紅亜鉛鉱(Zincite)
Faceted zincites from artificial crystals | 天然の紅亜鉛鉱 (Natural Zincite) 9x6mm Franklin鉱山 |
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7.22ct 11x11mm | 4.21ct | 3.9ct | 5.36ct 11.0x6.7mm | |
Silesia, Poland | New Jersey |
亜鉛塗料工場で偶然出来た結晶 上から 113mm(34g)36mm(27g)110mm(55g) Silesia,Poland |
紅亜鉛鉱結晶(Zincite crystals) | 天然の紅亜鉛鉱(Natural zincite crystal) | ||
橙色、無色、淡緑5x4x2.5cm | 橙色の結晶 6x5x4cm | 4x3cm | 12cm | |
Nigeria ?? | Frankline Mine, New Jersey, U.S.A. |
結晶系 (Crystal system) |
化学組成 (Composition) |
モース硬度 (Hardness) |
比重 (Density) |
屈折率 (Refractive Index) |
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紅亜鉛鉱 (Zincite) |
六方晶系 | Zn(Mn)O | 4〜5 | 5.4〜5.7 | 2.013〜029 |
閃亜鉛鉱 (Sphalerite) |
等軸晶系 | Zn(Fe)S | 3½〜4 | 3.9〜4.2 | 2.36〜37 |
紅亜鉛鉱は熱水鉱床、変成鉱床、接触変成鉱床に発見されますが比較的稀な鉱物です。
産地はドイツのシュネーベルク、ポーランドのオルクシュ、イタリアのボッティーノ、ユーゴのクシャイナ、アメリカ、ニュージャージー州のフランクリン鉱山等限られています。
産状は粒状、葉片状の団塊として産するのですが、冒頭の写真のように極めて稀な結晶形を示すものがフランクリン鉱山にて発見されました。
天然の紅亜鉛鉱でルースやカボションとしてカットされたのは,恐らくフランクリン鉱山産が唯一のものでしょう。
ニューヨーク市の北西80kmに位置するフランクリン鉱山はオランダ人が1640年に発見しましたが,その以前から原住民がこの地域で発見される鉱物を顔料として利用していたという古い鉱山です。
フランクリン鉱山と隣接するスターリング鉱山は250種もの鉱物を産し,そのうちフランクリン鉱を含む25種がこの鉱山からのみ発見された新鉱物です。
唯一の紅亜鉛鉱の結晶の他にも、30cmもの巨大な輝石の結晶、8cmの緑の角閃石結晶、9cmの紫の燐灰石、13cmの12面体のアンドラダイト・ガーネット結晶、30cmのヘンドリクス石、21cmのフランクリン鉱、13cmの方鉛鉱、31cmのジェファーソン鉱、11cmの珪亜鉛鉱、3cmのコランダム等々、記録的な品質と大きさの結晶,さらに無数の蛍光鉱物等、歴史に残る鉱物を多数産出して1988年に閉山しました。
これらの鉱物標本は世界中の博物館や個人のコレクションで見ることが出来ます。人工の紅亜鉛鉱1990年代初め頃に世界各地の鉱物フェアに写真のようなきれいな紅亜鉛鉱の結晶が出回りました。
これはポーランドのシレジア地方にある亜鉛塗料の工場の副産物として偶然に出来た結晶です。
同じ例が1983年にアメリカのオクラホマ州の亜鉛精錬所にて精錬用の炉が壊れた際に通気孔の煙突の中に橙色〜琥珀色の結晶が出来ていたのが発見されたという記録があります。
その他にも亜鉛の精錬や亜鉛製品の生産中に事故等で、偶然紅亜鉛鉱の結晶が出来た例は時々起こっています。
いずれも高温の蒸気から結晶が成長したものです。
また、試験的に熱水法と気相法とでの合成が試みられています。 紅亜鉛鉱は本来無色ですが、マンガンを含むと橙〜紅色に、鉄分を含むと淡緑色となります。
