嫋やかな野の花たち
電気石・トルマリン(Tourmaline)
化学組成 結晶系 モース硬度 比重 屈折率 トルマリン XY3Z6(BO3)3T6O18(OH,F)4 三方晶系 7 - 7½ 3.03-25 1.62-64 化学組成のX,Y,Z,Tの位置には下記の遷移金属イオンが入ります
(X,Y,Z,T postitions in chemical structure are occupied with following elemetns )
X : Na+, Ca2+, K+ Y : Li+, Mg2+, Fe2+. Mn2+, Al3+. Fe3+, Cr3+, V3+, (Ti4+) Z : Al3+, Mg2+, Fe3+, Cr3+, V3+, (Fe2+) T : Si4+, Al3+, (B3+)
2 エルバイトの万華鏡
トルマリンには5つのグループに属する11種類がありますが、完全に独立したトルマリンは少なく、多様な成分を含む固溶体として存在します。 なかでもトルマリンを代表するエルバイトは他の宝石には見られない、独特で多彩な色合いの結晶が多く、鉱物結晶としても、また宝飾用途としても魅力があります。
エルバイトは万華鏡のような多彩な色合いを見せるトルマリンで、色によっては固有の呼び名があります。
個々の色の呼び名と発色の仕組みを下記に説明します(宝石の発色の仕組みの詳細は”宝石読本 ルビーとサファイア” を参照してください。)Achroite(アクロアイト) :
アクロアイトとはギリシア語の”akhroos:アクロス=無色の”を語源とします
化学組成からは、X,Y,Zの位置に遷移金属を含まない純粋なロスマナイト、エルバイト、リディコータイト、ウヴァイト、オレナイト、ドラヴァイトは無色です。 しかし実際には鉄、マンガン等を不純物として含み多彩な色で産出します。
したがって無色透明なアクロアイトは稀な存在です
稀少といってもダイアモンド以外の無色透明な石の人気は皆無ですからコレクター用にカットされるのみで、カラット当たり15ドル程度の値です
Achroite name derives from greek "akhroos: non colored".
Pure Rossmanite, Elbaite, Liddicoatite, Uvaite, Olenite and Dravite are colorless.
However, since almost all tourmalines contain impure coloring agent, such as iron, mangan, etc. pure colorless species are quite rare.
Despite it's rarity, colorless tourmaline is cut and sold mainly for collecters at price range as low as US$15/ct.
Achroite 2.5cm
Himalaya Mine
San Diego0.62ct 1.00ct 0.52ct
5.2x5.2mm 7.5x5.5mm 6.0x5.6mm
Nigeria
Rubellite(ルベライト) :
ルベライトはラテン語の”rubellus:ルベルス=赤い”を語源とする”赤い石”の意味で、ルビーも同じ語源です。
トルマリンの赤〜赤紫は主にマンガンイオンによる着色ですが、鉄イオンの関与もあります。
濃い色合いの場合はルベライトと呼ばれますが、淡いピンクはピンク・トルマリンと呼ばれます。
赤から赤紫のトルマリンはシベライト(Siberite)と呼ばれることがあります。
これはかつてウラル山脈やシベリアでこの色のトルマリンを産出した名残です。
また中国名のP'isi(璧璽=ピーシー)が使われることもあるそうです。
これは恐らく清の時代に西大后が宝石類、とりわけトルマリンを、それもビルマのモゴク産のルベライトを愛好したため、当時の中国で流行しました。
19世紀末にアメリカ、カリフォルニア州のサンディエゴで発見されたトルマリンは大半が不透明な彫刻級の結晶でしたが、その殆どが彫り物用と して中国に輸出されました。
加工された製品が日本にも中国名のピーシーと共に日本にもたらされたのではないかと思われます。
ルベライトの産地は世界各地の花崗岩ペグマタイトで、アメリカのサンディエゴ、ブラジルのミナス・ジェライス、アフリカのモザンビーク、ナミビア、ナイジェリア、マダガスカル等です。
かつてのウラル山脈、シベリア、ビルマのモゴク等の産地は今日では重要な産地ではありません。
ルベライトと呼ばれるのは主にエルバイト・トルマリンでしたが、近年アフリカ各地からは、リディコータイトやドラヴァイト・ショールとの固溶体の複雑な組成を持つ独特の色合いの型が多く発見されるようになって来ました。
トルマリンの中では高く評価されている色合いで、最上級のルースはカラット当たり500ドルを超える水準です。
8cm Jonas Mine
Minas Gerais, Brazil結晶 12cm
Jonas Mine結晶 7.5cm
