池蝶貝(イケチョウガイ : Hyriopsis schlegelii)

 
磨かれたイケチョウガイ  
 14x8x5㎝  16x10x5㎝


       
 野生のイケチョウガイ 淡水真珠の養殖に使われる  最大で13mmにもなる養殖真珠  核を入れない天然の真珠の形 


       
 ヒレイケチョウガイ
(三角帆貝 : Hyriopsis cumingii)
中国の淡水真珠 養殖 高品質の淡水真珠 


 軟体動物門  二枚貝綱   イシガイ目  イシガイ科    イケチョウガイ属    イケチョウガイ種
Mollusca  Bivalvia  Unionoida  Unionidae  Hyriopsis  schlegelii 
 冒頭の真珠色の貝は35年余り昔に、パリで日本の保険会社の駐在員の方が、エッフェル塔のセーヌ川向かいにある、今はパリ市近代美術館になっている、パレ・ドゥ・トーキョーにて貝殻のコレクションの展示会を開催した際に会場で販売されていたものです。
 個人で、広い会場を埋めることができる程の驚異的なコレクションでした。
 きれいに磨かれていて、銀色やピンクの真珠光沢が珍しく、その割には手ごろな値段だったので入手したものです。

 これが何の貝なのか長年分からずにいましたが、色々調べて、どうやら、これは淡水に生息するイケチョウガイを研磨したものに違いないと、ようやく判明しました。 このように磨いてしまうと天然に生息している貝とは似ても似つかぬ外観になりますが、天然の貝殻を覆うタンパク質の外套膜は死ぬと腐ってくるので、標本としての貝のコレクションは、こうして磨いたものにせざるを得ません。

 天然のイケチョウガイは、日本に18種ほど生息するイシガイ科の淡水性の大型の貝の一種で琵琶湖や淀川水系に生息していました。
 同じ種の仲間にカラス貝、ドブガイ等、いずれも真珠を作り出します。
 とりわけ大型のイケチョウガイは、厚い真珠層を持つことから養殖真珠に使われ、1914年に、英虞湾でのアコヤガイ養殖技術を取り入れて、琵琶湖での淡水養殖真珠が始まりました。
 さらに1930年代に、外套膜に、貝殻の核ではなく、貝の組織片を挿入する技術が開発され、飛躍的な生産性の向上によって琵琶湖産の養殖真珠がビワ真珠と呼ばれる、世界的な地位を確立するほどになりました。
 しかしながら1970年代になると、農薬や工場や家庭からの排水等による汚染により、どぶがい等と呼ばれますが、実はきれいな水を好むイシガイ科の貝は壊滅的な打撃を受けて、絶滅の危機に陥りました。
 ついでながら、野生のタナゴ等、イシガイ科の貝の貝殻の中に産卵する習性をもつ野生の魚たちや、その餌となる水生昆虫類も環境汚染により激減し、高度経済成長が進行するに従い、日本の自然全体が壊滅的な打撃を受けたのです。
 1980年代後半になり、淡水真珠の養殖業者は中国原産の近種のヒレイケチョウガイ(三角帆貝 : Hyriopsis cumingii )を導入して、ようやく環境汚染から回復した琵琶湖での養殖が再開されました。 
 さらに1990年代になると、生き残っていた日本のイケチョウガイとヒレイケチョウガイとの交雑種により、より高品質の真珠を生産することに成功し、これは霞ケ浦にも導入され、日本での淡水真珠の生産が復活しました。
 かつては小粒で形が悪いと、アコヤガイの養殖真珠と比べて一段と低い評価しか得られなかった淡水真珠ですが、新しい技術の導入で、今やアコヤガイを凌ぐ大きく多彩な色合いの淡水真珠が生産されています。

 しかしながら、ヒレイケチョウガイの養殖真珠は、日本以外の中国、フィリピン、ヴェトナム、タイ、インドネシア、インド、バングラデシュ等々、人件費が格段に安く、広大な水田や、河口の湿地帯のある東南アジアにて爆発的に広がっています。
 現在では中国が生産量、価格競争力で圧倒的な優位に立っています。
さらに品質面でも、多彩な色合いや、5~7年の長期の養殖期間により最大で13mmの大きさ等々、タヒチやオーストラリアの南洋真珠に迫る勢いです。 
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