ポーランドシレジア地方の亜鉛塗料工場で
気成条件下で偶然出来た結晶とルース左 熱水法結晶 3cm
右 気成結晶初期の熱水法結晶
最大 43mm 52g
1990年代半ば頃から、ポーランドのシレジア産の合成紅亜鉛鉱の結晶とルースとがかなりの量、世界の鉱物・宝石フェアに出回るようになりました。
中には天然の紅亜鉛鉱として、あるいはスファレライト(閃亜鉛鉱)のルースとしてかなりの高値で売られたりしている例があって、アメリカの宝石学協会誌 ”Gems & Gemology" が警告を発したほどです。
冒頭の表の様に紅亜鉛鉱も閃亜鉛鉱もいずれも亜鉛の鉱石で色合い、化学組成、比重、極めて高い屈折率等、良く似た特徴を持っています。
したがって詳しく調べればともかく、肉眼での識別はかなり難しいでしょう。くれぐれもご注意下さい。
ジンカイトはモース硬度が低く傷つき易いため、合成でも天然でも実用的な宝飾品として使うのは薦められません。
高い屈折率による眩い煌きと、見事な色合いとを眺めるだけの典型的なコレクター向けの宝石であります。閃亜鉛鉱に酷似した
合成の紅亜鉛鉱ルース
1.35〜3.26ct
ナイジェリア産の紅亜鉛鉱の正体
2004年中頃からでしょうか,天然のナイジェリア産と称する紅亜鉛鉱の標本を市場で見かけるようになりました。
冒頭のポーランド、シレジア産の結晶と比べるとガラス状の光沢はそっくりで、ファセットカットが出来るほどの高い宝石質の結晶ですが二つの大きな違いがあります ;
第一は : 大きな結晶が少なく、小さな結晶が無数に固まって団塊となって発達している。
第二は : ポーランド産の結晶の場合、色は橙と淡緑とがありますが、両者が混在することはありません。 一方、ナイジェリア産も橙色が多いのですが、一部に淡緑色、あるいは無色透明と、一つの団塊に多色のものが見られるます。
このような産状の結晶が果たして天然なのか、ポーランド産のように精錬の際の偶然の副産物なのか ?
前述のように紅亜鉛鉱そのものが稀な鉱物で,更に結晶となればかつてアメリカ、ニュー・ジャージー州のフランクリン鉱山から報告されているのみですから、鉱物コレクターの間で反響を呼んでいるのも当然です。 写真では全く人工のように見えますが、幸い販売しているお店が近所にあるので実際の標本,数点を手にとって調べて見ました。
標本の大半は純粋な紅亜鉛鉱ばかりの結晶団塊で、ポーランド産と同じ人工のものとの印象を持ちました。
ところが一つだけ、薄い層状の母岩を思わせる緑泥石のような部分に紅亜鉛鉱が付着した標本がありました。 母岩がついているとなると天然である可能性が非常に強くなります。
したがって慎重にルーペで確認しましたが、母岩と思われる緑泥石上の部分は鉱滓状の物質に淡緑色の紅亜鉛鉱が付着しているようにも見えて、必ずしも母岩とは断定できません。
詳しくは,その部分を取り出して内部を顕微鏡で調べる必要がありますが,かなり高価な売り物では不可能です。
全体としては,これはほぼ人工の紅亜鉛鉱ではないかとの考えられます。となると本当にナイジェリア産だろうかという疑問が起こります。何故なら、ナイジェリアが産する世界的な資源としては石油の他には金,錫とトリウムとがありますが亜鉛や鉛は知られていません。
もしナイジェリア産が正しいとすれば、亜鉛の精錬工場や塗料工場での人工のものとの可能性があります。
しかしナイジェリアにそうした近代的な工場が存在するかどうか疑問です。
と言うのは私自身30年ほど昔に首都ラゴスに10日ほど滞在したことがあります。
ラゴスは首都とは言え人口400万人の巨大な村と言うより、ごみ捨て場と言うのが相応しく、私が訪れた世界の60ヶ国余りの国の中では最悪の都市であったことをまざまざと思い出させる土地でありました。
30年昔のことではありますが、たとえ100年経ったところで何か改善されるどころか、もっと酷くなっているだろうと確信出来る程です。
この紅亜鉛鉱については信頼の出来る新らしい情報の出現を待つしかありません。