ブルー・サファイアの色と品質
(Color & quality
of blue sapphire)
世界各地の天然と合成のブルー・サファイア 0.19 - 8.09ct |
かつては主にアジア各地から安定して供給されていたブルー・サファイアですが、モゴクとスリランカとタイでは鉱床が枯渇し、かつて世界の70%を供給したこともあったオーストラリアは採掘経費の上昇によりアフリカ産との競争に敗れて鉱山が閉鎖される等の理由で供給が激減しているのがブルー・サファイアです。
現在、ブルーサファイアの主要な供給国はマダガスカルの様々なタイプのサファイアです。とりわけ島の南部の変成岩起源のサファイアはかつてのカシミールやモゴク、スリランカの最上品に匹敵する美しいサファイアを産しますが、一般に1カラット未満の小粒なルースが大半を占めます。
各地で産するサファイアの特徴、産地毎の分光分析データの違いの見分け方、更に拡散処理が施されたもの、更にコーティング等により、全く商品価値のないもの等を如何に見分けるか、参考までに紹介する次第です。
ただし、これを見たからと言って、一般の素人がサファイアを正しく識別できるようになるということは決してありません。
プロの宝石商でも、産地の識別、加熱や拡散処理の有無を見ただけでは判断できません。
が、長年の経験から怪しいものは専門の研究機関にて分析をしてもらって初めて分かるというのが現実です。
サファイアの色合い : コーンフラワー・ブルーとロイヤル・ブルー
宝石の世界でよく使われる言葉に コーンフラワー(ヤグルマギク・矢車菊) ブルーという表現があります。
最上級のカシミール・サファイア の色合いを形容する言葉です。
下記の写真がコーンフラワーの色合いです.
コーンフラワーといっても、野生種もあり、様々な園芸種もありますから、色合いは一様ではありません。
さらに全く同種の花でも日差しや、気候等の生育条件により微妙に色合いが異なりますが、大体の色の傾向は分かります。
加えて、必ずしもカシミール産でなくとも、スリランカや他の産地のサファイアの最上級のサファイアにはコーンフラワー色と言って差支えない色合いのサファイアが存在します。
均一の、爽やかな明るさを持つ、やや菫色と青紫を帯びたサファイアを指すと考えれば良いかと思います。
宝石の価値を大きく左右する色合い表記は、サファイアの他にダイアモンドのカラー・グレード、ルビーのピジョン・ブラッド等、種々あり、きちんとした宝石鑑別機関は下記のようなマスターストーンを持っていて、客観的な判断が出来るようになっています。
コーンフラワーブルーのマスターストーン
ヤグルマギク(コーンフラワー)の色合い
コレクションの中でコーンフラワー・ブルーと考えられるサファイア
3.36ct 加熱 2.008ct 非加熱 4.74ct 非加熱 Srilanka ? Mogok
3.36カラットのサファイアは、数年前に市場に出たものです。
一見して美しい色合いのサファイアですが、タイの宝石検査機関、AIGSにてコーンフラワーと認定されたものです。
産地が不明ですが、加熱処理されているため、カシミールとスリランカ産とは識別が不可能になります。
2.008と4.74カラットの非加熱のサファイアはいずれもモゴク産です。
いずれも数十年昔の品が還流したもので、FTIR(フーリエ変換赤外線分光分析データ)と赤外線ー可視光分光分析データが付いていて、一見してモゴク産の非加熱サファイアと分かります。 が、専門の宝石商でもデータから産地の特定出来ない例が大半なので、ごく普通のサファイア並みの価格水準で入手したものです。
今ではモゴク産のこの色と大きさの非加熱サファイアは枯渇してしまいましたから、大変貴重なものです。
、 ロイヤルブルー・サファイアのマスターストーン
コーンフラワー・ブルーと並び、もう一つの最上級のサファイアの色合いとしてロイヤルブルーと呼ばれる表現があります。
これは、マスターストーンの写真が示すように、一般にモゴク産の深い、しかし暗くない透明度が高く均一の濃い青のサファイアを示します。
この色合いはしかし、モゴク産に限らず、カシミール、スリランカ、マダガスカル産の最上級のサファイアに見られます。
コレクションの中でロイヤルブルーと考えられるサファイア
2.003ct 非加熱 | 5.51ct 加熱 | 8.092ct 加熱 |
Kasmir | Srilanka | Madagascar |
一般に典型的なコーンフラワー・ブルー・サファイアの象徴のようなカシミール・サファイアですが、この2カラットのサファイアはどう見てもロイヤルブルーとしか言いようがありません。
スリランカ産の5.51カラットと8.092カラットのマダガスカル産サファイアもロイヤルブルーの典型の色合いです。
いずれも加熱処理がされています。したがって商品価値は多少非加熱品より低いのですが、これだけの美しい色合いの前にはそんなことはどうでも良いことです。
当然のことですが、非加熱の美しくないサファイアより、加熱であっても美しいサファイアの方が、はるかに宝石として魅力があります。