Jonas 鉱山
Minas Gerais結晶 10cm
ルース 420ct
Pala California
American Museum of
Natural History
煙水晶とピンクエルバイト
Paprok Afghanistan
ルベライト 8.5cm
Otjua Mine
Namibiaルベライト 18x9mm
Governador Valadares
Brazilルベライト 29X24mm
Malkhan Pegmatite
バイカル湖東南部高さ 17.5cm Queen Mine
San Diego California
2.06ct Brazil 3.5ct Mozambique 4.21ct 11x9mm
Madagascar2.46ct 2.76ct
Madagascar
ピンクトルマリン
1.2〜3.5ct Brazil高さ 4cm 255ct
Mogok Burma
Kremilin Treasuryルベライト 200ct
Afghanistan中央のルース 15ct
Ogbomiso Nigeria
Indigolite(インディゴライト) :
濃い青のトルマリンはその色に因み、インディゴライト(インディコライト)と呼ばれます
青の発色は主に二価の鉄イオンによる八面体配位による光の吸収で起こりますが、加えて二価と三価の鉄イオンによる電荷移動も関連していると考えられます。
これらの組み合わせで同じ青でも実に多様な色合いとなります。
青い色のエルバイトは、花崗岩ペグマタイト性のエルバイトやリディコータイトの産地に発見されますが、比較的稀な色といえます。
市場で良く見かけるのはアフガニスタンとブラジル、ミナス・ジェライス、アフリカのナミビアです。
1cm Afghanistan 2cm Astor Pakistan 上 6.94〜11.29ct Usakos
下 4.48 3.85ct
Neu Schwaven Namibia0.5〜1.6ct
Minas Gerais
Brazil
Verderite(ヴェルデライト) :
緑色のトルマリンはヴェルデライトと呼ばれます。 ラテン系の言葉で”緑の石”と言う意味ですが、恐らくブラジルで多く採れる緑の石が通称、ヴェルジリータと呼ばれていた名前に由来すると思われます。
緑色の発色は二価の鉄イオンと四価のチタンイオンとによる八面体配位による着色ですが、それに加えて二価のマンガンイオンー酸素ー四価のチタンイオンの電荷移動による黄緑の発色や二価のマンガンイオンの八面体配位による緑を帯びた黄色、さらに鉄イオンによる青の発色等も重なり、実に多彩な緑のトルマリンが世界各地に発見されます。
中央の結晶 5.3p 高さ 7.5cm
Mozambique
American Museum of
Natural History1cm Binthal
Switzerland高さ 40cm 1968年に発見
Cruzeiro鉱山 Brazil
Natural History Museum of
Los Angeles, U.S.A.33x7cm 2.4kg
Limoeiro鉱山
Brazil最大のルース 256ct
Maine州 USA
American Museum of
Natural History
高さ 3.5cm Astor Pakistan |
結晶 19x13mm ルース 12.5ct Nuristan Afghanistan |
62mm Aqua Boa鉱山 Minas Gerais |
21mm
Minas Gerais |
52mm Limoeiro鉱山 Minas Gerais |
2cm Afghanistan |
1.0〜2.6ct Minas Gerais Brazil |
48.7ct Newry Main USA Smithonian Institute Museum |
2.35ct 10.4x8.3mm Tanzania |
8ct 15x14mm Tanzania |
Chrome Tourmaline(Cromolite) (クロム・トルマリン)
トルマリンの中にエメラルドのような鮮やかな緑色の種類があり、クロム・トルマリンあるいはクロモライトと呼ばれます。
1900年頃に、ビルマのサルウィン川西岸のカレンニ丘陵にエメラルドのような緑の結晶が発見されました。当初は透輝石と鑑定され、後にエメラルドと考えられましたが、インドの地質学者、Middlemissによってトルマリンであると鑑定されました。
とりわけビルマ産のものは下記の写真からも明らかなようにウヴァイトのような平板状の結晶形を示すものがあります。
精密な成分分析によると、このタイプはドラヴァイト成分やウヴァイト成分をかなり含む固溶体であることが判明しています。
着色成分もヴァナジウムが主因なので、本来はヴァナジウム・トルマリンと呼ぶべきです。
しかし、過去にクロム着色と判断されたため、未だにクロム・トルマリンと呼ばれています。
現在の主な産地は東アフリカ、ケニアとタンザニアですが、数量もまた大きな宝石質の結晶も少ない稀少なトルマリンです。
