ブラジルのトパーズ (Brazilian Topaz)

ブラジル各地のトパーズ(Faceted Brazilian Topazes) 0.33 - 64.25ct ブラジル産トパーズ結晶 11 - 58mm

 

天然の青いトパーズ 16x12cm
Xanda Mine 
Pala Intern'l Collection
シェリー色のトパーズとルース
Ouro Preto 
金色のトパーズ結晶 251kg
 
アメリカ自然史博物館 New York
(American Museum of Natural History)
Minas Gerais, Brazil

世界遺産に指定されたオウロ・プレトの街並み
(Ouro Preto, Minas Gerais, Brazil)

 17世紀の終り、ブラジルのミナス・ジェライス州南部の片田舎、Villa Rica(豊かな別荘の意味)の町で金が発見されました。
 一攫千金を夢見てポルトガルからやって来たガリンペイロ(山師)達が小川のせせらぎで水を飲もうとして見つけたのだと伝えられています。それは当時、西半球最大の金鉱床の発見となりました。
 金鉱脈は黒い鉄鉱石の脈の中に発見されるため、町の名は黒い金(オウロ・プレト)へと変りました。 
 世界の金の半分を生産する程の大鉱山となったオウロ・プレトの町は,1720年代には人口がニューヨークの二倍にまで達する大都市へと発展しました。
 さらに1735年、今度はオウロ・プレトの郊外で金色、オレンジ,ピンク等のトパーズが発見されたのです。
既に1728年には同じミナス・ジェライスにてダイアモンドも発見されていて、こうした一連の金や宝石の発見はポルトガル政府が積極的にブラジル全土の地下資源の開発を推進するきっかけとなりました。 
 その中心地となったオウロ・プレトの町は1800年代末にはミナス・ジェライス州の州都として(現在はベロ・オリゾンテに移っている)壮麗な宮殿や13ものバロック様式の大聖堂の立ち並ぶ美しい町として,現在も昔の面影を残しています。 
 当時の州知事の宮殿は現在は博物館として2万5千点を超えるブラジル産の素晴らしい宝石や鉱物が展示されています。
 発見以降世界を席巻する事となったオウロ・プレトのトパーズは2世紀半余り経った現在も依然として世界を代表するトパーズ産地として市場に君臨しています。
 また、やはりミナス・ジェライス北東部ジェキチニョーニャ渓谷にあるアラスアイ近郊のペグマタイト地帯では20世紀半ばに濃い青い色のトパーズが発見されました。シャンダ(Xanda)鉱山です。
 その他ブラジルのミナスジェライスを中心として黄色から金色のトパーズはバイア州やエスピリト・サント州等各地から冒頭の写真のような宝石質の巨大な結晶が多数発見されます。 
 それらは結晶のまま,あるいはカットされて世界の博物館や個人のコレクションとして見ることが出来ます。
 無色のトパーズはペグマタイト鉱床に広範に発見されますが、宝石としてカットされることはありませんでした。 
 ただし近年では,高エネルギー線照射とその後の熱処理により青く変身するため,膨大な量が処理されて宝石として市場に流通するようになりました。 
 一般にオウロ・プレトのトパーズはインペリアル・トパーズとして知られています。
これはブラジルで新たに発見された黄金色のトパーズが、当時の欧州で一般的であった黄色のトパーズに対抗し、その優位性を誇示するために名づけられた呼び名です。
 しかし現在では、かつてロシアで一時産し、ロマノフ王家が独占したピンクのトパーズに因んで色の濃いピンク、サーモン、シェリー色のトパーズがインペリアル・トパーズと呼ばれ、淡色の黄金やピーチ・オレンジ色のトパーズはプレシアス・トパーズと呼ばれています。 
 いずれにせよこれらの呼称に特別の意味も、色合いの厳密な規定もあるというわけではありません。
 とりわけ稀少な色合いを強調するために,宝石業界の思惑でそう呼ばれているというだけの事です。
宝石市場では高く評価されない青や,黄色,淡褐色のトパーズも充分美しい事に変わりはありません。

オウロ・プレトのトパーズ
(Topaz of Ouro Preto)
Golden Topaz 8.32ct 22.0x8.6mm Golden Topaz
1.01ct(10.0x4.2mm) x - 1.25ct(8.1x4.5mm)
Sherry Topaz
1.01ct(10.0x4.2mm) - 2.52ct(8.0x7.5mm)

Salmon Pink 4.67ct 13.0x8.3mm Pink Topaz 0.33ct(6.8x5.5mm) - 1.43ct(7.2x5.9mm) Pink Topaz 4.37ct 11.4x8.0mm