1.84ct 非加熱 | 2.56ct 非加熱 | 2.69ct 非加熱 | 2.13ct 非加熱 | 4.37ct |
East Africa | Pailin, Cambodia | Australia | Thailand | 火炎溶融法合成サファイア |
カシミールのペグマタイト起源、モゴク、スリランカ、マダガスカルのアンドラナンダンボの変成岩起源等と比較すると、その他の玄武岩起源産のサファイアは一般に暗く、透明度が低いため、加熱処理を施して、鉄分を取り去ってようやく宝石として使用できるようになります。
それは、不純物の鉄を多く含み、青の発色の仕組みが三価と四価の鉄イオン間の電荷移動という発色の仕組みのためです。
しかし、同じサファイアであることに変わりはなく、大量に採れる、こうした産地のサファイアの中には、極めて稀ですが、鉄の含有量が少なく、加熱処理を必要としない透明度の高いサファイアが存在します。
これらはモゴク産の最高級のロイヤルブルーと比べて遜色のない美しい色合いが特徴です。
最後の火炎溶融法合成サファイアは、現在のようにインターネットで画像を見られる時代ではなく、定期的に送られてくるカタログだけが情報元であった30年以上昔のこと、モゴクの最上級サファイアの色、という謳い文句に惹かれて入手したもの。 モゴクの最上級サファイアがどんなものか知らなかった為、届いたルースの余りにも深い色合いに、真っ黒 !!! と大いに落胆したものでした。
しかしこれこそは、最上級のモゴクのロイヤルブルーのサファイアであったとようやく気が付いた次第。
合成なのですから、鉄とチタンを天然の最上級品と同じ割合で配合すれば、いとも簡単に合成できるのは当然のことでした。
加熱 5.51ct 9.46 x8.92x7.66mm Srilanka |
非加熱 4.74ct 10.5x7.9x6.3mm Mogok, Burma |
加熱 8.092ct 13.23x10.65x6.83mm | 2.99ct 8.1x7.0mm | 非加熱 2.56ct 10.0x6.3mm |
Andranondambo, Madagascar | ||||
100年以上昔に枯渇し、今や幻のサファイアとなったコーン・フラワー(矢車菊)色のカシミール、同様にロイヤル・ブルー |
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非加熱のサファイア | |||
2.034ct 7.75x7.31mm | 3.23ct 10.00x8.30mm | 4.74ct 10.5x7.9x6.3mm |
2.008ct 6.68x6.28x5.40mm |
Kashmir | Mogok, Burma |
これらのブルーサファイアは全て、戦前からバブル時代に売られた最上級のブルーサファイアの宝飾品が、還流品としてこの20年ほど市場に戻ってきたものです。
このクラスのルースは昔も今も、一般向けの宝石フェアやオークション等にはまず出てきません。
どうやら高級宝飾品向けの特別な販売チャンネルが存在すると思われます。
即ち、産地で採掘された最高級の原石は市場に出ることなく、ティファニー、パリのグラン・メゾンと呼ばれる超高級宝飾店、日本なら和光、ミキモト、田崎真珠等々に直接流れてしまうのでしょう。
現在では入手が困難な逸品ばかりですが、いずれも専門の研究機関にて様々な分析を経て、産地や加熱処理の有無等が確認されたものです。
アルカリ玄武岩起源のサファイア(Sapphires of Alkaline Basalt origine)
1.65ct 7.4x6.8mm | 0.92ct 6.7x4.6mm | 2.20ct
9.4x7.2mm 中国、山東省(Shandong, China) |
1.52ct
8.0x6.1mm Chanthaburi, Thailand |
非加熱 2.13ct 8.23x5.72x4.74mm Thailand |
非加熱 0.33ct 4.4x3.8x1.8mm Auvergne, France |
Pailin, Cambodia | |||||
非加熱 2.69ct 8.94x7.35x4.21mm | 1.06ct 7.8x5.5mm | 1.26ct 7.2x5.5mm | 0.19ct(Ø3.7mm) - 0.37ct 5.0x3.5mm | 1.12ct
7.0x6.0mm Madagascar |
非加熱 1.84ct 6.36x6.20x4.64mm East Africa |
Australia
|
アルカリ玄武岩起源のサファイアは後述するように高濃度の鉄を不純物として含み、殆ど不透明な黒ずんだ色合いのため、長い間宝石として使われることはありませんでした。
しかし1960年代末頃から、高温にて加熱処理することにより鉄分の濃度を大幅に下げることが可能となり、タイ、カンボジア、オーストラリアで大量に採れる結晶を加熱処理したサファイアが一時は世界の宝石市場の大半を占めるほどになりました。
とはいえ、殆どはやはり黒ずんだ色合いで、モゴクやスリランカ産の透明度の高い澄んだ青い色合いと比較して見劣りするため、中級以下の宝飾品用としての需要を引き受ける存在でした。
