嫋やかな野の花たち

電気石・トルマリン(Tourmaline)

1 トルマリンという鉱物
ルベライト 40X36cm 27kg
Joao Pinto鉱山 ブラジル
K.Proctor Collection
インディゴライト
10cm
Morro Redondo
Brazil

エルバイト 13X7cm
Dunton Quarry
Mt.Mica Maine

R.Webster Collection
バイカラートルマリン
11X25mm
Nooristan
Afghanistan
石英中のトルマリン結晶
1cm
Paraiba, Brazil

 

ルベライト 
Cruzeiro Mine Brazil
インディゴライト 52ct
Morro Redondo, Brazil
Tourmaline Necklace
Maine, U.S.A.
ハーバード大学コレクション
バイカラー・トルマリン
1.8〜6.0ct
Brazil
パライバのトルマリン
右上 26.3ct
Paraiba, Brazil

 

  化学組成 結晶系 モース硬度  比重  屈折率
トルマリン 36(BO3)3Si6O18(OH,F)4 三方晶系 7 - 7½ 3.03-25 1.62-64

  トルマリンの名はシンハリ語の ” tura mali = トゥラ マリ : 灰をひきつける ” に由来します。
18世紀初めにオランダにもたらされた緑や褐色の透明な柱状の結晶が加熱すると灰をひきつけるために、パイプの灰を掃除するために利用されたという記録があります。 
  トルマリンを加熱すると灰をひきつけるのは加熱により静電気を帯びるためですが、このような性質を焦電性(ピロ電気性)と呼びます。
 更に、トルマリンの結晶を縦軸方向に強く圧すと結晶の上部が正に、下部が負に帯電します。
これは圧電性(ピエゾ電気性)と呼ばれ,マリー・キュリーとともにラジウムを発見したフランスの科学者ピエール・キュリーが1880年に発見しました。
  こうした特性を利用して、宝石質のトルマリン結晶の薄片を潜水艦のソナー用の発振子や、700℃にも達するジェット・エンジンの振動をモニターする振動ゲージといった、過酷な条件下でも安定して動作する精密部品としての用途があります。
 さらに、トルマリンの結晶のc軸(縦軸)に平行に切った薄片はc軸に平行に振動する光だけを通過させる偏光性を持ち、かつては偏光板として顕微鏡などに使用されました
  現在ではプラスティックのポラロイドが実用化されています。
 こうした多様な電磁的な性質から日本語では電気石と名付けられましたが、今ではトルマリンが一般的な呼び名となっています。
 トルマリンがこのような種々の電気的な特性を示すのは下記のような特別な結晶構造に拠るものです。

注意 : トルマリンはマイナスイオンも遠赤外線も発生せず、水を浄化することも活性化することも、あなたの血液を浄化することも、肌を瑞々しくすることも、脳を活性化する作用もありません。
 即ちトルマリンには石綿のような危険性はありませんが、如何なる医学的な効用もありません。 

 前述のように特異な電磁特性を持つトルマリンがいつの間にか様々な医学的な効用があるかのごとく喧伝されています。
Googleで検索すると100万近い項目がありその大半がトルマリン関連の効果があると称する様々な商品に満ち満ちています。
  その論拠となっているのはトルマリンがマイナスイオンや遠赤外線を発生するので健康に良いと称するものです。これらの論拠は全て最初に誰かが言い出した嘘八百の孫引きの孫引きのそのまた孫引きが次第に膨張して万能であるかの如き嘘100万にまで果てしなく広がったものです。
 そもそも”マイナスイオン”なる言葉自体がまともな科学の言葉ではありません。
本当は何処の馬の骨か知れたものではない”xx大学xx博士”推奨などというもっともらしい推薦文などが必ずといってよいほど付いているのが笑わせます。 

トルマリン の結晶形 縦軸方向から見た結晶構造 横軸方向から見た結晶構造 トルマリンの偏光性

   

結晶形が示すように結晶の両端で形が異なる異極像の代表的な例です。
上のカラー図はその結晶の構成を下記のように色分けされた図形で示しています ;
 
 黄色 : 珪素原子の周囲を4つの酸素原子囲んで形成する四面体 : SiO(珪酸)  