200平方kmの広範囲に広がるオウロ・プレトのトパーズ産地 Dom Bosco鉱山 1938年 カポン(Capão)鉱山 1996年
 
 オウロ・プレトの町は州都ベロ・オリゾンテから東南に60km、リオ・デ・ジャネイロからほぼ真北に300kmの距離にあって、ミナス・ジェライスのペグマタイト地帯の最西南端に位置しています。
 ベロ・オリゾンテのそれぞれ東北から南西ヘ半径100km余りの地域にはイタビラ鉄鉱山を始めとする、鉄,マンガン、金,ボーキサイト,ニッケル等,ブラジルと言うより,世界で屈指の豊穣な鉱山地帯でもあります。
 オウロ・プレトも ”オウロ・プレト鉄の四角地帯”と呼ばれる豊富な鉄鉱床の只中にあり、トパーズ産地は鉄鉱床の中にあります。 
上の図のようにオウロ・プレトの町の西方へ東西44km,南北に4〜6kmに広範囲にトパーズ鉱床が存在します。 
 主な鉱山は朱色で示されたヴェルメリョン(サラメーニャ)、ボア・ヴィスタ、カポン、ドン・ボスコ等ですが、その他に本格的な地質調査が行われずに採掘が行われている零細な鉱山は数多くあり、トパーズは今後も長期に渡り安定した供給が期待できます。
 この地のトパーズの成因については過去1世紀に渡る論争が行われてきましたが、1980年代末になって,ようやく結論が出ました ;
 トパーズはプレ・カンブリア紀(5億7000万年以上前)の花崗片岩と花崗岩から成る三層の地層の上に50m以上もある厚い風化した堆積層に発見されます。
 過去27億年と13億年昔との2度、この層に深層岩の貫入が起こり、それに伴う弗素分に富む熱水と花崗岩との変成作用でトパーズ鉱脈が出来たと考えられています。
 そして深層岩からもたらされたクロム成分が、オウロ・プレト特有の金色から濃いシェリー色,ピンク等の発色の原因になっています。
 非常に古い時代に生成したため、トパーズはすっかり風化した茶色と濃褐色の滑石と粘土の層を貫く 1m〜6mの厚さのカオリンの脈の中に石英,雲母、ルチル,薔薇の花のような 20cm もあるヘマタイトの結晶、時には宝石質の緑や青,黄色,紫の宝石質のユークレースを伴って発見されます。
 トパーズの結晶は普通は3〜5cmの大きさで15cmを超えるものは稀です。
過去最大の結晶は高さ50cm直径が8cmでした。
 ロス・アンジェルス自然史博物館には長さ28cmの見事な金色の結晶が展示されています。
トパーズ結晶の色は淡黄、黄橙、橙褐色、ピンクがかった橙(サーモン,ピーチ)、ピンク、朱橙、シェリー色と多彩です。10年に1度ほど,稀にピンクがかった紫の結晶が発見されます。 
 結晶の殆どには亀裂が多く、宝石としてカット出来るのは1〜2%程度に過ぎません。 また5カラットを超えるルースが採れる結晶は1千個に一つ程度です。
 
カポン鉱山のトパーズ (Topaz of Capão Mine) 
  オウロ・プレトの一般のトパーズ鉱山では,上記のドン・ボスコ鉱山の写真の様に、現在でも依然として,主に人の手でペグマタイト鉱脈を掘り進める方法で採掘されています。 
 上部の堆積層もトパーズ鉱脈も共に風化していますから,つるはしやシャベルだけで簡単に掘り進める事が出来るためです。 
 しかし初生のペグマタイト鉱床を掘る場合にはダイナマイトで硬い花崗岩層を爆破せねばなりません。
 数ある鉱山の内で,最も古く,しかし唯一、採掘の機械化が進められていて、オウロ・プレト産トパーズの50%を占める代表的なカポン鉱山の資料を紹介します。
 