しかし、近年入手した、タイ、オーストラリア、フランスのオーヴェルニュ、東アフリカ産のサファイアには、非加熱にも拘らず、モゴクやスリランカの最上級品を偲ばせる美しい色合いのものがあります。
産地の如何を問わず、美しいサファイアはあるものと、アルカリ玄武岩起源のサファイアを見直しました。
火炎溶融法合成サファイア(Flame Fusion Synthetic Sapphire) | 拡散処理サファイア (Diffusion Sapphire) | ||
4.37ct 10x8mm | 3.44ct 10x8mm | 2.49ct 10x8mm | 1.78ct 7.8x7.0mm |
サファイアの青の発色の仕組み
宝石質のコランダムのなかで濃い赤のルビー以外の全てはサファイアと呼ばれ多彩な色合いがあります。
が、青いサファイアは全ての青い色の宝石を代表する宝石と言っても過言ではありません。
しかし同じ青いサファイアでも産地による色合いや品質は似ているようで、微妙に異なります。
ここではサファイアの青い色と品質の違いとを産地別に検討してみました。
サファイアの青の発色は不純物として含まれる鉄と、同じくその10分の1程含まれるチタンイオン間の電荷移動によることが1976年に解明されました。
もう少し詳しく説明すると、サファイアの結晶格子中には成分のアルミニウムを一部置き換えて不純物として二価の鉄イオンと四価のチタンイオンとが近接した軌道上に存在しています。
このサファイアに光が当たると、そのエネルギーを受けて二価の鉄イオンから電子がチタンの軌道に飛び移り両イオンとも三価になります。
この時光は赤から橙、黄、緑の広範な周波数帯域に相当する光のエネルギーを奪われるので通り抜けた光には青の帯域だけが残され、サファイアは青く見えると言うわけです。
因みに菫青石(アイオライト)の発色も全く同じ仕組みなので、最上級のアイオライトは最高級のサファイアに匹敵する色合いを示します。 ただしアイオライトは結晶軸の方向により強い多色性を示すため、角度を変えて眺めるとサファイアとの識別が可能です。
さらに1987年にサファイアには二価の鉄イオンと三価の鉄イオン間で電子を交換する電荷移動の仕組みでも同様の青の発色が起こることが解明されました。
アルカリ玄武岩起源のサファイアの発色の多くはこの仕組みですが、不純物の鉄の濃度が高く、ほとんどの光が吸収されるために黒に近い暗青色が大半です。
オーストラリア産のインク・ブラックと呼ばれる青はこの仕組みによるものです。
おそらく他の産地のサファイアにも多かれ少なかれ、二つの発色の仕組みが重なって起こっていると考えられます。
それが産地によって微妙に色合いが異なる原因なのでしょう。
カシミールのサファイア (Kashmir Sapphire)
2.034ct 7.75x7.31mm
Kashmirカシミール・サファイアに特有の
柱状のパルガサイトインクルージョン
Pargasite inclusion 45x液体状インクルージョン
Liquid bubble inclusion 90x
ブルー・サファイアといえば常に引き合いに出されるのがカシミールのサファイアです。
詳細は別途、宝石ホールの ”カシミール・サファイア” の展示をご覧ください
カシミール・サファイアとは19世紀末にインド最西北部、ヒマラヤ山脈に連なるザンスカー山脈の頂に近い標高4500m地点で発見され、20年余り採掘(雪のない夏の3ケ月間のみ)されただけで枯渇してしまったサファイアです。
最上のカシミールサファイアに特有の素晴らしく澄んだ、ビロードのような光沢はコーン・フラワー(矢車菊)ブルーと称され、最上のブルー・サファイアと評価されています。
産出が途絶えて既に一世紀以上が経ち、もはや幻のサファイアと言っても過言ではありません。
が、年に何度かではありますが、古い在庫や還流品の宝飾品が市場に姿を現すことがあります。
指輪にセットされた2.034カラットのサファイアは、そのような経緯で出会ったものです。
小さいながら、紛れもなく、最上のカシミール・サファイアの色と微細な液体状インクルージョンによるビロードのような光沢を備えています。
このサファイアの分析をした専門家によると、過去に見た中でも最も美しいカシミール・サファイアであるとのことです。
下記の分析データ及び、別途エネルギー分散型蛍光X線分析による成分分析でも主成分のアルミニウムとごく微量の鉄分しか検出されないほど純度が高いサファイアであることが確認されています。
微量の鉄とともに青の発色を担っているチタンは検出限度以下でデータに現れません。
それほどに純度が高いことがこのサファイアの深々と澄んだ青い色合いを演出していると考えられます。
カシミール・サファイアの値段
100年以上昔に鉱脈が枯渇してしまったため、市場に出るのは全てがコレクターの放出品か、アンティークの宝飾品の再利用となります。
このような希少な宝石となると、ダイアモンドの4Cで知られるような、一定の相場基準というものはありません。
