ノラニンジン(野良人参)
(Daucus carota)
花径10㎝程の野良人参 | 放棄された休耕地のノラニンジンの群落 | 野良人参の葉と根 |
真性双子葉類 | キク類 | セリ目 | セリ科 | ニンジン属 | ニンジン種 |
Eudicots | Asterids | Apiales | Apiaceae | Daucus | D.carota |
7月中旬から8月にかけて夏の北海道では、道路際、空き地、郊外の道路沿い、放棄された耕作地、あるいは標高1000mを超える山地の草原等々、到る所で白いレースのような花の群落を見かけます。
これが全て野良人参ではなく、同じセリ科の花々も含まれています ; 夏に咲くセリ科の花は北海道だけでも ; 野良人参の他にセリ、セントウソウ、エゾボウフウ、イワミツバ、ヌマゼリ、ハマゼリ、ドクゼリ、マルバトウキ、イブキボウフウ、ハマボウフウ、ミヤマセンキュウ、カラフトニンジン、オオバセンキュウ、エゾニュウ、エゾノヨロイグサ、アマニュウ、ミヤマトウキ、ホソバトウキ、エゾノシシウド、カワラボウフウ、ハクサンボウフウ、オオハナウド等々、大小様々な種類があり、いずれも良く似たレースのような花をつけるため、植物図鑑持参でじっくりと見極めないと正しい名前を同定できません。
しかしながら、この10年ほど猛烈に勢いを増してきたのが、冒頭の写真のノラニンジンです。
元々中央アジア原産で、東に行った東洋系のニンジンと、西に行った欧州系のニンジンとに大きく分かれ、更に栽培種として無数の種類があります。
学名の Daucus とはラテン語で 同じせり科の植物の Parsnip (Pastinaca Sativa : アメリカボウフウ)を指し、大根のような根がコロンブスによって南米からジャガイモがもちこまれる前はヨーロッパで重要なでんぷんの供給源として食用にされていたもの。
種名の carota はニンジンを指し、栽培種のニンジンの学名は語尾に 栽培種を意味する sativa を付加した Daucus carota subsp. sativa です。 即ち野生のニンジンと栽培種とはほぼ同じ種類と考えられます。
さて、この野良人参が何処から来たのか ?
ものの本によると、栽培種のニンジンが野生化したものという説があります。
それにしては今や北海道の街中や郊外の至る所、本州でも2000~3000mの日本アルプス等のお花畑にも群生しています。
栽培種のニンジンの種がそんな広範に拡散するものだろうかと、調べてみました ; まず日本にニンジンが中国北部、満州、朝鮮等から薬草としてもたらされたのは739年とずいぶん古い時代です。
しかし農作物として広く栽培されるようになったのは1700年代半ばの徳川吉宗の時代に、6年もの歳月をかけて栽培種の育成に成功したとあります。
従って300年以上昔からニンジンが栽培されていたわけですから一部が野生種に戻ってしまい、大繁殖しているという可能性は大いにありますが、しかし最初に入ってきたのが野生種であったといことも大いにあり得るでしょう。
余りにもありふれていて、殆ど雑草としか見られない野良人参は、例えばNHKの山の番組にも、お花畑に咲いてはいますが、他のチングルマ、トリカブト、キンポウゲ、ミヤマオダマキ等々の山の花と比べて美しさでは決して見劣りしませんが、取り上げられることも、名前を呼ばれることも、テロップで明記されることもなく、全く無視されています。
撮影しているカメラマンも有名な花ばかり取り上げて、野良ニンジンなど大写しにはしませんから、後で専門家が見ても上述の無 数にあるせり科のどれかと識別できないので、言及しないのかも知れません。
斯く言うぼくも、これが野生のニンジンの花だと知ったのはそんなに遠いことではありません。
何しろ八百屋で見るニンジンは花も茎も葉もない根ばかりですから !
この”豊穣の森” を始めてから、身の回りの花や草を注意深く調べるようになったおかげです。
さて、注目すべきは冒頭2段目の写真です。 実は昨年ようやく気が付きました : レースのような白い花の中心にごく小さく、一つあるいはまとまって赤や濃い紫色の花があるのを !
大きいものでは10cm余りのレースのような散開花の中心部分にだけ2mm程の大きさの花弁があります。注意して見ないと小さな虫でも止まっているようにしか見えません。
純白の散開花の中心に何故このような鮮やかな色合いの花弁があるのか、実は植物学者の間で150年来の論争の的であったの事。
未だはっきりしたことは分かりませんが、どうやら、囮のデコイのような鮮やかな色の花弁をつけて、もう他の虫が来ていることを見せかける役割を果たしているのではないかというのが有力な意見です。