェ型が報告されて、このようなタイプは普遍的に起こり得ると見直されました。
  さらに1998年には美しくはありませんがマダガスカルのエメラルド鉱山からもトラピチェ型が報告されました。
  その後新たな資料によると、トラピチェ・エメラルドが市場に出まわるようになったのは1964年の事で、ムソー地域のペーニャス・ブランカス(Peñas Blancas)鉱山とチボール(Chivor)鉱山の二つの鉱山からトラピチェタイプのエメラルドが産出した様です。 
  ペーニャス・ブランカス鉱山産のトラピチェは中心が黒く、逆にチボール鉱山産では中心が緑であるとのことです。 フランス宝石学協会誌 (revue de gemmologie 1984 12月号)
*  またまた新しい情報 : トラピチェ・エメラルドは既に1879年のフランスの鉱物誌に短い報告が掲載されたとの事です。
  宝石事典でもっとも権威のあるWebsterはトラピチェ・エメラルドに関しては、実に最初の報告から100年以上も遅れた1983年に、それも1946に最初の発見、と記述していますが、それほどこの風変わりなエメラルドについて一般的な認知度が低かった事実を示すものです。

 このエメラルドを良く見ると、中央に六角形の核があり、そこからそれぞれ60度の間隔で台形型の結晶が成長しています。 中心の六角形の核は先細りの六角錐を成している様子が、上左の表と裏から見た二つの相似形のトラピチェ・エメラルドの写真から分かります。 
 通常のスター石はカボションカットされた底面の結晶軸に沿って含まれるルチルなどの不純物の針状結晶が、レンズ状にカットされた石の表面に光学作用によって浮き上がって見えるものです。
  したがって視点を動かすとスターも位置を変えて見えます。
 しかし、トラピチェ型はそうした光学的な効果ではなく、不純物そのものが結晶軸の縦方向にも沿って伸びている為にスター状に見える点で異なります。
 このような結晶が何故出来たのかは、未だに明確な答えはありませんが、一旦出来た結晶の成長が止まり、その後再び不純物を多量に含む熱水の注入が起こって、トラピチェ・エメラルドが再成長した、と考えられます。
 比較的に珍しい結晶ですが、写真のような透明度の高い標本は稀で、普通に見かけるのは鉛筆を薄片にしたような貧弱なトラピチェ型が多く、宝石標本というよりは、結晶の標本としては面白いという程度のものです。
 ブラジルのゴイアス産はまさにその典型的な例で、エメラルドの部分より、むしろ不純物の結晶の方を多量に含んでいます。 この不純物が何か不明ですが、恐らく微細なバイオタイト(黒雲母)の結晶かと思います。
 ただしコロンビア、ムソー産のトラピチェの不純物は曹長石(Albite NaAlSi3O8)です。
最大のトラピチェ・エメラルド
Star of the Andes 80.61ct
ブラジル、ゴイアス州産のトラピチェ・エメラルド
 12.75x9.85mm  4.21/4.62ct
21ct Muzo Colombia 15x15x11mm 13.7ct Mananjary Madagascar

 

新しいトラピチェ型結晶の登場
 その後、1995年にビルマのモンスー鉱山から同様のトラピチェ・ルビーが、続いてサファイアが報告されました。
エメラルドは六方晶系、ルビー・サファイアは三方晶系と、同じ系統の結晶系に属しますから、このようなトラピチェ型の結晶は、稀ではありますが、この結晶系に共通の現象と考えられます。
 となれば同じく三方晶系の水晶にもある筈と、探して見ましたが、案の定、冒頭の写真の様に、ウルグアイのアルティガス産の紫水晶にも不完全ではありますが、トラピチェ型といえる、結晶軸に沿って不純物を含む標本がありました。この不純物は針鉄鉱(ゲータイト)です。
トラピチェ・ルビーの構造

 コロンビア、ムソー産のトラピチェ・エメラルドとは異なり、チューブ状包有物の構造からビルマ、モンスー産のトラピチェ・ルビーの結晶は一気に成長したと考えられます。
 下記の写真はトラピチェ部分の明細です。
 左の写真は結晶の縦軸(C軸)に平行な断面ですが、チュープ状の包有物が底面にやや下降気味に水平に発達しています。
 2番目の写真は結晶の水平断面で、中心核を持つ結晶と持たない結晶とがあります。
 三番目はチューブ状の包有物の10倍の拡大写真。次はさらに40倍の拡大で、右端の写真はチューブ状の包有物と共に液体と気体との2相の包有物とが含まれていることを示します。 これはモンスーのルビーが熱水起源の生成であることを示します。
 分析の結果、チューブ状の包有物は方解石と苦灰石(ドロマイト)であると識別されました。
 垂直断面 水平断面 左上 4.2mm 中央部 x10 チューブ状包有物x40 2相の包有物 x40
    
 冒頭の写真のサファイアについては、乳白色の部分には大量のルチルの針状結晶が、またトラピチェ部分の包有物は金雲母であると識別されました。
  エメラルド、ルビー、サファイアともに、トラピチェ型の結晶はいずれも大量の包有物が三(六)方晶系結晶の結晶軸に沿って混入したものです。
  したがって、一般にはスター石と同様またはそれ以上に透明度が落ちるため、宝石として美しいものは非常に少なくなります。 
  そのため価格は、珍しさを勘案しても、それほど高価なものとはならないでしょう。 
 1970年頃からコレクターの間ではトラピチェ・エメラルドへの人気が高まり、以後常に需要が高く、品不足の状態にあるということです。
   しかし美しいものは極めて少なく、10カラットを超える美しいルースが出るとニュースになるほどです。
因みに上記の21カラットのルースは64,000ドルの値がついたとのこと。 
  カラット当たり3000ドルの値は珍しさと品質とを考慮すれば、むしろ格安の様に思えます。

 

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