実はダイアモンドの場合でも、ファンシー・カラーと呼ばれる特別な色合いや10カラットを超える最上級品質のものには4Cの基準に基づく価格表はありません。
希少品の場合はすべてオークションにて需要と供給の兼ね合いで価格が決まります。
日本では時たま、銀座の和光でカシミール・サファイアの宝飾品を見かけます。
2000年には4カラットの指輪が1800万円でした。 2005年にほぼ同じ品質の4カラットの指輪が2200万円でした。 和光の、ダイアモンドで飾り立てた宝飾品の値段ですからあくまでも参考です。
ただし、このクラスの宝飾品となると、飾りのダイアモンドはおまけのようなもので、ほぼカシミール・サファイアのルースがカラット当たり500万円程度の評価をされています。
2004年6月にニューヨークのサザビーのオークションにて14.4カラットのカシミール・サファイアが日本円にして2600万円で落札されました。
カラット当たり166万円と破格の安値ですが、石そのものの色や品質がどの程度のものか分かりませんから、あくまでも参考です。 カシミール産のサファイアとは言え全てが最上級の品質とは限りません。
さらにオークションではどうしても欲しいという客が競り合わなければ意外な安値で落札されることもあり、逆に青天井で値が吊り上がることもあります。
和光も恐らく海外のオークションで入手したものと思われますが、この10年余り、カシミールに次ぐビルマのモゴク産サファイアもほぼ枯渇し、一方で富裕な中国人が数少ない最上級のブルー・サファイアを資産として買い漁っているため、大半が中国市場に吸収され、今日では上等なサファイアは日本市場には滅多に姿を現しません。
因みに、3カラット級の同じ大きさと色合いの非加熱のカシミールとモゴクとスリランカ産との価格比は2016年時で10:3:1、2000万円:600万円:250万円(加熱品は150万円)であったとのこと。
カシミールはもちろん、モゴクのサファイアもすっかり枯渇していますから、さらに値段は高騰しているでしょう。
サファイアの産地別、産状別、加熱処理の有無等を識別する分析データ
2.034カラットのカシミール産サファイア分析結果 | ||
フーリエ変換赤外線分光 (Fourier Transfer Infrared Spectrometer) |
紫外-可視分光光度計分析 (Ultraviolet and visible Spectrophotometer) |
紫外ー可視分光分析による産状別特性 |
赤 : 非加熱を示す吸収特性 | 2.034カラットのカシミール産サファイアの吸収特性 | 青 : カシミール産サファイア 赤 : 広域変成起原のサファイア 緑 : アルカリ玄武岩起原のサファイア |
青 : 加熱処理されたサファイアの吸収特性 |
* フーリエ変換赤外線分光分析データグラフにて、加熱処理されたルビーやサファイアが330ナノメートル付近で鋭い吸収特性を示すのは、コランダムに不純物として必ず含まれる、鉱物、べーマイト(AlOOH) やディアスポール(ALOOH) 等が高温で分解され、コランダム結晶中に取り込まれた水酸基による吸収のため。
カシミール産サファイアの吸収特性 | 左のサファイアの加熱後の特性 | モゴク産サファイアの吸収特性 | スリランカ産サファイアの吸収特性 | 加熱されたスリランカ産 サファイアの吸収特性 | |
Kashmir | Heat treated Kashmir | Mogok | Srilanka | Heat Treated Srilanka |
同じ非玄武岩起原サファイアであっても、カシミール、モゴク、スリランカ産のサファイアでは微妙に色合いが異なります。
肉眼では、とりわけモゴク産とスリランカ産では識別が難しいのですが、分光計による吸収特性の違いで産地を識別することが可能です。
とりわけ三価の鉄イオン(Fe+3)による、374nm, 388nm, 450nm の吸収特性の違いがカシミールとモゴク、スリランカのサファイアを識別する重要な要素です ;
カシミール産は450nmの吸収が弱く、374nm, 388nmの吸収特性もスリランカ、モゴク産とは異なります。
モゴク産とスリランカ産も 374nm, 388nmの吸収特性には明らかに差があります。 モゴク産の狭い、急峻なV字型の特性を見せるのに対して、スリランカ産は深く、幅広い大きなV字型の吸収特性を示します。
参考までに示した加熱処理されたスリランカ産サファイアの分光特性は非加熱のものとは異なり、識別が可能です。
市場では極めて評価の高いカシミール・サファイアですが、全てのカシミール産が美しいわけではありません。
中には色むらがあったり、暗い色合いのものもあり、改善のために加熱処理されることがあります。
ところが加熱によって、暗い色合いは改善されるものの、上の分析データの2番目と5番目の図のように、元の産地のデータとは全く異なる吸収特性となり、産地の特定が不可能になってしまいます。
モゴクのサファイア (Mogok Sapphire)
大理石中のサファイア結晶
10x6.6x6.6cmモゴク産の普通のサファイア原石
5〜10mmカシミール産に匹敵する最上級のサファイア
