エルバ島のトルマリン
(Tourmaline from Elba Island, Italia)
6x5cm 煙水晶、曹長石と Grotta d'Oggi David Eidahl Collection |
2.5cm 煙水晶、曹長石と Grottad'Oggi Leonard Bedale Collection |
エルバイト 1cm サン・ピエロ(San Piero) ピサ大学博物館 (Museo de Storia Naturale Università di Pisa) |
エルバイト 2cm ミュンヘン工科大学 (Technische Universität München) |
化学組成 (Formula) 結晶系
(Crystal System)モース硬度
(Hardness)屈折率
(Refractive Index)比重
(Density)Na(Li,Al)3Al6(BO3)3Si6O18(OH・F)4 三方晶系 7½ 1.619−656 3.05−10
A・フェルスマンの名著 ”石の思いで” にはイタリア、トスカーナ地方とコルシカ島との間に浮かぶ島、エルバ島のペグマタイト鉱床の目もくらむ鉱物結晶の描写が出て来ます ;
・・・・ かの有名な、エルバ島,モンテカパナのペグマタイト脈はサント・イラリオとサン・ピエトロ・イン・カンポとのうっそうとした谷間のどこかによこたわっている。・・・花崗岩の高い絶壁のあるピエトロ村まで行くけわしい岩道をのぼりたくなかった・・・ 部落へ入ると・・・石垣の中には長石や水晶の結晶がついているペグマタイトの塊がたんねんに組み込まれており、ある家の入り口のしっくい壁には美しい桃色電気石の破片が塗り込まれていた。 ・・・黒雲母の大きな長い穴のある文象花崗岩がごろごろして・・・
平たい桃色緑柱石の結晶,灰色に輝く正長石の結晶、珍しい沸石の結晶,それからしゃぶった氷砂糖のような塊で、非常な貴重品であるポルース石・・・ しかし,この山でもっとも眼をひく鉱物は電気石である。
その結晶は緑、黄、茶,青などの色でかざられており、中でも美しいのは淡い桃色の頭のある大きな透明な結晶で、ピサ市の大学の博物館でみたときはおもわずため息がでたくらいだ。
まさにため息の出るようなエルバ島産の電気石に因んで、1913年以降、透明で多彩な色合いの宝石質の電気石がエルバ石(エルバイト)と呼ばれるようになりました。
電気石には10種類以上の変種がありますが、宝石としてカットされるのは殆どがエルバイトです。
エルバ島はしかし3000年も昔から歴史的な鉄鉱石の産地としても知られていました。
島の東海岸の Rio Marina や Rio Albano の鉱山では現在もコレクターたちが虹色のヘマタイト (褐鉄鉱) やパイライト (黄鉄鉱) を探しに訪れています。
Rio Marina鉄鉱山
(Rio Marina Iron Mine) 1907年Rio Marina鉄鉱山
(Rio Marina Iron Mine) 1977年ヘマタイト(Hematite) 13x7cm
ハーヴァード大学
(Harvard University)黄鉄鉱(Pyrite) 9x7cm
Willaiam Larson Collectionエルバ島はその豊富な鉄鉱脈に加えて、穏やかな気候と風光明媚なことから古来から多くの人々を惹きつけてきました。
最初にこの島に来て Ilba 島と呼んだのはリグリア人で、3000年も昔の事。続いてギリシア人、エトルリア人と続きました。
ローマ帝国の時代にはこの島の気候と風景と温泉とが評判となり、格好の別荘地として、無数の別荘が建築され、広大な庭園や葡萄畑、島を巡る道路網などの建設が行われました。
中世にはピサ人が、ルネサンス時代にはフィレンツェのメジチ家の領土となりました。
そして1814年5月から1815年2月までの短期間ですが、対プロシアの戦いに敗れ皇帝位を降りたナポレオンが捲土重来を期してエルバ島に滞在した事が,この島の歴史のもっとも大きな出来事でありました。
短い滞在期間でしたが,ナポレオンはこの島の宝石と宝石結晶に大いなる関心を示したと伝えられています。 流石はエジプト遠征時に多数の学者を送り込み,その後のエジプト学発展の基礎を築いた皇帝だけのことはあります。
世界の宝石鉱物産地の殆どが人跡未踏の沙漠や山岳地帯等の辺境の地に発見される中で、エルバ島のような古代から開けた地に宝石ペグマタイトが存在するのは稀なる例と言えましょう。
しかし,残念ながらナポレオンはピンクのエルバイトを見る事は出来ませんでした。
その発見は1825年、サン・ピエロの町の下の花崗岩ペグマタイトと、そこから北に1.6kmのグロッタ・ドッジの晶洞の中でありました。
エルバ島 東西およそ35km 鉄鉱床は島の北東部に、ペグマタイトは南西部にある
(Elba Isaland : Iron ores and Pegmatite veins)サン・ピエロ・イン・カンポの町の下のペグマタイト
(Pegmatite Veins beneath the town of San Piero in Campo)
ペグマタイト鉱床の露頭
(Outcrop of Pegmatite Veins)グロッタ・ドッジのペグマタイト遠望
(Pegmatite Zones of Grotta d'Oggi)グロッタ・ドッジのペグマタイト鉱床
(Pegmatite Veins of Grotta d'Oggi)
長石中のエルバイト(Elbaite crystals in feldspar) 4.5x3x2.5cm Elbaite clusters 30p wide
フィレンツェ自然史博物館(Museo di Storia Naturale, Firenze)
サン・ピエロ・イン・カンポのエルバイト(Elbites of San Piero in Canpo) 最大 21mm 10mm 15mm 29mm
エルバ島のペグマタイトでとりわけ美しいトルマリンの結晶を産出したのはサン・ピエロ・イン・カンポとグロッタ・ドッジでした。
これらのエルバイトはいずれも結晶標本としては見事なものですが、宝石質の結晶は小さく色も淡色でしたので宝飾品としてカットされることは殆どなかったと思われます。
そのため、美しい標本がミラノやトリノ、フィレンツェ等主にイタリア各地と、その他、ドイツ、フランス、チェコ等、欧州各地の博物館に残されていて、当時を偲ぶことが出来ます。
エルバイトの他にも正長石,曹長石、束沸石、水晶、淡い青や緑、ピンク,無色の緑柱石、美しい色の満礬柘榴石、リシア雲母や、金雲母,白雲母、極めて珍しいポルックス石やペタル石を産し,欧州各地から多くの鉱物学者やコレクターの訪問で賑わいました。
これらのペグマタイトは掘り尽くされて,今では鉱物のかけらさえも採集出来ません。 と、前回書きました。
しかし,新らしい資料によると、現在でもあちこちに残されている採石場の露頭からは上記の写真のようにペグマタイト脈が発見され、長石,雲母と共に,トルマリン,煙水晶、緑柱石等が発見されるようです。地中海の風光明媚なエルバ島に観光も兼ねて宝石探しの旅は如何ですか ?