 カポン鉱山は600ヘクタールの鉱区の中に上の写真の大きさが350x150m,深さが30mと、200x80m,深さが18mとの二つの採掘場とがあり、50人が働いています。ブルドーザーで厚い堆積した地層を剥ぎ取り、クレーン浚渫機でトパーズ鉱脈層を母岩ごと集め,ウォーター・ジェットで土砂と結晶とを分け、選鉱コンベアーを通してトパーズ結晶を選び取リます。 また露出した鉱脈から人手でトパーズ結晶を採集します。
 こうして1日平均1kg,多いときは5kgの結晶が採取されます。 
一月で11000立方mの原石を処理して100kg足らずの結晶が得られ、ファセットされたルースは5500カラットですから、2立方mの土砂を処理してやっと1カラットのルースが得られる歩留まりです。
 大半の結晶は黄色で、最も価値の高いシェリー色は全体の0.5%程度に過ぎません。天然のピンクの結晶も採取されます。 また1996年にはまとまって200gの天然の紫色の結晶が8年ぶりに発見されました。
加熱処理されるトパーズ (Heat treatment)
   最も人気の高いピンクや紫のトパーズは天然には稀にしか産出しません。 そしてオウロ・プレト産の大半を占める黄色のトパーズの多くは加熱処理によって人気の高いピンクや紫,サーモン、ピーチ、シェリーへと変身させられます。
 ピンクや紫,オレンジの発色は微量に含まれるクロムの発色ですが、普通は黄色のカラーセンター(その原因は未確認)による発色で隠れています。
 天然のピンクや紫は恐らく熱変成作用で結晶した際に黄色のカラー・センターが取り除かれたせいだろうと考えられています。
 したがって,人の手で熱を加える事で同様にピンクやシェリーを引き出す事が出来ます。
長年の経験によって、565℃の温度で40分ほど加熱し、ゆっくりと室温まで冷やすことで最上の結果が得られます。
 加熱されて得られた色は天然同様、安定しています。
 ただしトパーズの結晶には本来亀裂や気体,液体,他の鉱物の結晶等のインクルージョンが多く含まれていて,加熱によりそれらが膨張して亀裂が広がったり,全体が割れたりするリスクを伴います。
 また人の手によって加熱処理された石は、短波長の紫外線照射で天然には見られない青白い蛍光を発しますから非加熱処理の石との区別が可能です。
 
左側が天然、右半分は加熱処理された
結晶 97.59ct
拡大写真 20x 同じ結晶の短紫外線照射反応  

    

シャンダ鉱山の青いトパーズ (Blue Topaz from Xanda Mine)

     

シャンダ(Xanda)鉱山 レピドライトで覆われた
トパーズ結晶 高さ 12cm
スミソニアン自然史博物館
トパーズ結晶 12x9cm
W.Larson Collection 
結晶 16x12cm ルース 182ct
ネックレスのトパーズは照射と
加熱処理をされたもの

 ミナス・ジェライス北東部、アラスアイの町の近くヴィルジェン・ダ・ラパ近郊には、小さいが特徴ある鉱物を産するペグマタイト鉱脈があって,シャンダ、リモネイロ、モロ・レドンド、トカ・ダ・オンサの四つの鉱山があります。
 単調な小高い丘陵地帯が数百kmも続き,冬の雨季には洪水とぬかるみとで交通が遮断されるような地方ですが、1939年から1945年にかけてベリリウム資源を求めて緑柱石採掘の為に開発された鉱山です。
 ここでは初生のペグマタイト鉱脈を、始めは露天掘りでしたが、後に厚い、長く水平に延びる鉱脈を追って、トンネルで1973年頃まで主に鉱業用の緑柱石を採掘していました。
 次第に鉱脈が枯渇して来たので、その後は、付近の農夫や牧童達が乾季に時々発見される宝石のポケット(晶洞)を探しての採掘が行われ、数cmから時に2mに達する晶洞にはファセット級やカボション級のトルマリンを始め様々な宝石が発見されていました。
 しかし素人が不用意に扱うダイナマイト爆発事故が相次いだので、一時政府が採掘を禁止したほどでした。
1976年、専門家による採掘が再開されて間もなく、シャンダ鉱山のS字形にうねる坑道の奥深く135m程入ったところで、壁一面の水晶と曹長石の結晶に覆われた晶洞の中に青く大きく完全なトパーズの結晶群が発見されました。
 一般に青いトパーズは色が淡すぎるため、宝石としてカットされることはありません。
 しかしシャンダ鉱山で発見されたトパーズは深い青で、しかも結晶が巨大なため、一層青が濃く見える、他に例を見ない見事な標本です。 
 残念ながら、ダイナマイト爆発の衝撃や、壁から引き剥がすときに多くの結晶が破損してしまいました。
 が残された僅かな結晶は世界の博物館やコレクターの手に渡って見ることが出来ます。
 トパーズの青い色が何に拠るのかは未だに解明されていません。 
恐らく結晶格子の欠陥によってカラー・センターが形成され、赤から黄色,緑の波長の光の吸収が起こって青く見えるのだろうと考えられています。 
 シャンダ鉱山を始め、前述の周辺の鉱山では、他にも素晴らしい青い色のインディゴライト(紺色のトルマリン)、紫や青のヘルデライト、ピンクのモルガナイト等々、他の鉱山に見られない特徴ある宝石結晶を多数産出しています。



ロンドニア州のトパーズ(Topaz from Rondonia Sate)

5.93ct 17.6x8.4mm 7.71ct 16.3x9.7mm 9.7ct 20.75x7.60mm
Bom Futuro Mine, Rondonia, Brazil