65.8ct 20.97ct 4.72ct 10.5x7.9x6.3mm
4.72ct 10.5x7.9x6.3mm | 典型的なモゴク産を示す紫外―可視分光吸収特性 | 非加熱サファイアの特徴を示すフーリエ変換型赤外分光光度特性 |
3.23ct 10.0x8.3mm | 典型的なモゴク産を示す紫外ー可視光分光吸収特性 | 非加熱サファイアの特徴を示すフーリエ変換型赤外分光光度特性 |
カシミールのサファイア鉱脈が枯渇して以来、ビルマのモゴク産のサファイアが最も美しいサファイアとして宝石市場に君臨してきました。
とりわけロイヤル・ブルーと呼ばれる色合いが最上とされています。
事実そう呼ばれるサファイアの色合いが美しいのは確かですが、しかしこの呼び名は多分に主観的な判断であり、宝石業界では少し美しい青には”ロイヤル・ブルー”の呼び名が安易に使われているのが実情です。
したがって、呼び名に惑わされることなく、数多くの色合いを見比べて、自分の眼で判断することがが大切です。
1980年代の初めから終わりにかけてサザビーやクリスティーズのオークションに出品された写真のような60カラットを超えるモゴク産の最上級サファイアは150万〜280万ドルもの値が付けられました。
1970年代当初と比べると10倍近い値上がりとなり、実にカラット当たり4万ドル以上の値段でDカラーの最上級の同じ大きさのダイアモンドと同等の評価がされたことになります。
もちろんそうした評価を受けるような大きく美しいサファイアは滅多にはありませんし、オークションでは競り合えば値段は天井知らずに高騰しますから、必ずしも市場の一般的な相場を常に反映するわけではありません。
しかしながらサファイアが極めて高く評価されたという意味では、これらのオークションは歴史に残る出来事となったのも事実です。
残念ながら、今日ではかつてのような最上級品はもちろん、ありふれた品質のサファイアさえ近年では全くと言ってよいほどに市場で見かける機会が無くなりました。
宝石市場で最も高く評価されるモゴクのサファイアですが、実は極めて稀産の宝石です。
名高いルビーと比べると産出量は100分の1、あるいは500分の1と呼ばれるほど産出量が少ないため、宝石質のモゴク産サファイア・ルースをフェア等で見かけた機会がありません。
4.72カラットのサファイアは数十年前に指輪に加工されたモゴク産の最上級の色合いのサファイアです。
拡大して見るとテーブル面の一部に微細な水滴等のインクルージョンがありますが、これほど大きく、美しい色合いのサファイアは今日ではほとんど枯渇してしまって、入手は困難です。
長年の経験ある宝石商から、当初スリランカ産として提示されました。
が、中央宝石研究所で分析した、それぞれ紫外線ー可視光と赤外線の吸収特性から、拡散処理も加熱処理もない、紛れもないモゴク産のサファイアであると判明したものです。
前述のGIAによる別のモゴク産のサファイアの吸収特性と余りにも似ているのには驚かされました。
分光分析データがサファイアの産地の識別にこれほど威力を示すものと、改めて認識を深めた次第です。
3.23カラットの如何にもバブル時代を偲ばせる派手なデザインのサファイアは、サファイアとしては必ずしも最上の色合いではありませんが、しかし中央宝石研究所の可視光紫外線分光分析と、赤外線分光分析とが添付されていて、紛れもないモゴク産の非加熱であることが確認されたサファイアです。
もっともこれを出品していた宝石商は、こうした分析結果の意味が分からずモゴク産とは知らずに、普通のサファイアとして、1.6カラットものダイアモンドをふんだんに使った、枠台以下の値段で出していました。 如何にダイアモンドが使われていようと枠には興味がありませんが、枠を買ったら、枠代の5倍にはなる価値あるサファイアを即決価格で落札した次第です。
最上の色合いではないといっても、充分に美しいサファイアには違いなく、この大きさと品質の非加熱のモゴク産のサファイアは絶産となって久しく、今後滅多に遭遇する機会が少なくなるばかりだからです。
マダガスカルのサファイア (Malagasy Sapphire)
スカルン起源のサファイア (Sapphires of Skarn Origine)
加熱 8.092ct 13.23x10.65x6.83mm 加熱 2.99ct 8.1x7.0mm 非加熱 2.56ct 10.0x6.3mm 0.85ct, 0.72ct 6.7x5.0mm 結晶 0.48〜0.96ct
マダガスカルのアンドラノンダンボ産の変成岩起源のサファイアはカシミール、モゴク、スリランカ産に匹敵する高品質のサファイアですが、1カラット未満の結晶写真が示すように、一般にはごく小さなルースしか得られません。
この分光分析データは写真の8.092カラットのサファイアのものです。
紫外ー可視光による吸収特性は典型的な変成岩起源を示し、モゴクやスリランカ産のそれと極めて似ていて、この特性だけで産地の特定は困難です。
赤外分光分析の330nm付近の急峻な 吸収線は、このサファイアが人為的な加熱処理を受けたことを示します。