 緑 : 硼素原子を3つの酸素原子が囲んで形成する三角形 : BO(硼酸)  

 青色の水酸基上の黒丸 : H(水素)   紫の球 : Na/Ca(ナトリウムまたはカルシウム) 

 赤い球 : Mg(マグネシウム)   橙色の球 : Al(アルミニウム) 青い球 : OH(水酸基)

 黒い線はマグネシウム原子アルミニウム原子とが珪酸硼酸の酸素原子との結合を示します
 ナトリウム(カルシウム)原子は他の原子と結合せず、結晶格子の中に単独で存在している
大変複雑な構造ですが、一つの珪素を4つの酸素が取り囲む四面体が6個で6角形のリングを形成し、その中央に四面体の頂点と底辺にそれぞれ水酸基ナトリウム(カルシウム)が位置しています。
 このような結晶構造の場合には、それぞれ正電荷と負電荷との空間的配置の重心が一致しないため結晶軸の上側と下側とに電荷の分布の違いが起こります。
 これを極性と呼びますが、トルマリンの結晶の上下の形の非対称はその極性の違いが外形に現れたものです。
 このような極性を持つ結晶を加熱したり加圧したりすると結晶がわずかに変形し、それに伴って陽イオンと陰イオンの相対位置が変わって表面電荷の分布に偏りが生じます。 そのため結晶の一端が正に、他端が負に帯電するのです。
 このような電気的な性質を持つ鉱物は他にもありますが、トルマリンの場合、結晶中に自由に存在するナトリウム(カルシウム)イオンが加熱や加圧により移動しやすいことが帯電に大きく寄与していると考えられています。


トルマリンの種類と成因、産地

  冒頭の特性表に複雑な化学組成を示しましたが、その内訳は一層複雑で、それぞれX,Y、Zの位置に入る元素により、下記のように、全部で5つのグループ、12種類に及ぶ一大グループを形成する鉱物がトルマリンです ;

1.アルカリ欠落トルマリン・グループ : [] はX の位置に相当するがこのグループは欠落する

   通常の位置に入るアルカリ金属が欠落していて、 の位置に鉄、リチウム、アルミニウム、 の位置にアルミニウムが入る

  Foitite (フォイト石) :  [][Fe22+(Al,Fe3+)]Al6(BO3)3Si6O18(OH)3(OH)  

1993年、アメリカの鉱物学者、Franklin F. Foitに因む命名
紫色を帯びた暗いインディゴ色で不透明
カリフォルニア、サンディエゴ、パラの White Queen 鉱山の花崗岩ペグマタイトとオーストラリア QueenslandのJack Creek, Ben Lomond のデュモルティエ石を含む熱水性凝灰岩中に産する

  Rossmanite (ロスマン石)  : [](Li,Al2)Al6(Si6O18)(BO3)3(OH)4

 1998年、アメリカの鉱物学者、George R. Rossman に因む命名
チェコの Roznà のペグマタイト鉱床で発見されたピンクの結晶の他にカナダ、マニトヴァ州のTancoペグマタイト、Red Cross Lake, スウェーデンの Utîペグマタイトからの報告がある。 

 左の写真のイタリア, エルバ島産のエルバイト結晶先端の無色透明な部分がロスマナイトであると判明。
ロスマナイトは定量分析をしない限りエルバイトとの肉眼での識別は不可能。
 

2.カルシウム・トルマリン・グループ
 :

   X の位置にカルシウム、Y にリチウム、アルミニウム、マグネシウム、鉄、Z にアルミニウム、マグネシウムが入る                                                   
  Liddicoatite (リディコート石) : Ca(Li,Al)3Al6(BO3)Si6O18(OH/O)3(F)