そのためカラット当たり600〜900ドルと、トルマリンとしては市場の評価が大変高い種類です。
クロム・トルマリン
Brazil0.46 1.04 1.07ct/8.2x5mm
Tanzania ?左 10mm 右 14x10x6mm
Karenni丘陵 Burma
黄色、金色、褐色のエルバイト(Yellow, Gold, Brown Tourmaline)
黄色、金色、褐色系統のトルマリンには特別な呼び名がありません。
トルマリンとしてはあまり一般的ではなく、また人気が無いためです。 したがって単にトルマリン、あるいはゴールデン・トルマリン、また商業的にはカナリア・トルマリンと呼ばれることがあります。
これらの色の発色は二価の鉄イオンと四価のチタンイオンとの電荷移動に拠るもので、鉄分が少ないと黄色が強く、逆に多いと褐色が強くなります。
スリランカ産に多い暗い褐色や暗緑のトルマリンは魅力ある色合いではありませんが、近年アフリカ東海岸のケニアやタンザニア、モザンビーク、マラウィ等からはトパーズのような金色や黄色のトルマリンが発見されています。
下記の写真のケニヤ産のペア・カットの石は当初インペリアル・トパーズかと思って入手しました。
屈折率や比重がトパーズより低く、トルマリンと判明しました。
ピンクのトルマリンも同じくインペリアル・トパーズと肉眼では識別するのが難しい石ですが、いずれも価格的には同じ水準ですから、間違ったところで被害はありません。
これらのトルマリンは成分分析の結果リディコータイトやドラヴァイト成分を多く含む固溶体と判断されました。
こうした独特のトルマリンが発見される地域はいずれも大地溝帯に属していて共通の地質条件があると考えられます
0.87ct 10x5mm Kenya | 2.08〜11.65ct Malawi | 0.95〜1.63ct Mozambique |
1.66ct 8x7mm Tundru Tanzania |
2.8ct 9x7mm Tanzania? | 0.75〜2.28ct Mozambique |
Bi-Color、Watermelon Tourmaline (バイカラー、 ウォーターメロン・トルマリン)
トルマリンには多彩な色がありますが、一つの結晶が何色もの色合いを示す例が少なくありません。多色のものをバイ・カラートルマリン、また縦の結晶軸に平行に切ると、同心円状に多色の色を示すものは西瓜を切った面のように見えるためウォーターメロン(西瓜)トルマリンと呼ばれます。
こうした多色性は、トルマリン結晶成長時の環境が記録されたと考えられる興味深い現象です。トルマリンには多様な成因がありますが、とりわけエルバイトやドラヴァイトは高温、高圧の熱水溶液の中で長い時間をかけて成長します。
そのとき供給される熱水に含まれるトルマリンの基本的な組成成分に加えて、鉄やチタン、マンガンなどの着色成分となる不純物成分が時間と共に交代し、結晶軸の垂直方向と水平方向とに蓄積されて行くので多色の結晶となります。
こうして出来た結晶は他の宝石には見られない、トルマリン特有の魅力的な色彩の饗宴を繰り広げるのです。
6cm
Barra de Salinas Brazil |
3cm Minas Gerais | 3cm Minas Gerais |
9.2p Jonas鉱山 Minas Gerais |
32x5.5mm Nepal |
60x17mm Himalaya鉱山 Pala San Diego |
7.5cm
Santa Rosa鉱山 Minas Gerais |
高さ 15cm Golconda鉱山 Minas Gerais Brazil |
高さ 26cm Cruzeiro鉱山 Minas Gerais |
9x5cm Muaine Mozambique |
1965年発見 5.8kg Santa Rosa鉱山 |
48x18x12mm Afghanistan |
8.7cm Anjanabonoia Madagascar |
Usakos Namibia | Cruzeiro鉱山 Brazil |
15x10cm Santa Rosa鉱山 Minas Gerais Brazil Keith Proctor Collection |
結晶9.5cm ルース30.5ct Mesa Grande San Diego American Museum of Natural History |
上7.2ct Brazil 下4.8ct Nigeria |
15x12cm Nigeria |
Madagascar | 5.96ct 15x12x3.6mm Paraiba Brazil |
一見一つの色に見えるトルマリンでも実はウォーターメロンである場合があります。
下記のそれぞれブラジルとシベリアのトルマリンは不透明で外見はルベライトですが底面から見ると、ブラジルのものは外周が緑、内部が赤、逆にシベリアのものは外周が赤で内部が緑のウォーターメロンです。
ルベライト 35mm Minas Gerais |
底部の外周は緑 ø25mm Brazil |
ルベライト 33mm Malkhan Pegmatite |
内部は緑 ø21mm Russia |