じつは天然のサファイアも800〜1200℃の高温下で結晶したものです。
一方人為的な処理では1400〜1800℃の高温にさらせるのでその温度差が、こうした分析の結果として現れるので、人為的な処理の有無が判定できるのです。
加熱処理の有無は市場での商品価値を左右しますが、加熱、非加熱に関わらず美しいサファイアは充分存在価値があります。
したがって2カラット超、時に8カラット超の美しい色のルースは、例え加熱処理をしたものであっても極めて稀な存在です。
玄武岩起原のサファイア (Sapphire of Basaltic origine) 左上(inset) 8.25, 3.26ct 1.12ct 7.0x6.0mm 1.84ct 6.36x6.20x4.64mm 1.04 - 2.98ct Ambondromifehy, Madagascar East Africa
今日、ビルマに代わって最も高い評価を受けているのが1995年ごろにマダガスカル南部のアンドラノンダンボ周辺で発見されたサファイア産地です。
カシミールやビルマ、スリランカ同様、非玄武岩起源のスカルン鉱床からのサファイアの最上級品はカシミール産に匹敵する澄んだ深い青と透明度で注目を集めています。
20年近く昔に入手した時には平均で1カラット程度の小さなルースが大半なためでしょう、カシミール産のサファイアと比べると価格的には5分の1以下の低い評価で、モゴク産と比べると格安の相場となっていました。
他の産地の産出が激減し、マダガスカル産の最上級のサファイアの大半が市場の主流となった現在では当然のことですが、かつてのモゴク産と同等の評価がなされています。
写真の0.85ctのルースは美しい色ですが、1個数千円、0.72ctのルースは結晶面に沿ってカラーゾーンがあるごく普通のサファイアですが、これも1個3000円と、いずれも天然のサファイア・ルースとしては破格の値段でした。
2.99カラットと 2.56カラットのルースは、マダガスカル産サファイアの最上級品質の大きなルースです。
品質もスリランカやビルマ産の最上級品に匹敵しますが、購入した当時は発見から既に10年がすぎて、アンドラノンダンボ産サファイアの品質の評価は確定されていたのですが、どういうわけか値段だけは未だカラット当り数万円と、同等の品質のビルマやスリランカ産と比べると桁違いに安く、気軽に入手できました。
その後このクラスの青いサファイアの値段は高騰の一途をたどり、逆に供給は減る一方で、市場で見かけることすら稀になっています。
マダガスカルでは1990年代後半以降各地でルビーやサファイア鉱床の発見が相次ぎ、現在では質、量共に、世界有数の産地となっています。
ただしアンドラノンダンボ以外の他の産地は玄武岩起源のために、沈んだ青や、多色の色合いです。
スリランカのサファイア(Srilankan Sapphire)
加熱 5.51ct 9.46x98.92x7.66mm 1.21ct 7.2x5.7mm 1.03ct 7.45x5.2mm 1.00ct 7.15x5.2mm 結晶 5 -30mm
5.51ct 9.46x8.82x7.66mm 変成岩起源と、加熱処理とを示す分光分析
スリランカのサファイアは一般に色が淡いため、カシミールやビルマ程の高い評価を受けていません。
しかしタイやオーストラリアの玄武岩起源のサファイアと比べると透明度の高い爽やかな青は格別です。
写真の中二つのルースはいずれも色斑やカラーゾーンがあり、宝石として高く評価される品質ではありません。
しかしサファイアに限りませんが天然の宝石の殆どはこのような品質なのです。
全く色むらがなく一様に濃い色合いの宝石が自然の条件で大きく成長することはむしろ稀なる出来事です。
完璧を求める日本ではそうした稀な宝石しか認めないと言う風潮が強く、必然的に非常に高価な宝石だけが取引の中心となり、そのために宝石が一般に普及しないと言う悪循環に陥っているのが実情です。
しかしこうした色むらやカラーゾーンこそ、自然のなせる業であり、それなりの美しさと魅力に溢れています。
30年以上昔のことですが、初めてツーソンに出かけた時は、限られた予算の中で出来るだけ多くの種類の珍しい宝石を集めることが最優先でしたから、ルビー、サファイア、エメラルドの類の宝石は、ただ横目で眺めるのみ、ショー・スペシャルや半ば処分品の、カラット20ドル程度の品ならためらわずに入手できると言うのが実情でした。
したがって5.51ctの逸品のようなサファイアに目が向けられるようになったのは、あらかた目ぼしい種類の宝石コレクションが一段落したごく最近のことです。
この5.51ctのサファイアですが、最上級のサファイアとはこういうものと、一目で納得させられました。
色むらもインクルージョンも皆無に近く、透明感のある深い青ですから、本来なら合成や拡散処理、さらに加熱処理か非加熱か、等々疑い始めればきりがありませんが、それら俗事を全て忘れさせられる程の毅然とした美しさに満ちています。
したがって検査機関のレポートも何も確かめずに入手したものです。
最近、新たに入手したモゴク産と思われるサファイアと同時にこのサファイアの分光分析を依頼しました。