 6cm  5cm カラー・ゾーンを示すルース
中央 12.7X6.6mm 2.84ct
 20.37ct
 
Minas Gerais
Anjanabonnoia, Madagascar
   
   
 1977年、長年GIA(アメリカ宝石学協会)会長であった宝石学者 Richrd T. Riddicoat に因む命名.
 マダガスカルの Anjanabonoia にて発見されたトルマリン。 その後ロシア、バイカル湖近くの Chita、ブラジルGoias州、さらにナイジェリアと、世界各地のペグマタイトから発見されるようになった。
 Y の位置に Mn,Fe2+、Ti4+、Mg を含み、またリチウム・トルマリン族のエルバイトや時にオレナイトとの固溶体を形成する、いわばエルバイトのカルシウムを含む変種とも考えられる種類で、外観での識別は難しい。
しかし殆どのリディコート石は、色が濃すぎたり、過剰なカラーゾーンを示すため、宝石用途としてカットされることは少ない。


  Uvite (ウヴァ石) :    CaMg
3(Al5Mg)(BO3)3Si6O18(OH)3(OH)
  Feruvite(鉄ウヴァ石)   CaFe
3+2Al6(BO3)3Si6O18(OH)3(OH)


 ウヴァイトは1929年、スリランカのウヴァ地方に産出したことに因む命名
他のトルマリンとは異なり、柱状ではなく平板状の1cm程度の小さな結晶の集合体としてペグマタイトやスカルン鉱床に産する。
 不純物としてナトリウム、三価の鉄やクロム、ヴァナジウム、二価のマンガン、四価のチタンを含み、暗緑、茶色、褐色、赤、黒色を示す。
不透明および半透明で宝石用途にはならないが、稀に装飾用として用いられる。
 スリランカでは石灰岩中に透輝石と共に産する。その他チェコ、ロシアのバイカル湖、ニューヨークのエセックス、カナダ、オンタリオ等に産する。現在もっとも良く見られるのはブラジルバイア州ブルマードのマグネサイトの晶洞中の結晶。
 左の結晶は19x15mm、右は高さ4cm、いずれもブルマードのマグネサイトの晶洞から
鉄ウヴァ石(フェルーヴァイト)は1989年ニュージーランドのCuvier島のペグマタイトにて微斜長石燐灰石、黄鉄鉱と共に産出した鉄を含むウヴァイトとして命名された変種。

 

3.鉄トルマリン・グループ :

  X の位置にナトリウム、Y に三価の鉄、Z にアルミニウムまたは鉄が入る

  Buergerite (バーガー石) : NaFe33+Al6(BO3)3Si6O18(O)3(F)

 バーガー石はメキシコの San Luis Potosi の流紋岩中の熱水性の凝灰岩の堆積の中に発見された
1966年にアメリカの結晶学者 Martin J. Buerger に因んで命名された。 色は褐色がかった青銅色

  Povondraite (ポヴォンドラ石) : NaFe33+Fe63+(BO33Si6O18(O)3(OH)

 1993年ボリビア、コチャバンバ州のサン・フランシスコ鉱山にて発見された鉄トルマリンの新種。 プラハ、カールス大学のトルマリンの専門家 Pavel Povondra 教授に因む命名。
 サン・フランシスコ鉱山はドロマイト、マグネサイト、石綿の鉱山で、玄武岩層に熱水が貫入した際の熱変成による気成作用で微斜長石、滑石、ドロマイト、マグネサイト、ダンブリ石と共にトルマリンが生成したと考えられている。

 ポヴォンドラ石 写真の幅 3cm

     

    4.リチウム・トルマリン・グループ  : 
      X の位置にナトリウム、Y にリチウムとアルミニウム、Z にアルミニウムが入る
      Olenite(オレン石) : Na1−XAl3Al6(BO3)3Si618(O)3(OH)
  シベリアの北極圏、オレニョーク川流域のペグマタイトにて発見された地名に因む
色は淡いピンクで宝石質だが、ミリメーター単位の小さな結晶
その他アメリカ、メイン州の Black Mountain Quarry のペグマタイトやイタリア、エルバ島のエルバイトの一部分はオレン石に属することが確認されています。 
      
      Elbaite(エルバ石・リチア電気石) : Na(Li,Al)
3Al6(BO3)3Si6O18(OH)3F

   

Elba, Italia Golconda Mine,
Cruzeiero Mine 多彩な色のエルバイト・トルマリン Paraiba, Brazil
Minas Gerais, Brazil

 

