ベリロナイト(Beryllonite)

 

ルース 13.97ct 結晶 4.3cm ルース 5.42ct   結晶 25x24x15mm 13x10.7mm 5.42ct
Bulochi, Shengus, Pakistan Stoneham, Maine Paprok, Afghanistan Stoneham, Maine, U.S.A.

 

 
  3.8x3x1.7cm
Gilgit-Skaldu
Pakistan
1.8x1.3x0.6cm
Pomarollit Mine
Minas Gerais Brazil
ブラジリアナイト(9mm)を伴う
ベリロナイト 1.7x1x0.7cm
Beryllonite with Brasilianite(9mm)
Divino Das Laranjeiras
Minas Gerais
Photo courtesy : John Veevaert Trinityminerals

マウント・マイカ・ペグマタイト
Mt. Mica Pegmatite, Main, U.S.A.
スターク・ナラ・ペグマタイトでの採掘光景
Mining at Stak, Nara, Pakistan

 

化学組成
(Composition)
結晶系
(Crystal System)
結晶形
(Crystal form)
モース硬度
(Hardness)
比重
(Density)
屈折率
(Refractive Index)
NaBePO4 単斜晶系
(Monoclinic)
5½ - 6  2.83-87  1.552-562

 
ベリロナイトをご存知の方は殆ど無いと思います。私の持っている鉱物事典3冊にはいずれも記載すらありません。
 カットされたルースまで存在する歴とした天然の鉱物なのにその冷遇振りはどうしたことだろうか。
 最近新たに入手した鉱物事典 ”Complete Encyclopedia of Minerals : Chartwell Books Inc., New Jersey, U.S.A." の600種余りの鉱物種の中に稀産種としてようやく取上げられています。
ところが1956年刊、風間書房発行の久米武夫著”新宝石事典”には詳細な紹介があるので、下記に転載します :

 
成分は燐酸55.87,酸化ベリリウム19.84,曹達23.72。結晶斜方晶系,短い柱形乃至板状をなし、往々垂直軸に平行に溝及穴を有す。ハリ光沢,底面真珠光沢,色は無色、白色、淡黄色にてその黄玉に似た光沢ある透明石を宝石として用うるも,十分のfire(火色)を欠く。劈開完全、硬度5.5−6、比重2.84,重屈折1.56及1.577、ニ光軸陰性。吹管にて爆音を立てて溶融してやや曇ある硝子となる。北米メーン州Stonehamに良石を産す。 

 結晶系は現在では単斜晶系とされていますが、およそ半世紀を経た今日でもベリロナイトについてこれ以上,何も付け加える必要がありません。
 新宝石事典は500ページ足らずの小事典ですが、およそ宝石に関する産地や組成,特性,主要宝石の包有物の図や多様な呼称等々,これほど水準の高い専門性を備えた本が当時の日本で出版された事実に感動を覚えます。
 今日の日本でもこれほどの事典はなく、欧米の豊富な資料と伍して、今でも大いに参考になります。
 著者の久米武夫氏は御木本真珠店で宝石専門家として活躍されていた方です。かつてティファニー宝石店にもクンツァイトの名を残したクンツ博士が活躍していましたから、同じ時代に日米を代表する宝石店にそれぞれ宝石の碩学が活躍していたことになります。

 Beryllonite is a rare hydrothermal mineral in cavities in granitic pegmatites where it is associated with herderite, albite and tourmaline. Crystals and their twins, up to 150mm across come from Stoneham and Newry, Maine, U.S.A ; also from Viitaniemi, Finland and Paprok, Afghanistan, Stak Nara and Shengus Pakistan, and recently from lithium-phosphate pegmatites of Minas Gerais, Brazil. Since long, facetable crystals have been collected only from pegmatites of Maine, U.S.A., but since late 1990's, pegmatites of Minas Gerais, Brazil and Pakistan recorded some gemmy crystals, as shown in photos.

 さて、この上記の記載にもあるメイン州ですが、アメリカでは西海岸のカリフォルニア州,サンディエゴと並ぶ代表的な東海岸にあるペグマタイト宝石の産地です。とりわけ緑のトルマリンはブラジル,パライバのそれに匹敵するような鮮明な色合いと高い透明度で昔から有名でした。 詳細は"メイン州のトルマリン"を参照下さい。
 さらにメイン州は永らくファセット可能な宝石級のベリロナイト結晶の唯一の産地でありました。ベリロナイトは同じベリリウム鉱物で稀産のフェナス石等と一緒に産出し、時に15cmもの結晶がストーンハムやニューリーのペグマタイトから発見されます。
 ベリロナイトは劈開性が強くファセットカットが難しい鉱物です。結晶も無事にカットされたルースも氷砂糖みたいでとりわけ魅力があるわけでもありません。すなわちコレクターのみが興味を示す宝石と言えましょう。
 写真はメイン州ペグマタイトの中心マウント・マイカとパキスタン・スターク・ナラでの採鉱の模様。
 結晶の産地アフガニスタン、パプロックはメイン州と同様にポルックス石の良晶や、ピンク、緑、淡青色のパステルカラーのトルマリンを産します。メイン州のそれと類似した地質の、典型的なリチウム・ペグマタイト地帯です。
 宝石質のベリロナイトは永らくメイン州が唯一の産地でしたが、最近になって、ようやくパキスタンとブラジルのミナス・ジェライス州各地から宝石質の透明なベリロナイトの結晶が出回るようになりました。

  

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