結果は前述のデータが示すように、加熱処理がされている、変成岩起源でスリランカかマダガスカル産との判定でした。
これらの産地の正確な識別は専門家でも困難なのですが、マダガスカル産が出回る以前に入手したものなので、スリランカ産と判断しています。
加熱処理がされているため非加熱のものより市場価値が30%程低くなるのですが、しかし稀に見る美しいサファイアとあれば加熱、非加熱の有無などは全く問題ではありません。
還流品ですから本来の市場価格と比べてはるかに格安だったわけですが、それでも隣の1.21ctと比べると50倍もの格差があります。
美しさの差を数字で表すことなど不可能ですが、敢えて言えば1000倍どころか1000分の1も違いはありません。
しかし片や何時でも何処にでもあるものと、一方では、おそらくツーソンに出かけたところで必ずしも出会うことがあるとは限らないほどの逸品となれば、その僅かな差に天と地ほどの価格差が付くのも止むを得ません。
宝石という趣味の世界の奥深さを改めて実感させられる出会いでありました。
タイ、カンボジアとオーストラリアのサファイア (Thailand, Cambodia and Australian Sapphire)
2.75ct 2.13ct 8.23x5.72x4.74mm
非加熱1.31ct 7.0x5.7x3.3mm
加熱サファイア原石
3〜8mm
Chanthaburi, Thailand1.65ct 7.4x6.8mm 0.92ct 6.7x4.6mm Thailand Pailin, Cambodia
2.69ct
8.94x7.35x4.21ct1.06ct
7.8x5.5mm1.26ct
7.2x5.5mm0.37ct 0.22ct 0.37ct 0.19ct サファイア原石 3 - 5mm
AustraliaAustralia
タイとオーストラリアとカンボジアのサファイアとはいずれも玄武岩起源で産状や色合いが良く似ています。
タイは南部のチャンタブリと国境を挟んでカンボジアのパイリンとが同じ地質にあり、サファイアとルビーの重要な産地でした。
特にタイ側では重機を用いた大規模な採掘の結果1990年代初頭には鉱脈はほぼ枯渇してしまいました。
代わってオーストラリア産のインクブラックと呼ばれる余りにも黒ずんだ色合いで宝石としての価値がなかった原石を加熱処理により色を薄める技術の導入がタイで開発され、採掘された原石の全量がタイで処理されて出荷されています。
オーストラリアはサファイア原石の生産量では一時は世界の50%以上を占めましたが、原油価格の高騰など生産コストの上昇により、現在では採掘は停止されています。
タイではその他にスリランカ産のギウダと呼ばれる白濁した原石の加熱処理や、マダガスカルやタンザニア等アフリカ産のサファイア原石の加熱処理、研磨、宝飾品への加工等、世界で最大の色石の加工の中心地となっています。
と言った事情で、タイ産のサファイアそのものはタイ原産と輸入加工品との区別がなく流通しているため、それと識別するのは困難です。玄武岩起源とは言え、写真のように上級品は十分魅力があります。
こうした普及品の宝飾品では敢えて宝石の原産地を云々することはまずありませんが、市場で見かけるサファイアの大半はアフリカ、オーストラリア産のサファイア原石がタイで加工されたものと考えられます。
0.18〜0.34カラットの小さなオーストラリア産のサファイアルースは、ツーソンで最初に買ったサファイアで、オーストラリア産としては最高の品質と熱心に勧められたショー・スペシヤルで30ドルのパッケージでした。
インクブラックとは言え、魅力的な色のサファイアです。
一般に黒ずんだ色合いで、市場評価が低かった玄武岩起源のサファイアですが、写真のように、最近入手したタイ産の2.13カラットとオーストラリア産の2.69カラットのサファイアはいずれも非加熱でビルマやスリランカの最上級品に遜色のない美しさです。
大きさと、美し色合いともに玄武岩起源のサファイアを見直すきっかけとなった稀有なるサファイアです。
モンタナのサファイア (Montana Sapphire)
アメリカ西北部のモンタナ州各地の砂金採掘場でサファイアが発見されたのは1860年代に遡ります。
しかしモンタナ産のサファイアはヨーゴ峡谷産の濃い青の原石以外はいずれも淡色で小さくしかも平板状の結晶が多く、宝石よりは精密機器の材料として一時は大量に採掘されました。 アメリカでの採掘はコストが高く、タイやスリランカ産との価格競争に負けて、多くの鉱山は採掘と閉鎖とを繰り返してきました。
近年、淡色の原石を加熱処理で美しく発色させる技術が発達したため、多彩なパステル・カラーのモンタナ・サファイアが注目され、数多くの鉱山が復活、再開発されています。
インクルージョンが少なく透明度の高い、アジアのサファイアとは一味異なるモンタナ・サファイアは最上級の矢車草の青でもカラット当たり1000ドル、普通のサファイアなら100〜300ドルと手ごろな値段です。
1.47ct サファイア原石 5〜10mm
Montana, U.S.A.