  イタリア、エルバ島にて発見された宝石質の多彩な色のトルマリンが産地に因みエルバ石と命名されました。
 一般に宝石のトルマリンは大半が、エルバイトです。 
 X, Y ,Z に入るナトリウム、リチウム、アルミニウムはいずれも着色成分でないため、純粋なエルバイトは無色です。
 がそのような例は稀で、普通は微量の鉄、マンガン、チタン、クロム、銅等の不純物を含むため多彩な色合いを見せる。
 結晶の成長に従いこれらの着色成分イオンが交代して入り込んで結晶の縦軸と横軸とに多色や同心円状に着色している例が多く、他の宝石に無い特徴を示します。
 ブラジルを初め、世界各地に多様な産地があって、近年は特にアフリカ各地から続々と新産地が報告されています。

 

     5.ナトリウム・トルマリン・グループ :
       X の位置にナトリウム、Y にマグネシウム、鉄、Z の位置にアルミニウム、クロム、鉄が入る
     
       Schorl(ショール) : NaFe32+Al6(BO3)3Si6O18(OH)3(OH)
2cm 
Australia
 8x9cm
Malacacheta
Minas Gerais Brazil
 幅 12cm
Pakistan
 3cm
福島県石川町 Fukushima, Japan
 7x6x5cm
中国江西省 China

 

 ショールという名は既に欧州で16世紀初めから使われていて、黒いトルマリンを指す言葉ですが、その語源は不明。
 花崗岩ペグマタイト、気成鉱床、グライゼン、片麻岩、スカルンなど広範な地層に、単結晶、団塊、放射状で産出する。
 長さ数m、直径30cmを超えるような巨大な結晶に成ることもある。 鉄分やチタンを含み漆黒に見えが、薄片は濃緑、濃紺、濃褐色、等々成分の違いで多色であり、エルバイトとも連続した固溶体を形成する。
 宝石ペグマタイトではしばしば宝石質のトルマリン産出の前兆として発見される。

 

       Dravite(ドラヴァイト) : NaMg3Al6(BO3)3Si6O18(OH)3(OH)
Dobrova 4mm
Slovenia
4cm Yinnietharra
Australia
21mm
Jajarkot Nepal
3.14ct 9.2ømm
Minas Gerais Brazil
2.5ct
Kenya 
 ドラヴァイトの名は1883年に発見された、現在はスロヴェニアのドラウ川 (Dobrova) に因む。
ショール及びウヴァイトと完全な固溶体を成す。 
 色は褐色、緑褐色で、稀に黄色、濃紅、灰青。 算出は比較的稀。 
オーストリア・アルプス、ヒマラヤ山脈、ウラル山脈、バイカル湖付近、アメリカのテキサス、ニューヨーク、ペンシルヴァニア、ブラジル等。オーストラリアの Yinnintharru で10cm に達する巨晶を産する。
 近年、ケニア、タンザニア、マダガスカル等から宝石質のドラヴァイトが続々と登場してきた。

Chrome Dravite (クロムドラヴァイト)  :  NaMg3 (Cr53+Fe3+) (BO3) Si6O18 (OH)2 (OH)
14x10x6mm  10mm
Uvite , Burma
2.9x2.0x1.8cm
Landanai, Tanzania
1.56ct 8.1x6.8mm Tanzania

 19世紀末にビルマのシャン高原、サルウィン川西岸のサレンニ丘陵で発見された濃緑色のウヴァイト・トルマリンがクロムによる発色と考えられ、クロム・トルマリンと命名された。
 後に発色の主因はクロムではなくヴァナジウムと判明したが、クロム・トルマリンの名が残ったもの。
 1983年にはロシア、カレリアのネオツキー低地にて発見されたクロムを含むドラヴァイトのアルミニウムを鉄とクロムとが置換した変種として命名された。
 交代鉱床中にクロム、ヴァナジウムにとむ雲母やドロマイトと共に数mmの結晶として発見される。
上述のように、1990年代にタンザニアでクロムとヴァナジウム発色の宝石質のドラヴァイトが発見され、大半は1カラット前後と小さいながらエメラルドのような魅力的な色合いのルースが登場しました。
。これはウヴァイトとドラヴァイトとの固容体。漂砂鉱床から小さな水磨礫として採集されるため、大半は1カラット前後の小さなルースがカットされます。
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