新着宝石展示室
( New Gemstone Gallery )


 December 2018   :   合成宝石 (Synthetic Gemstones)



 
様々な合成宝石 0.76 - 8.33ct
(Various synthetic gemstones) 


熱水法合成レッドベリル (Hydrothermal Synthetic Red Beryls )
       
1.25ct Ø7.0x4.7mm  0.76ct 7.8x4.7x3.5mm  1.75ct 7.6x7.1x5.3mm  1.95ct 7.3x5.6x5.0mm   1.87ct 7.9x5.2x5.0mm
Russia 
  天然のレッドベリルは高温の熱水と蒸気の混じった気成条件下で生成したものですが、合成レッドベリルは600℃の高温と2000気圧の高圧の熱水環境下で半年ほどかけて結晶を成長させて合成したものです。
 天然のレッドベリルは主に三価のマンガンによる発色ですが、合成品はマンガンとクロム、更に容器の壁から溶け出した鉄、ニッケル等により、赤橙、赤紫等の色合いになります。
 右端の六角柱は、天然の結晶形を模してカットされたものです。
合成レッドベリルはかつて1990年代にシベリアのノヴォシビルスクにある科学アカデミーの研究所が試験的に生産したものが、少量市場に姿を見せたのみでした。 ソ連崩壊後にロシアとタイの宝石製造販売合弁会社の Tairus 社が設立され、モスクワにあるロシア科学アカデミーの属する結晶学研究所の関連企業、Emcom Ltd. と連携して合成レッドベリルの商業生産が行われています。
 日本では合成宝石は全く人気がないため合成レッドベリルが市場に姿を見せることはありませんが、タイに本拠を置く宝石業者がネット・オークション市場に時々出品しているものを見かけるのみです。
 が、天然のレッド・ベリル採掘が中止されて20年近く経ち、供給が全く途絶えてしまいましたから、天然とは異なる熱水法の合成とは言え、レッドベリルが入手できるのは嬉しいことです。

ギルソン・フラックス法合成エメラルド (Gilson Flux type Synthetic Gilson Emerald)


      1930年代末に世界で初めて合成エメラルドの商業生産技術を確立したアメリカのチャザムに次いで、
1963年に、二番手ながら、15年の歳月をかけて、内包物の少ない、極めて美しい合成エメラルドの開発に
成功したのが窯業会社を経営していたフランスのギルソン (1914 - 2002 ) でした。
 しかし、手間のかかるエメラルドの生産は商業的に成功したとは言えず、ギルソンはその後、オパール
、トルコ石、ラピスラズリ等の開発と生産に注力して、合成宝石の歴史に偉大な足跡を残しました。
 1980年代以降、ギルソンは宝石合成事業から引退し、その技術は一部が日本の中住クリスタル等に受け
継がれて生産が行われたようです。
 しかし日本の宝石市場では合成宝石は全く受け入れられないため、生産された全ては海外、特にアメリカ
に輸出され、チャザム社の販売網等で売られていたようです。
 初期のクロム発色のギルソン合成エメラルドは赤の蛍光色を発するため、鉄を添加してそれを抑えたり、
更にクロムとニッケルとを添加して黄緑色を発色させたもの等、変更が加えられています。
 生産と流通量が極端に少なく、30年ほど昔にツーソンで入手した0.77カラットの小さなルースしか持って
なかったので、今回ようやく2個目を入手しました。
  
 1.53ct 8.2x6.2x4.0mm


火炎溶融法合成スピネル ( Flame Fusion Synthetic Spinel )

  自然光、白熱光下の色  蛍光灯下の色 
     
1.40ct 7.4x5.5mm  Zultanite immitation 8.33ct 13.4x11.5x3.4mm  
 8面体の結晶は典型的な天然のスピネルの結晶形ですが、これは天然ではなく、合成スピネルを天然の結晶を模してカットしたものです。 
 鮮烈な色合いの天然の青いスピネルはパキスタンやヴェトナムから稀に発見されますが、大半は透明度の低い結晶標本級に過ぎません。 したがって、火炎溶融法の合成品であっても、このようにカットされたものには魅力があります。

 8.33 カラットのルースは最近、合成カラーチェンジ・ズルタナイトと称して時々ネット市場に姿を見せているものです。 
ズルタナイトとは、正しくはトルコのスルタンに因み、スルタナイトと呼ばれる、一見、アレクサンドライトのような色変わりを見せる ディアスポールの商業名です。
 世界で唯一、トルコの最西南部のエーゲ海に近い山中で宝石質のディアスポールの結晶が採掘されます。
一般的な知名度は全くなく、大して美しいわけでもない、コレクターのみが興味を持つような宝石ですから、そんなものを敢えて合成するようなもの好きはいる訳がありません。 
 ナノ合成ナントカを騙る耐熱ガラスのイミテーションに違いないと思っていました。
 しかし、あまり度々ネット市場に登場する上に、様々な色変わりを示すので、その正体を突き止めようと、入手した次第です。
 まずは屈折率を測ったところ、1.685 と、ガラスにしては高すぎる、スピネルの値が得られました。
念のために比重を測ったところ、3.609 が得られ、これは正しく合成スピネルであると判明しました。
 一般に色変わりする宝石の多くは白熱光下では赤い色合いを示します。 しかしこの石は自然光でも白熱光下でも赤橙色で、唯一蛍光灯下で濃い緑色という不思議な色変わりを示します。
 調べてみると、似たような例は稀にブラジル産の天然のトルマリンにて報告されており、リヴァース・カラーチェンジ (Reverse Color Change) と呼ばれるのだそうです。 この トルマリンの色変わりの原因は不明ですが、合成スピネルの色変わりの原因は、恐らくランタノイド系の、ネオジウム等の複数の希土類元素の添加に因るものと思われます。

YAG (Yttrium Aluminum Garnet )
     1960年代末から1970年台央の頃まで安価なダイアモンド・イミテーションとして大衆向けの宝飾品市場で
持て囃された YAG ですが、1.833の屈折率では到底ダイアモンドに対抗できず、その後開発された、ダイアモンド
に近い、高い屈折率を持つ GGG やキュービックジルコニアに駆逐されてしまいました。
 僅かに種々のランタノイド系の希元素を添加し、鮮やかな色合いを示す YAG が手ごろな価格のアクセサリー
市場に姿を見せているのみでした。
 しかし YAG そのものは、産業用や医療用等々、広範な分野で使われるレーザーの主力として現在に至るまで
大量に生産されています。
 華やかな色合いの種々の宝石がいくらでもある今日では,敢えて、昔の YAG が宝飾用途に生産されるとは
思われませんから、現在時たまネット市場に姿を見せるのは、古い在庫をカットしたものと考えられます。
 30年以上経っての復活ですが、物珍しさから一部のコレクターには人気があり、結構な値段で、と言っても
カラット当たり100円~200円程度の水準で取引されています。
 実はピンクの YAG は持ってなかったので、今回入手したような次第です。 
 4.83ct Ø9.5mm  


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