合成サファイアと処理サファイア (Synthetic, Diffusion & Coated Sapphire)
3.44ct 10x8mm 4.34ct 10x8mm 2.48ct 9.9x7.9mm 火炎溶融法合成サファイア (Flame fusion synthetic sapphire) |
合成サファイア
紛い物ではない真正の合成宝石の嚆矢となったのは合成ルビーで1882年にスイスで作られたものでした。
これは天然の屑ルビーを溶かして再結晶させたもので、「ジュネーヴルビー」の名称でカラット当たり100マルク、100〜150フランでかなりの量が出回ったと言われます。
しかし1904年にフランスの化学者ヴェルヌイユが火炎溶融法による高品質の合成ルビーの大量生産方法を発明したことで値段はカラット当たり0.3フランに暴落してしまいました。
火炎溶融法による合成ルビーは圧倒的な人気を得て生産は拡大し、1909年当時スイス、フランス、ドイツでの年間生産量は550万カラットに達しました。
当時、青の発色の仕組みが分からず試行錯誤の末にルビーに遅れること6年、1910年にようやくサファイアの合成方法が確立されました。
1913年にはルビーが1000万カラット、サファイアの年間生産量も600万カラットに急拡大しました。
これら生産量の大半は宝石用途であったと考えられます。
したがって100年ほど昔のヨーロッパの宝飾品のアンティークに美しいルビーやサファイアが用いられていた場合には合成品の可能性を検討する必要があります。
現在、火炎溶融法によるルビーやサファイアの生産は全世界で年間数千トン(250億カラット)に達していますが、その殆どは産業用で宝飾用途は極めて少ないと考えられます。
その理由は火炎溶融法によるルビーやサファイアは生産量が余りにも多すぎて価格が暴落し、生産コストが1カラット当たり10円にもならないほどに安くなってしまったためです。
品質や美しさでは天然の最上級品を凌ぐにもかかわらずガラス並みの値段ではどんなに美しかろうと誰も見向きもしないと言う事態になってしまったのです。
写真の3.44カラットのサファイアは20年ほど昔、カシミールサファイアを思わせる最高品質の合成サファイアというカタログの説明につられて入手したものです。
当時はインターネットなどなく、写真もないカタログで大きさと色と等級の説明のみを信じて買うしか方法がありませんでした。
大枚15ドルも払って届いた最高級の合成サファイアに期待を抱いて開けてみたら、何と殆ど真っ黒なサファイアだったので大いに失望して20年間片隅に押し込められたままでした。
次の2.48カラットのオーヴァルカットの明るい空色のサファイアは、ツーソンで5ドルくらいで入手したもの。サファイアはスリランカ産のような明るい空色が最も好ましいと思っていましたが、天然のこのクラスは到底手が届きませんので、参考までに同等の合成品を買ったような次第です。
永らく忘れていた合成品を久しぶりに取り出してじっくり眺める気になったのは前述のスリランカやカシミールの天然の最上級品を入手してからのことでした。
真っ黒ではないか、と失望した合成サファイアが、実は紛れもなく天然の最上級品にそっくりだとようやくにして気が付いた次第です。
本来、天然の最高級品と同じ色合いになるように作られたものですからそっくりなのも当然のことです。
したがって丁寧に加工した宝飾品に合成品が使われたなら外見から天然との区別は不可能でしょう。
しかし合成品ではどんなに材料を精製し、発色材を精妙に調合しても天然の最上級品が持つ味わい深い存在感を再現できるとは限りません。
天然の宝石の場合には測定限界以下で含まれる不純物や結晶内の微細な包有物や気泡、水泡等によってそれぞれの石に固有の色合いが醸し出されます。
天然のカシミールサファイアの深く澄んだ青や天然のスリランカの最上品の深々とした青の色合いは、やはり合成品とは微妙に異なります。
その微妙な違いをどう許容するかの判断で実に千倍から1万倍もの価格差が生じるわけです。
拡散処理サファイア
13.38ct 15.3x11.8mm 1.77ct 8x6mm 3.36ct 9.42x7.84x4.94mm
13.38カラットもの素晴らしく大きく美しい色合いのサファイア・リングは超格安価格で馴染みの宝石店で紹介されたものです。
この色合いと品質、大きさなら1000万円を超えても不思議はない、英王室家宝級の宝飾品です。
早速問い合わせたところ、検査の結果、拡散処理された品であることが判明して取り扱いを取りやめたとのことでした。
こういうものを怪しいと疑って研究機関に確認するのは流石に専門家が経営する宝石店は違うと感心しました。
1.77カラットのコバルト拡散処理のサファイアはツーソンでカラット当たり50ドルで入手したものです。
拡散処理とは、無色、あるいは色の薄いサファイアをコバルト化合物中で加熱処理を行い、サファイアの表面だけではなく、結晶の内部にまでコバルトを浸透させることで、ブルー・サファイアの色合いを実現させる技術です。
タイやオーストラリア等、玄武岩起源のサファイアの最上級品を思わせる美しい色合いですから、手ごろな価格の宝飾品に使われることがあります。 もちろん宝石としての価値はありませんし、専門家が調べれば識別が可能です。
したがってまともな宝石商は拡散処理サファイアを扱うことはありません。
3.36カラットのサファイアはネット市場に姿を見せた低品質の拡散処理品です。巧妙に補正をかけた写真では最上級品に見えますが、カラット当たり1000円と格安なので入手したところ、実物は写真の通り、色こそ美しいのですが、内部に大量の亀裂や内包物を含む屑の原石を大量の、しかも拡散処理後の再研磨を行わず、表面がざらざらしたままという、手抜きのガラクタでした。
コーティング処理サファイア
4.34ct 9.9x7.6mm 1.89ct 7.7x6.0mm ファセットの稜線部がはげ落ちた
クッションカット、4.34カラットとハート型の1.89カラットのサファイアは青い塗料をコーティングした紛い物です。
インクルージョンの多い天然サファイアにコーティングしてあるもので、一見、天然のカシミールサファイアに似た明るく美しい色合いですが、コーティングされた塗料はいずれ剥がれますから、使っているうちに、まさに化けの皮が剥がれます。
もちろん宝石としての価値はなく、一部の悪徳業者が扱うのみです。
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