 
短期間に褪色してしまうことが多い天然のトパーズですが、ブラジル・ロンドニア州のボン・フツーロ鉱山産の淡青色のトパーズは何故か褪色しません。淡色ですがきわめて透明度が高い美しいトパーズです。
 この鉱山からは、また金色の針状の包有物を持つトパーズが採れます。一般にルチル・トパーズと呼ばれますが、ルチル(金紅石)ではなく、ゲータイト(針鉄鉱)がエッチ・チャンネルと呼ばれるトパーズ結晶中の細い管状の欠陥に入り込んだものです。
 即ち鉄の錆が金色の美しい模様を作り出しているという、偶然が生んだ自然の造形の妙を楽しめます。 
 ちなみにこの鉱山は世界で有数の錫の鉱山です。

バイア州のトパーズ (Topaz from Bahia State)
 最近のことですが、煙水晶のようなコーヒー・ブラウンの魅惑的な色合いのトパーズが時々市場に出てきます。
 特別の放射線処理がされているとの情報も有あり、直射日光を浴び続けると褪色する可能性があるかもしれないとのこと。
 引き出しに保管していますから、3年経った現在でも褪色しているようには見えません。
28.07ct 22.10x16.80mm 23.49ct 18.8x17.8mm

放射線照射処理されたブルートパーズ (Irradiated blue Topaz)
64.25ct 25x22mm 2.86ct(11.5x7.5mm) - 14.36ct(20.0x11.0mm)
  天然の青いトパーズは珍しくありませんが、ほぼ全ては色が淡く、しかもその色は不安定です。
カットされてから2〜3年も経たずして褪色し、殆ど無色になってしまいます。
 ところで市場の宝石店では濃淡様々な色合いのブルー・トパーズを見かけます。
実はこれらの青いトパーズは全て天然の無色のトパーズに高エネルギーの電子線、中性子線などを照射し、その後熱処理を施したものです。
 照射エネルギーの量とその後の処理法の違いで発色の濃淡に差が出てきます。これらの色合いにはロンドン・ブルー、スイス・ブルー、スカイ・ブルー等々、様々な呼び名が付けられていますが、いずれも特定の地名とは関係がありません。
 かつてレヴロン社が販売していたアイシャドーのパレットに付けられた名前を借用しただけですが、現在ではすっかり定着し、高級宝飾品にも使われるようになっています。
 写真のように大変美しく、しかも本来がブラジルを始め、ナイジェリア、スリランカ等で大量に採れる、商品価値の無い無色のトパーズを処理したものですから、ルースそのものはカラット当り1〜10ドル程度と極めて手頃な値段です。
 放射線処理による残留放射能はきわめて低い水準に規制されていますから安全です。
青い色の発色原因は未だに不明ですが、安定していて褪色することもありません。
詳細は別途 ”照射トパーズ”を参照してください。

 
トパーズの産出量と価格水準

 トパーズは古来から親しまれてきた宝石です。 
 とりわけブラジルから黄金、ピンク、シェリー等の魅力的な色合いの石が安定して供給されていますから、一般の宝石店で見かける機会が多い宝石です。
 ブラジルが世界の供給の殆どを占めますが、しかしその量は年間20万カラットを下回り、エメラルドやサファイアと比べて一桁以上少なく、稀少なルビーより更に少なく、またその量も今後増える可能性は考えられません。
 即ち、美しいトパーズは実は非常に希少な宝石ですが、その割には妥当な価格です。
大きさにもよりますが、平均よりやや大きい2〜3カラットのルースがゴールデンで75〜150ドル、ピンクが100〜200ドル、最も人気のあるサーモンやシェリーでも200〜400ドルと良く似たサファイアと比べて一桁も安い不思議な値段です。
 これらの値段はいずれも本当に数少ない最上級のトパーズの値段ですが、別に宝飾品に使うわけではなく、単なるコレクションとして、ブラジルや各国での宝石フェア等での普通の一般的な品質のトパーズならゴールデン、ピンク、サーモンとを問わず、平均で12〜24ドル程度と大変手頃な水準です。
 最近人気のあるパパラチャと呼ばれるピンクのサファイアの場合、こうした普及品のトパーズの100倍もの値段が付いています。 
 したがって、名前ではなく,純粋に宝石の美しさを基準に見れば,トパーズはとてもお買い得の宝石です。
 写真の指輪がついているピンク・トパーズは、実はブラジルを訪れた際に、中々一般の市場では色の濃いピンクのトパーズが見当たらないため、色石では世界屈指の宝石店、アムステルダム・サウエルにて、ピンク・トパーズはブラジルでも枯渇しつつあるなどと言われて、指輪はおまけだからと、慌てて買ったものです。
 一流の宝石店でコレクション用のルース(偶々ついていたリングはおまけ)を買うことなどこれが最初で最後でした。
 と言っても当時のブラジルは年率3000%のハイパーインフレーションの真っ最中でしたから、今となってみれば随分割安ではありました。
 さすがにブラジル一の宝石商の品だけあって、現在これ程美しいピンク・トパーズにはなかなかお目にかかれません。

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